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第一章 ~新人研修~ヴィーギナウス編

第07話 「あれが勇者になるんですか?」

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「あ~帰りた~い、いますぐ帰ってデスゴールド食べた~い」

 空中をふよふよと浮かびながらデスフレアは愚痴をこぼしつつ、目的地へと向かって飛んでいた。

「けど勝手に帰ったら先輩怒るしな~、魔王の宣言とかほんと遠慮したい」

 空を飛ぶデスフレアの前に目的地であるハジメーナ城が見えて来た事でデスフレアは姿を隠す魔法を展開する。

「さてと、先輩がくれた宣戦布告のアドバイスメモは……」

 懐から取り出した紙には状況によっていくつかの模範的な解答例のセリフと魔王らしい言葉遣いについての解説が書き込まれていた。

 1つ、魔王はある程度威厳ある話し方を心がける事。

 2つ、魔王はビビッてはいけない。常に強気であれ。

 3つ、魔王の一人称は主に「我」や「余」等が一般的。

 以上。

「みじか!?」

 ……最後に、

「あ、まだ続きがあった」

 出来るだけ魔王らしい口調で頑張りなさい。あんたなら出来ると信じてる byメアリーベル

「先輩~、やさしさはうれしいけどその信頼はうれしくありませ~ん」

 とりあえず姿を隠す魔法で誰にも見つからずハジメーナ城に侵入したデスフレアは王達が集まる部屋を探して内部を歩き回る事にした。

 ――は~、王城っていろいろあるんだな~、あ、この花瓶の生け花良いな、今度魔王城でも飾ろうかな?
 
 王探しが城の散策に変わりそうになっている所でデスフレアようやく当たりの部屋にたどり着いた。中に入るとギスギスとした王達の雰囲気に初めはどう話を切り出したものかと考えていたが、そこに…、

「そこまでにしてもらおう!」

 ハジメーナ王が周囲のざわめきを押さえて静かになったタイミングを見計らい、ここだ!と思いったデスフレアは魔王としての宣言を行い、無事宣戦布告を終えたデスフレアは魔物達に先に城へ帰るよう指示を出すと、途中の山中で待機していたメアリーベルと合流した。

「お疲れ~」

「き、緊張で吐きそうでした……、」

「その割にはノリノリで敵の騎士消し飛ばしてたみたいだけど」

「あれも内心じゃほんと怖かったですよ。いきなり斬りかかってくるもんだから加減がうまくできなくて」

「で城ごと吹っ飛ばしたと」

「あうぅ、」

「ま、最初の宣言ならあれくらい派手にやった方が印象には残るでしょ」

「私、うまく出来てたでしょうか?」

「ばっちり、初めてにしては上出来よ」

「あ、ありがとうございます~」

「さて、それじゃここからちょっと歩くわよデスフレア」

「へ? どこに行くんですか?」

「私たちを殺す存在を見に行くのよ」

「殺す存在……あ、それって」

「そ、勇者よ」

 
 二人が合流した山から数キロ進んだ先にある小さな村。ヴィーギナウス世界においてのちに勇者の使命を任じられる運命を背負った少年は…………いじめっこに追いかけられていた。

「まてこらー!」

「ルークのくせに生意気だぞー!」  

「誰か助けて~!」

 
「……あれが勇者になるんですか? もしかして追いかけてる方ですか?」

「いや、追いかけられてる方ね。事前に見た資料にもあったけど、あの子ルーク・ミラクスが成長して私たちと対峙する運命にある、らしいわ」

「いじめっ子に捕まって思いっきりボコられてますけど……、」

「…………、あれ?」

「どうしました先輩?」

「ちょっとごめん、電話するから周囲に防音結界張って」

「あ、はい」

 メアリーベルは懐から携帯端末を出して番号を押すと、相手が出るのをじっと待った。

「……あ、もしもし、ヴィーギナウス世界の神族様でしょうか? ……わたくし、ネルアミス様よりご依頼をいただきました邪神人材派遣会社から派遣されております魔王メアリーベルと申す者なのですが、突然のお電話で大変失礼とは思いますが、ネルアミス様にお取次ぎしていただくは可能でしょうか?」

「ネルアミスってこの世界の女神の!?」

 デスフレアの驚きをよそにメアリーベルは相手の返答を静かに待つ。

「はい……、どうもありがとうございます。はい、失礼などないように気を付けます。………あ! ネルアミス様どうもお世話になっております。邪神人材派遣会社のメアリーベルと申します。突然お電話を差し上げてしまい申し訳ありません。ですが業務上どうしても確認したい事がありまして……、はい、そのですね、今これから先戦う予定となっている勇者の子を拝見していたのですが、どうもネルアミス様の加護がどこにも見当たらないな~、と思いまして。杞憂であればそれに越した事はないのですが、ここはひとつご確認をしていただいた方が良いと判断いたしまして、はい、…………、はい、折り返しのお電話はこの番号で大丈夫です。よろしくお願いいたします。それでは失礼いたします。 …………ふぅ、あ~神族相手の電話ってホント肩凝る」

「先輩サラリーマンみたいですね」

「あんたもそのうちこういう事も出来るようにならないといけないのよ? なんなら次回の電話あんたやってみ…」

「そ、そう言えば先輩、今電話で加護が見当たらないって言ってましたけど」

「その通りよ、さっき解析魔法であの子の潜在能力調べてみたんだけど、身体能力、魔法制御能力、魔力量とどれをとっても一般人ととことん大差がないのよ。これじゃほんとに勇者としての加護があるのか疑わしくなるってモノでしょう?」

「どれどれ……、うわぁ、ほんとに潜在値低いですね、これじゃ中ボスどころかデスコッコちゃんにもやられそう」

「でしょ、これじゃいじめっ子たちの方がよっぽど将来有望よ、ん?」

 携帯端末が震動しているのに気付いたメアリーベルは再び電話に出る。

「はい、メアリーベルです。………………そう…ですか、それで今回はどのようにいたしますか? 改めて勇者を指定されますか? ………………わ、わかりました。ではそのように手配します。失礼いたします」   

 電話を終えたメアリーベルはしばらくじっと携帯端末を握ったまま沈黙し、デスフレアは恐る恐る声をかける。

「先輩?」

「あーーーーーーったくもーー!!!」

「せ、先輩!?」

「な・ん・で! 私たちが神の凡ミスの尻拭いしなきゃならないのよ!? てめーがやらかした事だろうが! 神のメンツ何ぞ知るか!!!」

「先輩! 押さえてください! これ以上そんな濃密な死のオーラ出したら私の結界じゃ抑えきれません!」

「……ごめん、ちょっと怒りでまわり見えなくなってた」

「一体どうしたんですか? 電話で何て言われたんです?」

「……神の加護を勇者に与える際に手違いがあったの」

「手違い?」

「母親のおなかの中に入ってる時に勇者に加護を掛けたつもりが隣で生まれる寸前だったひよこに加護が」

「え? ひよこ?」

「おまけにもう鶏としておいしく食卓に並んだそうよ」

「うわぁ、って、でもそれなら加護を掛け直せばいいんじゃ」

「この世界の勇者の加護って地脈の力を与える形らしいんだけど、また新しく加護を与えるだけの地脈エネルギーが溜まるまで100年近くかかるって」

「この世界の人間の平均寿命からしたら絶望的ですね」

「もっと絶望的な情報があるわよ」

「な、なんですか?」

「もう啓示出しちゃったから変更できないって」

「啓示? 変更できないって……、 まさか!?」

「そ、ルーク・ミラクスが勇者になるって啓示をこの世界の偉い人に伝えちゃってたらしいの、だからいまさら「間違いでしたテヘぺろ」なんて神が言えるわけないって事でなんとしてもルーク・ミラクスを勇者として成功させてくれと、そういう無茶ぶりをいただいたわけよ」

「……マジですか」

「とにかく今すぐ帰って今後の計画の立て直しよ。しばらく寝るヒマも無くなるから覚悟しなさい?」

「うぇ~また徹夜ですか~?」

 魔王二人は予定していた展開を丸ごとひっくり返されたような気分になりながら、重い足取りでひとまずの帰路につくのだった。



「女神様からの啓示、ですか?」

「そうです」

「その内容は?」

「はい、大いなる闇が世界を覆わんとする時、世界を照らす光を持ちし聖なる者を探すべし。その者、勇気を持ちて人々を希望の光に導くであろう。と、」

「希望の光か、確かにこの状況では明るい話の一つでも聞きたいところではあるが、」

「しかしその勇気を持つ者とやらは本当に役に立つのか?」

「仮にも女神の名を教皇様が出しているのだ。なにもない訳はあるまい」

「それで教皇様、その勇気を持つ者とはどうやって探せばよいのですかな?」

「探す場所は分かっています。この東大陸です。この大陸のどこかに勇気を持つ者、『勇者』が生まれるとネルアミス様はおっしゃっておりました」

「東大陸といっても大陸全土を探すとなると一苦労だぞ?」

「その勇者とやらを探すにしても慎重に探さねば偽物や騙りが出てくる場合も考えられる」

「広く布告を出すのは最後の手段で良いでしょう。まずは各国が協力して勇者殿を探す捜索隊を出し、なにか手がかりを、」

「教皇様、その勇者とやらがそれとわかる特徴や目印等はないのですか?」

「女神ネルアミス様の啓示では勇者となる者は「ルーク・ミラクス」と呼ばれる男児であるとおっしゃっておりました」

「おお、名前が分かっているのなら探しようはあるな」

「しかし、名前だけでは同じ名と性を持つ者もいるだろう、探すのならば人よりも優れた魔力や抜きん出た身体能力など、人よりも優れた才を持っている者を探していく方針が良いのでは?」

「どの程度をその才とするかだな、多少優秀な者なら在野にもそれなりにいるだろうし、ヘタをすれば勇者とわからない可能性もあるな」

「はい、ですから、王の皆様には捜索隊を出して探す一方で、別の策も講じていただきたいと考えています」

「別の策だと?」

「東大陸で年一回武闘大会を開催するのです。武勇を示す者のなかに勇者殿が現われるかもしれません」

「なにもせんよりは、か。よかろう準備を進めよう」

「わかった。我が帝国も協力しよう」

「我がスズミの国も協力させてもらう」

「ならば我々も」
「こちらも」

 初めは半信半疑で教皇の話を聞いていた王達も次第に協力の意思を示し始め、世界会議に集まった人間世界の頂点達は勇者探しをすることで全員の意思が一致した。 
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