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陛下、それ○○デレです。

第3話「陛下、それダルデレです」

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 昼をやや過ぎた頃、ライエルは木製のボードに乗せた紙に書かれた項目に一つずつ羽ペンで〇を書き込んでいた。



「王族専用食堂は問題なし、

 各通路・窓等もホコリなし

 あとは各部屋と大広間のチェックか…」



 その日、ライエルは王宮管理の仕事で王宮内の掃除に不備がないかを確認する定期チェックをしていた。



「あの~、ライエル様」



「ん?なんだ?」



 呼び止められて振り向くと、掃除をしていたメイドが申し訳なさそうにこちらを見ていた。



「お呼び止めしてすいませんが、ご助力をお願いしたのです」



「どうした? 掃除でなにか問題でも?」



「いえ、掃除ではなく…あ、いや掃除の問題と言えばそうなのですが…」



「?」



「まずはこちらへ」



 そうしてメイドに案内されてある部屋に入ると、そこに広がる光景にライエルはメイドの悩みを理解した。



 部屋の中ではホウキや雑巾がひとりでに、いや、魔法で操られて勝手に掃除を行い、その中心では椅子に座った眠そうな目のメイドが魔法の小杖を右に左にゆっくりとダルそうに動かしながら掃除道具を操作していた。



「…………は~、ネムメネ!ネムメネ・ダリーネ!」



「ん~~? あ~~ライエル様~~」



「ネムメネ! 王宮内で許可なく魔法を使うなとあれほど言っただろう!」



 そう、王宮内では王族や貴族の安全を守るために本来許可のない魔法の使用は即牢獄行きでもおかしくない重罪だった。



「いくら君が宮廷魔術師長の孫娘でも王宮の規則を破ることは許さん!」



「え~~でも~~、こっちの方が早いし~~綺麗になるし~~」



「だとしてもキチンと身体を動かして掃除をしろ」



「え~~?面倒~~」



「いいのか? 動かないで食っちゃ寝してると太るぞ?」



「う、」



 気にしてる事を言われてネムメネが反応していると、ライエルは懐中時計のような物を開いてにやりと笑う。



「それにそろそろがここに来るぞ?」



「え? ほ、ほんとに!?」



 タッタッタッタッ! 



 バタン!「ライエル~!おるか~~!?」



「はい陛下、何でございましょう?」



「うむ、今度の隣国との会談の日程について……おや、そこにいるのは」



 国王がライエルから視線を逸らし、目を向けた方には先ほどまで椅子に座っていたダルそうなメイドの姿はなく、せっせとホウキを動かして掃除をする働き者のメイドの姿があった。



「やはりダリーネ家のネムメネ嬢か、行儀見習いでメイドの仕事に励んでいるようだね」



「は、はい~陛下」



「はは、畏まる必要はない。公の場でなければ昔のようにニブウスと名前で呼んでくれても構わないのだよ?」



「い、いえ~そんな、恐れ多いです~」



 ニブウスが国王になる前のまだ王子だった頃、魔術師長の魔法の授業を受ける合間に同年代の友達が少なかったネムメネの遊び相手になっていたため、彼女は「ニブウス様~」とまるで兄のように慕い、いつも隙あらば後ろをついて歩く日々が目撃されていた。



「そうか、少し寂しい気もするが、ネムメネちゃんがまじめに頑張っているのは喜ぶべきことだな。やはりあの噂はデマだったか」



「あの噂?」



「あぁ、なんでもメイドたちの間で仕事自体はこなすがほとんどヤル気が見られず、いつも怠惰な様子をネムメネ嬢が見せているなどというデマがウスメーノから報告として挙がってきていてな。あとでそんなことはないと皆に知らせる方法を考えねば」



 ――陛下、それダルデレです。



 普段は何に対してもやる気なし、ダルさ全開な姿勢だが、特定の相手を前にした時のみ姿勢を正し、デレっとする。それがダルデレだ。



「陛下、せっかくですし明日以降の予定について確認をしましょう。ついでにネムメネ嬢の仕事ぶりを見てやってください」



「む、そうだな。せっかくだし見させてもらおう」



「が、頑張ります」



 ――さて、前々から確かめたかったことに確信も持てたし、明日からの予定に一つ変更を加えるか。



 ・



 ・



 ・



 ・



 ・



 次の日、王宮内ではいつものように大勢の人間が自分の仕事を果たすべく働いていた。そしてその中には普段だらけて仕事をするとあるメイドもまじめに働く姿が見られた。



「陛下、各部署からの報告と認可の書類をお持ちしました」



「うむ、確認するから少し待て」



「こちらへおかけになって下さい~」



 国王の執務室で待機を命じられたライエルが立っていると、側仕えのメイドが部屋の脇にあるソファに座るように促した。



「紅茶はいかがですか~?」



「あぁ頼むよ砂糖は二つで」



 言われて紅茶を支度しながらメイド、ネムメネがこっそりと文句を言ってきた。



「(ライエル様ひどいです~、急に陛下の側仕えなんて~)」(小声)



「(陛下の目がないとお前がダラけるからだろうが)」(小声)



「(ぶ~、仕事はしてましたよ~)」(小声)



「(ほう、そんなに言うなら元の配置に戻してやろうか?)」(小声)



「(あ、いえ、それとこれは~……うぅ~)」(小声)



「(まぁ励むことだ、陛下のおそばで頑張れば側室くらいは芽があるかもしれんぞ?)」(小声)



「(わ、私がニブウス様の…!?)」(小声)



「紅茶はまだかな?」



「あ、はい、ただいま」



 差し出された紅茶のカップに口を付けながら、いまだにほんのり顔を赤くして妄想にトリップしているネムメネと書類に集中するニブウス陛下を交互に見ながら、ライエルは言葉に出さずにこう思った。



 ――俺も一応同じ幼馴染なのにどうして国王あいつばっかりモテるんだよ。やっぱ地位か?王という地位なのか?



 そんななんの益もない事を考えながら彼の平穏な日々は今日も過ぎて行った。
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