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第7章:再会編
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音すら置き去りにする爆風が周囲を吹き飛ばしながら一直線に目的地へと進んでいく。平和な朝の一風景が赤に染まった。
「一体なんだ?」
アレキウスはその音に目覚め、ベッド脇に置いていた武器を手に持ち、窓から外を見た。彼の目の前には異常な光景が広がっていた。阿鼻叫喚の地獄絵図に目を疑う。そんな彼の目に黒い物体が映ったと思った瞬間に、目の前にレトの顔があった。
【探したぞ小僧】
レトはその身に夥しいほどの死の匂いを纏っていた。
「よう。なにしに来たんだ? まさか散歩って言うわけじゃねえよな」
アレキウスはすぐさま闘気で体を包みこむ。
【なに、理解しておるだろう? 我は法魔、そして貴様は使徒。ならば答えは一つだ】
「また見逃してくれはしないって事か」
【残念ながら否だ。なにせ厄介な奴が近づいて来ているそうだからな。其奴に会う事も考えて力を蓄えなければならない。そうだろう?】
その言葉にアレキウスは舌打ちする。なぜかは知らないが、目の前の法魔はイース王が来る事を知っている。自分が忠誠を誓う相手が法魔に警戒されるほどの存在である事を誇らしく思う一方で、苦々しくも思う。
「さあな。それで、今すぐやるのか?」
【ああ、それでは楽しませてくれよ】
レトはまるで少女の様に笑った。直後爆発が兵舎の半分を吹き飛ばした。
~~~~~~~~~
「……ん」
ジンはゆっくりと目を開ける。
【目覚めたか】
その声を聞いてすぐに彼の意識が覚醒した。跳ねる様に立ち上がると距離をとった。
「レヴィ!」
歯をむき出して腰に差しているはずの武器に手を伸ばすが、何もなかった。それで先ほどの戦いを思い出し、次いで自分の腕がある事に驚く。
【まあ、待て。我はノヴァであり、今はレヴィでは無い。それに戦うつもりも無い】
「お前にはなくても、俺にはある!」
さっと周囲を把握する。数メートル先に短剣が落ちているのを確認した。どうにかしてそれを取らなければならないと、頭の中で方法を考える。だがすぐにシオンの事を思い出す。彼女はノヴァの後ろで倒れていた。
「くっ!」
ジンは近くに落ちていた壁の破片を蹴り飛ばす。ノヴァは煩わしそうに手で軽く払う。しかしジンの目的はノヴァの視線を逸らした隙に、シオンとノヴァの間に入る事だった。それに成功したジンは後ろにシオンの呼吸を感じながら、ノヴァを睨む。
【武器ではなく、その少女を選ぶか。全くもって愚かしい】
呆れた様に右手で顔を覆い溜息をつく。ジンは急激に膨れ上がるプレッシャーに思わず唾を飲み込んだ。
【お前が何のためにあるのか、今一度失わなければ分からぬか?】
指と指の隙間から金色の龍の眼がジンを見据える。直後金縛りにあったかの様に体が硬直した。2年前のレヴィよりも圧倒的な力を感じる。
【この程度で動けなくなるとは。今まで一体何をしていたのだ?】
ノヴァは軽く右手を上から下へと振り下ろす。その動きに沿ってジンの横を何かが通り過ぎた。そう感じた時には肩の肉の一部が斬り飛ばされていた。激しく痛むが目を一瞬でも逸らせば殺されると本能で感じていた。
【弱すぎる。もうあまり待ってはいられぬぞ。早くフィリア様の望みを叶えることができる様に強くなれ。なに、かつてラグナの使徒だった身として、弱く愚かな後輩を少しは手助けしてやろう】
そう言うとノヴァの右手から肘まで赤い紋様が浮かび上がる。
【受け取るがいい】
そのまま右手でジンの心臓を穿つ。
「がはっ!?」
口から夥しい量の血を吐き出し、死を意識したジンが痛みのあまり目を一度だけ閉じると、目の前にいたノヴァはすでに消え去り、胸には傷すら残っていなかった。
「ぐああああ!!」
だが次の瞬間、貫かれたはずの箇所が猛烈は熱をもって痛み始めた。まるで体内を何かが這いずり回る様な激痛に、ジンはそのまま意識を失うが、痛みのあまりすぐに覚醒する。それを何度も何度も繰り返した。
~~~~~~~~~~
「……う……ん」
シオンが目を開けると、目の前でジンが転げ回っていた。身体中から血が吹き出し、筋肉が隆起し蠕動する。剥き出しになった上半身には以前に見た龍の様な紋様が這いずり回り、今もなお生物の様に蠢いて、ジンの体を包み続けている。
「ジン!」
あたりの異常な光景に気づかず、シオンは急いでジンに近づき、暴れる彼の体に光法術で治癒しようとする。だが一向に彼の体は傷つき続けていった。
「くそ、何で! ジン、死ぬな!」
シオンは必死に術を行使する。急激に疲労感が増すが、それを無視する。その甲斐あってか、徐々にジンも落ち着き始めた。顔を歪めてはいるが、異常な筋肉の蠕動も収まり、さらに龍の紋様も動きを止めた。身体中から吹き出していた血も漸く止まった。それでもシオンは念のため術を放ち続ける。
「う……」
やがてジンが目をゆっくりと開けた。
「ジン! よかった……よかった」
シオンは思わず手を止めて、彼に抱きついた。寝転がったジンは胸に頭を乗せて泣きじゃくる彼女を優しく撫でた。
しばらくして、漸く落ち着いたシオンにジンは尋ねる。
「……シオン。ノヴァ……いや、レヴィはどうした?」
「レヴィ? レヴィって、あの?」
シオンの脳裏にあの人型の化け物の姿が過ぎる。
「僕が起きた時には誰もいなかったけど……まさか、いたのか?」
「ああ」
ジンは体を起こす。痛むが我慢出来ないほどではない。
「じゃあ、その姿はあいつが?」
「姿?」
ジンは自分の体を見る。以前レヴィから創り出した『黒龍爪』に喰われた時の紋様と似通っているが、あれとは異なり、魂を喰い尽くされる感覚はない。ただ、自分の肉体の強度が遥かに増している事に彼は気がついた。ジンは肉体が頑健であればあるほど、強化する事ができる。
だがそれには問題が一つあった。人間の体があまりにも脆いのだ。闘気で体を覆い、『強化』の権能で肉体の強度を上げ、無神術で力を何倍にも引き上げようとしても、体そのものがその力に耐えられなかった。だが今まさに彼の体は、まるで作り替えられたかの様だった。
「これが手助けってわけか」
次第に紋様が薄まっていき、やがて完全に見えなくなった。しかし胸の奥には確かに力の塊がマグマの様に燃え滾っている。
「大丈夫なのか?」
不安そうな目でジンを見つめるシオンに、ジンは笑いかける。
「ああ、少し疲れたけどな。それよりも……」
シオンに支えられながらジンは立ち上がり、周囲に目を向ける。泣き叫ぶ子供の声や、悲鳴、パチパチとなる炎、崩れた壁。そこはつい先刻までの穏やかな市場ではなかった。さらに街の中心部へと目を向けると、被害は甚大だった。一体何人の人間が死んだのか、想像すら出来ない。
「酷え……」
「……うん」
「あいつはどこに行ったんだ?」
ジンの質問にシオンは首を振る。
「分からない。とりあえずこの先に向かってみよう」
シオンは破壊の跡が続く先を指差した。
「そうだな。だがシオン、お前はここで人々の救助をしてくれ」
「え、何で?」
慌てた様子のシオンにジンは顔を向けて真剣に言う。
「あの人はお前を殺しにきた。なぜ殺されなかったか分からないが、もしまた前に立てば今度は殺されるかも知れない」
「で、でも!」
「それに、お前はあの人の前に立つと倒れるだろ? 流石に相手が法魔である以上、お前を助ける余裕がない。だから頼む。ここで救助活動に専念してくれ」
「……でも」
シオンもジンの言う事が正しいと理解していた。だが、自分の命よりも彼を失う事の方が怖かった。泣きそうな顔でジンを見上げる彼女にジンはキスをした。
「約束する。絶対にお前の下に戻ってくる。だから待っててくれ」
その言葉に、シオンはジンの胸に飛び込み、ギュッと抱きしめる。
「……ずるいよ」
「ああ」
「……ねえ、死なないでね?」
「死なねえよ。まだ続きだってしたいしな」
ジンは明るく笑う。彼の言葉の意味を理解し、シオンは顔を赤らめながら怒った様な顔を浮かべた。
「……バーカ」
そしてお互いに見つめ合い、笑い合った。
「一体なんだ?」
アレキウスはその音に目覚め、ベッド脇に置いていた武器を手に持ち、窓から外を見た。彼の目の前には異常な光景が広がっていた。阿鼻叫喚の地獄絵図に目を疑う。そんな彼の目に黒い物体が映ったと思った瞬間に、目の前にレトの顔があった。
【探したぞ小僧】
レトはその身に夥しいほどの死の匂いを纏っていた。
「よう。なにしに来たんだ? まさか散歩って言うわけじゃねえよな」
アレキウスはすぐさま闘気で体を包みこむ。
【なに、理解しておるだろう? 我は法魔、そして貴様は使徒。ならば答えは一つだ】
「また見逃してくれはしないって事か」
【残念ながら否だ。なにせ厄介な奴が近づいて来ているそうだからな。其奴に会う事も考えて力を蓄えなければならない。そうだろう?】
その言葉にアレキウスは舌打ちする。なぜかは知らないが、目の前の法魔はイース王が来る事を知っている。自分が忠誠を誓う相手が法魔に警戒されるほどの存在である事を誇らしく思う一方で、苦々しくも思う。
「さあな。それで、今すぐやるのか?」
【ああ、それでは楽しませてくれよ】
レトはまるで少女の様に笑った。直後爆発が兵舎の半分を吹き飛ばした。
~~~~~~~~~
「……ん」
ジンはゆっくりと目を開ける。
【目覚めたか】
その声を聞いてすぐに彼の意識が覚醒した。跳ねる様に立ち上がると距離をとった。
「レヴィ!」
歯をむき出して腰に差しているはずの武器に手を伸ばすが、何もなかった。それで先ほどの戦いを思い出し、次いで自分の腕がある事に驚く。
【まあ、待て。我はノヴァであり、今はレヴィでは無い。それに戦うつもりも無い】
「お前にはなくても、俺にはある!」
さっと周囲を把握する。数メートル先に短剣が落ちているのを確認した。どうにかしてそれを取らなければならないと、頭の中で方法を考える。だがすぐにシオンの事を思い出す。彼女はノヴァの後ろで倒れていた。
「くっ!」
ジンは近くに落ちていた壁の破片を蹴り飛ばす。ノヴァは煩わしそうに手で軽く払う。しかしジンの目的はノヴァの視線を逸らした隙に、シオンとノヴァの間に入る事だった。それに成功したジンは後ろにシオンの呼吸を感じながら、ノヴァを睨む。
【武器ではなく、その少女を選ぶか。全くもって愚かしい】
呆れた様に右手で顔を覆い溜息をつく。ジンは急激に膨れ上がるプレッシャーに思わず唾を飲み込んだ。
【お前が何のためにあるのか、今一度失わなければ分からぬか?】
指と指の隙間から金色の龍の眼がジンを見据える。直後金縛りにあったかの様に体が硬直した。2年前のレヴィよりも圧倒的な力を感じる。
【この程度で動けなくなるとは。今まで一体何をしていたのだ?】
ノヴァは軽く右手を上から下へと振り下ろす。その動きに沿ってジンの横を何かが通り過ぎた。そう感じた時には肩の肉の一部が斬り飛ばされていた。激しく痛むが目を一瞬でも逸らせば殺されると本能で感じていた。
【弱すぎる。もうあまり待ってはいられぬぞ。早くフィリア様の望みを叶えることができる様に強くなれ。なに、かつてラグナの使徒だった身として、弱く愚かな後輩を少しは手助けしてやろう】
そう言うとノヴァの右手から肘まで赤い紋様が浮かび上がる。
【受け取るがいい】
そのまま右手でジンの心臓を穿つ。
「がはっ!?」
口から夥しい量の血を吐き出し、死を意識したジンが痛みのあまり目を一度だけ閉じると、目の前にいたノヴァはすでに消え去り、胸には傷すら残っていなかった。
「ぐああああ!!」
だが次の瞬間、貫かれたはずの箇所が猛烈は熱をもって痛み始めた。まるで体内を何かが這いずり回る様な激痛に、ジンはそのまま意識を失うが、痛みのあまりすぐに覚醒する。それを何度も何度も繰り返した。
~~~~~~~~~~
「……う……ん」
シオンが目を開けると、目の前でジンが転げ回っていた。身体中から血が吹き出し、筋肉が隆起し蠕動する。剥き出しになった上半身には以前に見た龍の様な紋様が這いずり回り、今もなお生物の様に蠢いて、ジンの体を包み続けている。
「ジン!」
あたりの異常な光景に気づかず、シオンは急いでジンに近づき、暴れる彼の体に光法術で治癒しようとする。だが一向に彼の体は傷つき続けていった。
「くそ、何で! ジン、死ぬな!」
シオンは必死に術を行使する。急激に疲労感が増すが、それを無視する。その甲斐あってか、徐々にジンも落ち着き始めた。顔を歪めてはいるが、異常な筋肉の蠕動も収まり、さらに龍の紋様も動きを止めた。身体中から吹き出していた血も漸く止まった。それでもシオンは念のため術を放ち続ける。
「う……」
やがてジンが目をゆっくりと開けた。
「ジン! よかった……よかった」
シオンは思わず手を止めて、彼に抱きついた。寝転がったジンは胸に頭を乗せて泣きじゃくる彼女を優しく撫でた。
しばらくして、漸く落ち着いたシオンにジンは尋ねる。
「……シオン。ノヴァ……いや、レヴィはどうした?」
「レヴィ? レヴィって、あの?」
シオンの脳裏にあの人型の化け物の姿が過ぎる。
「僕が起きた時には誰もいなかったけど……まさか、いたのか?」
「ああ」
ジンは体を起こす。痛むが我慢出来ないほどではない。
「じゃあ、その姿はあいつが?」
「姿?」
ジンは自分の体を見る。以前レヴィから創り出した『黒龍爪』に喰われた時の紋様と似通っているが、あれとは異なり、魂を喰い尽くされる感覚はない。ただ、自分の肉体の強度が遥かに増している事に彼は気がついた。ジンは肉体が頑健であればあるほど、強化する事ができる。
だがそれには問題が一つあった。人間の体があまりにも脆いのだ。闘気で体を覆い、『強化』の権能で肉体の強度を上げ、無神術で力を何倍にも引き上げようとしても、体そのものがその力に耐えられなかった。だが今まさに彼の体は、まるで作り替えられたかの様だった。
「これが手助けってわけか」
次第に紋様が薄まっていき、やがて完全に見えなくなった。しかし胸の奥には確かに力の塊がマグマの様に燃え滾っている。
「大丈夫なのか?」
不安そうな目でジンを見つめるシオンに、ジンは笑いかける。
「ああ、少し疲れたけどな。それよりも……」
シオンに支えられながらジンは立ち上がり、周囲に目を向ける。泣き叫ぶ子供の声や、悲鳴、パチパチとなる炎、崩れた壁。そこはつい先刻までの穏やかな市場ではなかった。さらに街の中心部へと目を向けると、被害は甚大だった。一体何人の人間が死んだのか、想像すら出来ない。
「酷え……」
「……うん」
「あいつはどこに行ったんだ?」
ジンの質問にシオンは首を振る。
「分からない。とりあえずこの先に向かってみよう」
シオンは破壊の跡が続く先を指差した。
「そうだな。だがシオン、お前はここで人々の救助をしてくれ」
「え、何で?」
慌てた様子のシオンにジンは顔を向けて真剣に言う。
「あの人はお前を殺しにきた。なぜ殺されなかったか分からないが、もしまた前に立てば今度は殺されるかも知れない」
「で、でも!」
「それに、お前はあの人の前に立つと倒れるだろ? 流石に相手が法魔である以上、お前を助ける余裕がない。だから頼む。ここで救助活動に専念してくれ」
「……でも」
シオンもジンの言う事が正しいと理解していた。だが、自分の命よりも彼を失う事の方が怖かった。泣きそうな顔でジンを見上げる彼女にジンはキスをした。
「約束する。絶対にお前の下に戻ってくる。だから待っててくれ」
その言葉に、シオンはジンの胸に飛び込み、ギュッと抱きしめる。
「……ずるいよ」
「ああ」
「……ねえ、死なないでね?」
「死なねえよ。まだ続きだってしたいしな」
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「……バーカ」
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