召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 いつのまにか聖女候補たちに囲まれていたレヴィは、蕾が綻ぶように笑っていた。

「「「っ……」」」

 急に黙り込んだ聖女候補たちが、皆一様に白い頬を染める。
 どうしたのだろうとレヴィが首を傾げれば、「い、いいい、一緒に頑張りましょうッ!!」と、マリアンナが興奮気味に告げた。
 真っ赤な顔の皆から次々に励まされたレヴィは、笑顔で何度も頷いていた。

 二年経ってもレヴィは劣等生には変わりない。
 公爵家の人間というだけで、今も聖女候補として修行を積むことができている。
 加えて、もしレヴィが第二王子殿下の婚約者でなければ、とうの昔に家に帰されていただろう。
 教会から一歩外に出れば、腫れ物扱いされるであろうことは、世間知らずのレヴィでもわかっていた。

 だが、聖女候補たちがレヴィを見る目は、二年前とは明らかに変わっている。
 そのことがレヴィの唯一の救いでもあった――。

「こんなところで集まって、なにをしているの?」

 きつい物言いに、和気藹々としていた空気が張り詰めたものに変わる。
 レヴィたちの背後には、気の強そうな女性が仁王立ちしていた。
 水色の大きなリボンを見た瞬間に、聖女候補たちはレヴィを守るように輪になっていた。

 レヴィを除く聖女候補は皆、髪も瞳も琥珀色だ。
 濃淡の違いはあれど、遠目からだと似たような容姿に見える。
 だから彼女たちは、髪を複雑に結ってみたり、髪飾りなどを駆使している。
 といっても、聖女候補として品を損なわない程度に、だ。
 よって、レヴィからは顔が見えなかったが、派手な髪飾りをつけているのは、スザンナだけである。
 
「今回もテレンス殿下が功績を挙げたけれど、その後に騎士をつまみ食いしたそうよ?」
 
 水色の大きなリボンがトレードマークのスザンナは、今もテレンスに好意を寄せているのだろう。
 だからか、レヴィと顔を合わせる度に、テレンスの馬鹿馬鹿しい話を吹き込んでくる。

(僕が気に食わないからと、よく慕う人の悪口を言えるなぁ……。スザンナ様は辛くないのかな?)

 レヴィが痛ましい目で見れば、スザンナはさっと顔を背けた。
 
「魔物との戦いの後で、興奮状態になるのは仕方がないことかもしれないけれど――」

「っ、レヴィ様のお心を乱すようなことを言わないでくださいっ!!」

 たまらずマリアンナが声を上げたが、スザンナは真正面から睨み返した。
 仲間といえど、子爵家の者になにかを言われたところで、スザンナはどこ吹く風である。

「いつもなら失態をおかさないテレンス殿下だけれど、今回は朝までご一緒だったみたい」

「っ……もうやめてくださいっ!!」

「いいから聞きなさい。そのせいで――」

「っ、レヴィ様、もう行きましょう?」
 
 憤慨するマリアンナに手を引かれたレヴィだが、「僕は大丈夫です」と、微笑んだ。
 はっきりとした物言いのスザンナに苦手意識があるレヴィだが、嫌いなわけではない。
 日課の祈りを欠かすことなく、聖女アニカに認められているスザンナは、すでに魔物の被害に遭った地でも活躍しているのだ。
 リボンは大きすぎるとは思わないこともないけれど、頼もしい味方であると同時に、ライバルのように思っている。

(もちろん、次代の聖女として注目されているスザンナ様は、僕なんか眼中にないとは思うけど……)

 きつい物言いのせいで孤立しつつあるスザンナのためを思い、レヴィは一歩前に出た。
 
「スザンナ様。あまり、そのようなことを口にするのは、スザンナ様のためにもよくないかと――」

 唖然とするスザンナが、レヴィをまじまじと見つめる。
 初めてレヴィに忠告されたからか、スザンナの顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。
 

 



 
 










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