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第一章 ~新人研修~ヴィーギナウス編
第09話 「決勝戦です!!」
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「皆様、今大会も手に汗握る数々の戦いが繰り広げられ、もっとこのような素晴らしい試合を見ていたい。そう思う方も多くいることでしょう。しかし名残惜しくも次の一戦が最後の試合となります。くれぐれもお見逃しのないよう心ゆくまでお楽しみ下さい。それでは東大陸統一武闘大会、決勝戦です!!」
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
「予選を勝ち抜いた二人の選手の入場です。まずは皆様ご存じ、我がハジメーナ王国騎士団長ストラス・グラトーネ!」
「うおーストラス団長ー!」
「いつみてもカッコイー!」
「俺も騎士団に入れてくれー!」
「続いて入場するのは絶体絶命のピンチを何度となく乗り越えて勝ち残った奇跡の男! ルーク・ミラクス!!」
「がんばれよー」
「また奇跡を起こしてみろボウズ」
「ルーク君カワイー」
「皆様盛大な拍手でお出迎え下さい」
大勢の歓声と拍手に包まれながらストラスとルークは闘技場に立つと、互いの顔を見たままじっと開始の合図を待った。
「…………まさか、君が勝ちあがるとはな。ルーク君、君はなんの為に戦いに臨む?」
「え? なんの為って言われても、今回大会に出たのは魔物に荒らされた村を賞金で少しでも助けたかったからで、あとは先生に認めて……、あ、やっぱり今のは無しで!」
「そうか、いや、すまん。試合前に変なことを聞いてしまったな、今は皆の期待を裏切らないためにも全力でこの試合に臨ませてもらおう」
「はい、よろしくおねがいします」
「両者とも用意はよろしいでしょうか? 決勝戦試合開始ーーー!!」
「まずはこちらから行かせてもらう」
先に動いたストラスはルークの右側を狙うように剣を振るい、ルークはそれを受け止めようと剣を構えたが、
「!?」
ストラスの剣が当たった瞬間、ルークは身体ごと飛ばされてしまった。
「っう、……重い」
かろうじて着地に成功こそしたルークだったが、身体ごと飛ばされたその衝撃は剣を握る手に大きな痺れを感じさせていた。
「どうした? 試合はまだこれからだ、もう少し踏ん張りたまえ」
「言われずとも!」
そうして今度は二人同時に動き出し、ストラスの攻撃を躱しながらルークはなんとか反撃の機会をうかがった。しかしどれだけ探しても隙らしい隙を見つけられず、ついには自分の持っている剣を弾かれてしまった。
「勝負あり、かな?」
「いや、まだだ!」
剣を失い、関節技で短期決戦に持ち込もうとしたルークだったが、これまでの試合で手の内を知っていたストラスは当然それを予想しており、冷静にカウンターを打ち込んでルークを引きはがした。
「ぐう、」
「君のその戦い方は厄介だからな、悪いが距離を取らせてもらう」
「逃がすか!」
「無策で突っ込むのはただの獣と同じだ」
「あぐ、」
追撃を掛けようとしたルークに再びストラスのカウンターがさく裂し、頭にクリーンヒットした衝撃でルークはよろよろと後ずさる。
「さて、これ以上は試合にならんな。終わらせて、」
「面白い事をしているな」
「! 誰だ?」
突然闘技場にローブで全身をすっぽり覆った人物が現われ、ストラスやルーク、観戦席の人々の視線がその人物に集中した。
「我を忘れたか? ハジメーナの騎士よ」
「我? ……! 貴様まさか!?」
「そう、我は魔王デスフレア、人間たちが面白い祭りをしていると風の噂に聞いたので見に来たぞ」
「く、審判! すぐ観客に避難指示を! 騎士団総員戦闘用意!! 魔王の襲来だ!」
「まおう? なんだそれ?」
「大会を盛り上げる新しい趣向なの?」
「いや、それにしちゃストラス団長がやけに殺気立ってるし、なんかあちこちから騎士達が入ってきたぞ?」
「皆さん! 慌てずに会場内から避難をお願いします! 皆さんの事は周囲の騎士がお守りしますのでどうか慌てずに非難を」
大会運営者達が誘導が開始したことで、いまだ状況をよく呑み込めていない観客たちもゆっくりと移動を開始した。
「まさかまたこの国に現れるとはな、今度こそお前を捕え、世界の混乱を止めてみせる」
「できるかな?」
ストラス団長と対峙したデスフレアが指をぱちんと鳴らすと、足元に複数の魔方陣が出現し、そこから無数の魔物が姿を現した。
「おい、あれって魔物じゃないか!?」
「まずいぞ、逃げないと殺される!」
「逃がすわけにはいかない」
魔物の姿を見たことで初めて危機的状況を理解した観客は我先に会場から逃げ始め出口に殺到した。しかし、その出口の扉が突然全て凍りつき、押そうが引ひこうが、騎士が剣で斬りつけようがびくともしなかった。
「どうなっているんだ!?」
「くそ、木製の扉なのに剣が通らない!」
会場内に閉じ込められた多数の観客たちは逃げ道を求めて走り回り、ストラスと騎士達は彼らの身を守りながら防戦することで徐々に押され始めた。
そうして会場内で人間たちが慌てふためく中、デスフレアは登場した時から一歩も動かず、ある人物が現われるのをじっと待っていた。
(…………先輩、まだですか?)
「そこまでよ、あなたがこの魔物達を操っているのね?」
(来た!)
「誰だ? 貴様ら?」
「私は旅の魔法使い、そしてこの子は世界に蔓延る魔物達を打ち倒す希望になる存在よ」
「え? 希望ってボクが?」
試合のダメージが抜けきっていない状態でメアリーに引っ張ってこられたルークは魔物が会場内で暴れているだけでもどういう状況かよく理解できていないのに追い打ちをかけるようにメアリーが言った一言でさらに混乱した。
「ほお、我の魔物達を打ち倒すとは、どこぞの騎士か?」
「彼は勇者よ」
「え? 勇者? 勇者って先生が前に話してた魔物達を全て倒す英雄になる人の事でしょ? いやいやいや、違います。ボクそんな大それた人間じゃないです」
スパンッ
「こら! せっかくあんたの紹介してんだからそこで盛り下げる事いうんじゃないの!」
ルークが力一杯勇者である事を否定しようとして、すかさずメアリーのツッコミがさく裂した。
「いったー、けど先生、ボクホントに勇者なんて呼ばれるような資格は」
「無いなら今から得ればいいのよ」
メアリーはそう言って視線を魔王デスフレアに戻し、戦闘態勢を取って話を続けた。
「さあ、勇者ルークと魔王であるあなた、どちらが強いか勝負よ」
「おもしろい!」
「な、よせ! そいつはヨツメツ帝国の騎士すらたやすく葬る程の魔法を使う、たった二人では死ぬぞ!」
他の魔物に足止めを受けているストラスがメアリーとルークに警告を飛ばすが、メアリーは聞こえないかの如く、戦闘を開始し、ルークもそれに加わった。
「さあルーク、思いっきり戦いなさい!」
「先生~、自分から仕掛けておいてそれですか~」
「いいから、ここであんたが頑張れば晴れてあなたの肩書きは勇者よ」
「全然ほしくないです~」
「いいから、ほら身体強化魔法いくわよ。筋力強化・反応速度強化・自己治癒力強化・知覚強化・思考高速化・火炎耐性強化・氷耐性強化・毒耐性強化・麻痺耐性強化・催眠耐性強化…」
「ぐあ、いぎ、ちょ、先生、いっぺんに掛けすぎ…です」
「つべこべ言わない! 行け!」
「ふー、……はい! 先生!」
魔法の補助によっていままでより数段早い動きを見せたルークは取り巻きの魔物数体を通り過ぎざまに切り倒すと、一気に魔王デスフレアに肉薄した。
「……!っ」
「はじめまして魔王さん、勝負です!」
「受けて立つ!」
ルークの剣を受け止めていた杖を振って魔法を発動させようとするデスフレアであったが、後方から魔法使いメアリーが氷の槍を連発してけん制し、その隙を突いてルークが再度攻撃をかける。
「ちぃっ」
ルークの攻撃は致命傷こそ与えられなかったが、少しずつ、魔王を追い詰め、登場してからほとんど動いていなかった魔王が初めてその場から大きく動き、ルークとの距離をとった。
「待て!」
「ふ~む、なかなか面白い小僧だ。先ほどの勇者というのもあながちウソではなさそうだな」
「当然よ、かれこそ本物の勇者だもの」
「なるほど、ならば今日のところはその勇者の顔を立てて引くとしよう。我の元に再び来ることが出来たなら今度こそ雌雄を決しようぞ!」
「バカな、あの魔王が逃げるだと?」
デスフレアの言葉に半ばストラスは信じられないモノを見る目でルークとデスフレアの間を行き来させていた。
「さらばだ、勇者ルークよ!」
魔王が退いた事で会場内に居た魔物達もちりじりに逃走を始め、騎士達は観客の安全を最優先させて追撃はしなかった。
―2日後―
「ルーク・ミラクス、メアリー・リーのお二人をお連れいたしました」
「入れ」
ハジメーナ城の謁見の間に通された二人は国王を前に一人は堂々と、もう一人は緊張で石化したかのように固まっていた。
「はじめまして国王陛下、私はメアリー・リーと申します。世間知らずの礼儀知らずでしてある程度不作法なのはどうかご容赦を、そしてこちらが、」
「あ、え、う、と、ル、ル、ル、ルーク・ミ、ミラクスです」
(あちゃ~完全に緊張で萎縮しちゃってるわね~)
「ふむ、此度は二人とも魔王の襲来に際して果敢に戦った事、大義であった。そしてルーク・ミラクス」
「は、はひ!!」
「そなたが本物の勇者であるのかどうかはまだはっきりとせぬが、魔王を退けたその力、ただの戦士であるとは考え難い。よって我がハジメーナ王国はそなたを暫定的に仮勇者として認め、魔王討伐を引き受けるのであれば可能な限りの援助を約束しよう。もちろん無理強いをするつもりはないから断ってもらってもかまわん」
「陛下!それは、」
「黙れストラス、他人の意思を捻じ曲げて戦わせたところでそんな物、得られる成果は知れている」
「どうするルーク? あんたが嫌なら私も今回は何も言わないけど、」
「…………へ、陛下、ひ、一つだけご質問をよろしいでしょうか?」
「なんじゃ? 申してみよ」
「もし、ここでボ、私が断ったとして、私の代わりにあの魔王との戦いに向かう者はいるのでしょうか?」
「……秘密は守れるか? もし誰にも話さない約束が出来ないのであればその質問には答えかねる」
「たとえ殺されても絶対に守ります」
「……数年ほど前まで、東と西の大陸国家主導で魔王を討つための討伐軍を組織していたのだが、各地にある魔物の巣、その奥地にいる強力な主とも呼べる個体を初めて一体倒した直後から、魔物の出現頻度や数が急増しての、現状ではもはやどの国も自国防衛で手一杯なのじゃ。今から新たな討伐軍を組織する程の余力は我がハジメーナはもとより他国にも残っていない」
(ま、そう仕向けないと勇者の出番ないしね~)
「では、私が行かなければいずれ世界は、」
「なにかしら魔物に対して有効な手段が見つからなければそなたの考えていることもあながち絵空事ではなくなるじゃろう」
「分かりました。……私が魔王を倒します」
「おぉ、行ってくれるか、ハジメーナの国民全てを代表してそなたに感謝を送ろう」
「ならば陛下、ルークになにか良い武器をご下賜いただけないでしょうか? この子はなにぶん農民の出でして、武器と呼べるものは銅剣くらいしかもっていないのです」
「なんと、それはすぐに新調するべきじゃな。魔王と戦うのに銅の剣では心もとないであろう。ストラス、武器庫からこの者に見合う武具を用意せよ」
「御意」
ハジメーナ王の指示でルークにはすぐにあたらしい剣や鎧が用意され、いままで申し訳程度の装備だった銅剣と皮の鎧とは比べるべくもない鋼の剣や鎧を身に着け、勇者らしい姿となった。
「少しはマシなかっこになったじゃないルーク」
「先生にそう言われるとなんだか恥ずかしいです」
「恥ずかしがってるひまなんてないわよ。これから世界中回って勇者としてみんなの前に立つんだから」
「えぇ~、……すごく帰りたい気分です」
「あんた自分で魔王を倒すって言ったんだからそういう事も承知で言ったんでしょう? まさかいまさら逃げるなんて言わないわよね?」
「…いえ、が、頑張ります」
「よし、じゃ行くわよ、私にあんたが本物の勇者になる所を見せてごらんなさい」
「はい先生!」
7年がかりでようやく見つかった勇者はこうして魔王討伐への第一歩を東大陸のハジメーナ王国から踏み出し、長い戦いと救済の旅へと向かうのだった。
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
「予選を勝ち抜いた二人の選手の入場です。まずは皆様ご存じ、我がハジメーナ王国騎士団長ストラス・グラトーネ!」
「うおーストラス団長ー!」
「いつみてもカッコイー!」
「俺も騎士団に入れてくれー!」
「続いて入場するのは絶体絶命のピンチを何度となく乗り越えて勝ち残った奇跡の男! ルーク・ミラクス!!」
「がんばれよー」
「また奇跡を起こしてみろボウズ」
「ルーク君カワイー」
「皆様盛大な拍手でお出迎え下さい」
大勢の歓声と拍手に包まれながらストラスとルークは闘技場に立つと、互いの顔を見たままじっと開始の合図を待った。
「…………まさか、君が勝ちあがるとはな。ルーク君、君はなんの為に戦いに臨む?」
「え? なんの為って言われても、今回大会に出たのは魔物に荒らされた村を賞金で少しでも助けたかったからで、あとは先生に認めて……、あ、やっぱり今のは無しで!」
「そうか、いや、すまん。試合前に変なことを聞いてしまったな、今は皆の期待を裏切らないためにも全力でこの試合に臨ませてもらおう」
「はい、よろしくおねがいします」
「両者とも用意はよろしいでしょうか? 決勝戦試合開始ーーー!!」
「まずはこちらから行かせてもらう」
先に動いたストラスはルークの右側を狙うように剣を振るい、ルークはそれを受け止めようと剣を構えたが、
「!?」
ストラスの剣が当たった瞬間、ルークは身体ごと飛ばされてしまった。
「っう、……重い」
かろうじて着地に成功こそしたルークだったが、身体ごと飛ばされたその衝撃は剣を握る手に大きな痺れを感じさせていた。
「どうした? 試合はまだこれからだ、もう少し踏ん張りたまえ」
「言われずとも!」
そうして今度は二人同時に動き出し、ストラスの攻撃を躱しながらルークはなんとか反撃の機会をうかがった。しかしどれだけ探しても隙らしい隙を見つけられず、ついには自分の持っている剣を弾かれてしまった。
「勝負あり、かな?」
「いや、まだだ!」
剣を失い、関節技で短期決戦に持ち込もうとしたルークだったが、これまでの試合で手の内を知っていたストラスは当然それを予想しており、冷静にカウンターを打ち込んでルークを引きはがした。
「ぐう、」
「君のその戦い方は厄介だからな、悪いが距離を取らせてもらう」
「逃がすか!」
「無策で突っ込むのはただの獣と同じだ」
「あぐ、」
追撃を掛けようとしたルークに再びストラスのカウンターがさく裂し、頭にクリーンヒットした衝撃でルークはよろよろと後ずさる。
「さて、これ以上は試合にならんな。終わらせて、」
「面白い事をしているな」
「! 誰だ?」
突然闘技場にローブで全身をすっぽり覆った人物が現われ、ストラスやルーク、観戦席の人々の視線がその人物に集中した。
「我を忘れたか? ハジメーナの騎士よ」
「我? ……! 貴様まさか!?」
「そう、我は魔王デスフレア、人間たちが面白い祭りをしていると風の噂に聞いたので見に来たぞ」
「く、審判! すぐ観客に避難指示を! 騎士団総員戦闘用意!! 魔王の襲来だ!」
「まおう? なんだそれ?」
「大会を盛り上げる新しい趣向なの?」
「いや、それにしちゃストラス団長がやけに殺気立ってるし、なんかあちこちから騎士達が入ってきたぞ?」
「皆さん! 慌てずに会場内から避難をお願いします! 皆さんの事は周囲の騎士がお守りしますのでどうか慌てずに非難を」
大会運営者達が誘導が開始したことで、いまだ状況をよく呑み込めていない観客たちもゆっくりと移動を開始した。
「まさかまたこの国に現れるとはな、今度こそお前を捕え、世界の混乱を止めてみせる」
「できるかな?」
ストラス団長と対峙したデスフレアが指をぱちんと鳴らすと、足元に複数の魔方陣が出現し、そこから無数の魔物が姿を現した。
「おい、あれって魔物じゃないか!?」
「まずいぞ、逃げないと殺される!」
「逃がすわけにはいかない」
魔物の姿を見たことで初めて危機的状況を理解した観客は我先に会場から逃げ始め出口に殺到した。しかし、その出口の扉が突然全て凍りつき、押そうが引ひこうが、騎士が剣で斬りつけようがびくともしなかった。
「どうなっているんだ!?」
「くそ、木製の扉なのに剣が通らない!」
会場内に閉じ込められた多数の観客たちは逃げ道を求めて走り回り、ストラスと騎士達は彼らの身を守りながら防戦することで徐々に押され始めた。
そうして会場内で人間たちが慌てふためく中、デスフレアは登場した時から一歩も動かず、ある人物が現われるのをじっと待っていた。
(…………先輩、まだですか?)
「そこまでよ、あなたがこの魔物達を操っているのね?」
(来た!)
「誰だ? 貴様ら?」
「私は旅の魔法使い、そしてこの子は世界に蔓延る魔物達を打ち倒す希望になる存在よ」
「え? 希望ってボクが?」
試合のダメージが抜けきっていない状態でメアリーに引っ張ってこられたルークは魔物が会場内で暴れているだけでもどういう状況かよく理解できていないのに追い打ちをかけるようにメアリーが言った一言でさらに混乱した。
「ほお、我の魔物達を打ち倒すとは、どこぞの騎士か?」
「彼は勇者よ」
「え? 勇者? 勇者って先生が前に話してた魔物達を全て倒す英雄になる人の事でしょ? いやいやいや、違います。ボクそんな大それた人間じゃないです」
スパンッ
「こら! せっかくあんたの紹介してんだからそこで盛り下げる事いうんじゃないの!」
ルークが力一杯勇者である事を否定しようとして、すかさずメアリーのツッコミがさく裂した。
「いったー、けど先生、ボクホントに勇者なんて呼ばれるような資格は」
「無いなら今から得ればいいのよ」
メアリーはそう言って視線を魔王デスフレアに戻し、戦闘態勢を取って話を続けた。
「さあ、勇者ルークと魔王であるあなた、どちらが強いか勝負よ」
「おもしろい!」
「な、よせ! そいつはヨツメツ帝国の騎士すらたやすく葬る程の魔法を使う、たった二人では死ぬぞ!」
他の魔物に足止めを受けているストラスがメアリーとルークに警告を飛ばすが、メアリーは聞こえないかの如く、戦闘を開始し、ルークもそれに加わった。
「さあルーク、思いっきり戦いなさい!」
「先生~、自分から仕掛けておいてそれですか~」
「いいから、ここであんたが頑張れば晴れてあなたの肩書きは勇者よ」
「全然ほしくないです~」
「いいから、ほら身体強化魔法いくわよ。筋力強化・反応速度強化・自己治癒力強化・知覚強化・思考高速化・火炎耐性強化・氷耐性強化・毒耐性強化・麻痺耐性強化・催眠耐性強化…」
「ぐあ、いぎ、ちょ、先生、いっぺんに掛けすぎ…です」
「つべこべ言わない! 行け!」
「ふー、……はい! 先生!」
魔法の補助によっていままでより数段早い動きを見せたルークは取り巻きの魔物数体を通り過ぎざまに切り倒すと、一気に魔王デスフレアに肉薄した。
「……!っ」
「はじめまして魔王さん、勝負です!」
「受けて立つ!」
ルークの剣を受け止めていた杖を振って魔法を発動させようとするデスフレアであったが、後方から魔法使いメアリーが氷の槍を連発してけん制し、その隙を突いてルークが再度攻撃をかける。
「ちぃっ」
ルークの攻撃は致命傷こそ与えられなかったが、少しずつ、魔王を追い詰め、登場してからほとんど動いていなかった魔王が初めてその場から大きく動き、ルークとの距離をとった。
「待て!」
「ふ~む、なかなか面白い小僧だ。先ほどの勇者というのもあながちウソではなさそうだな」
「当然よ、かれこそ本物の勇者だもの」
「なるほど、ならば今日のところはその勇者の顔を立てて引くとしよう。我の元に再び来ることが出来たなら今度こそ雌雄を決しようぞ!」
「バカな、あの魔王が逃げるだと?」
デスフレアの言葉に半ばストラスは信じられないモノを見る目でルークとデスフレアの間を行き来させていた。
「さらばだ、勇者ルークよ!」
魔王が退いた事で会場内に居た魔物達もちりじりに逃走を始め、騎士達は観客の安全を最優先させて追撃はしなかった。
―2日後―
「ルーク・ミラクス、メアリー・リーのお二人をお連れいたしました」
「入れ」
ハジメーナ城の謁見の間に通された二人は国王を前に一人は堂々と、もう一人は緊張で石化したかのように固まっていた。
「はじめまして国王陛下、私はメアリー・リーと申します。世間知らずの礼儀知らずでしてある程度不作法なのはどうかご容赦を、そしてこちらが、」
「あ、え、う、と、ル、ル、ル、ルーク・ミ、ミラクスです」
(あちゃ~完全に緊張で萎縮しちゃってるわね~)
「ふむ、此度は二人とも魔王の襲来に際して果敢に戦った事、大義であった。そしてルーク・ミラクス」
「は、はひ!!」
「そなたが本物の勇者であるのかどうかはまだはっきりとせぬが、魔王を退けたその力、ただの戦士であるとは考え難い。よって我がハジメーナ王国はそなたを暫定的に仮勇者として認め、魔王討伐を引き受けるのであれば可能な限りの援助を約束しよう。もちろん無理強いをするつもりはないから断ってもらってもかまわん」
「陛下!それは、」
「黙れストラス、他人の意思を捻じ曲げて戦わせたところでそんな物、得られる成果は知れている」
「どうするルーク? あんたが嫌なら私も今回は何も言わないけど、」
「…………へ、陛下、ひ、一つだけご質問をよろしいでしょうか?」
「なんじゃ? 申してみよ」
「もし、ここでボ、私が断ったとして、私の代わりにあの魔王との戦いに向かう者はいるのでしょうか?」
「……秘密は守れるか? もし誰にも話さない約束が出来ないのであればその質問には答えかねる」
「たとえ殺されても絶対に守ります」
「……数年ほど前まで、東と西の大陸国家主導で魔王を討つための討伐軍を組織していたのだが、各地にある魔物の巣、その奥地にいる強力な主とも呼べる個体を初めて一体倒した直後から、魔物の出現頻度や数が急増しての、現状ではもはやどの国も自国防衛で手一杯なのじゃ。今から新たな討伐軍を組織する程の余力は我がハジメーナはもとより他国にも残っていない」
(ま、そう仕向けないと勇者の出番ないしね~)
「では、私が行かなければいずれ世界は、」
「なにかしら魔物に対して有効な手段が見つからなければそなたの考えていることもあながち絵空事ではなくなるじゃろう」
「分かりました。……私が魔王を倒します」
「おぉ、行ってくれるか、ハジメーナの国民全てを代表してそなたに感謝を送ろう」
「ならば陛下、ルークになにか良い武器をご下賜いただけないでしょうか? この子はなにぶん農民の出でして、武器と呼べるものは銅剣くらいしかもっていないのです」
「なんと、それはすぐに新調するべきじゃな。魔王と戦うのに銅の剣では心もとないであろう。ストラス、武器庫からこの者に見合う武具を用意せよ」
「御意」
ハジメーナ王の指示でルークにはすぐにあたらしい剣や鎧が用意され、いままで申し訳程度の装備だった銅剣と皮の鎧とは比べるべくもない鋼の剣や鎧を身に着け、勇者らしい姿となった。
「少しはマシなかっこになったじゃないルーク」
「先生にそう言われるとなんだか恥ずかしいです」
「恥ずかしがってるひまなんてないわよ。これから世界中回って勇者としてみんなの前に立つんだから」
「えぇ~、……すごく帰りたい気分です」
「あんた自分で魔王を倒すって言ったんだからそういう事も承知で言ったんでしょう? まさかいまさら逃げるなんて言わないわよね?」
「…いえ、が、頑張ります」
「よし、じゃ行くわよ、私にあんたが本物の勇者になる所を見せてごらんなさい」
「はい先生!」
7年がかりでようやく見つかった勇者はこうして魔王討伐への第一歩を東大陸のハジメーナ王国から踏み出し、長い戦いと救済の旅へと向かうのだった。
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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