上 下
27 / 36
勇者と魔王の息子は一般人です。

第11話「復活」

しおりを挟む
 寝室に入り、どうにか眠ろうとベッドで身体を休めていた正人は苦しんでいた。

 ――――うぅ、なんだか身体が熱い……。

 ――――風邪でも引いたかな……?

 ――――声を出そうとしてもうまく言葉が出ない。体の感覚も薄い。どうなっているんだ?

 ――――……むしろそれはこちらのセリフだ。どうなっている? あの女の息子にしては不自由過ぎるぞこの身体は!

 ――――へ? だ、誰だ? また父さんの仲間の人?

 ――――¨余¨をあんな人間どもと一緒にするでない! 面倒だ。貴様は眠っていろ!!

 その言葉を境に正人の意識は深い闇の中に沈んでいった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 部屋を仕切るふすまがガラッと開かれ、そこには勇介の到着を待たずに手持ちのワインや缶ビールで酒盛りを始めている魔王たちがいた。

「ん? どうした正人、まだ寝ておらんかったのか?」

「…………」

「? 喉でも乾いたか?」

「ふ、くく、ふはははははははははは!! これがあの魔王だと!? 魔族を従え、破壊の権化として君臨すべき存在がまるでそこらにいる村娘も同然ではないか!」

「正人君? 一体どうしたの?」
「あれか? 前に学校居た時に聞いたちゅーに病ってやつか?」

 正人の態度が豹変したのに対して酔っぱらっていたセブリナとヴァネルはまだ自体が飲み込めずにいたが、魔王だけは正人を見据え、厳しい口調で問う。

「…………何者だお主、なぜ正人の身体で喋っておる?」

「わからぬか? よもや余を忘れるとは!」

「!………貴様、なぜ生きている!? たしかにあの時、魂を潰されたはずだ!」

「余は集合思念だぞ? そこらの魂ならばいざ知らず、握りつぶされ、多少バラバラになった所で時間を掛けて個々の思念が再び集結すればこの通りよ」

「……本物の化け物が!」

「ふむ、それは真の魔王たる余にとっては誉め言葉だな」

「正人の身体で何をするつもりだ!」

「知れた事、かつて宣言した通りこの世界に新たな魔族王国を作り上げるのだ!!」

「ま、魔族王国!?」
「おい魔王、どういうことだよ?」 

 困惑するセブリナとヴァネルを無視して魔王は会話を続ける。

「ふん、お笑いだな。魔族なきこの世界で魔族王国を作るなどと、本当に貴様はただの思念の集合体でしかないわけだ。意志ある者としての基本的な考え方すらできんとは」

「ほざけ、貴様の代ではすでに失伝していた技術だが、魔物生成魔法と同様に魔族を生成する魔法も存在するのだ!」

「な、なんだと?!」

「えぇ?!?」
「魔族を作る魔法!?!」

「貴様があの時起こした戦争がぬるま湯に見えるような大戦争があった時代、不足する魔族兵を補充すべく当時の魔王が編み出した魔法でな、強大な魔力なくして行使できないことと、子供の状態から育てない限り、全て短命になってしまう欠点があった為、戦争終結とともに忘れ去られたのだ。だが、この魔法をもってすれば魔族再興など思うがままだ!!」

「させんぞ! 貴様のような存在にこの世界を……、正人が生きる世界を奪わせはせん!!」

「出来るものならやってみろ!」

 正人(集合思念)はそういうと小さいながらも魔法を発動させ、周囲に火球を生み出していく。

「く、やはりこの身体、ろくに魔力を扱う鍛錬をしておらんな。魔法が全然思い通りに動かせん」

「くくく、愚かだな集合思念、再び我の身体を乗っとればよかったものを、正人の身体に入ったのが運の尽きよ」

「ふ、たしかにたいして魔法は使えんが、これはこれで利点があるぞ。こうすればどうだ?」

「な、何をする気だ!」

 正人(集合思念)は自分の手を首に当て、不敵に笑う。

「余が復活するまでの間ただ無為に時間を過ごしていたと思うなよ? 貴様がこの息子を溺愛していることは知っている。扱いは未熟とはいえこの至近で魔法を放てばどうなるかわかるな?」

「んなことしたらてめぇも死ぬだろ!」

「いや、奴は集合思念といういわば魂や精神体のような存在じゃ、肉体が無くても生き残れる」

「そんな、じゃあ正人君を助ける方法はないんですか?」

「…………。(こんな時にどこをほっつき歩いておる。あのバカ者が!)」

 魔王と勇者パーティの晩酌は予想外のトラブルに見舞われて中断された。

しおりを挟む

処理中です...