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第5章:ファレス武闘祭
ジンvsアスラン2 白熱
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ジンとアスランの戦いは膠着状態に陥りかけていた。力もさることながら速さ、技術においても両者の実力は拮抗していた。ジンもアスランもそれに気づき、この状況を打開するための策を高速移動しながらも考え続けていた。
「はあ!」
ジンが走りながら一歩強く踏み込むと短剣をクロスさせて闘気を込めて斬り放つ。空気を切り裂く二筋の斬撃がアスランを襲う。しかしアスランも、その程度のことでは動じない。即座に技を理解すると、
「ふっ!」
飛んできた斬撃を見事真っ二つにした。中央を切り裂かれた斬撃はそのまま舞台を抉り、奇妙な形跡を残して消え去った。却ってアスランはすぐさま攻撃に転じる。
「ちっ!」
アスランは横薙ぎの斬撃を飛ばす。しかし本来ならば回避すべきところをジンはあえて突撃する。すでに舞台にぶつかっているのではないかというほどギリギリまで体を倒して、それを回避すると一気にアスランの足を刈ろうと短剣を薙ぐ。だがそれをアスランは剣を地面に突き立てることで防ぐ。短剣はキンッという虚しい音を立てて、剣にぶつかった。
それを見たジンはすぐさま片手を舞台につけて、思いっきり片腕の力だけで体を飛ばして強引に距離をとった。ジンを踏みつけようとしていたのか、ズンッという音とともにアスランの足元を中心に石畳にヒビが入る。
「いやぁ、お前すげえよ。実力もだけど、そのクソ度胸と当たり前のように足を狙ってくる冷徹さ。ここまで楽しくなるとは正直思わなかったぜ」
アスランが動きを止めて、ジンに話しかけてきた。それを見てジンも肩の力を抜いて緊張をほぐした。
「俺もです。今まで見てきた奴らは皆、法術ばかりにかまけて剣術、武術が疎かな奴ばっかりでしたから」
「まあ、それは否定できねえな。なにせその辺りを修行したところで、一発術を喰らえばそれまでだからな。剣で切れるものは限られているし、体術なんてそもそも相手を拘束で来ちまえば終わりだからな。どうしても鍛える時は術が中心になっちまう」
「なるほど。じゃあなんで先輩はそこまで剣術と体術を鍛えたんですか?」
「ん?まあ、俺の親父がそういう所に注意している人だっていうのもあるけど、上に行くには総じて強くならなくちゃいけないからな。知ってるか?法術師団長もなよなよとした感じなのに、実はめっちゃ剣術の腕がすごいんだぜ」
「いや、そもそも法術師団長が誰なのか知らないです」
「……そうか。じゃ、じゃあ続きやるか」
「そうですねっ!」
言い終わった瞬間ジンは爆発的に速度を上げて接近する。だが彼の動きを読んでいたアスランはいつの間にか手に持っていた石をジンの顔にめがけて投擲した。どうやらジンが距離をとった一瞬、目が逸れた時に掴み上げていたらしい。
「くっ!」
闘気で身を包んでいるためダメージはないのだが、咄嗟に顔を動かして回避する動きを見せてしまう。その隙をついてアスランは右上から斜めに降り下ろした。無防備なジンの肩に剣がぶつかる。
「おらああ!」
「ぐはっ!」
あまりの衝撃にジンは舞台に倒れ伏した。しかしアスランの攻撃は続く。咄嗟に体を反転させると顔の横に剣先が落ちてきた。回避していなかったら大怪我するのは確実だろう。
ジンは立ち上がろうと隙を探るが、アスランはそんなことを許すつもりはない。再び振り下ろされた剣をジンは短剣をクロスさせて防ぐ。先ほどダメージを負った左肩が鈍く痛み、ジンは骨からミシミシという音が聞こえてくる気がした。
「はあああ!」
「ぐううう……」
アスランが力を込めて剣を押し込む。横たわっている状態のジンは彼の全体重も含めた全ての重さを二本の短剣だけで支え続ける。だがそんなものは長続きしない。徐々に押され始めてきた。
『なにか、何か隙はないか?』
だがそんな隙を当然ながらアスランは見せない。それを理解したジンは決断する。
「うおおおお!」
全身の防御に回していた闘気を両腕にのみ集中させたのだ。つまりこのタイミングで腕以外を攻撃されれば、大ダメージを受けるだろう。だがその決断が却って功を奏した。アスランはジンが大博打を打つという考えに至っていなかった。そのため急激に闘気が移動した時には既に遅かった。
ジンが思い切り剣を弾き飛ばす。その威力はアスランの想像を遥かに超えていた。思わず腕が浮き上がり、バランスを崩して踏鞴を踏む。その隙にようやくジンは窮地から脱した。だがその勢いで左手に持っていた短剣が折れてしまっていた。
それを石畳に落とすと同時に、素早く全身に闘気を張り巡らせると舞台を蹴った。ジンはアスランに飛びかかる。未だに彼は体勢が崩れている。ジンの剣がアスランの首を捉えて、しかし切り裂くことはできなかった。アスランは体勢が崩れた時点で、ジンの攻撃が来ることを知っていた。だからこそあえてその状態を維持していたのだ。
剣をパッと手放すと、アスランは舞台に背中から倒れこむように落ちてそのまま器用に片手を石畳について、バク転しながら蹴りを放った。そのつま先が見事にジンの顎を捉えた。
「がはっ!」
ジンの意識が一瞬途切れるがすぐに取り戻す。避けられたと認識し、相手の動きを読んだ彼は即座に左手で顎を隠して直撃は避けたのだ。しかしその威力はしっかりとジンの体に刻まれている。体がふらつくも目の前にいるアスランからは目を離さない。
アスランはその爛々とした瞳を見て笑う。一向に消えることの無い闘志を最後に向けられたのはいつだったろうか。
~~~~~~~~~~~
アスランが使徒として覚醒したの1年ほど前に遡る。当時はそれに歓喜した。自分が選ばれたことに、そして自分が『資格』を得たことに。だが同時に思い知ったのは、この世の退屈さだった。同年代との訓練では常に本気が出せない。
気まぐれに大会に出ても、大したこともせずに優勝できてしまう。なにせ初歩の『火球』ですら、対戦者にとっては脅威だったのだ。つまらないことこの上ない。だから最近は、せめてもと騎士団に随行して討伐など、少しは面白いと感じられるものに参加していた。それを父親にいうと『それなら代わりに俺の仕事をやるか?』と聞かれたので逃げ出した。
ジンのことは初めから面白そうなやつだと思ってはいた。入寮日に堂々と寝る。入学式で声に出して笑う。そんなアホみたいなやつはなかなかいない。だがその程度の認識が変わったのは合成獣の一件からだろう。入学試験の成績と今までの授業の成績から、法術に関しての適性が著しく低いのは調べてわかった。だからどうやって自分でも少しは苦労するかもしれない化け物を一人で倒したのかが気になった。
その時点で彼の興味は、強いと噂のシオンよりもジンに注がれた。しかしジンは頑なにボロを出さない。訓練でも、この大会の予選でもそうだ。唯一片鱗を見せたのは本戦の一回戦でか。だがその一瞬だけでも、ジンから興味を失いかけていた彼の心を引きつけるには充分だった。流れるような闘気のコントロール、瞬間の判断、技術、度胸。それらが高いレベルで混ざり合っていた。今大会は法術を禁止するように言われている。だからこそ自分の素の力とどこまで渡り合えるのか楽しみで仕方がなかった。
そして現在、ジンはアスランの期待以上の強者であった。だからアスランは笑った。久々の強敵に会えたことを女神フィリアに感謝した。
~~~~~~~~~~~
「なかなかやりますね。あの1年生の子」
ウィリアムが目を丸くして呟く。
「ふん、あれくらいは当然だ。むしろ前の試合が手を抜きすぎていただけだ」
サリカは入試の時に少しだけジンと斬り合った。その時に彼が秘めている潜在能力の一端に触れたという実感はある。もちろんここまでとは想像していなかったのだが。
「ああ、入試の時の話だっけ。でもあれでしょ、サリカちゃんはあの子自分の団に入れる気ないんだよね?」
「まあな。いくら武術に優れていようが法術の方が圧倒的に強い。仮に彼を入れたとしても肉の壁にすらならないだろうからな」
「うひゃあ、酷い言いようだね。アレクさんはどう?あの子欲しい?」
食い入るように試合を見ていたアレキウスがウィリアムに顔を向けると破顔した。いかつい顔のため笑顔なのか判断に困るがおそらくは笑顔だろう。
「ああ。ああいうやつはなかなかいねえからな。ありゃあ、磨けばまだまだ伸びるぜ。法術が使えねえなら法具でもなんでも持たせりゃいいからな」
まるで獲物を見つけた肉食獣のような目をジンに向けている。
「しっかしアスランくんも大分武術系の技術が上がったねえ。この一年でどんだけ修行したんだろうね。あれナディアちゃんだ。試合見に来たの?」
そんなことを話していると一人の女性がイースたちの元にやってきた。この国の神官長を務めるナディア・シュラインだ。40ほどでも見た目は20代にしか見えない。白いヴェールで顔を半分隠し、同じく真っ白な司祭服を、豊満な胸を強調するように着崩している。ヴェールの下からは金色の、腰までウェーブヘアが伸びている。ウィリアムの言葉を無視して、イースの前に跪くと報告を始めた。
「陛下~。神託が下されました~。この街にもうすぐ何かが現れるとのことです~」
その言葉にその場に集まっていた使徒たちの顔が変わる。彼女は使徒としての強靭な能力がない代わりに女神フィリアからの神託を受け取ることができる唯一の存在だ。そンな彼女がわざわざ配下の者ではなく、自身でここまで来たということは、普段神殿にこもっている彼女が来なければならない事態が起こるということだ。つまり彼女は試合を見に来たのではなく、自身の身を守るために『使徒』たちがいる場所に来たのである。
「……つまり間も無く何かが起こるということか。場所は予測できているのか?」
イース王はナディアに目を向ける。彼女に下される神託はある程度正確ではあるが完璧ではない。そのためこのような曖昧なことがしばしばだ。
「わかりません~。ただこの都市のどこかっていうことしか~」
「……わかった。アレキウス、ウィリアム、サリカ。お前たちは至急非番の者も含めて団員たちを集め、この街の各地に配備しろ。それが済み次第、お前たちは俺と合流しろ。遊撃隊を作る」
『使徒』はこの国最強の存在だ。しかし神託が下されるほどの何かが起こるということは、一人一人では対応しきれない可能性が出てくる。そこで非常事態の時は『使徒』だけの部隊を作るのだ。
「陛下はどうなさるおつもりですか?」
ウィリアムの声に先ほどの軽薄さはない。
「一旦城に戻り、装備を整える。お前たち速やかに行動を開始ししろ。ナディア、行くぞ!」
「「「はっ!」」」「は~い」
そうしてイースの指示のもと使徒たちは駆け出した。それを見てからイースはちらりと試合に目を向ける。そしてナディアを引き連れ、城へと向かった。
「はあ!」
ジンが走りながら一歩強く踏み込むと短剣をクロスさせて闘気を込めて斬り放つ。空気を切り裂く二筋の斬撃がアスランを襲う。しかしアスランも、その程度のことでは動じない。即座に技を理解すると、
「ふっ!」
飛んできた斬撃を見事真っ二つにした。中央を切り裂かれた斬撃はそのまま舞台を抉り、奇妙な形跡を残して消え去った。却ってアスランはすぐさま攻撃に転じる。
「ちっ!」
アスランは横薙ぎの斬撃を飛ばす。しかし本来ならば回避すべきところをジンはあえて突撃する。すでに舞台にぶつかっているのではないかというほどギリギリまで体を倒して、それを回避すると一気にアスランの足を刈ろうと短剣を薙ぐ。だがそれをアスランは剣を地面に突き立てることで防ぐ。短剣はキンッという虚しい音を立てて、剣にぶつかった。
それを見たジンはすぐさま片手を舞台につけて、思いっきり片腕の力だけで体を飛ばして強引に距離をとった。ジンを踏みつけようとしていたのか、ズンッという音とともにアスランの足元を中心に石畳にヒビが入る。
「いやぁ、お前すげえよ。実力もだけど、そのクソ度胸と当たり前のように足を狙ってくる冷徹さ。ここまで楽しくなるとは正直思わなかったぜ」
アスランが動きを止めて、ジンに話しかけてきた。それを見てジンも肩の力を抜いて緊張をほぐした。
「俺もです。今まで見てきた奴らは皆、法術ばかりにかまけて剣術、武術が疎かな奴ばっかりでしたから」
「まあ、それは否定できねえな。なにせその辺りを修行したところで、一発術を喰らえばそれまでだからな。剣で切れるものは限られているし、体術なんてそもそも相手を拘束で来ちまえば終わりだからな。どうしても鍛える時は術が中心になっちまう」
「なるほど。じゃあなんで先輩はそこまで剣術と体術を鍛えたんですか?」
「ん?まあ、俺の親父がそういう所に注意している人だっていうのもあるけど、上に行くには総じて強くならなくちゃいけないからな。知ってるか?法術師団長もなよなよとした感じなのに、実はめっちゃ剣術の腕がすごいんだぜ」
「いや、そもそも法術師団長が誰なのか知らないです」
「……そうか。じゃ、じゃあ続きやるか」
「そうですねっ!」
言い終わった瞬間ジンは爆発的に速度を上げて接近する。だが彼の動きを読んでいたアスランはいつの間にか手に持っていた石をジンの顔にめがけて投擲した。どうやらジンが距離をとった一瞬、目が逸れた時に掴み上げていたらしい。
「くっ!」
闘気で身を包んでいるためダメージはないのだが、咄嗟に顔を動かして回避する動きを見せてしまう。その隙をついてアスランは右上から斜めに降り下ろした。無防備なジンの肩に剣がぶつかる。
「おらああ!」
「ぐはっ!」
あまりの衝撃にジンは舞台に倒れ伏した。しかしアスランの攻撃は続く。咄嗟に体を反転させると顔の横に剣先が落ちてきた。回避していなかったら大怪我するのは確実だろう。
ジンは立ち上がろうと隙を探るが、アスランはそんなことを許すつもりはない。再び振り下ろされた剣をジンは短剣をクロスさせて防ぐ。先ほどダメージを負った左肩が鈍く痛み、ジンは骨からミシミシという音が聞こえてくる気がした。
「はあああ!」
「ぐううう……」
アスランが力を込めて剣を押し込む。横たわっている状態のジンは彼の全体重も含めた全ての重さを二本の短剣だけで支え続ける。だがそんなものは長続きしない。徐々に押され始めてきた。
『なにか、何か隙はないか?』
だがそんな隙を当然ながらアスランは見せない。それを理解したジンは決断する。
「うおおおお!」
全身の防御に回していた闘気を両腕にのみ集中させたのだ。つまりこのタイミングで腕以外を攻撃されれば、大ダメージを受けるだろう。だがその決断が却って功を奏した。アスランはジンが大博打を打つという考えに至っていなかった。そのため急激に闘気が移動した時には既に遅かった。
ジンが思い切り剣を弾き飛ばす。その威力はアスランの想像を遥かに超えていた。思わず腕が浮き上がり、バランスを崩して踏鞴を踏む。その隙にようやくジンは窮地から脱した。だがその勢いで左手に持っていた短剣が折れてしまっていた。
それを石畳に落とすと同時に、素早く全身に闘気を張り巡らせると舞台を蹴った。ジンはアスランに飛びかかる。未だに彼は体勢が崩れている。ジンの剣がアスランの首を捉えて、しかし切り裂くことはできなかった。アスランは体勢が崩れた時点で、ジンの攻撃が来ることを知っていた。だからこそあえてその状態を維持していたのだ。
剣をパッと手放すと、アスランは舞台に背中から倒れこむように落ちてそのまま器用に片手を石畳について、バク転しながら蹴りを放った。そのつま先が見事にジンの顎を捉えた。
「がはっ!」
ジンの意識が一瞬途切れるがすぐに取り戻す。避けられたと認識し、相手の動きを読んだ彼は即座に左手で顎を隠して直撃は避けたのだ。しかしその威力はしっかりとジンの体に刻まれている。体がふらつくも目の前にいるアスランからは目を離さない。
アスランはその爛々とした瞳を見て笑う。一向に消えることの無い闘志を最後に向けられたのはいつだったろうか。
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アスランが使徒として覚醒したの1年ほど前に遡る。当時はそれに歓喜した。自分が選ばれたことに、そして自分が『資格』を得たことに。だが同時に思い知ったのは、この世の退屈さだった。同年代との訓練では常に本気が出せない。
気まぐれに大会に出ても、大したこともせずに優勝できてしまう。なにせ初歩の『火球』ですら、対戦者にとっては脅威だったのだ。つまらないことこの上ない。だから最近は、せめてもと騎士団に随行して討伐など、少しは面白いと感じられるものに参加していた。それを父親にいうと『それなら代わりに俺の仕事をやるか?』と聞かれたので逃げ出した。
ジンのことは初めから面白そうなやつだと思ってはいた。入寮日に堂々と寝る。入学式で声に出して笑う。そんなアホみたいなやつはなかなかいない。だがその程度の認識が変わったのは合成獣の一件からだろう。入学試験の成績と今までの授業の成績から、法術に関しての適性が著しく低いのは調べてわかった。だからどうやって自分でも少しは苦労するかもしれない化け物を一人で倒したのかが気になった。
その時点で彼の興味は、強いと噂のシオンよりもジンに注がれた。しかしジンは頑なにボロを出さない。訓練でも、この大会の予選でもそうだ。唯一片鱗を見せたのは本戦の一回戦でか。だがその一瞬だけでも、ジンから興味を失いかけていた彼の心を引きつけるには充分だった。流れるような闘気のコントロール、瞬間の判断、技術、度胸。それらが高いレベルで混ざり合っていた。今大会は法術を禁止するように言われている。だからこそ自分の素の力とどこまで渡り合えるのか楽しみで仕方がなかった。
そして現在、ジンはアスランの期待以上の強者であった。だからアスランは笑った。久々の強敵に会えたことを女神フィリアに感謝した。
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「なかなかやりますね。あの1年生の子」
ウィリアムが目を丸くして呟く。
「ふん、あれくらいは当然だ。むしろ前の試合が手を抜きすぎていただけだ」
サリカは入試の時に少しだけジンと斬り合った。その時に彼が秘めている潜在能力の一端に触れたという実感はある。もちろんここまでとは想像していなかったのだが。
「ああ、入試の時の話だっけ。でもあれでしょ、サリカちゃんはあの子自分の団に入れる気ないんだよね?」
「まあな。いくら武術に優れていようが法術の方が圧倒的に強い。仮に彼を入れたとしても肉の壁にすらならないだろうからな」
「うひゃあ、酷い言いようだね。アレクさんはどう?あの子欲しい?」
食い入るように試合を見ていたアレキウスがウィリアムに顔を向けると破顔した。いかつい顔のため笑顔なのか判断に困るがおそらくは笑顔だろう。
「ああ。ああいうやつはなかなかいねえからな。ありゃあ、磨けばまだまだ伸びるぜ。法術が使えねえなら法具でもなんでも持たせりゃいいからな」
まるで獲物を見つけた肉食獣のような目をジンに向けている。
「しっかしアスランくんも大分武術系の技術が上がったねえ。この一年でどんだけ修行したんだろうね。あれナディアちゃんだ。試合見に来たの?」
そんなことを話していると一人の女性がイースたちの元にやってきた。この国の神官長を務めるナディア・シュラインだ。40ほどでも見た目は20代にしか見えない。白いヴェールで顔を半分隠し、同じく真っ白な司祭服を、豊満な胸を強調するように着崩している。ヴェールの下からは金色の、腰までウェーブヘアが伸びている。ウィリアムの言葉を無視して、イースの前に跪くと報告を始めた。
「陛下~。神託が下されました~。この街にもうすぐ何かが現れるとのことです~」
その言葉にその場に集まっていた使徒たちの顔が変わる。彼女は使徒としての強靭な能力がない代わりに女神フィリアからの神託を受け取ることができる唯一の存在だ。そンな彼女がわざわざ配下の者ではなく、自身でここまで来たということは、普段神殿にこもっている彼女が来なければならない事態が起こるということだ。つまり彼女は試合を見に来たのではなく、自身の身を守るために『使徒』たちがいる場所に来たのである。
「……つまり間も無く何かが起こるということか。場所は予測できているのか?」
イース王はナディアに目を向ける。彼女に下される神託はある程度正確ではあるが完璧ではない。そのためこのような曖昧なことがしばしばだ。
「わかりません~。ただこの都市のどこかっていうことしか~」
「……わかった。アレキウス、ウィリアム、サリカ。お前たちは至急非番の者も含めて団員たちを集め、この街の各地に配備しろ。それが済み次第、お前たちは俺と合流しろ。遊撃隊を作る」
『使徒』はこの国最強の存在だ。しかし神託が下されるほどの何かが起こるということは、一人一人では対応しきれない可能性が出てくる。そこで非常事態の時は『使徒』だけの部隊を作るのだ。
「陛下はどうなさるおつもりですか?」
ウィリアムの声に先ほどの軽薄さはない。
「一旦城に戻り、装備を整える。お前たち速やかに行動を開始ししろ。ナディア、行くぞ!」
「「「はっ!」」」「は~い」
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