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第一章 ~新人研修~ヴィーギナウス編
第08話 「武闘大会を開始します!」
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勇者に女神の加護が無いと分かったデスフレアとメアリーベルは魔王城に帰ると、どうやって勇者を自分達の元までたどり着かせるかを考えて頭を悩ませていた。
「とりあえず、勇者くんと戦わせる魔物は他より弱い個体を当てて、ボスには手を抜かせて、」
「それだと勇者に仲間が付いた時に魔物の強さで不審がられる可能性があるわね」
「じゃ、じゃあ戦いそのものを極力しないように勇者を避ける指示を魔物達に出して、それから…」
「それでどうやって勇者としての使命を全うさせるのよ?」
「うぅ……そう言うなら先輩もなにか方法考えてくださいよ」
「だから考えてるじゃない。あのクソ雑魚勇者をどうやって魔王の元まで来させるのかを」
「あ、でも死んだとしても教会で復活できるなら死に戻り繰り返してレべリングすればいつかは」
「基本能力値が底辺なんだからいくらMAXまで鍛えたってせいぜい中ボスの元にたどり着けるかどうかが関の山なのよ? 中ボスと戦った瞬間に挽肉コース決定に決まってるでしょ」
「そんな、せめて一撃二撃くらいは、小さな傷だって積み重ねればいつか」
「あのね~、そもそもいくら教会で復活できるからって何年もかかってようやく倒したのが「中ボス一匹でした~」って誰がそんな勇者支持し続けるのよ? 民衆は元より啓示受けた偉い人達だって愛想尽かすわよ?」
「う~ん、一体どうすればいいんですか?」
「…………かなり反則的な行動になるけど、今回は仕方ないか、」
「先輩、何か良い案が?」
「本来は『禁止アクション』抵触ギリギリだからしないんだけど、私が勇者の旅に手を貸して道中のサポートをするわ」
「え、いいんですか?」
「普通はやっちゃだめよ? 自分で作った魔物を自分で倒したり全滅させたりするのは『禁止アクション』も含めた魔王派遣業務法違反なんだからね? ここ大事なトコだからしっかり記憶するように」
「はい、覚えておきます」
「とりあえず、人間たちの動向も見つつ、あの子にくっついてたまにそっちにも連絡入れるから、あんたはあんたでしっかりやりなさい」
「了解です。よろしくお願いします先輩」
―それから7年後―
魔王デスフレアが世界会議で世界に対して宣戦布告を行ってから7年の月日が経ち、世界はゆっくりと、しかし確実にその様子を変化させつつあった。
「陛下、また南西の村々から救援の書状が届いております」
「西大陸との連絡船がまた魔物に襲われたとの報告が、」
「急報! 北の鉱山町に大量の魔物が出没! 食糧などの物資にも被害があり、町長が民衆を一時避難させるために王都での受け入れを許可してほしいと」
文官たちの報告や書状が次々と読み上げられ、その一つ一つに対応する為に絶えず書類にサインする羽ペンを動かしながらハジメーナ王は視線はそのまま、隣に控える騎士団長に話しかける。
「………少し前なら考えられん状況じゃな」
「あの日から世界は少しずつ変わり始めているようです。それも悪い方向に」
ハジメーナ王の言葉に騎士団長は現状に対しての素直な考えを述べる。
「まだ、あの件について報告はなにも来ておらんのか?」
「勇者、ですな。いまだ捜索隊からそれらしい人物を見つけたという報告は来ておりません。隊には魔力を読み取る術に長けた宮廷魔導士も同行しておりますが、彼らも勇者と思しき力は見つからないと」
「……まさかとは思うがすでに死んでいるなどという事はあるまいな?」
「先日教会から来た使者が新たな啓示を教皇が授かったと報告しておりましたのでそれはないかと、」
「なに? ワシはそんな話聞いておらんぞ?」
「陛下がご多忙で身動きが取れない日に来まして、使者が他の国にも報告するために一日しか滞在できないと言っていたので勝手と知りつつ私が話を聞きました」
「して、どんな啓示じゃ?」
「はい、内容は『光は弱くともいまだ輝きは失われず、人々の前に希望が現われる日は遠からず』と、」
「いまいち要領を得んな、近いうちに見つかるということか?」
「私の口からはなんとも言えません」
「ふーむ、…………そういえば、今年の武闘大会の準備はどうなっている?」
「各地の魔物被害の対応に人員を割かれて滞っておりますが、当日までには間に合わせます。世界がこのような状況で国民の数少ない娯楽にもなっておりますので城下からも多数の協力者が今年も来ています」
「国がこの窮状の中、それでもがんばってくれている国民には感謝しかないな」
「はい、できれば今年こそは見つかると良いのですが」
「そうだな、ともかく今はこの書状の山をどうにかせねば」
息抜きの会話は終了し、ハジメーナ王は再び書類の山との格闘を再開した。
―武闘大会当日―
「お集まりの皆様、大変お待たせしました。まもなく第6回東大陸統一武闘大会を開始します!」
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
司会が開幕の言葉を述べると集まった観客たちは歓声を上げ、これから始まる猛者たちの戦いを想像して興奮の度合いが高まっていった。
大会の主催者であるハジメーナ王も騎士団長とともに王族用に観戦席からその様子を見守っている。
「騎士団長、今年の参加者はどうだ?」
「宮廷魔導士たちからはめぼしい魔力を有する者はいないとのことです。武芸の才については参加資格を決める模擬試合である程度確認しましたが、飛びぬけて強い者は見当たりませんでした。ただ、」
「ただ、なんだ? 勇者と思しき者が居たのか?」
「いえ、勇者というにはあまりに平凡な実力の持ち主なのですが、その参加者の名がルーク・ミラクスと、」
「教皇が啓示で受けた勇者と同じ名か、して、お主はそのものになにか感じるモノはあったか?」
「正直に申しまして、今のところはなにも、もしあれが勇者ならば我が騎士団の実力者達を勇者と呼んでも差支えないかと」
「その程度の実力しかないという事か」
「はい、それとここ数日周辺の魔物の数が減っているそうです」
「増えているのではなく減っている、か。……何事もなければよいがな、大会開催中は王都と会場どちらの警備も緩めるでないぞ」
「御意に」
王と騎士団長の会話が終わる頃、大会は予選試合を開始した。
―選手控室―
予選に出場する選手たちの控え室で参加者の小柄な少年と女魔法使いが試合に向けて話をしていた。
「よく聞きなさいルーク、これまで私が教えてきた剣術と格闘術を駆使すればあんたでもある程度は善戦できる。けど、予選を勝ち抜いてきた強者たちと正面から戦えば今のあんたの実力じゃ到底勝てない」
「そ、そんな、じゃあボクは一体どうすれば? やっぱりボクみたいな弱っちいのがいくら鍛えたってこんな大会に出る事自体間違いだったんじゃ…、」
「落ち着きなさい。正面から戦えば、と言ったでしょ? なら正面から戦わなければ良いのよ」
「…?」
「村で初めてあなたに会った時からいつも言ってるでしょ? 正攻法だけじゃなく搦め手や周囲のモノを利用するやり方も身に付けなさいって」
「でも、試合会場はなにもない石作りの闘技場でなにか策を考えようにも、」
「石作りのものしかないならそれを武器にしなさい。私から言えるのはそれだけよ」
「……やってみます。メアリー先生」
「まもなく次の試合がはじまります。ガンザレス選手とルーク選手、会場にお越しください」
「あ、はーい」
「じゃ、頑張りなさい」
―試合会場―
「さあ、次の試合ははるばる西大陸から参加した怪力自慢の大男ガンザレス選手と自分の村を賞金で助ける為に参加したルーク選手の一戦だーー!」
「こりゃ~一瞬で終わるな」
「あの子死んじゃうじゃないか?」
「腕折られて終わる方に銀貨2」
「じゃあ俺は足に銀貨3で」
あまりの体格差に一方的な展開を予想した観客たちは口々に自分勝手な事を言う。
「こんなチビが初戦の相手とはラクなもんだ」
「そ、そう思っていられるのも今の内ですよ」
「あん? なんだって? 小さすぎて虫の声は聞こえんな~」
「…………」
「ルール確認を、場外・気絶・ギブアップのいずれかで勝敗が決します。相手を殺してしまった場合はどのような状況であれ失格となりますのでご了承ください。それでは、試合開始ーーー!」
審判の合図とともにガンザレスは走り出し、ルークに向かって飛びかかっていく。
「うおらぁぁぁぁ! 潰れろチビすけーーー!!」
試合用に布を何重にも巻いた棍棒を振り上げて叩きつけようとしてくるガンザレスに対してルークは落ち着いて後ろに動き、棍棒の一撃を躱す。
「お、避けたぞ」
「まぁ一撃くらい避けないと面白くないしな」
「ちぃ、おとなしく食らっとけ!」
「できません」
次いで二撃目、三撃目を躱しながら、大きく後方に移動したルークは右手に持っていた刃引きをした剣を闘技場に突き立て、ガンザレスと対峙する。
「思ったより遅いんですね」
「な、なに~?」
「あなたの攻撃ならいくらでも避けられますよ」
「言わせておけばこのチビが~~!!」
怒りをあらわにして棍棒を振りかぶりながら向かって来るガンザレスに対してルークは突き立てていた剣を思いっきり下に押し込んだ。すると、梃子の原理で闘技場の石版が持ち上がり、向かって来ていたガンザレスはいおきいのままに石版に激突した。
「ぐはっ、こ、この野、!?」
石版の直撃を受けて片膝をついたガンザレスは石版の影から飛び出したルークに一瞬反応が遅れ、上を取ったルークはガンザレスの頭に剣の腹で強烈な一撃を加え、その衝撃でガンザレスは気絶した。
「勝負あり! 勝者ルーク・ミラクス!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
ルークが勝利するなど予想だにしていなかった観客たちは大興奮となり、次の試合、また次の試合もルークが勝利する度に観客たちは…、
「また大番狂わせ見せてくれよ!」
「がんばってルーク君!」
「次勝ったらおごってやるぞ~!」
などと手の平を返してルークの応援をし始め、同様に観客席から戦いの様子を見ていたメアリーはひとまず善戦しているルークを見てうまく事が運んでいる事を喜んでいた。
「ふぅ、とりあえずは順調ね」
「みたいですね」
「あら、早かったじゃない。いつからそこに?」
「今さっきです。先輩の指示書通り準備できてます。いつでも始められますよ」
「まだ早いわ、せめて決勝戦かあの子が負ける寸前になってからでいいわ」
「この7年間ずっと先輩が鍛えてましたからやっぱり気になりますよね~、実際どうですか? 彼の実力」
「凡人も凡人、ザ・普通って感じよ。体力や技術面はある程度鍛錬でどうにかなったけど、魔術関係はからっきしよ、攻撃魔法や回復魔法はおろか補助魔法すら一つ二つ覚えるのがやっとだったからね~」
「それはご苦労様です」
「東大陸国家が勇者探しの一環でこの武闘大会を毎年開いてるのを知ったから今回あの子を出場させたけど、どうなるかな~」
「その為に私に準備させたんじゃ?」
「一応あんたは保険のつもりなんだけどね」
「まぁ先輩のする事ですから私は口出しできませんけど、あ、結構いい一撃食らった」
「あーやっぱここくらいまでが限界か、反射神経もあんまり鍛えられなかったからなぁ」
「あの盗賊風の人なかなか早いですね。おーけどルーク君もねばるねばる。二刀流相手によく躱しますね」
「……デスフレア、やっぱいますぐ作戦実行でお願い。私はあの子のトコに、」
「お、先輩、あの子関節技で相手選手押さえ込みましたよ?」
「え? あ、ほんとだ」
しっかりと関節技を決めたルークに相手選手はなんとか抜けようともがくが次第に動きが鈍くなり、そして動かなくなった所を見計らい、審判がルークの勝利宣言を出した。
「負けると思いましたけど、以外に頑張りましたね」
「……そうね」
「ところでどうします?」
「なにが?」
「作戦開始の合図出します?」
「…あ、ちょっと待って、改めてタイミング指定するから」
「了解です」
そうして次の準決勝では相手選手にギリギリの差でルークは勝利を収め、とうとう決勝へと勝ち進んだ。
「やりましたメアリー先生! 先生の教え通り戦ってここまでこれました!」
「ここまで来れたのはルーク自身の実力でもあるわよ。けど、準々決勝、準決勝と徐々に相手との力の差が広がり出してるから最後の決勝ではくれぐれも気を抜かないように」
「はい! 村でいじめられっ子だったボクを救ってくれた上にここまで鍛えてくれた先生の恩に報いるためにも必ず優勝してきます!」
「……そういうのいいから、出せる力全部出して頑張ってきなさい」
「はい先生!!」
足早に試合会場にかけて行くルークを見送くるメアリー先生、否、魔王メアリーベルは彼を勇者にすべく今回の仕上げに取り掛かろうと準備を始めるのだった。
「とりあえず、勇者くんと戦わせる魔物は他より弱い個体を当てて、ボスには手を抜かせて、」
「それだと勇者に仲間が付いた時に魔物の強さで不審がられる可能性があるわね」
「じゃ、じゃあ戦いそのものを極力しないように勇者を避ける指示を魔物達に出して、それから…」
「それでどうやって勇者としての使命を全うさせるのよ?」
「うぅ……そう言うなら先輩もなにか方法考えてくださいよ」
「だから考えてるじゃない。あのクソ雑魚勇者をどうやって魔王の元まで来させるのかを」
「あ、でも死んだとしても教会で復活できるなら死に戻り繰り返してレべリングすればいつかは」
「基本能力値が底辺なんだからいくらMAXまで鍛えたってせいぜい中ボスの元にたどり着けるかどうかが関の山なのよ? 中ボスと戦った瞬間に挽肉コース決定に決まってるでしょ」
「そんな、せめて一撃二撃くらいは、小さな傷だって積み重ねればいつか」
「あのね~、そもそもいくら教会で復活できるからって何年もかかってようやく倒したのが「中ボス一匹でした~」って誰がそんな勇者支持し続けるのよ? 民衆は元より啓示受けた偉い人達だって愛想尽かすわよ?」
「う~ん、一体どうすればいいんですか?」
「…………かなり反則的な行動になるけど、今回は仕方ないか、」
「先輩、何か良い案が?」
「本来は『禁止アクション』抵触ギリギリだからしないんだけど、私が勇者の旅に手を貸して道中のサポートをするわ」
「え、いいんですか?」
「普通はやっちゃだめよ? 自分で作った魔物を自分で倒したり全滅させたりするのは『禁止アクション』も含めた魔王派遣業務法違反なんだからね? ここ大事なトコだからしっかり記憶するように」
「はい、覚えておきます」
「とりあえず、人間たちの動向も見つつ、あの子にくっついてたまにそっちにも連絡入れるから、あんたはあんたでしっかりやりなさい」
「了解です。よろしくお願いします先輩」
―それから7年後―
魔王デスフレアが世界会議で世界に対して宣戦布告を行ってから7年の月日が経ち、世界はゆっくりと、しかし確実にその様子を変化させつつあった。
「陛下、また南西の村々から救援の書状が届いております」
「西大陸との連絡船がまた魔物に襲われたとの報告が、」
「急報! 北の鉱山町に大量の魔物が出没! 食糧などの物資にも被害があり、町長が民衆を一時避難させるために王都での受け入れを許可してほしいと」
文官たちの報告や書状が次々と読み上げられ、その一つ一つに対応する為に絶えず書類にサインする羽ペンを動かしながらハジメーナ王は視線はそのまま、隣に控える騎士団長に話しかける。
「………少し前なら考えられん状況じゃな」
「あの日から世界は少しずつ変わり始めているようです。それも悪い方向に」
ハジメーナ王の言葉に騎士団長は現状に対しての素直な考えを述べる。
「まだ、あの件について報告はなにも来ておらんのか?」
「勇者、ですな。いまだ捜索隊からそれらしい人物を見つけたという報告は来ておりません。隊には魔力を読み取る術に長けた宮廷魔導士も同行しておりますが、彼らも勇者と思しき力は見つからないと」
「……まさかとは思うがすでに死んでいるなどという事はあるまいな?」
「先日教会から来た使者が新たな啓示を教皇が授かったと報告しておりましたのでそれはないかと、」
「なに? ワシはそんな話聞いておらんぞ?」
「陛下がご多忙で身動きが取れない日に来まして、使者が他の国にも報告するために一日しか滞在できないと言っていたので勝手と知りつつ私が話を聞きました」
「して、どんな啓示じゃ?」
「はい、内容は『光は弱くともいまだ輝きは失われず、人々の前に希望が現われる日は遠からず』と、」
「いまいち要領を得んな、近いうちに見つかるということか?」
「私の口からはなんとも言えません」
「ふーむ、…………そういえば、今年の武闘大会の準備はどうなっている?」
「各地の魔物被害の対応に人員を割かれて滞っておりますが、当日までには間に合わせます。世界がこのような状況で国民の数少ない娯楽にもなっておりますので城下からも多数の協力者が今年も来ています」
「国がこの窮状の中、それでもがんばってくれている国民には感謝しかないな」
「はい、できれば今年こそは見つかると良いのですが」
「そうだな、ともかく今はこの書状の山をどうにかせねば」
息抜きの会話は終了し、ハジメーナ王は再び書類の山との格闘を再開した。
―武闘大会当日―
「お集まりの皆様、大変お待たせしました。まもなく第6回東大陸統一武闘大会を開始します!」
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
司会が開幕の言葉を述べると集まった観客たちは歓声を上げ、これから始まる猛者たちの戦いを想像して興奮の度合いが高まっていった。
大会の主催者であるハジメーナ王も騎士団長とともに王族用に観戦席からその様子を見守っている。
「騎士団長、今年の参加者はどうだ?」
「宮廷魔導士たちからはめぼしい魔力を有する者はいないとのことです。武芸の才については参加資格を決める模擬試合である程度確認しましたが、飛びぬけて強い者は見当たりませんでした。ただ、」
「ただ、なんだ? 勇者と思しき者が居たのか?」
「いえ、勇者というにはあまりに平凡な実力の持ち主なのですが、その参加者の名がルーク・ミラクスと、」
「教皇が啓示で受けた勇者と同じ名か、して、お主はそのものになにか感じるモノはあったか?」
「正直に申しまして、今のところはなにも、もしあれが勇者ならば我が騎士団の実力者達を勇者と呼んでも差支えないかと」
「その程度の実力しかないという事か」
「はい、それとここ数日周辺の魔物の数が減っているそうです」
「増えているのではなく減っている、か。……何事もなければよいがな、大会開催中は王都と会場どちらの警備も緩めるでないぞ」
「御意に」
王と騎士団長の会話が終わる頃、大会は予選試合を開始した。
―選手控室―
予選に出場する選手たちの控え室で参加者の小柄な少年と女魔法使いが試合に向けて話をしていた。
「よく聞きなさいルーク、これまで私が教えてきた剣術と格闘術を駆使すればあんたでもある程度は善戦できる。けど、予選を勝ち抜いてきた強者たちと正面から戦えば今のあんたの実力じゃ到底勝てない」
「そ、そんな、じゃあボクは一体どうすれば? やっぱりボクみたいな弱っちいのがいくら鍛えたってこんな大会に出る事自体間違いだったんじゃ…、」
「落ち着きなさい。正面から戦えば、と言ったでしょ? なら正面から戦わなければ良いのよ」
「…?」
「村で初めてあなたに会った時からいつも言ってるでしょ? 正攻法だけじゃなく搦め手や周囲のモノを利用するやり方も身に付けなさいって」
「でも、試合会場はなにもない石作りの闘技場でなにか策を考えようにも、」
「石作りのものしかないならそれを武器にしなさい。私から言えるのはそれだけよ」
「……やってみます。メアリー先生」
「まもなく次の試合がはじまります。ガンザレス選手とルーク選手、会場にお越しください」
「あ、はーい」
「じゃ、頑張りなさい」
―試合会場―
「さあ、次の試合ははるばる西大陸から参加した怪力自慢の大男ガンザレス選手と自分の村を賞金で助ける為に参加したルーク選手の一戦だーー!」
「こりゃ~一瞬で終わるな」
「あの子死んじゃうじゃないか?」
「腕折られて終わる方に銀貨2」
「じゃあ俺は足に銀貨3で」
あまりの体格差に一方的な展開を予想した観客たちは口々に自分勝手な事を言う。
「こんなチビが初戦の相手とはラクなもんだ」
「そ、そう思っていられるのも今の内ですよ」
「あん? なんだって? 小さすぎて虫の声は聞こえんな~」
「…………」
「ルール確認を、場外・気絶・ギブアップのいずれかで勝敗が決します。相手を殺してしまった場合はどのような状況であれ失格となりますのでご了承ください。それでは、試合開始ーーー!」
審判の合図とともにガンザレスは走り出し、ルークに向かって飛びかかっていく。
「うおらぁぁぁぁ! 潰れろチビすけーーー!!」
試合用に布を何重にも巻いた棍棒を振り上げて叩きつけようとしてくるガンザレスに対してルークは落ち着いて後ろに動き、棍棒の一撃を躱す。
「お、避けたぞ」
「まぁ一撃くらい避けないと面白くないしな」
「ちぃ、おとなしく食らっとけ!」
「できません」
次いで二撃目、三撃目を躱しながら、大きく後方に移動したルークは右手に持っていた刃引きをした剣を闘技場に突き立て、ガンザレスと対峙する。
「思ったより遅いんですね」
「な、なに~?」
「あなたの攻撃ならいくらでも避けられますよ」
「言わせておけばこのチビが~~!!」
怒りをあらわにして棍棒を振りかぶりながら向かって来るガンザレスに対してルークは突き立てていた剣を思いっきり下に押し込んだ。すると、梃子の原理で闘技場の石版が持ち上がり、向かって来ていたガンザレスはいおきいのままに石版に激突した。
「ぐはっ、こ、この野、!?」
石版の直撃を受けて片膝をついたガンザレスは石版の影から飛び出したルークに一瞬反応が遅れ、上を取ったルークはガンザレスの頭に剣の腹で強烈な一撃を加え、その衝撃でガンザレスは気絶した。
「勝負あり! 勝者ルーク・ミラクス!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
ルークが勝利するなど予想だにしていなかった観客たちは大興奮となり、次の試合、また次の試合もルークが勝利する度に観客たちは…、
「また大番狂わせ見せてくれよ!」
「がんばってルーク君!」
「次勝ったらおごってやるぞ~!」
などと手の平を返してルークの応援をし始め、同様に観客席から戦いの様子を見ていたメアリーはひとまず善戦しているルークを見てうまく事が運んでいる事を喜んでいた。
「ふぅ、とりあえずは順調ね」
「みたいですね」
「あら、早かったじゃない。いつからそこに?」
「今さっきです。先輩の指示書通り準備できてます。いつでも始められますよ」
「まだ早いわ、せめて決勝戦かあの子が負ける寸前になってからでいいわ」
「この7年間ずっと先輩が鍛えてましたからやっぱり気になりますよね~、実際どうですか? 彼の実力」
「凡人も凡人、ザ・普通って感じよ。体力や技術面はある程度鍛錬でどうにかなったけど、魔術関係はからっきしよ、攻撃魔法や回復魔法はおろか補助魔法すら一つ二つ覚えるのがやっとだったからね~」
「それはご苦労様です」
「東大陸国家が勇者探しの一環でこの武闘大会を毎年開いてるのを知ったから今回あの子を出場させたけど、どうなるかな~」
「その為に私に準備させたんじゃ?」
「一応あんたは保険のつもりなんだけどね」
「まぁ先輩のする事ですから私は口出しできませんけど、あ、結構いい一撃食らった」
「あーやっぱここくらいまでが限界か、反射神経もあんまり鍛えられなかったからなぁ」
「あの盗賊風の人なかなか早いですね。おーけどルーク君もねばるねばる。二刀流相手によく躱しますね」
「……デスフレア、やっぱいますぐ作戦実行でお願い。私はあの子のトコに、」
「お、先輩、あの子関節技で相手選手押さえ込みましたよ?」
「え? あ、ほんとだ」
しっかりと関節技を決めたルークに相手選手はなんとか抜けようともがくが次第に動きが鈍くなり、そして動かなくなった所を見計らい、審判がルークの勝利宣言を出した。
「負けると思いましたけど、以外に頑張りましたね」
「……そうね」
「ところでどうします?」
「なにが?」
「作戦開始の合図出します?」
「…あ、ちょっと待って、改めてタイミング指定するから」
「了解です」
そうして次の準決勝では相手選手にギリギリの差でルークは勝利を収め、とうとう決勝へと勝ち進んだ。
「やりましたメアリー先生! 先生の教え通り戦ってここまでこれました!」
「ここまで来れたのはルーク自身の実力でもあるわよ。けど、準々決勝、準決勝と徐々に相手との力の差が広がり出してるから最後の決勝ではくれぐれも気を抜かないように」
「はい! 村でいじめられっ子だったボクを救ってくれた上にここまで鍛えてくれた先生の恩に報いるためにも必ず優勝してきます!」
「……そういうのいいから、出せる力全部出して頑張ってきなさい」
「はい先生!!」
足早に試合会場にかけて行くルークを見送くるメアリー先生、否、魔王メアリーベルは彼を勇者にすべく今回の仕上げに取り掛かろうと準備を始めるのだった。
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