101 / 273
第5章:ファレス武闘祭
ルースとアルの一回戦
しおりを挟む
第5ブロックではまさに第1試合目が白熱の試合を繰り広げられてい……なかった。
「くそっ、卑怯だろ!」
「いや、ルール上問題ない」
審判の言葉にルースは舌打ちをする。彼の目の前には『岩人形』という土法術で形成された3体のゴーレムが佇立ちふさがっていた。その背後にはニヤニヤと笑いながら隠れるようにルースを覗き見ている、術者のマールス・フラギリスが居た。
「うおっ」
一体のゴーレムが拳を振りかぶってルースに攻撃をしてくる。彼はそれを後ろに下がることで躱す。外れた攻撃はそのまま地面に突き刺さった。大きさはそれほどではない。せいぜいルースと同じぐらいだ。だがリングに突き立った拳の威力は想像したくもない。
「ちっ」
ルースは再び舌打ちをする。あれらを攻撃するための武器を自分は所持していない。残念ながら今回持ってきたのはただの長剣だ。あんなものに攻撃してはすぐに刃がかけてしまうだろう。
「グフフ、お、お前に僕の可愛いゴーレムちゃんたちを倒すことができるかな?」
その上彼の神経を逆撫でるかのように、気持ちの悪い笑い方で先ほどからマールスが野次を飛ばしてくるのだ。ルースは声のする方を睨む。そこには灰色の前髪で目を隠した痩せぎすの男が立っていた。根暗そうな外見通り戦術も陰険だ。術で作ったゴーレムの背後に隠れ、ルースが攻撃を掻い潜って接近するたびに、彼の足元へ岩棘を作り出すのだ。おかげで近寄ることもできない。
「グフフ、お、お前Eクラスのく、くせに生意気なんだよ!」
「ああ?」
ドスの効いたルースの声に一瞬びくりと反応するも現状を思い出したのか、直ぐに強気の態度に戻る。
「グヘヘ、こ、怖い声出したって無駄だぜ。お、お前は僕に近づけないまま終わるんだ」
その腹立たしい顔を思いっきり殴りたいが相手の言う通り、今ルースにできるのは回避に専念することだけだ。3体ものゴーレムの攻撃を避け続けて既に10分経過した。力は強いが動きが遅いためなんとか交わし続けることができる。しかしそれもそろそろ限界だ。攻撃が出来ず、致死的な攻撃から回避し続け、煽られ続けることで彼の精神と肉体に疲労が溜まっていく。
「グフフ、ざ、雑魚は雑魚らしくさっさと負けちまえ」
その言葉についにルースは彼のイライラは限界値を超えた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
獣のような吠え声をあげると右手を前に突き出した。
「もういい、もうぶっ殺す!」
岩人形が接近してくるのも無視して手のひらに炎を集中させる。どうせお互い死にはしないのだ。それならば後は根性で勝負だ。
「ひっ、な、何をする気だ!」
その怯えた声にニタリと笑うとルースは叫んだ。
「死ねやクソ野郎!『業火炎』!」
青白い炎が猛烈な勢いで右手から放たれる。その炎は岩人形の攻撃が彼の腹部に当たった瞬間にゴーレムたちを包み込み、消し炭にした。その勢いのままマールスにも延焼した。
「グヘ?グエエエエ!!」
炎の熱に悲鳴を挙げる彼の目には、腹部を殴られ吹き飛ばされ、悶絶しているルースが入ってきた。だがそこでマールスの意識は完全に途切れた。
ルースの秘策『業火炎』は彼がまだ完全に火法術をコントロールできていないために自身にも被害が及ぶ場合がある諸刃の剣である。しかしその威力は絶大で人に向ければ先ほどのゴーレムのように一瞬にして灰燼にきしてしまう危険極まりない術だ。力押しの彼にぴったりの術とも言えるのだが。
両者リング上で倒れこみ、ルースは意識があるが殴られた腹部を押さえて転げ回っており、マールスに至っては完全に気絶している。
「……くっ、勝者ルース・ラント!」
顔をしかめて笑いを噛み殺している審判の宣言を受けて、未だに腹を殴られて蹲っている彼が弱々しく顔を上げて右拳を上に伸ばした。
「ぶはっ、あははははははは!」
「あはははははは!」
マルシェに連れられて、暇つぶしに試合を観戦していたアルが大爆笑しながら指を差す。それに釣られてマルシェも笑い出した。ルースはそんな二人を恨めしい目で見つめていた。
~~~~~~~~~~~
「悪かったって、いい加減機嫌直せよ女々しいなぁ。ぶふっ!」
「お前全然反省してねえだろ!いつつ……」
アルの笑いながらの謝罪に、未だ腹部を押さえているルースが怒鳴る。
「もぉ、動かないでじっとして。まだ治ってないんだから。クスッ」
マルシェはそんな彼を治療してはいるものの、先ほどの姿を思い出して思わず笑ってしまう。
「お前もかよ!」
「あ、そろそろジンの試合じゃない?」
「話そらすなよ!」
文句を言うルースを無視してアルがマルシェに言う。
「あー、そうかも。どうしよう、ルース私もう行っていいかな?」
「ちょっ」
治療も終わっていないというのに、まさか放置されるのかと驚くがマルシェはそんな彼の反応を見て舌をチロリと出す。
「うそうそ、さすがに私もこの状態のあんたをほっぽって行ったりはしないわよ」
「マ、マルシェ…」
その言葉にルースは少し感動する。他意はないとはいえ自分のことを優先してくれたのだから。
「ま、次の試合までにしっかり治しなさいよ」
そんな幼馴染に苦笑しながら腹部をバシッと叩いた。
「ひぎぃ!」
「あ、ごめ、わざとではない」
「ル、ルース大丈夫?」
「だ、大丈夫ではない。ア、アル後でぶん殴ってやる」
「わぁ、こわーい」
バカにしたような彼女の態度に舌打ちしながらルースは回復するために目を閉じて気絶するように眠りについた。
~~~~~~~~~~
「あ、そろそろアルるんの番だよ!」
「ん?あ、そうですか」
マルシェに言われて目を落としていた本をパタンと閉じると丁度一つ前の試合が大詰めを迎えているところだった。
「ほらほら早く準備しなきゃ!」
「えぇ、めんどい」
「そんなこと言わないの、ほら立って!」
「ねえ、棄権させてよぉ」
「だーめ、1試合は出るって約束したでしょ」
愚図愚図しているアルを無理やり立たせると、寝ているルースを放置してグイグイリングまで押していく。
「あぁ、やる気でないよぉ」
「ほらほらもう名前呼ばれてるから、リングまで自分で上がって。もし勝ったらこの前欲しいって言ってた外国の本うちで輸入しといてあげるから」
「え、マジで?」
ノロノロとリングに上っていたアルの目の色が変わる、そういえばマルシェは有名な商家の一人娘のはずだ。こんなところを見落としていたのかとアルは後悔する。もっと前に彼女に頼んでおけばわざわざ戦わずに棄権できたのに。お目当の本は国外の古書であるため、学校の図書館にすら置かれていない。そのため手に入れるにはマルシェにお願いするしかないだろう。
「はあ、しょうがないな」
大きくため息をついてリングの中央に立つと目の前には生意気そうな少年が待ち構えていた。
「気のせいかもしれませんが僕に勝つ気ですか?失礼ですが、先輩はEクラスの方ですよね?」
「……君は本当に失礼だね。でもまあ、そのつもりだよ」
やる気のなさそうな目に獰猛な光が宿ったことに、目の前の少年、ジェニ・ハーヴェは気づいていなかった。
「それでは試合開始!」
審判の掛け声とともに少年は叫ぶ。
「先手はもらいますよ『水槍』!」
5つの水の槍が空中に現れ射出された。
「せっかちだねえ」
アルは接近してくるそれを前に頭をボリボリと掻いてから地面を爪先で二度、トントンと叩いた。その瞬間リングに岩の壁が出現し水槍を防いだ。
「なに!?」
ジェニはその光景に驚く。彼女は術の名前すら発しなかった。つまり彼女は名前を発さずとも術を発動できるということだ。彼の中での彼女への警戒度が一気に上昇する。
当然のことだ。術者同士が対峙する場合、両者にとって技名とは非常に重要なものだ。発動者側は言葉にすることでより明確なイメージを瞬時に作り出すことができる。却って、受け手側はその術の名前から連想できる情報を元に、それに対応するためのカウンター技を自分の引き出しから選択できるのだ。
しかし目の前の少女はその彼にとっての常識の外にいる。もし仮に彼女が全ての術を無詠唱で発動することができるとするなら、彼はこの試合全てにおいて後手に回らざるを得なくなる。
「か、『かま…』!」
「遅いよ」
慌てた彼は広範囲風法術『かまいたち』を発動しようとする。だが言い終える前にパチンという指を鳴らしたような音とともに彼の目の前は真っ暗になった。
彼女が発動したのは闇法術の『暗闇』という術だ。ただ視界を奪うだけの術だがアルの行動が読めず、強く警戒していたていた彼には効果的だった。
「ど、どこだ!僕に何をした!」
体を回し、どこから来るかわからない攻撃に怯えてパニックを起こし、やたらめったら剣を振り回す彼を眺めながら再度指をパチンと鳴らす。すると突然ジェニは糸の切れた傀儡人形のようにその場に倒れた。
「ほう、『暗失』か」
その光景を眺めていた審判が感心する。『暗失』は簡単に言ってしまえば意識を刈り取る術だ。恐慌状態に陥った人間を強制的に失神させることができる。
審判の言葉に頷くように軽く肩を動かした。その場から全く動かずの完勝である。
「勝者、アルトワール・アニック!」
審判がその宣言を言い終える前に、スタスタとリングから降りたアルにマルシェが抱きついて来る。
「すごいすごい!アルるんすごい!」
「わかった、わかったから離してマルシェ」
鬱陶しそうな顔をしながらもどことなく嬉しそうだ。そんな彼女たちに目を覚ましたばかりのルースが近づいてきた。どうやらもう腹痛は取れたようだ。
「おう、勝ったか」
「まあね」
「ルース、アルるんがこんなに強いって知ってたの?」
「まあ、一応幼馴染だからな。っていうより俺としてはこいつがなんでEクラスにいるのかの方が不思議なんだよ。お前入試で手ぇ抜いただろ」
「だって面倒じゃん」
その言葉にルースはため息を吐いた。マルシェはそんな二人を見て不思議そうな顔を浮かべている。だがルースは正直最初から真面目にやればアルが負けるわけがないと知っていた。
「こいつは土と、珍しい闇法術の使い手だ。武術も俺よりも少しだけ、すこーしだけ優れている。状況判断もめちゃくちゃ早いし、四六時中本ばっか読んでるから知識も結構ある。能力を十分に試験官に見せてりゃ最低でもBクラスは固いはずだぜ」
「ええ!?」
「まあ、いつもやる気ねえからな。しょうがないっちゃ、しょうがない」
ルースの言葉に少し照れているのかそっぽを向いて鼻頭をポリポリと掻いているアルにマルシェは驚愕の視線を向けた。
「くそっ、卑怯だろ!」
「いや、ルール上問題ない」
審判の言葉にルースは舌打ちをする。彼の目の前には『岩人形』という土法術で形成された3体のゴーレムが佇立ちふさがっていた。その背後にはニヤニヤと笑いながら隠れるようにルースを覗き見ている、術者のマールス・フラギリスが居た。
「うおっ」
一体のゴーレムが拳を振りかぶってルースに攻撃をしてくる。彼はそれを後ろに下がることで躱す。外れた攻撃はそのまま地面に突き刺さった。大きさはそれほどではない。せいぜいルースと同じぐらいだ。だがリングに突き立った拳の威力は想像したくもない。
「ちっ」
ルースは再び舌打ちをする。あれらを攻撃するための武器を自分は所持していない。残念ながら今回持ってきたのはただの長剣だ。あんなものに攻撃してはすぐに刃がかけてしまうだろう。
「グフフ、お、お前に僕の可愛いゴーレムちゃんたちを倒すことができるかな?」
その上彼の神経を逆撫でるかのように、気持ちの悪い笑い方で先ほどからマールスが野次を飛ばしてくるのだ。ルースは声のする方を睨む。そこには灰色の前髪で目を隠した痩せぎすの男が立っていた。根暗そうな外見通り戦術も陰険だ。術で作ったゴーレムの背後に隠れ、ルースが攻撃を掻い潜って接近するたびに、彼の足元へ岩棘を作り出すのだ。おかげで近寄ることもできない。
「グフフ、お、お前Eクラスのく、くせに生意気なんだよ!」
「ああ?」
ドスの効いたルースの声に一瞬びくりと反応するも現状を思い出したのか、直ぐに強気の態度に戻る。
「グヘヘ、こ、怖い声出したって無駄だぜ。お、お前は僕に近づけないまま終わるんだ」
その腹立たしい顔を思いっきり殴りたいが相手の言う通り、今ルースにできるのは回避に専念することだけだ。3体ものゴーレムの攻撃を避け続けて既に10分経過した。力は強いが動きが遅いためなんとか交わし続けることができる。しかしそれもそろそろ限界だ。攻撃が出来ず、致死的な攻撃から回避し続け、煽られ続けることで彼の精神と肉体に疲労が溜まっていく。
「グフフ、ざ、雑魚は雑魚らしくさっさと負けちまえ」
その言葉についにルースは彼のイライラは限界値を超えた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
獣のような吠え声をあげると右手を前に突き出した。
「もういい、もうぶっ殺す!」
岩人形が接近してくるのも無視して手のひらに炎を集中させる。どうせお互い死にはしないのだ。それならば後は根性で勝負だ。
「ひっ、な、何をする気だ!」
その怯えた声にニタリと笑うとルースは叫んだ。
「死ねやクソ野郎!『業火炎』!」
青白い炎が猛烈な勢いで右手から放たれる。その炎は岩人形の攻撃が彼の腹部に当たった瞬間にゴーレムたちを包み込み、消し炭にした。その勢いのままマールスにも延焼した。
「グヘ?グエエエエ!!」
炎の熱に悲鳴を挙げる彼の目には、腹部を殴られ吹き飛ばされ、悶絶しているルースが入ってきた。だがそこでマールスの意識は完全に途切れた。
ルースの秘策『業火炎』は彼がまだ完全に火法術をコントロールできていないために自身にも被害が及ぶ場合がある諸刃の剣である。しかしその威力は絶大で人に向ければ先ほどのゴーレムのように一瞬にして灰燼にきしてしまう危険極まりない術だ。力押しの彼にぴったりの術とも言えるのだが。
両者リング上で倒れこみ、ルースは意識があるが殴られた腹部を押さえて転げ回っており、マールスに至っては完全に気絶している。
「……くっ、勝者ルース・ラント!」
顔をしかめて笑いを噛み殺している審判の宣言を受けて、未だに腹を殴られて蹲っている彼が弱々しく顔を上げて右拳を上に伸ばした。
「ぶはっ、あははははははは!」
「あはははははは!」
マルシェに連れられて、暇つぶしに試合を観戦していたアルが大爆笑しながら指を差す。それに釣られてマルシェも笑い出した。ルースはそんな二人を恨めしい目で見つめていた。
~~~~~~~~~~~
「悪かったって、いい加減機嫌直せよ女々しいなぁ。ぶふっ!」
「お前全然反省してねえだろ!いつつ……」
アルの笑いながらの謝罪に、未だ腹部を押さえているルースが怒鳴る。
「もぉ、動かないでじっとして。まだ治ってないんだから。クスッ」
マルシェはそんな彼を治療してはいるものの、先ほどの姿を思い出して思わず笑ってしまう。
「お前もかよ!」
「あ、そろそろジンの試合じゃない?」
「話そらすなよ!」
文句を言うルースを無視してアルがマルシェに言う。
「あー、そうかも。どうしよう、ルース私もう行っていいかな?」
「ちょっ」
治療も終わっていないというのに、まさか放置されるのかと驚くがマルシェはそんな彼の反応を見て舌をチロリと出す。
「うそうそ、さすがに私もこの状態のあんたをほっぽって行ったりはしないわよ」
「マ、マルシェ…」
その言葉にルースは少し感動する。他意はないとはいえ自分のことを優先してくれたのだから。
「ま、次の試合までにしっかり治しなさいよ」
そんな幼馴染に苦笑しながら腹部をバシッと叩いた。
「ひぎぃ!」
「あ、ごめ、わざとではない」
「ル、ルース大丈夫?」
「だ、大丈夫ではない。ア、アル後でぶん殴ってやる」
「わぁ、こわーい」
バカにしたような彼女の態度に舌打ちしながらルースは回復するために目を閉じて気絶するように眠りについた。
~~~~~~~~~~
「あ、そろそろアルるんの番だよ!」
「ん?あ、そうですか」
マルシェに言われて目を落としていた本をパタンと閉じると丁度一つ前の試合が大詰めを迎えているところだった。
「ほらほら早く準備しなきゃ!」
「えぇ、めんどい」
「そんなこと言わないの、ほら立って!」
「ねえ、棄権させてよぉ」
「だーめ、1試合は出るって約束したでしょ」
愚図愚図しているアルを無理やり立たせると、寝ているルースを放置してグイグイリングまで押していく。
「あぁ、やる気でないよぉ」
「ほらほらもう名前呼ばれてるから、リングまで自分で上がって。もし勝ったらこの前欲しいって言ってた外国の本うちで輸入しといてあげるから」
「え、マジで?」
ノロノロとリングに上っていたアルの目の色が変わる、そういえばマルシェは有名な商家の一人娘のはずだ。こんなところを見落としていたのかとアルは後悔する。もっと前に彼女に頼んでおけばわざわざ戦わずに棄権できたのに。お目当の本は国外の古書であるため、学校の図書館にすら置かれていない。そのため手に入れるにはマルシェにお願いするしかないだろう。
「はあ、しょうがないな」
大きくため息をついてリングの中央に立つと目の前には生意気そうな少年が待ち構えていた。
「気のせいかもしれませんが僕に勝つ気ですか?失礼ですが、先輩はEクラスの方ですよね?」
「……君は本当に失礼だね。でもまあ、そのつもりだよ」
やる気のなさそうな目に獰猛な光が宿ったことに、目の前の少年、ジェニ・ハーヴェは気づいていなかった。
「それでは試合開始!」
審判の掛け声とともに少年は叫ぶ。
「先手はもらいますよ『水槍』!」
5つの水の槍が空中に現れ射出された。
「せっかちだねえ」
アルは接近してくるそれを前に頭をボリボリと掻いてから地面を爪先で二度、トントンと叩いた。その瞬間リングに岩の壁が出現し水槍を防いだ。
「なに!?」
ジェニはその光景に驚く。彼女は術の名前すら発しなかった。つまり彼女は名前を発さずとも術を発動できるということだ。彼の中での彼女への警戒度が一気に上昇する。
当然のことだ。術者同士が対峙する場合、両者にとって技名とは非常に重要なものだ。発動者側は言葉にすることでより明確なイメージを瞬時に作り出すことができる。却って、受け手側はその術の名前から連想できる情報を元に、それに対応するためのカウンター技を自分の引き出しから選択できるのだ。
しかし目の前の少女はその彼にとっての常識の外にいる。もし仮に彼女が全ての術を無詠唱で発動することができるとするなら、彼はこの試合全てにおいて後手に回らざるを得なくなる。
「か、『かま…』!」
「遅いよ」
慌てた彼は広範囲風法術『かまいたち』を発動しようとする。だが言い終える前にパチンという指を鳴らしたような音とともに彼の目の前は真っ暗になった。
彼女が発動したのは闇法術の『暗闇』という術だ。ただ視界を奪うだけの術だがアルの行動が読めず、強く警戒していたていた彼には効果的だった。
「ど、どこだ!僕に何をした!」
体を回し、どこから来るかわからない攻撃に怯えてパニックを起こし、やたらめったら剣を振り回す彼を眺めながら再度指をパチンと鳴らす。すると突然ジェニは糸の切れた傀儡人形のようにその場に倒れた。
「ほう、『暗失』か」
その光景を眺めていた審判が感心する。『暗失』は簡単に言ってしまえば意識を刈り取る術だ。恐慌状態に陥った人間を強制的に失神させることができる。
審判の言葉に頷くように軽く肩を動かした。その場から全く動かずの完勝である。
「勝者、アルトワール・アニック!」
審判がその宣言を言い終える前に、スタスタとリングから降りたアルにマルシェが抱きついて来る。
「すごいすごい!アルるんすごい!」
「わかった、わかったから離してマルシェ」
鬱陶しそうな顔をしながらもどことなく嬉しそうだ。そんな彼女たちに目を覚ましたばかりのルースが近づいてきた。どうやらもう腹痛は取れたようだ。
「おう、勝ったか」
「まあね」
「ルース、アルるんがこんなに強いって知ってたの?」
「まあ、一応幼馴染だからな。っていうより俺としてはこいつがなんでEクラスにいるのかの方が不思議なんだよ。お前入試で手ぇ抜いただろ」
「だって面倒じゃん」
その言葉にルースはため息を吐いた。マルシェはそんな二人を見て不思議そうな顔を浮かべている。だがルースは正直最初から真面目にやればアルが負けるわけがないと知っていた。
「こいつは土と、珍しい闇法術の使い手だ。武術も俺よりも少しだけ、すこーしだけ優れている。状況判断もめちゃくちゃ早いし、四六時中本ばっか読んでるから知識も結構ある。能力を十分に試験官に見せてりゃ最低でもBクラスは固いはずだぜ」
「ええ!?」
「まあ、いつもやる気ねえからな。しょうがないっちゃ、しょうがない」
ルースの言葉に少し照れているのかそっぽを向いて鼻頭をポリポリと掻いているアルにマルシェは驚愕の視線を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~
namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。
父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。
だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった!
触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。
「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ!
「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ!
借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。
圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。
己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。
さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。
「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」
プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。
最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる