俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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 俺がジークハルト様の玩具になっている間、暫し考え込んでいたレオンハルト様が、反省した様子のオリバーに話しかける。

「今更口先だけで謝罪したところで、私はお前を許すことは出来ない。だが、被害者であるエレンの気持ちを優先したいと思っている」
「父上……」
「努力し続けるエレンを蔑ろにするお前を、勘当するつもりだったが……。クリストフ侯爵家の人間として恥じない男になれ」
「っ、ハイッ!」
 
 グッと唇をかみしめたオリバーは、空色の瞳にじわりと薄い膜が張っていた。

「もう二度と己の婚約者を悲しませることのないよう、努力しろ。新しい婚約者は自ら探し出すんだ。お前の運命の相手のマイキーでも良いぞ?」
 
 ようやくジークハルト様を諦めた様子のマイキーは「貴族ならオリーでもいっか」と口にする。

 だが、オリバーは首を横に振った。

「俺は、エレンが……」
「どの口が言う。エレンだけは絶対に許さない」
 
 レオンハルト様の威圧にびくりと体を震わせたオリバーは、渋々口を噤む。

「やったね、オリー! マイキーがオリーの奥さんになるよ!」
 
 項垂れるオリバーの腕にしがみついて、ピョンピョンと飛び跳ねたマイキー。

 結局、貴族なら誰でも良いらしい。

 そんなマイキーの手を払うオリバーは、あんなに恋焦がれていたマイキーの顔を見ようともしなかった。

「それから。私はお前を勘当こそしないが、この邸に住まわせるつもりはない」

 レオンハルト様の凛とした声が響き、思わず彼の顔を凝視した。

「ふたりが生活できる家を用意するが、一切援助するつもりはない」
「…………はい」
 
 小さく返答したオリバーに驚愕した様子のマイキーは、再度オリバーにしがみついて、激しく体を揺さぶっていたが、オリバーは口を開かない。

「なんなのよ! 貴族なのに援助なしって、ただの平民じゃないっ! それならもうオリーに用は無くなるよ?! ね、オリー! この家で暮らしてお金を貰えるようにちゃんとお願いしてよっ! 僕に苦労させるつもり?!」
 
 喚き散らすマイキーを一瞥したオリバーは、悲しげに眉を下げる。

「俺は……なんで、マイキーなんかを愛おしいと思っていたんだろう……。本当に馬鹿だ……」
「はあ?! チッ、本当使えない屑。だからパパにも見捨てられるのよ! 時間の無駄ね、もう知らないっ!」

 フンッとそっぽを向いたマイキーは、ズカズカと大股で部屋を出て行こうとする。

「ああ、ちなみにお前の両親に慰謝料は請求する予定だから、死に物狂いで働けよ? 一日でも返済が遅れたら取り立てに行くからな」
 
 レオンハルト様の冷めた声に勢い良く振り返ったマイキーは、鬼の形相で睨み付ける。

「こんの、顔だけ野郎! 地獄に落ちろっ!」

 中指を立てるマイキーの言葉に、今まで傍観していた俺の血管がプツンと切れた。

「……殺す」
 
 静かに怒る俺に、ジークハルト様の頬が引き攣ってドン引きしているが、俺の愛する人を侮辱したマイキーを許すことが出来ない。

「お義父様を侮辱する奴は絶対に許さない」
「っ、エレン! 落ち着いて!」
「殺す殺す殺す殺す殺す」
「ヒィッ! 温厚なエレンがキレた!」

 ジークハルト様があたふたとする横で、愚か者を睨みつけて殺すを連呼する俺は、グッと拳を握りしめる。

 ぶん殴ってやろうと勢い良く席を立つと、ふわりと森のような落ち着く香りに包まれた。

「ありがとう。私の為に怒ってくれて嬉しいよ」
「っ………………お義父、様っ」
 
 殺気立っていた俺の全身から力が抜けていく。

 握りしめていた手を優しく解いてくれたレオンハルト様は、蕩けるような笑みを披露する。

「エレンの手が傷付かないように」

 甘い声で囁かれて、指を絡めて恋人繋ぎをされた俺は、異様なスピードで顔に熱が集まる。

 暴走しそうだった俺を、見事に懐柔した銀の貴公子様は、大人の色気が爆発していた。

 ……鼻血が出そうだ。

 口許を押さえて鼻血が出ていないことを確認した俺は、俯いて美の暴力から逃れる。

 恋人繋ぎをしている手をキュッと握られて、俺の体はその場でピョンと飛び跳ねた。
 
 そんな俺の頭上では、ふふっと上機嫌な美声が聞こえるが、冷静になれない今は、お願いだから揶揄わないで欲しい。

「ハァ~~。なんなの? 手を繋いだくらいでバッカみたい。僕とオリーなんて、もうセックスもしてるし。あーあ、妊娠してたらどーしよっ?」
 
 衝撃的すぎる言葉に顔を上げると、薄ら笑いを浮かべたマイキーが、こてりと首を傾げる。

 俺達三人が一斉にオリバーの顔を見たが、眉間に皺を寄せて唇を噛み締めているだけで、何も言い返さなかった。

 つまり、マイキーの言った通り、体の関係に発展していたのだろう。

「子をみごもっていた時は、オリバーに責任を取らせる」
「フンッ。オリーは勘当しないんでしょ? それなら親であるアンタが養育費払ってよね?」
「先に慰謝料を支払うのであれば、考えないこともない」
 
 チッと盛大に舌打ちをしたマイキーは、今度こそ応接室を出て行くのだった。
















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