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19 感動を返して
しおりを挟むマイキーが万が一、オリバーの子を身ごもっていたらと考えた俺の顔色は悪くなる一方だ。
なぜなら、俺がオリバーに平民になる必要はないと言ったせいで、クリストフ侯爵家に迷惑がかかることが目に見えているから。
軽率な行動を取ったオリバーが悪いのだが、婚約者だった彼を放置した俺にも責任がある。
最愛のお方と恋人繋ぎをして貰って浮かれていた俺だが、今はどう行動したら良いのかと必死に頭をフル回転させていた。
もうオリバーの婚約者ではないのだから、関係ない! と言い切れば済むことだが、十三年間尻拭いをしてきた癖が抜けることはない。
押し黙る俺を他所に、レオンハルト様は執事を呼び出して、オリバーをこれから住む家に案内するように指示を出す。
「荷物を纏めて出て行くように。家具は揃っているし、三ヶ月分は食糧を援助してやる。だが、それ以降はお前の行動次第で援助を打ち切る」
「……はい」
「それから、エレンには二度と接触するな」
「っ……」
「約束を反故するようなら、即座に勘当する」
オリバーがゆっくりと頷いたことを確認したレオンハルト様は、執事に視線を向ける。
何か言いたげにするオリバーにぎこちなく微笑んだ俺は、執事に付き添われて応接室を出て行く重い足取りの元婚約者を見送った。
今後社交界で顔を合わせることはあれど、もう二度と会話をすることはないだろう。
「お義父様、お義兄様。俺の不用意な発言のせいで、」
「何言ってんだよ。エレンは悪くない」
謝罪しようとした俺の髪をわしゃわしゃと撫で回すジークハルト様は、俺が頭を下げられないように撫で続ける。
「そうだ。もしあの猿が身ごもっていたとしても、全てはオリバーの過ちだ。その際は父親であるオリバーにきっちり責任を取らせる。エレンは気にしなくて良い」
「で、でも、本当は、俺っ」
二人が体の関係だったことは知らなかったとはいえ、オリバーがマイキーの尻を追っ掛けていたことは知っていた。
その時に俺がレオンハルト様への想いを封じ込めて、オリバーを止めてさえいれば……。
罪悪感に苛まれる俺の歪んだ視界には、優しい眼差しの二人の美丈夫の姿。
「私はエレンを傷つけたオリバーを、怒りに任せて切り捨てるつもりだった。だが、エレンの優しさのおかげで踏み止まることが出来たんだ。あんな馬鹿でも、私と血の繋がった息子だからな? 縁を切らなくて済むように配慮してくれてありがとう」
「そうそう。あんな馬鹿でも一応俺の弟だし! あれが平民になったら、一瞬であの世行きだ。それを阻止してくれたエレンには、感謝しかないよ」
二人の優しい言葉が身に染みた俺は、ぶわりと涙が込み上げてくる。
「ハァ……エレンの泣き顔は、本当可愛い。いつまでも泣いてて欲しい」
「……お義兄様。俺の感動を返して下さい」
にやにやするジークハルト様に、俺の涙は瞬時に引っ込む。
「もうお兄様じゃないんだから、ジークって呼んでよ? ……あ。いや、やっぱり良いや」
ニタリと悪魔的な笑みを浮かべたジークハルト様に、俺の頬はヒクヒクと動く。
それは俺に、さっさとレオンハルト様を落とせと言っているのだろうか?
手を繋がれただけで喋れなくなるのに、どうやって落とせと言うんだ、全く。
後で覚えてろよビームを送る俺だが、ふむと頷くレオンハルト様は指先でシャープな顎に触れる。
「確かに、そうだな。私のこともお義父様ではなく、レオンハルトと呼んでくれ」
「うっ……」
「昔は名前で呼んでいただろう?」
ゆるりと首を傾げたレオンハルト様は、澄み切った空色の瞳で見つめてくる。
「ど、努力します」
「ふふっ、上手く躱したな?」
口角の上がる魅惑的な笑みを披露して下さったレオンハルト様に、普段は完璧な俺はたじたじだ。
話が通じないマイキーとの会話で精神的ダメージを受けた俺達は、今後のことは後日話そうと解散することになった。
レオンハルト様と別れた俺は、帰るフリをしてすぐさまジークハルト様を取っ捕まえる。
「エ、エレン……」
「逃げられるとでも?」
「ごめんって!」
後退りするジークハルト様の腕を掴んだ俺は、彼の部屋に無理矢理侵入する。
「ジークお義兄様! 俺の気持ちがバレたらどうするんです?! 気持ち悪いと思われたら、生きていけないんですけど」
「ぐっ……」
「お義兄様には責任を取って頂きます」
「な、なにする気?」
「ふふふふふ……」
コワイコワイと口先だけで怯えたフリをするジークハルト様を一瞥した俺は、ニヤリと不敵に笑う。
「レオンハルト様を、当主の座から引き下ろしてくださいませ」
「……え」
「出来ますよね?」
「ま、まあ、仕事は一通り出来るけど」
「でしょうね? ということで、これからは俺と一緒に夜会巡りです」
「なぜ?!!?」
美しい銀髪を揺らすジークハルト様は、近くに置いてあったクッションを抱きしめる。
「婚約者を探すんですよ!」
「ええええぇぇぇぇ~~。オリバーの次は俺?」
「クリストフ侯爵家に相応しい伴侶を見つけ出しましょう!」
「……やる気満々じゃん」
ぶつぶつと文句を垂れるジークハルト様は、想い人でもいるのだろうか。
「まさか……ジークお義兄様まで、平民の子が好きだとか言い出しませんよね?」
「はあ?!?!」
「別に相手の身分が低くても、ジークお義兄様を支えてくれるようなまともな方でしたら、俺は応援しますよ?」
白目を剥くジークハルト様に、後日一緒に夜会巡りをする約束を取り付けた俺は、さっそくジークハルト様を慕う友人達に連絡を取るのだった。
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