おお魔王よ、死んでしまうとはお疲れ様です。

イマノキ・スギロウ

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第一章 ~新人研修~ヴィーギナウス編

第05話 「宣戦布告よ」

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 ―とある森の採取場―

 森にほど近い村に暮らす村人たちはその日、いつもと違う森の様子になにか違和感を感じ取ってはいたが、生活していく為の糧を得るべく森での仕事を開始した。

 ――おかしい、普段なら鳥のさえずりが聞こえるはずなのに鳥どころか獣の気配すらない。どういうことだ?

「そっちはどうだ?」

「薬草やきのこはいつも通りだが、獣はおろかネズミ一匹見あたらねぇ。どうなってんだ?」

「なにかでかい猛獣でも森に来たのか?」

「バカ言うな、そんなのがこの森にやって来るとしたら近隣の村からそれらしい情報が入るはずだ」

「じゃあなんだってん……」

 村人たちが口々に不安を口にする中、ふいに一人の言葉が途中で途切れ、まわりは次の言葉が当然出てくるものと思って一瞬、間を置いて待った。しかし、いつまで待ってもその男から次の言葉出ることはなかった。

「……? おい、どうした?」

「……し、」

「し?」

「し、し、痺れ…動か……」ドサッ

「!、なんだ!?  毒草か毒キノコでも食ったか?」

「気を付けろ! 様子おかしい!」

「うおわぁ!!? あ、足に何か絡み付いてくる! 」

「なに、ぐぅ!?」

 いつの間にか村人たちの周囲にはいくつもの植物型の魔物が出現し、彼らはその触手のように動く蔓に絡め取られていた。

「蔓を切れ! 逃げるんだ!」

「この!この! ちきしょう!無駄に固くてなかなか切れねぇ!」

 一方、村人たちが必死に蔓を切る様子を少し離れた場所から観察二人の影があった。

「ふっふっふ、慌ててる慌ててる」

「先輩ドラマに出てくる悪女みたいです」

「実際魔王ですけどなにか?」

「ないです」

「よろしい」

「でも、あんな巻き付くくらいの貧弱な力と麻痺毒しかない魔物でもこの世界だと脅威になるんですね」

「人間って異質な物はそれだけで恐怖を感じるからね~」

「それで、先輩の評価としてはどうですか?」

「雑魚モンスターとしては合格よ。強すぎず弱すぎず、村人を秒殺する程でもなければその逆でもない。いい塩梅ね、よくできました」

「はい! ありがとうございます先輩!」

「しばらくは魔物の撃退具合を見て魔王城から放流する魔物の数を調整するから繁殖させる個体の管理には気を付けるのよ」

「頑張りま~す」

 
 一か月後、

「先ぱ~い、またハジメーナ王国地方の魔物が倒されました」

「思ったより対応できるようになるのが早かったわね。今回倒されたのは?」

「人食い鶏のデスコッコちゃん達です」

「あ~あのでかいだけの鶏か」

「一応、石とか銅製の剣くらいはくちばしで壊せるんですけど」

「いくら装備が壊せてもあんな後ろが隙だらけの鶏一撃で屠れるわよ。それで、どんな奴が倒したの?」

「一応ハジメーナ王国の騎士団を引っ張り出して騎兵の数人に手傷を負わせるくらいには善戦してました」

「騎士団の騎兵でその程度か、」

「どうします? またデスコッコちゃんたちを追加しておきますか?」

「う~ん、他の国の状況は?」

「東大陸にあるハジメーナ王国の隣国フメタツ王国、サンリク公国は同じように騎士団なら多少の負傷者程度で撃退、地方の兵士や町人の場合は結構な被害が出ているようです。ヨツメツ帝国は騎士団以外の兵士も質が良いのか、被害らしい被害は与えらていません」

「ふむふむ、他の大陸は?」

「島国のスズミ国、西大陸のキラビック帝国とその周辺国は魔物の素材に利用価値を見出したのか賞金を懸け始めてます。主体となってる冒険者の人たちは数で連携して戦ってるのでそこそこ戦えてるみたいです。あと同大陸のボウレスの民と呼ばれる遊牧民族は騎馬と弓を主体で狩りを行うので爪や牙しかない魔物ではなかなか勝てそうにありません」

「南と北は?」

「南の諸島群に住む氏族連合は各氏族から漁の護衛に付く戦士を増やしてますね。海洋に出られる魔物はまだいないですけど、大陸の噂は届いてるみたいです。北の大国についてはほとんどを国内の生産体制で賄っているのでよっぽどの事が無い限りは迂闊に森に行かない様に王から指示が出されているようです」

「とりあえず、魔物の存在は各大陸や島国にも知れ渡り始めてるわね」

「魔物の放流については先輩の指示した通り一定数を保ってますけど、ほんとにこんな数で勇者を必要とするほどの脅威になるんですか?」

「ならないわよ」

「そうですよね、ならな…、えぇ!? ならないんですか!!?」

「そりゃあ、一つの大陸に各種類100頭未満しかいないんじゃ、脅威どころか保護対象レベルでしょうが。あんたこの程度で脅威になると本気で思ってたの?」

「いや、確かに少ないな~とは思ってましたけど、魔物だからこのくらいでもいいのかなって、」

「ここまではただの宣伝よ」

「宣伝?」

「そ、新装開店のお店だって開店前には広告とかで周りにお知らせするでしょ、あれと一緒」

「つまり魔物という存在を世界に宣伝したと…?」

「そゆこと、いきなり大量の魔物を放流しても対応力が付く前に全滅されたり、恐怖や混乱とかで自滅されても困るからねェ、私たちの場合は」

「神から要請された事前訓練ですもんね」

「だから最初はただの人間だけでも対応できるようにして、そこから徐々に勝てない回数を増やし、勇者を必要とする状況に持っていくってのが無理のないセオリーね、……ただ昔一度だけ神からのリクエストで無茶振りがあったけど、」

「なんですかその無茶振りって?」

「勇者にできるほどの魂が見つからないからその世界に生きる人間全体を強くして魔王討伐にこぎ着けてくれって要求」

「そ、それって……」 

「長かったわよ~あんときは、人間どもが4世代目に突入した時には何度自分で魔物全滅させてお開きにしようと思った事か」

「し、しちゃいけないんですか?」

「それやると人間どもがありもしない奇跡に頼るようになるから『禁止ワード』と同列の『禁止アクション』に指定されてるの」

「禁止ってワードだけじゃなくてアクションにもあるんですか!?」

「だけじゃないわよ。それ以外にも『禁止スペル』に『禁止テクノロジー』にあと…、」

「禁止シリーズまだあった!?」

「ともかく、そろそろ宣伝期間は終了、ここからは本格的な行動に移るわよ」

「魔物大量放流ですね!」

「まだよデスフレア、」

「あれ!?」

「あと一ヶ月待ちなさい」

「一ヶ月したら放流ですか?」

「さらに待て、あとお手」

「先輩! せめて魔族扱いはしてください!」

「ごめんごめん、気を取り直しこの紙に書いてある魔物の数を重点的に増やして指示通りの訓練をさせなさい」

「訓練?」

 メアリーベルから受け取った紙に書かれた指示書を見たデスフレアはその内容にいまいち意味を理解できずに首を傾げた。

「先輩、こんな訓練してなんの意味があるんですか?」

「いいからやらせなさい。魔物達がただ言う事聞く所だけ見せても人間ってのは一度魔物に慣れると大抵の事じゃ驚かなくなるのよ。大事なのはインパクトよ」

「はぁ」

 それから一ヶ月、デスフレアはメアリーベルの指示書の通りに魔物達へ訓練を施し、いよいよメアリーベルが指定した日となった。

「さて、準備もできたし服も問題無し、デスフレア、そっちの用意は?」

「魔物さん達の訓練はすべて先輩の要求水準に達してます。服の方は、徹夜してなんとか」

「仮面は?」

「あ! 服の用意に気を取られて忘れちゃいました~(泣)」

「はぁ~、そんなことだろうと思って予備作っといたからこれ使いなさい」

「ありがとうございます先輩」

「それじゃ行くわよ」

「あの~ところで先輩、これから行くところってどこですか? 仮面舞踏会かなにかですか?」

「え? 言ってなかったっけ? 四大陸各国の王族が集う世界会議会場よ」

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? なでにそったらこつどえりゃーとこいくべさ!??」

「落ち着きなさいデスフレア、方言むちゃくちゃ」

「あ、えっと、すいません。……じゃなくて!」

「あのねぇデスフレア、何度も言うけど私たちは魔王としてこの世界に派遣されてるのよ? 仕事とはいえ私たちが敵対するのはどこ?」

「……この世界全体、ですか?」

「正解。ならどこに敵対の意思を表明すれば良いかは言わなくてもわかるわよね」

「その為に世界会議に?」

「そ、魔物という世界共通の脅威の影をちらつかせれば、たとえ表面上だけだったとしても人間たちの集合体である国家は情報共有と対策の話し合いをするためにほぼ必ず集まるからね。そこで人間たちのトップにまとめて宣戦布告すれば手間なく世界は魔物と魔王の脅威をはっきりと認識できる。人々に恐怖を植え付けるって言うのならこれくらい効率よくやるものよ?」

「せ、先輩、笑ってるハズなのにいつになく顔が怖いです」

「このくらいの顔芸はあんたもいずれ出来るようにならないと人間に舐められるわよ?」

「まだ無理ですよ~」

「なら今日は仮面は外さないことね」

「は~い」



 ―ハジメーナ王国王城ー

 各大陸の王族が世界に関わる議題について話し合うために集うのがこの世界会議でありこれには各国から選りすぐられた騎士団の精鋭が王族の警護にあたり、時には各国で最大の勢力を持つネルアミス教の教皇も教会騎士に守らて会議に参加される事がある。
 そして当然ながら開催国は会議参加国の要人全ての安全を保障する義務が発生するため、そのリスクの高さから普段はよほどの事態が無い限り、召集を掛けるかどうか確認する書状さえ出回る事はない。
 ゆえに開催国として警護に就くハジメーナの騎士達は今回の会議がいかに王族と世界にとって重要かを理解し、それと同時に緊張していた。

「レイズ隊は西塔と南塔の警備、ジャックス隊は東塔と北塔だ。ロイ隊は正門、カーラ隊は会議場ともしもの為の避難路の確保を最優先させろ。俺の隊はどこで異変が起こっても対応できるように城の中央広間に待機する」

「えぇ~団長達だけサボりですか~」

「バカもん、我らハジメーナ王国騎士団が警護する場所に楽な場所はない」

「団長達の中央広間が一番楽そうですけど」

「はいはい愚痴らないの、これでも団長は警備の責任者として国王とともに各国の王族や警護の騎士達と話をしなきゃいけないのよ? それともその役団長と変わってみる?」

「生意気言ってすいませんでした。カーラ副団長」

「私より先に謝る人がいるでしょ」

「あ、すいませんでした団長」

「構わんが、……お前あとで城のまわり走り込み100周な」

「うぇ、マジですか」

「はは、冗談だよ、さーバカ話はここまでだ。最近は異形の獣共が出現する頻度も増している。王都内だからと気を抜かず心して警備に当たれ! 各隊配置につけ!」

「「「「は!!」」」」

 騎士団長の号令の元、騎士団員達は統率のとれた動きでそれぞれの持ち場に移動を開始し、次々と到着する各国の王族達を出迎えていった。そして会場にすべての国の人間が入ると騎士団の警戒と緊張はピークに達した。


 ―ハジメーナ王国近隣の山中―

「先輩、魔物ちゃん達の配置OKです。いつでも合図一つで訓練通りにできます」

「よし、じゃあここからは魔王デスフレアとしてあんたが先頭よ、しっかり宣戦布告しなさい」

「うえぇぇぇ!? 先輩が会議で宣戦布告するんじゃないんですか!!?」

「何言ってんの、これはあんたの研修なのよ。あんたがやらないでどうするのよ?」

「で、でもせめて今回くらいはお手本を」

「カンペ用意したからこれ読みながらせめて雰囲気くらいは頑張って魔王を演じなさい」

「うぅぅ、できるかなぁ」

「はぁ、言っとくけど、この仕事をする限り、こういう名乗りを上げる行為はどうしたって付いて回るんだから方法はどうあれ出来るようになっときなさい」

「でも、あ、そうだ魔物を使って私の名前を宣言させるとか、」

「この世界の人語話せる魔物なんて育ててたの?」

「え、いえ、それは、魔物作るとき考えな……は! もしかして先輩、」

「あ、気づいた? うん、そんなラク研修でさせないようにあえて黙ってた」

「先輩~」

「もうこの期に及んでなにビビってんの、カンペ用意してあげたのだって大サービスなのよ? ほらさっさと行く! 会議終わっちゃうでしょうが」

「うぅ~不安です~」

「さぁー宣戦布告よ」


 
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