172 / 273
第7章:再会編
開演
しおりを挟む
「なんだよあれ……」
その日、警備に出ていた男は、街を覆う壁の上に設置された見張り台の上から空を見上げて呆然と呟いた。彼の視線の先には小さな黒い人の様な点が存在していた。次の瞬間、巨大な光がその点から大地に降り注ぎ、そしてその光を見た彼は瞳が焼ける痛みを感じる前に、一瞬でこの世からその街ごと消え去った。
~~~~~~~~~~
「ウェラスが消えた?」
その報告を聞いたキール神聖王国の王イースが眉を顰める。数日前から定時連絡が途絶えたため調査をしていたのだ。なにかしらの問題があるとは考えていたが、まさか街そのものが消えるとは予想だにしなかった。
「原因は?」
「状況からおそらく何らかの炎系の法術、あるいは光系の法術によるものではないかと推察します」
話によると建物が溶け、人間が焼け焦げた、あるいは溶かされた様な跡があったのだそうだ。
「それで、生存者は?」
「街の中には誰も。偶然外に出ていた者たちが200人ほどいましたので保護しております」
「わかった。下がっていいぞ」
その言葉に一礼すると、報告に来た兵士は足早に去って行った。
「ということらしい」
イースは一緒に話を聞いていた王国の使徒たちと宰相に目を向ける。彼が今いる円卓には新たに2人の若者が加わり、彼を含めて合計8人の男女がついていた。
「なんというか、突拍子もない話っすね」
濃緑色の、肩まであるカールヘアに法術師団の制服である法衣を豪快に改造して、もはや法術師団長に見えない使徒、ウィリアム・ハントがいつもの軽薄そうな表情を抑えて真剣な顔を浮かべて呟く。
「お前には可能か?」
日に焼けた色黒の獣のような風貌の男で、真紅の短く刈り揃えられた髪と獰猛な目を持つ王国騎士団長のアレキウス・ビルストがウィリアムを睨みつけながら尋ねる。
「そんな睨まないでくださいよ。あ、もしかしてアレクさん疑ってます?」
「茶化すな。お前なら可能か?」
ウィリアムの言葉に苛立ちを覚えてさらに目つきが鋭くなったアレキウスを見て、ウィリアムが降参とばかりに両手を上げて溜息をついた。
「まあ可能っちゃ可能です。でもウェラスってこの国で3番目にでかい街でしょ?報告によるとそれを一撃で消しちゃったんですよね。少なくても俺には無理です。俺なら……更地にするのに10発ぐらい必要かな」
「つまりお前より格上な存在が行ったということか」
「あ、その言い方酷い!」
「うるさい黙れ。それで、陛下はどの様にお考えですか?」
「十中八九、魔人の仕業だろうな」
「でも普通の魔人にそれほどの力ってあるのかしらぁ? 全く聞いたことがないんだけどぉ」
20歳ほどの見た目のグラマラスな女性、この国の巫女であり、神官長であるナディア・シュラインがのんびりと艶のある声で喋る。金色の、腰までウェーブヘアの彼女は真っ白な神官服を、胸を強調するように着崩している。不思議なことに彼女の外見はここ10年一向に変化していないどころかむしろ若返っている。
「考えられるとしたら、法魔ではないでしょうか?」
彼女の疑問に数年前に使徒に加わったアスラン・レイ・キールが答える。銀色の短く刈り揃えられた髪と、切れ長の目の奥に光る、濃緑色の瞳が印象的な貴公子然としたハンサムな青年だ。この国の第一王位継承者であり、かつて騎士学校に通っていた時はアスラン・レーギスと名乗っていた。
「お前もそう思うか」
「はい。四魔は同時期に連鎖する様に現れると以前文献で読んだ記憶があります。通常の魔人では考えられない様な力を持つ魔人、その中でもなにかしらの法術を用いて一撃で都市を壊滅させることができる存在であると考えると、可能性はかなり高いかと」
イースの質問にアスランは答える。実際にこの事件を聞かされた時からイースは法魔による可能性が高いと踏んでいた。
「さて、どうするか。何か案のある奴はいるか?」
イースは円卓に座している者をぐるりと見回すとサリカ・ネロが寝ていることに気がついた。
「はぁ、起きろ、馬鹿者が」
溜息を一つ吐いて、イースは気怠そうに人差し指をサリカに向けると、突如サリカの頭の上に水の塊が現れ、彼女に襲い掛かった。不思議なことに被害があったのは彼女のみで、周囲には飛沫一つない。
「ふがっ!」
大量の水をかけられてサリカが目覚める。目を擦りながら周囲を確認して、自分がなにに参加していたかを思い出し、慌てて居住まいを正した。その拍子に彼女の見事な水色のポニーテールが揺れた。その場にいる者たちの内何人かは呆れた表情を浮かべ、残りは笑いを堪えて肩を震わせている。ウィリアムに至っては隠す気も抑える気もなく口を開けて大笑いしている。
「まあいい。それで何か案のある奴はいるか?」
再度イースが問いかける。誰もが解決策を真剣に考えるがなにも浮かばない。法魔という埒外の力を前に何をすればいいかは分かっているが、如何せんどこにいるかがわからないのでは、対策を取りようもない。
「調査を続けて目的が何かを知るのと、各地で警戒を強める以外に方法がないのでは?」
結局、宰相であるシオンの父グルード・フィル・ルグレの言うとおり、現状できることは殆どない。
「ちっ、それしかないか」
イースは思わず舌打ちをする。強大な敵であるため少しでも後手に回れば国が滅ぶ。しかし現状彼らは相手の顔すら知らないのだ。
「仕方ない。お前たち、各騎士団の指揮を任せたぞ。俺は書庫に行って記録を探る」
この宮殿には王族しか入ることの許されない書庫がある。そこには多くの禁書が保管されており、許可なく入れば命すら落とす危険性がある。そこにならば四魔に対抗する術が記された本があるかもしれない。
「父上、私も手伝います」
「そうか、なら頼む。これでひとまず会議は以上だ。早急に今後の警備体制等の方針を決めて行動を開始しろ」
そのイースの言葉に従って、ウィリアム、サリカはそれぞれの兵団に戻り、アレキウスは2年前に使徒になったばかりの宰相の娘であり、会議中一切口を開かなかったシオン・フィル・ルグレを引き連れて自身の騎士団へと向かった。
~~~~~~~~~~~~
「一体なにがあったんだろう?」
街道が通行を規制していたのでミコトが不思議に思う。この先には立ち寄る予定だったウェラスの街がある。しかし、どうやらそちらで何かあったらしく、現在近寄ることが出来ないとのことだった。
「さあ。尋ねて参りましょうか?」
ハンゾーがそう聞きながら規制をしている兵士を指差すと、ミコトが頷いたので彼は小走りで兵士に駆け寄っていった。
しばらくして、戻ってきたハンゾーの話によるとウェラスがなんらかの原因によって壊滅したのだと言う。最近、魔物が増加しているため、それが原因なのではないかということで調査が行われているらしい。ただ詳しいことはまだ分かっていないとのことだった。
「どうするんだ?」
ゴウテンがジンに顔を向けてきたので、ジンはしばし考える。
「あの街で補給とか諸々したかったんだけど仕方ないか。街道以外は通れるのか?」
「はい、その様に申しておりました」
「分かった。遠回りになるがリウーネ経由で行こう」
ジンがそう決断すると、ミコトとゴウテン、ハンゾーは彼に付き従い、オリジンまで繋がっている街道を外れ、リウーネの街に向かった。
~~~~~~~~~~~~
キール神聖王国の首都であるオリジンから北に100キロ程行った所にリウーネという街があった。街の規模はそれほど大きくないものの、キール神聖王国と、その北に隣接するアルケニア帝国を結ぶ中継点の役割を果たしており、時折進軍してくるアルケニア帝国に対応するための城塞都市であった。今まさにその街ではフィリアが結界を覆い、世界を救ったことを祝う『救界祭』という祭りの真っ只中だった。
「あ、次はあれね!」
20歳ほどの女性が指差す先にある屋台から、胃袋を刺激する美味しそうな匂いが流れてくる。ズンズンと近寄っていく女性に手を掴まれ、引っ張られて少年が転びそうになる。どことなく幼さの残るその少年の面影はパッと見ただけでは10代前半にしか思えない。しかし、その目の奥には普通の生活をしてきたその年齢の子供が持ち得ないほど深い闇が潜んでいる。
「ほらほら、早く早く! そんなにノロノロしていたら売り切れちゃうよ! ほらエルマー!」
「ま、待ってください、ナギ様!」
笑顔を浮かべるナギに釣られる様にエルマーが笑みを溢した。そんな彼らの横を食料の入った紙袋を抱え、フードを被った老人が通り過ぎようとして、信じられないものを見たかの様な表情を浮かべて立ち止まり手から紙袋を落とした。
「あらら、大丈夫ですか?」
ナギが道に落ちた食料を拾い上げるためにしゃがむと、老人が相変わらず茫然とした表情を浮かべたまま呟いた。
「ア、アカリ様?」
「へ?」
「誰だお前は?」
突然話しかけてきた老人にナギは困惑する。エルマーは怪しい相手とナギの前に自分の体を入れて、彼女を庇う様な姿勢をとり、老人を睨みつける。
「い、いや、そんなはずはない。しかしあまりにも……」
老人がぶつぶつと何かを言い続けていたが、ナギにもエルマーにもサッパリわからなかった。
~~~~~~~~~~~~
「くははは! いよいよだ、いよいよ始まる! さあ、君は僕にどんなことを見せてくれるのかな! ひはははは!」
白い部屋の中で男が狂喜乱舞する。魔性の美貌を持つその男は、氷鏡の中に映された人物を見て狂った様に笑った。そんな彼の後ろに神秘的な美を備えた女性が現れ、歩き寄ってきた。
「なんだい。見に来たのかい?」
「ええ。あなたが用意した舞台だし。せっかくだからね」
にっこりと微笑む彼女は、誰しもが魅了されるほどの美しさだ。そんな彼女に対して、男は一切の関心を持たない。彼の心は視線の先にいる人物に注がれている。
「そう。じゃあ、楽しんでいってよ。最高に悲しくて、最高に哀れで、最高に嗤えて、最高に惨めで、最高に愚かで、最高に虚しい、そんな僕のためだけの物語を!」
演技の様にわざとらしくお辞儀をする彼に、女は改めて微笑んだ。
その日、警備に出ていた男は、街を覆う壁の上に設置された見張り台の上から空を見上げて呆然と呟いた。彼の視線の先には小さな黒い人の様な点が存在していた。次の瞬間、巨大な光がその点から大地に降り注ぎ、そしてその光を見た彼は瞳が焼ける痛みを感じる前に、一瞬でこの世からその街ごと消え去った。
~~~~~~~~~~
「ウェラスが消えた?」
その報告を聞いたキール神聖王国の王イースが眉を顰める。数日前から定時連絡が途絶えたため調査をしていたのだ。なにかしらの問題があるとは考えていたが、まさか街そのものが消えるとは予想だにしなかった。
「原因は?」
「状況からおそらく何らかの炎系の法術、あるいは光系の法術によるものではないかと推察します」
話によると建物が溶け、人間が焼け焦げた、あるいは溶かされた様な跡があったのだそうだ。
「それで、生存者は?」
「街の中には誰も。偶然外に出ていた者たちが200人ほどいましたので保護しております」
「わかった。下がっていいぞ」
その言葉に一礼すると、報告に来た兵士は足早に去って行った。
「ということらしい」
イースは一緒に話を聞いていた王国の使徒たちと宰相に目を向ける。彼が今いる円卓には新たに2人の若者が加わり、彼を含めて合計8人の男女がついていた。
「なんというか、突拍子もない話っすね」
濃緑色の、肩まであるカールヘアに法術師団の制服である法衣を豪快に改造して、もはや法術師団長に見えない使徒、ウィリアム・ハントがいつもの軽薄そうな表情を抑えて真剣な顔を浮かべて呟く。
「お前には可能か?」
日に焼けた色黒の獣のような風貌の男で、真紅の短く刈り揃えられた髪と獰猛な目を持つ王国騎士団長のアレキウス・ビルストがウィリアムを睨みつけながら尋ねる。
「そんな睨まないでくださいよ。あ、もしかしてアレクさん疑ってます?」
「茶化すな。お前なら可能か?」
ウィリアムの言葉に苛立ちを覚えてさらに目つきが鋭くなったアレキウスを見て、ウィリアムが降参とばかりに両手を上げて溜息をついた。
「まあ可能っちゃ可能です。でもウェラスってこの国で3番目にでかい街でしょ?報告によるとそれを一撃で消しちゃったんですよね。少なくても俺には無理です。俺なら……更地にするのに10発ぐらい必要かな」
「つまりお前より格上な存在が行ったということか」
「あ、その言い方酷い!」
「うるさい黙れ。それで、陛下はどの様にお考えですか?」
「十中八九、魔人の仕業だろうな」
「でも普通の魔人にそれほどの力ってあるのかしらぁ? 全く聞いたことがないんだけどぉ」
20歳ほどの見た目のグラマラスな女性、この国の巫女であり、神官長であるナディア・シュラインがのんびりと艶のある声で喋る。金色の、腰までウェーブヘアの彼女は真っ白な神官服を、胸を強調するように着崩している。不思議なことに彼女の外見はここ10年一向に変化していないどころかむしろ若返っている。
「考えられるとしたら、法魔ではないでしょうか?」
彼女の疑問に数年前に使徒に加わったアスラン・レイ・キールが答える。銀色の短く刈り揃えられた髪と、切れ長の目の奥に光る、濃緑色の瞳が印象的な貴公子然としたハンサムな青年だ。この国の第一王位継承者であり、かつて騎士学校に通っていた時はアスラン・レーギスと名乗っていた。
「お前もそう思うか」
「はい。四魔は同時期に連鎖する様に現れると以前文献で読んだ記憶があります。通常の魔人では考えられない様な力を持つ魔人、その中でもなにかしらの法術を用いて一撃で都市を壊滅させることができる存在であると考えると、可能性はかなり高いかと」
イースの質問にアスランは答える。実際にこの事件を聞かされた時からイースは法魔による可能性が高いと踏んでいた。
「さて、どうするか。何か案のある奴はいるか?」
イースは円卓に座している者をぐるりと見回すとサリカ・ネロが寝ていることに気がついた。
「はぁ、起きろ、馬鹿者が」
溜息を一つ吐いて、イースは気怠そうに人差し指をサリカに向けると、突如サリカの頭の上に水の塊が現れ、彼女に襲い掛かった。不思議なことに被害があったのは彼女のみで、周囲には飛沫一つない。
「ふがっ!」
大量の水をかけられてサリカが目覚める。目を擦りながら周囲を確認して、自分がなにに参加していたかを思い出し、慌てて居住まいを正した。その拍子に彼女の見事な水色のポニーテールが揺れた。その場にいる者たちの内何人かは呆れた表情を浮かべ、残りは笑いを堪えて肩を震わせている。ウィリアムに至っては隠す気も抑える気もなく口を開けて大笑いしている。
「まあいい。それで何か案のある奴はいるか?」
再度イースが問いかける。誰もが解決策を真剣に考えるがなにも浮かばない。法魔という埒外の力を前に何をすればいいかは分かっているが、如何せんどこにいるかがわからないのでは、対策を取りようもない。
「調査を続けて目的が何かを知るのと、各地で警戒を強める以外に方法がないのでは?」
結局、宰相であるシオンの父グルード・フィル・ルグレの言うとおり、現状できることは殆どない。
「ちっ、それしかないか」
イースは思わず舌打ちをする。強大な敵であるため少しでも後手に回れば国が滅ぶ。しかし現状彼らは相手の顔すら知らないのだ。
「仕方ない。お前たち、各騎士団の指揮を任せたぞ。俺は書庫に行って記録を探る」
この宮殿には王族しか入ることの許されない書庫がある。そこには多くの禁書が保管されており、許可なく入れば命すら落とす危険性がある。そこにならば四魔に対抗する術が記された本があるかもしれない。
「父上、私も手伝います」
「そうか、なら頼む。これでひとまず会議は以上だ。早急に今後の警備体制等の方針を決めて行動を開始しろ」
そのイースの言葉に従って、ウィリアム、サリカはそれぞれの兵団に戻り、アレキウスは2年前に使徒になったばかりの宰相の娘であり、会議中一切口を開かなかったシオン・フィル・ルグレを引き連れて自身の騎士団へと向かった。
~~~~~~~~~~~~
「一体なにがあったんだろう?」
街道が通行を規制していたのでミコトが不思議に思う。この先には立ち寄る予定だったウェラスの街がある。しかし、どうやらそちらで何かあったらしく、現在近寄ることが出来ないとのことだった。
「さあ。尋ねて参りましょうか?」
ハンゾーがそう聞きながら規制をしている兵士を指差すと、ミコトが頷いたので彼は小走りで兵士に駆け寄っていった。
しばらくして、戻ってきたハンゾーの話によるとウェラスがなんらかの原因によって壊滅したのだと言う。最近、魔物が増加しているため、それが原因なのではないかということで調査が行われているらしい。ただ詳しいことはまだ分かっていないとのことだった。
「どうするんだ?」
ゴウテンがジンに顔を向けてきたので、ジンはしばし考える。
「あの街で補給とか諸々したかったんだけど仕方ないか。街道以外は通れるのか?」
「はい、その様に申しておりました」
「分かった。遠回りになるがリウーネ経由で行こう」
ジンがそう決断すると、ミコトとゴウテン、ハンゾーは彼に付き従い、オリジンまで繋がっている街道を外れ、リウーネの街に向かった。
~~~~~~~~~~~~
キール神聖王国の首都であるオリジンから北に100キロ程行った所にリウーネという街があった。街の規模はそれほど大きくないものの、キール神聖王国と、その北に隣接するアルケニア帝国を結ぶ中継点の役割を果たしており、時折進軍してくるアルケニア帝国に対応するための城塞都市であった。今まさにその街ではフィリアが結界を覆い、世界を救ったことを祝う『救界祭』という祭りの真っ只中だった。
「あ、次はあれね!」
20歳ほどの女性が指差す先にある屋台から、胃袋を刺激する美味しそうな匂いが流れてくる。ズンズンと近寄っていく女性に手を掴まれ、引っ張られて少年が転びそうになる。どことなく幼さの残るその少年の面影はパッと見ただけでは10代前半にしか思えない。しかし、その目の奥には普通の生活をしてきたその年齢の子供が持ち得ないほど深い闇が潜んでいる。
「ほらほら、早く早く! そんなにノロノロしていたら売り切れちゃうよ! ほらエルマー!」
「ま、待ってください、ナギ様!」
笑顔を浮かべるナギに釣られる様にエルマーが笑みを溢した。そんな彼らの横を食料の入った紙袋を抱え、フードを被った老人が通り過ぎようとして、信じられないものを見たかの様な表情を浮かべて立ち止まり手から紙袋を落とした。
「あらら、大丈夫ですか?」
ナギが道に落ちた食料を拾い上げるためにしゃがむと、老人が相変わらず茫然とした表情を浮かべたまま呟いた。
「ア、アカリ様?」
「へ?」
「誰だお前は?」
突然話しかけてきた老人にナギは困惑する。エルマーは怪しい相手とナギの前に自分の体を入れて、彼女を庇う様な姿勢をとり、老人を睨みつける。
「い、いや、そんなはずはない。しかしあまりにも……」
老人がぶつぶつと何かを言い続けていたが、ナギにもエルマーにもサッパリわからなかった。
~~~~~~~~~~~~
「くははは! いよいよだ、いよいよ始まる! さあ、君は僕にどんなことを見せてくれるのかな! ひはははは!」
白い部屋の中で男が狂喜乱舞する。魔性の美貌を持つその男は、氷鏡の中に映された人物を見て狂った様に笑った。そんな彼の後ろに神秘的な美を備えた女性が現れ、歩き寄ってきた。
「なんだい。見に来たのかい?」
「ええ。あなたが用意した舞台だし。せっかくだからね」
にっこりと微笑む彼女は、誰しもが魅了されるほどの美しさだ。そんな彼女に対して、男は一切の関心を持たない。彼の心は視線の先にいる人物に注がれている。
「そう。じゃあ、楽しんでいってよ。最高に悲しくて、最高に哀れで、最高に嗤えて、最高に惨めで、最高に愚かで、最高に虚しい、そんな僕のためだけの物語を!」
演技の様にわざとらしくお辞儀をする彼に、女は改めて微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~
namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。
父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。
だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった!
触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。
「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ!
「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ!
借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。
圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。
己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。
さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。
「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」
プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。
最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる