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第二部 第五章 告知
8.妹。
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「兄さん、こうやって一緒に夕食って、久しぶりね」
「そうだな。今の仕事が佳境なんで、最近は特に帰りが遅いからな」
俺はそう言うと、少しばかり肩をすくめてみせた。すると妹は、不満そうに口を尖らせながら言った。
「それどころか外泊も多いじゃない。ほんとにお仕事?」
「馬鹿言え。仕事以外の外泊だったらなんぼも気が楽だよ。今だっていつ呼び出しがかかるかと冷や冷やしてるんだぞ」
「やだ、途中で席立たないでよ。特に兄さんとの外食はホントに久々なんだから」
「そうか。それならこんなファミレスじゃなくてもっと小洒落たレストランにするべきだったかな」
「何言ってんのよ。肩が凝るようなところは苦手だって、いつも言ってるくせに」
「ははは、そうだな。ところで話ってなァ何だい?」
「あのさ、兄さんて今、カノジョ居るの?」
「なんだよ、藪から棒に。そんなもん作る暇なんかねえよ。大学ん時のとはとっくに別れちまったし」
「そっか……。じゃあ私が先に結婚するの、申し訳ないなあ」
いきなり妹が衝撃的なことを言い出すので、俺はたっぷり1分間ほど固まった。
「……結婚?」
「うん」
「するのか?」
「うんっ♪」
「;……………」
「何か言ってよ、間が持たないじゃない」
「………マジ?」
「本気だってば。驚いた?」
「いや、まあそりゃ……」
「ごめんね、兄さん」
「いや、謝られてもな、何がなんだか……。すまん、ちょっと……、いや、かなり驚いた。……しかし、なんでいきなり?」
妹はそれを聞いて意味深に笑った。
「えへへへ……」
「あ~っ、おまえ~~~!」
「ごめんなさ~い」妹は手を合わせ、俺を上目遣いで見ながら照れ笑いを浮かべて言った。「だって、兄さんいつも帰り遅いしぃ、寂しかったんだもん」
「まあ、おまえだってもう大人なんだから、どうのこうの言うのもナンだが、まあ……、あー、えー、しかしだな、俺はおまえには、あー、その……、出来ちゃっ、いやそのなんだ、つまりその、そうじゃなくて、えー、ちゃんとした順序で……、兄さんはちょっと残念……って、一体俺は何を言ってるんだ。で、えーっとその、それで一郎君は……?」
「うん。すっごく喜んでくれて、それじゃすぐに結婚しなきゃって言ってくれて……。こんど一緒に式場を見に行くの」
「そうか……。じゃ、出来るだけ盛大な式を挙げろよ。費用なら兄さんがなんとかしてやれるから」
「ううん、兄さん、無理しないでよ」
「たった一人の妹なんだぞ。それくらいやらせてくれ」
しかし、妹は首を横に振りながら言った。
「もう充分よ、兄さん。今まで本当にありがとう。10年前、事故で父さんと母さんが死んでから、ずっと親代わりをしてくれて……。自分は大学進学をあきらめたのに、私を短大にまで入れてくれて……」
「何言ってるんだ、二人だけの兄妹なんだからあたりまえだろ。それに俺は進学よりやりたいことがあっただけだしな。幸い父さん達が遺してくれた蓄えと保険で、なんとか食うには困らなかったからね。感謝するなら両親にしなくっちゃ」
「でも……」
「さっ、辛気臭い話は抜きだ。ほら、そろそろ頼んだものが来る頃だぞ」
「うん……」
「って、こら、泣くな。さっ、今日はお祝いだ。景気付けにワインで乾杯しようか」
「ダメよ、兄さん下戸でしょ」
「一杯くらいならなんとか大丈夫だよ、きっと」
「ダメ。また倒れちゃうわよ。それに、もし呼び出しがあったらどうするの?」
「あ、そうだった」
「バカね」
「……そうそう、披露宴では俺に一曲歌わせてくれよ」
「え? 何を歌ってくれるの?」
「んっと、そうだな、あ、あれだ、『妹』がいいや」
「って、あの、『かぐや姫』の?」
「そうそう。久々に弾き語りをやってやるよ。特に、あの『帰っておいで~』ってところ、大声で泣きながら歌ってやるから」
「やだ、兄さんってば。それ、禁句じゃないの」
「お、笑ったな。さ、料理が来たようだ。やっと腹ごしらえが出来るぞ」
それからおよそ1ヶ月後、運命の日が訪れた。その朝……。
俺が眠い眼をこすりながら台所に行くと、既に妹がそこにいた。
「兄さん、おはよ」
「なんだ、久美子、もう起きてたのか……。それに、朝メシまで出来てるし」
「うん。兄さん、今日早いって言ってたから私も早起きしちゃった。一緒に朝食食べようと思ってさ」
「ありがたい。めんどくさいからシリアルで済ませようと思ってたんだ」
「そうだと思った。さっ、座ってよ。すぐごはん装うから」
そう笑顔で言う妹を見て、俺はしみじみと思った。もう少しでこの日常は終わるんだなあと。しかし、それは違う形で実現してしまった……。
「じゃあ、行って来るよ」
「今日も遅いの?」
「ああ、近いうちに大事なイベントがあるんで、その準備で大変なんだ。また何日か帰れないかも知れない」
「そっか、残念。今日は一郎も一緒にまた夕食したいなって思ってたのに」
「あ、そうか、おまえ、会社今日までだったな」
「うん。ちょうど二十日で区切りがいいし」
「ちゃんとお世話になりましたって挨拶に回るんだぞ」
「やだ、兄さん、子供じゃあないのよ。あたりまえじゃないの」
「ははは、そうだな。じゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
妹の笑顔に送られて、俺は家を出た。いつもの平和な朝だった。二日後には、例の教団への強制捜査を控えていた。それで俺の仕事は一段落する予定だった。妹と過ごす余裕も出来るはずだった。しかし……。
一九九五年三月二十日午前八時 地下鉄サリンテロ発生。
俺のいる分室にも、地下鉄での異変が伝えられる。しかし、最初の頃は情報が錯綜し、爆破だの薬品が撒かれたなどと事実と憶測が入り乱れていた。
「渦中の路線は?」
「千代田線、それから丸の内線と日比谷線……他線でも同時多発しているという情報もあります」
「まさか、地下鉄テロ……!?」
誰とも無くそれを口にした。それを聞いて俺は、居ても立ってもいられなくなって席を立ち言った。
「日比谷線……その時間は私の妹も通勤で利用しているんです。実は会社に問い合わせたら、まだ出勤していないと……」
動揺する俺に、室長が言った。
「長沼間、地下鉄のダイヤ自体がずっと乱れているんだ。事件のあった路線は止まったままだし、全線が停止するかも知れん。地下鉄以外の交通にも影響が出ている。まだ事件に巻き込まれたとは限らんだろう。とにかく落ち着け! 何か情報が入ったらすぐに知らせてやる」
「は、はいっ、ありがとうございます」
そう言ったものの、俺の心中は落ち着かず、一分が数倍に思えるような辛い時間が流れた。
「長沼間! 妹さんの所在がわかったぞ! L病院だ! 被害者の多くがそこに運び込まれているらしい」
「室長、でも、仕事がまだ……!」
「いいから行け! たった一人の身内だろう? こっちは仕切りなおしだ。やられたよ。二日後の強制捜査の情報が漏れてたんだ」
「じゃあ、やはりこれは奴らの……」
「警察の分析部門がサリンと断定した! 他にあんなモノを撒くような気のふれた集団がいるものか! 畜生! 奴ら、霞ヶ関を狙いやがったんだ!! M市の時に連中をなんとか出来ていればこんなことには……!! とにかく、早く行け。既に死者が出とるんだ、どういう状況になるかわからんぞ!!」
「申し訳ありません!」
俺はそう言うや否や、脱兎の如く部屋を飛び出した。
俺は、妹が搬送されたといわれる病院に急いだ。L病院は、キリスト教関係の病院で、大きな礼拝堂がある。病院にそぐわない大きさだが、後で、それが東京大空襲を教訓として、大規模災害時に緊急病棟に転用出来るように作られたものだと知った。それが、あのテロの時、大いに役立った。
いつもなら静かで厳かであろう礼拝堂内が、文字通り野戦病院さながらの状態だった。ベッドが足らず床にも大勢の被害者が寝かされていた。俺は何とか妹のベッドを探し当てた。そこには既に婚約者が駆けつけ、横に座っていた。
「お義兄さん!」
「一郎君! 久美子の容態は?」
「今、解毒剤を混ぜた点滴を受けています。一時期に比べてだいぶ症状が治まったようです。意識はまだ戻ってませんが、とりあえず、命には別状はないそうです……」
「そうか……」
俺はそう言うと、ほっとして床に座り込んだ。
「お義兄さん、外の様子は今?」
「大混乱をしているとしか言いようがないな。ニュースも同じことの繰り返しでしかも、ほとんど推測の域を出ていない。交通機関のマヒは拡大する一方だ。この病院もどんどん被害者が運び込まれてベッドが間に合わず、ずいぶん多くの人が床に寝かされて治療を受けていた。久美子はベッドで寝ていられるだけマシなほうだ」
「あの……、中毒の原因物質がサリンって、本当ですか?」
「ああ、そうらしいな……」
「どうして、こんな……」
俺には事と次第を推察できたが、職務上の秘守義務のために、わからないと首を横に振るしかなかった。
妹は、いつものように地下鉄に乗って会社に行く途中被害にあった。途中、他のどこかの車両で何かあったらしい。妹の乗った車両でも皆がキョロキョロ始めた頃、異臭がし始め、いきなり鼻水と涙が出てきた。
(嫌だわ、急に風邪をひいたのかしら?)
妹は最初そう思ったが、周りを見ると、みな同じような症状になっている。妹は何か異変を感じた。息苦しさが限界になろうとしたとき、ドアが開いた。妹は皆と一緒に転げるようにホームへ脱出し、無我夢中で駅の外に出た。既に目の前が暗く眼が見え難くなっていた。サリン中毒の特徴的な症状である瞳孔収縮が起こっていたのだ。妹はしばらく他の乗客と共に、地下鉄出入り口近くの道にハンカチで顔を抑えながらうずくまっていたが、途中意識が途切れ、気がついたら病院のベッドに寝かされていたということだった。
俺はしばらく妹の様子を見るため傍にいたが、後を婚約者に任せ、仕事に戻った。こうなったらなんとしてもあの組織を一網打尽にせねばならない。
強制捜査は予定通り2日後に開始され、その後、教団は徐々に追い込まれていった。
妹は1週間後に退院したが、堕胎を余儀なくされ、その上ひどい後遺症に悩まされることになった。妹は家に引きこもり、婚約も一方的に破棄した。婚約者の一郎が何度か尋ねてきたが、会うことはなかった。後で知ったのだが、一郎の母親が病院に来て、妹に別れてくれと懇願したらしい。息子には健康な嫁を迎えたい、そう母親は言い切ったという。
俺は、妹の様子を見るために1ヶ月ほど休暇を取り、出来るだけ一緒にいるようにしたが、妹はそれさえ疎ましいようだった。あんなに明るかった妹の性格が一変してしまった。俺は犯人たちを憎んだ。しかし、それ以上に、ここまでOの連中をのさばらせた官僚や上層部の連中を恨み、事件捜査に関わった己の不甲斐無さを呪った。
もっと早く手を打てたはずだった。遅くともM市の事件以降には。
そして妹は……、俺がちょっと眼を離した隙に、自室のドアノブに紐を引っ掛けて首を括ってしまった。俺はすぐにそれに気付いて、まだ息のあるうちに妹を救出、救急車で病院に運んだが、妹はこん睡状態のまま眼を覚ますことは無かった。
同年5月16日、M市と地下鉄の両サリン事件やその他の事件の首謀者である教祖M逮捕のための大規模な強制捜査が行われ、屋根裏に潜んでいたAことMがついに逮捕された。
俺は、仕事に復帰していた。妹がああなってしまった以上、仕事に没頭しないとやり切れなかったからだ。その日の夕方、俺は妹に教祖逮捕を報告するために病院に向かった。しかし、報告をしても、妹は何の反応もせずに静かに眠ったままだった。俺は、痩せこけて変わり果てた妹の傍に座ったまま、声を殺して泣いた。
その二日後の夜、病院から妹危篤の知らせを受け、俺は妹の病室に駆け込んだ。そこには既にもと婚約者の一郎も来ていた。だめ元で俺が連絡したのだが、彼は来てくれた。婚約破棄は彼にとっても理不尽なことだったとその時知った。彼はまだ妹を愛していたのだ。彼女を愛する二人の男に見守られて、妹は息を引き取った。まだ22歳だった。これから幸せになろうとしていた妹の人生を、いや、命さえもあの事件は奪ってしまった。
一郎は妹に取りすがって号泣したが、俺は呆然としていた。突然大地が失われたような喪失感に襲われた。宇宙空間に一人投げ出されたような、妙な感覚だった。俺は泣くこともわめくことも怒ることも出来ずに、ただただ呆けたように立ち尽くしていた……。
「チッ! あいつのせいで思い出してしまった」
長沼間は、感対センターの駐車場で、車のエンジンをかけながら言った。
「紅美か……、嫌な偶然だぜ」
彼はそう言うと病棟を一瞥し、車を発進させた。長沼間の黒い車は門を出ると、猛スピードで闇に消えていった。
「私が帰ったあとに、そんなことが……。へえ、長沼間さんが紅美さんにねえ」
由利子は、ギルフォードにインターネット掲示板のことを教えようと電話をしたのだが、その時センターでの一連の話を聞いたのだった。そんなこんなでギルフォードは、ようやく先ほど家に帰りついたのだと言った。
「それにしても、あのオッサンの妹さんがサリンテロの被害者だったなんて……。それじゃあ、長沼間さんのテロリストに対する憎悪が深いはずですね」
「そうですね。僕もそれを知った時びっくりしました」
「O教団の捜査に関係していたのなら、その悔しさも並大抵のことじゃなかったでしょうね。その上に、今回も相手に先手を取られっぱなしじゃあ、焦りますわな」
「仕方ないですよ。見事なまでに姿を現して来ないですからね、敵さんは。おそらく、O教団についてもかなり研究しているでしょう。だから、今のところ表立っている唯一の存在のユウキを追うしかないのに、それすらも手がかりを逸してしまったのですから」
「結城……」
由利子は低い声で言うと、声のトーンを元に戻して続けた。
「美葉は無事でしょうか……」
「彼女は、あいつにとって唯一の心の寄りドコロのハズです。きっと無事ですよ。必ず帰って来ます」
「そう、そうですよね」
「彼女を信じて待ちましょう。いずれにしても、ユウキの線から突き崩していくしかないのです。僕は、彼女がそのきっかけを作ってくれるのではないかという希望をもっています」
「アレク、ありがとう。美葉を信じてくれて……」
「どうして?」
「結城は美葉の彼氏だったから……。それに、そうじゃなくても、昔パトリシアって人が誘拐された時みたいに……」
「パトリシア・ハーストのことですか? よく知ってますね。ナルホド、君が心配しているのは、人質が誘拐犯と同調してしまう、いわゆるストックホルム・シンドロームのことですね」
「ええ。そんな風に思われていたらどうしようかって……」
「確かに、警察の方ではそういう見方をしている人がいます。でも、僕はそうは思いません。彼女は強い人です。武道に優れているはずの彼女が、ユウキから逃げず行動を共にしているのは、やむを得ない事情があるのでしょう。おそらく、巧妙に脅されているのでしょう」
「ありがとう、アレク。なんか少しほっとしました」
「それは良かった。ユリコ、そういう時は、一人で悩まないで相談してくださいね。一人で考えていると、往々にしてマイナスの方向に思考してしまいますから」
「ええ、そうします」
「それで、ユリコは何の用件だったんですか?」
「あ、忘れてた! 実はですね」
由利子は、先ほど見たインターネットの掲示板について話した。
「へえ、もうそんな話題になってるんですか。僕はあまりそういう場所は見たくないんですけど、しかたないですね、ちょっと見てみましょう。ジュリー、今ネット見てますか?……・そう、じゃ、ちょっと『Nちゃんねる』を見てください」
(あ、そうか、ジュリー君が一緒なんだっけ)
由利子がそう思った時、電話の向こうでジュリアスの声がした。
「Nちゃん? へー、アレックス、そんなとこ見る趣味があったんだわー。 ま、おれも時々見るけど」
「普段は見ませんよ」
「なんだ、見にゃーのか。面白くにゃあ」
「四の五の言わずにとっとと開けてください。ユリコ、どこ見たらいいのですか?」
「えっと、新型感染症って板があるんですけど……」
「そのまんまですねえ……。ジュリー、新型感染症ってイタだそうですよ……、って、もう開けてる?」
それを聞いて、由利子は思った。
(こりゃあ、時々じゃなくて、ほぼ毎日見ているクチだな)
「おい、アレックス。こりゃあ、でらすごいことになっとるよ。いわゆる祭りってゆーあんばいだよ」
ジュリアスは、そう言いながら、関連スレッドのひとつを開いて画面をスクロールさせた。
「うわ、ユーチューブに、もう晩げの放送がアップされとって、それがしっかり貼られとるよ。それに、あのC川の『トルーパー』の動画もだわ」
「これは、明日からが思いやられますねえ……」
ギルフォードがため息をつきながら言った。由利子も改めてスレッドを見ながら言った。
「この調子じゃあ、明日の夜あたりには森の内知事の全国版ニュース番組出演が決まりそうだなあ……」
「予想はしていましたけど、遥かに想定を超えているみたいです」
と、ギルフォードも困惑した様子で言った。
「だけど、告知に関しては正しいコトだったと思います」
「もちろんですよ」由利子も同意した。「すぐに紅美さんって人が名乗り出たんだし、きっと他にも情報が出てくるでしょう」
「ええ、明日からが本番です。ユリコ、心しておいてくださいね」
「はい。覚悟しています」
そう言いながら、由利子は気持ちが奮い立つのを感じていた。
ギルフォードは、その後、明日のことについてしばらくの間、由利子と打ち合わせをした。由利子からの電話が終わってからジュリアスの方を見ると、彼はパソコンの前に突っ伏して眠っていた。よっぽど疲れているのだろう。そういえば、来日してから色々あって彼を休ませてやる暇もなかったな、とギルフォードは思った。
「ジュリー、起きてください。そのまま寝ちゃあダメですよ」
「まーかん。このまんま寝かせてちょーよ」
「そうは行きませんよ」
ギルフォードはジュリアスの襟首を掴むと、そのままバスルームへ引っ張っていった。
「た~けっ、何すんだ~~~」
”風呂に入るんだよ。おまえは今日あの虫を触ったろーが。そのままじゃ一緒に寝てやらねえぞ”
”ちゃんと防護服を着てたし、その後ちゃんと葛西と一緒にシャワー浴びたし、大丈夫だったら~。眠い~。お願い、寝かせてよ~”
”ジュンと一緒にシャワー?”
”うらやましい?”
”妙なことをしてないよな?”
”あたりまえだろー?”
”よろしい。さぁて、隅々まで洗ってやるから覚悟しろよ”
”ひゃあ~”
情けない悲鳴を上げるジュリアスをバスルームに放り込み、自分も中に入るとドアを閉めた。ザーッと言うシャワーの音。
「このクソた~けっ! 服の上からシャワーかけるヤツがおるかぁ~~~」
ジュリアスの半ば裏返った声が、バスルームに響いた。
*****************************************************
テロを憎む長沼間の悲しい過去。
聞くところによると、このサリンテロについて知らない若い人が増えているという。しかし、この事件は決して風化させてはならない。
先行版で書いてからから年月が経ったため、初期設定からかなり年齢が上がりそうです。
※教団の頭文字は正しくはAですが、日本語の発音に合わせてOと表記しています。
「そうだな。今の仕事が佳境なんで、最近は特に帰りが遅いからな」
俺はそう言うと、少しばかり肩をすくめてみせた。すると妹は、不満そうに口を尖らせながら言った。
「それどころか外泊も多いじゃない。ほんとにお仕事?」
「馬鹿言え。仕事以外の外泊だったらなんぼも気が楽だよ。今だっていつ呼び出しがかかるかと冷や冷やしてるんだぞ」
「やだ、途中で席立たないでよ。特に兄さんとの外食はホントに久々なんだから」
「そうか。それならこんなファミレスじゃなくてもっと小洒落たレストランにするべきだったかな」
「何言ってんのよ。肩が凝るようなところは苦手だって、いつも言ってるくせに」
「ははは、そうだな。ところで話ってなァ何だい?」
「あのさ、兄さんて今、カノジョ居るの?」
「なんだよ、藪から棒に。そんなもん作る暇なんかねえよ。大学ん時のとはとっくに別れちまったし」
「そっか……。じゃあ私が先に結婚するの、申し訳ないなあ」
いきなり妹が衝撃的なことを言い出すので、俺はたっぷり1分間ほど固まった。
「……結婚?」
「うん」
「するのか?」
「うんっ♪」
「;……………」
「何か言ってよ、間が持たないじゃない」
「………マジ?」
「本気だってば。驚いた?」
「いや、まあそりゃ……」
「ごめんね、兄さん」
「いや、謝られてもな、何がなんだか……。すまん、ちょっと……、いや、かなり驚いた。……しかし、なんでいきなり?」
妹はそれを聞いて意味深に笑った。
「えへへへ……」
「あ~っ、おまえ~~~!」
「ごめんなさ~い」妹は手を合わせ、俺を上目遣いで見ながら照れ笑いを浮かべて言った。「だって、兄さんいつも帰り遅いしぃ、寂しかったんだもん」
「まあ、おまえだってもう大人なんだから、どうのこうの言うのもナンだが、まあ……、あー、えー、しかしだな、俺はおまえには、あー、その……、出来ちゃっ、いやそのなんだ、つまりその、そうじゃなくて、えー、ちゃんとした順序で……、兄さんはちょっと残念……って、一体俺は何を言ってるんだ。で、えーっとその、それで一郎君は……?」
「うん。すっごく喜んでくれて、それじゃすぐに結婚しなきゃって言ってくれて……。こんど一緒に式場を見に行くの」
「そうか……。じゃ、出来るだけ盛大な式を挙げろよ。費用なら兄さんがなんとかしてやれるから」
「ううん、兄さん、無理しないでよ」
「たった一人の妹なんだぞ。それくらいやらせてくれ」
しかし、妹は首を横に振りながら言った。
「もう充分よ、兄さん。今まで本当にありがとう。10年前、事故で父さんと母さんが死んでから、ずっと親代わりをしてくれて……。自分は大学進学をあきらめたのに、私を短大にまで入れてくれて……」
「何言ってるんだ、二人だけの兄妹なんだからあたりまえだろ。それに俺は進学よりやりたいことがあっただけだしな。幸い父さん達が遺してくれた蓄えと保険で、なんとか食うには困らなかったからね。感謝するなら両親にしなくっちゃ」
「でも……」
「さっ、辛気臭い話は抜きだ。ほら、そろそろ頼んだものが来る頃だぞ」
「うん……」
「って、こら、泣くな。さっ、今日はお祝いだ。景気付けにワインで乾杯しようか」
「ダメよ、兄さん下戸でしょ」
「一杯くらいならなんとか大丈夫だよ、きっと」
「ダメ。また倒れちゃうわよ。それに、もし呼び出しがあったらどうするの?」
「あ、そうだった」
「バカね」
「……そうそう、披露宴では俺に一曲歌わせてくれよ」
「え? 何を歌ってくれるの?」
「んっと、そうだな、あ、あれだ、『妹』がいいや」
「って、あの、『かぐや姫』の?」
「そうそう。久々に弾き語りをやってやるよ。特に、あの『帰っておいで~』ってところ、大声で泣きながら歌ってやるから」
「やだ、兄さんってば。それ、禁句じゃないの」
「お、笑ったな。さ、料理が来たようだ。やっと腹ごしらえが出来るぞ」
それからおよそ1ヶ月後、運命の日が訪れた。その朝……。
俺が眠い眼をこすりながら台所に行くと、既に妹がそこにいた。
「兄さん、おはよ」
「なんだ、久美子、もう起きてたのか……。それに、朝メシまで出来てるし」
「うん。兄さん、今日早いって言ってたから私も早起きしちゃった。一緒に朝食食べようと思ってさ」
「ありがたい。めんどくさいからシリアルで済ませようと思ってたんだ」
「そうだと思った。さっ、座ってよ。すぐごはん装うから」
そう笑顔で言う妹を見て、俺はしみじみと思った。もう少しでこの日常は終わるんだなあと。しかし、それは違う形で実現してしまった……。
「じゃあ、行って来るよ」
「今日も遅いの?」
「ああ、近いうちに大事なイベントがあるんで、その準備で大変なんだ。また何日か帰れないかも知れない」
「そっか、残念。今日は一郎も一緒にまた夕食したいなって思ってたのに」
「あ、そうか、おまえ、会社今日までだったな」
「うん。ちょうど二十日で区切りがいいし」
「ちゃんとお世話になりましたって挨拶に回るんだぞ」
「やだ、兄さん、子供じゃあないのよ。あたりまえじゃないの」
「ははは、そうだな。じゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
妹の笑顔に送られて、俺は家を出た。いつもの平和な朝だった。二日後には、例の教団への強制捜査を控えていた。それで俺の仕事は一段落する予定だった。妹と過ごす余裕も出来るはずだった。しかし……。
一九九五年三月二十日午前八時 地下鉄サリンテロ発生。
俺のいる分室にも、地下鉄での異変が伝えられる。しかし、最初の頃は情報が錯綜し、爆破だの薬品が撒かれたなどと事実と憶測が入り乱れていた。
「渦中の路線は?」
「千代田線、それから丸の内線と日比谷線……他線でも同時多発しているという情報もあります」
「まさか、地下鉄テロ……!?」
誰とも無くそれを口にした。それを聞いて俺は、居ても立ってもいられなくなって席を立ち言った。
「日比谷線……その時間は私の妹も通勤で利用しているんです。実は会社に問い合わせたら、まだ出勤していないと……」
動揺する俺に、室長が言った。
「長沼間、地下鉄のダイヤ自体がずっと乱れているんだ。事件のあった路線は止まったままだし、全線が停止するかも知れん。地下鉄以外の交通にも影響が出ている。まだ事件に巻き込まれたとは限らんだろう。とにかく落ち着け! 何か情報が入ったらすぐに知らせてやる」
「は、はいっ、ありがとうございます」
そう言ったものの、俺の心中は落ち着かず、一分が数倍に思えるような辛い時間が流れた。
「長沼間! 妹さんの所在がわかったぞ! L病院だ! 被害者の多くがそこに運び込まれているらしい」
「室長、でも、仕事がまだ……!」
「いいから行け! たった一人の身内だろう? こっちは仕切りなおしだ。やられたよ。二日後の強制捜査の情報が漏れてたんだ」
「じゃあ、やはりこれは奴らの……」
「警察の分析部門がサリンと断定した! 他にあんなモノを撒くような気のふれた集団がいるものか! 畜生! 奴ら、霞ヶ関を狙いやがったんだ!! M市の時に連中をなんとか出来ていればこんなことには……!! とにかく、早く行け。既に死者が出とるんだ、どういう状況になるかわからんぞ!!」
「申し訳ありません!」
俺はそう言うや否や、脱兎の如く部屋を飛び出した。
俺は、妹が搬送されたといわれる病院に急いだ。L病院は、キリスト教関係の病院で、大きな礼拝堂がある。病院にそぐわない大きさだが、後で、それが東京大空襲を教訓として、大規模災害時に緊急病棟に転用出来るように作られたものだと知った。それが、あのテロの時、大いに役立った。
いつもなら静かで厳かであろう礼拝堂内が、文字通り野戦病院さながらの状態だった。ベッドが足らず床にも大勢の被害者が寝かされていた。俺は何とか妹のベッドを探し当てた。そこには既に婚約者が駆けつけ、横に座っていた。
「お義兄さん!」
「一郎君! 久美子の容態は?」
「今、解毒剤を混ぜた点滴を受けています。一時期に比べてだいぶ症状が治まったようです。意識はまだ戻ってませんが、とりあえず、命には別状はないそうです……」
「そうか……」
俺はそう言うと、ほっとして床に座り込んだ。
「お義兄さん、外の様子は今?」
「大混乱をしているとしか言いようがないな。ニュースも同じことの繰り返しでしかも、ほとんど推測の域を出ていない。交通機関のマヒは拡大する一方だ。この病院もどんどん被害者が運び込まれてベッドが間に合わず、ずいぶん多くの人が床に寝かされて治療を受けていた。久美子はベッドで寝ていられるだけマシなほうだ」
「あの……、中毒の原因物質がサリンって、本当ですか?」
「ああ、そうらしいな……」
「どうして、こんな……」
俺には事と次第を推察できたが、職務上の秘守義務のために、わからないと首を横に振るしかなかった。
妹は、いつものように地下鉄に乗って会社に行く途中被害にあった。途中、他のどこかの車両で何かあったらしい。妹の乗った車両でも皆がキョロキョロ始めた頃、異臭がし始め、いきなり鼻水と涙が出てきた。
(嫌だわ、急に風邪をひいたのかしら?)
妹は最初そう思ったが、周りを見ると、みな同じような症状になっている。妹は何か異変を感じた。息苦しさが限界になろうとしたとき、ドアが開いた。妹は皆と一緒に転げるようにホームへ脱出し、無我夢中で駅の外に出た。既に目の前が暗く眼が見え難くなっていた。サリン中毒の特徴的な症状である瞳孔収縮が起こっていたのだ。妹はしばらく他の乗客と共に、地下鉄出入り口近くの道にハンカチで顔を抑えながらうずくまっていたが、途中意識が途切れ、気がついたら病院のベッドに寝かされていたということだった。
俺はしばらく妹の様子を見るため傍にいたが、後を婚約者に任せ、仕事に戻った。こうなったらなんとしてもあの組織を一網打尽にせねばならない。
強制捜査は予定通り2日後に開始され、その後、教団は徐々に追い込まれていった。
妹は1週間後に退院したが、堕胎を余儀なくされ、その上ひどい後遺症に悩まされることになった。妹は家に引きこもり、婚約も一方的に破棄した。婚約者の一郎が何度か尋ねてきたが、会うことはなかった。後で知ったのだが、一郎の母親が病院に来て、妹に別れてくれと懇願したらしい。息子には健康な嫁を迎えたい、そう母親は言い切ったという。
俺は、妹の様子を見るために1ヶ月ほど休暇を取り、出来るだけ一緒にいるようにしたが、妹はそれさえ疎ましいようだった。あんなに明るかった妹の性格が一変してしまった。俺は犯人たちを憎んだ。しかし、それ以上に、ここまでOの連中をのさばらせた官僚や上層部の連中を恨み、事件捜査に関わった己の不甲斐無さを呪った。
もっと早く手を打てたはずだった。遅くともM市の事件以降には。
そして妹は……、俺がちょっと眼を離した隙に、自室のドアノブに紐を引っ掛けて首を括ってしまった。俺はすぐにそれに気付いて、まだ息のあるうちに妹を救出、救急車で病院に運んだが、妹はこん睡状態のまま眼を覚ますことは無かった。
同年5月16日、M市と地下鉄の両サリン事件やその他の事件の首謀者である教祖M逮捕のための大規模な強制捜査が行われ、屋根裏に潜んでいたAことMがついに逮捕された。
俺は、仕事に復帰していた。妹がああなってしまった以上、仕事に没頭しないとやり切れなかったからだ。その日の夕方、俺は妹に教祖逮捕を報告するために病院に向かった。しかし、報告をしても、妹は何の反応もせずに静かに眠ったままだった。俺は、痩せこけて変わり果てた妹の傍に座ったまま、声を殺して泣いた。
その二日後の夜、病院から妹危篤の知らせを受け、俺は妹の病室に駆け込んだ。そこには既にもと婚約者の一郎も来ていた。だめ元で俺が連絡したのだが、彼は来てくれた。婚約破棄は彼にとっても理不尽なことだったとその時知った。彼はまだ妹を愛していたのだ。彼女を愛する二人の男に見守られて、妹は息を引き取った。まだ22歳だった。これから幸せになろうとしていた妹の人生を、いや、命さえもあの事件は奪ってしまった。
一郎は妹に取りすがって号泣したが、俺は呆然としていた。突然大地が失われたような喪失感に襲われた。宇宙空間に一人投げ出されたような、妙な感覚だった。俺は泣くこともわめくことも怒ることも出来ずに、ただただ呆けたように立ち尽くしていた……。
「チッ! あいつのせいで思い出してしまった」
長沼間は、感対センターの駐車場で、車のエンジンをかけながら言った。
「紅美か……、嫌な偶然だぜ」
彼はそう言うと病棟を一瞥し、車を発進させた。長沼間の黒い車は門を出ると、猛スピードで闇に消えていった。
「私が帰ったあとに、そんなことが……。へえ、長沼間さんが紅美さんにねえ」
由利子は、ギルフォードにインターネット掲示板のことを教えようと電話をしたのだが、その時センターでの一連の話を聞いたのだった。そんなこんなでギルフォードは、ようやく先ほど家に帰りついたのだと言った。
「それにしても、あのオッサンの妹さんがサリンテロの被害者だったなんて……。それじゃあ、長沼間さんのテロリストに対する憎悪が深いはずですね」
「そうですね。僕もそれを知った時びっくりしました」
「O教団の捜査に関係していたのなら、その悔しさも並大抵のことじゃなかったでしょうね。その上に、今回も相手に先手を取られっぱなしじゃあ、焦りますわな」
「仕方ないですよ。見事なまでに姿を現して来ないですからね、敵さんは。おそらく、O教団についてもかなり研究しているでしょう。だから、今のところ表立っている唯一の存在のユウキを追うしかないのに、それすらも手がかりを逸してしまったのですから」
「結城……」
由利子は低い声で言うと、声のトーンを元に戻して続けた。
「美葉は無事でしょうか……」
「彼女は、あいつにとって唯一の心の寄りドコロのハズです。きっと無事ですよ。必ず帰って来ます」
「そう、そうですよね」
「彼女を信じて待ちましょう。いずれにしても、ユウキの線から突き崩していくしかないのです。僕は、彼女がそのきっかけを作ってくれるのではないかという希望をもっています」
「アレク、ありがとう。美葉を信じてくれて……」
「どうして?」
「結城は美葉の彼氏だったから……。それに、そうじゃなくても、昔パトリシアって人が誘拐された時みたいに……」
「パトリシア・ハーストのことですか? よく知ってますね。ナルホド、君が心配しているのは、人質が誘拐犯と同調してしまう、いわゆるストックホルム・シンドロームのことですね」
「ええ。そんな風に思われていたらどうしようかって……」
「確かに、警察の方ではそういう見方をしている人がいます。でも、僕はそうは思いません。彼女は強い人です。武道に優れているはずの彼女が、ユウキから逃げず行動を共にしているのは、やむを得ない事情があるのでしょう。おそらく、巧妙に脅されているのでしょう」
「ありがとう、アレク。なんか少しほっとしました」
「それは良かった。ユリコ、そういう時は、一人で悩まないで相談してくださいね。一人で考えていると、往々にしてマイナスの方向に思考してしまいますから」
「ええ、そうします」
「それで、ユリコは何の用件だったんですか?」
「あ、忘れてた! 実はですね」
由利子は、先ほど見たインターネットの掲示板について話した。
「へえ、もうそんな話題になってるんですか。僕はあまりそういう場所は見たくないんですけど、しかたないですね、ちょっと見てみましょう。ジュリー、今ネット見てますか?……・そう、じゃ、ちょっと『Nちゃんねる』を見てください」
(あ、そうか、ジュリー君が一緒なんだっけ)
由利子がそう思った時、電話の向こうでジュリアスの声がした。
「Nちゃん? へー、アレックス、そんなとこ見る趣味があったんだわー。 ま、おれも時々見るけど」
「普段は見ませんよ」
「なんだ、見にゃーのか。面白くにゃあ」
「四の五の言わずにとっとと開けてください。ユリコ、どこ見たらいいのですか?」
「えっと、新型感染症って板があるんですけど……」
「そのまんまですねえ……。ジュリー、新型感染症ってイタだそうですよ……、って、もう開けてる?」
それを聞いて、由利子は思った。
(こりゃあ、時々じゃなくて、ほぼ毎日見ているクチだな)
「おい、アレックス。こりゃあ、でらすごいことになっとるよ。いわゆる祭りってゆーあんばいだよ」
ジュリアスは、そう言いながら、関連スレッドのひとつを開いて画面をスクロールさせた。
「うわ、ユーチューブに、もう晩げの放送がアップされとって、それがしっかり貼られとるよ。それに、あのC川の『トルーパー』の動画もだわ」
「これは、明日からが思いやられますねえ……」
ギルフォードがため息をつきながら言った。由利子も改めてスレッドを見ながら言った。
「この調子じゃあ、明日の夜あたりには森の内知事の全国版ニュース番組出演が決まりそうだなあ……」
「予想はしていましたけど、遥かに想定を超えているみたいです」
と、ギルフォードも困惑した様子で言った。
「だけど、告知に関しては正しいコトだったと思います」
「もちろんですよ」由利子も同意した。「すぐに紅美さんって人が名乗り出たんだし、きっと他にも情報が出てくるでしょう」
「ええ、明日からが本番です。ユリコ、心しておいてくださいね」
「はい。覚悟しています」
そう言いながら、由利子は気持ちが奮い立つのを感じていた。
ギルフォードは、その後、明日のことについてしばらくの間、由利子と打ち合わせをした。由利子からの電話が終わってからジュリアスの方を見ると、彼はパソコンの前に突っ伏して眠っていた。よっぽど疲れているのだろう。そういえば、来日してから色々あって彼を休ませてやる暇もなかったな、とギルフォードは思った。
「ジュリー、起きてください。そのまま寝ちゃあダメですよ」
「まーかん。このまんま寝かせてちょーよ」
「そうは行きませんよ」
ギルフォードはジュリアスの襟首を掴むと、そのままバスルームへ引っ張っていった。
「た~けっ、何すんだ~~~」
”風呂に入るんだよ。おまえは今日あの虫を触ったろーが。そのままじゃ一緒に寝てやらねえぞ”
”ちゃんと防護服を着てたし、その後ちゃんと葛西と一緒にシャワー浴びたし、大丈夫だったら~。眠い~。お願い、寝かせてよ~”
”ジュンと一緒にシャワー?”
”うらやましい?”
”妙なことをしてないよな?”
”あたりまえだろー?”
”よろしい。さぁて、隅々まで洗ってやるから覚悟しろよ”
”ひゃあ~”
情けない悲鳴を上げるジュリアスをバスルームに放り込み、自分も中に入るとドアを閉めた。ザーッと言うシャワーの音。
「このクソた~けっ! 服の上からシャワーかけるヤツがおるかぁ~~~」
ジュリアスの半ば裏返った声が、バスルームに響いた。
*****************************************************
テロを憎む長沼間の悲しい過去。
聞くところによると、このサリンテロについて知らない若い人が増えているという。しかし、この事件は決して風化させてはならない。
先行版で書いてからから年月が経ったため、初期設定からかなり年齢が上がりそうです。
※教団の頭文字は正しくはAですが、日本語の発音に合わせてOと表記しています。
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