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第二章 ~魔王勇者課~リプタリア編

第15話 「計画」

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「長官! なぜこんな急ピッチでコロニーシップの建造計画を進める必要があるんですか!?」

 科学省長官ドルークの補佐官であるベルトは自分の上司が突然始めた行動に困惑しながら問いただす。

「ベルト君、その件はすでに説明したはずだ」

「あんな二人組の世迷言を本気で信じるおつもりですか!?」

「確固たる証拠があるのだよ」

「ならばその証拠を見せていただけませんか!」

「まだ早い、統一政府首脳陣にも見せていない物を君だけに見せるわけにはいかんよ」

「そんな! ではどうやって政府を納得させ、コロニーシップ計画を?」

「簡単だ、権力者という者はどんな時代どんな政治形態であろうと自己保身の考えを大なり小なり持っている」

「はぁ、まあ確かに…」

「ならばこそ、そういう人間が信頼性のある情報筋から危機的状況を告げられれば自身の安全を図る為に確実な手段を選択するのは道理だよ」

「もしや政府は自己保身の為に計画の承認を…?」

「建前としては市民の安全も守るとしているがね」

「し、しかし、首脳陣はともかく、まだ公表されていないコロニーシップの建造に消費される予算や資材を市民が知った時、彼らがどう反応するか長官ならお分かりでしょう?」

「それこそ心配はいらない。もとよりコロニーシップ計画はリプタリアの民が新たな星系へ進出する時には必要となり、いずれ作られるハズの物だ。少々建造するのが早まったくらいの誤差でしかない」

「つまり長官はあれを平時であれば植民船団の中枢にするおつもりであると?」

「市民が納得する理由としては妥当なところだろう? 現状でももっと大規模に宇宙開発をすべきと声を上げる勢力はそう少なくないからね」

「では、…もし本当にあの二人組の言う事が真実であった場合は、」

「今計画している船は文字通りの脱出船という事になるな」

「それが長官のお考えなのですか?」

「不測の事態への対処は常にしておくべきだ。前もって準備をしておけば防げた問題で被害を被るのは愚か者のすることだよ」

「……わかりました。私はどこまでも長官についていきます」

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「ホントこの星、ろくな食文化が無いわね」

 リプタリア首都のとあるカフェで昼食を取っていたメアリーベルはこの世界に来てからずっと代わり映えのしない料理に愚痴をこぼしていた。

「合成食料っていいましたっけ? 肉も魚も野菜も全て短期間で生成できる工場があるらしいですけど、なんかどの料理も判を押したみたいに似通った味しますもんね」

 上司であるメアリーベルの愚痴にルークは同意するように返答を返す。

「普通に食料作るよりコストは安いし形としてはバリエーションもあるように見せてるんだろうけど、味はほとんど一緒とか食事の楽しみ失ってんのかしらこの星は?」

「とはいえ、ボク達の目的は食レポではないですから」

「けど、これじゃあ仕事のモチべも下がるってもんでしょ」

「ボクは、課長と食事が出来ればどんなものでも仕事はがんばれます」

「はいはい、じゃあそろそろ行きましょうか」

「周り囲まれてますけどね」

「食べ終わるまで待つなんて礼儀はわきまえてるじゃない」

「……いえ、これ多分食事に睡眠薬か、何か仕込んで…無力化を、…やば、…ねむ………」

「あ、ルーク!」

「いまだ!確保しろ!」

 ルークの身体がぐらついた瞬間、店の入り口や裏口から黒いボディーアーマーとヘルメットで武装した男たちがなだれ込み、メアリーベル達を取り押さえようと殺到した。

「ルーク! 起きなさい!」

 武装集団の手から逃れつつメアリーベルは脇に抱えたルークを起こそうとするが、どれだけゆすってもルークは反応せず、カフェの2階に上がったところで逃げ場はなくなってしまった。

「我々は警察だ!無駄な抵抗を止め、おとなしく投降せよ。君たちには科学省長官執務室への侵入の疑いがかけられている」

「監視カメラの映像でも探したのかしら、ご苦労な事ね」

「強がっても無駄だ、君の中でもその青年と同じ睡眠剤が働き、強烈な眠気に襲われているハズだ。悪いようにはしない。ぐっすり寝た後話を聞かせてもらおうか」

 しかし、警察の予想通り眠ったルークとは裏腹に魔王であるメアリーベルには睡眠剤など効くはずもなく、本人はすこぶる快調なコンディションだった。

「ぐっすり寝たいところだけど、それは仕事を終わらせてからね」

「……やむおえん、確保しろ!」

 武装した警官隊が飛びかかった瞬間、メアリーベルは魔法を発動させ、上空数千メートルに転移した。

「ふぅ、とりあえずルークを安静に出来るところに連れてかないと、」

 移動しようとしたところで、メアリーベルは突然何か大きなものに捕まれて身動きが取れなくなった。 

「な、これは」

 身体を拘束されながらもなんとか後ろを見ると、そこにはレプタリアの人型兵器4機が飛行し、そのうちの1機が腕を伸ばしてメアリーベルを掴んでいた。

「ずいぶんと大がかりな動員をかけたわね。人型兵器を町中で使うなんて」

「空間跳躍が可能な存在を取り押さえるのだ、これでも足りないくらいだ」

 人型兵器のスピーカーから聞いた覚えのある声が聞こえてきてメアリーベルは返事を返す。

「……その声、長官の部屋で怒鳴ってた人かしら?」

「補佐官のベルトだ。お前たちの企み、全て吐いてもらうぞ」

「悪いけど、昼食を食べたばかりで吐くなんてごめんよ」

「減らず口を! かまわん気絶させろ!」

 指示を受けて人型兵器の手から電気ショックが流れ、メアリーベル達に直撃する。

「回収しろ、その二人には聞き出すことがある」

「電気治療にしては電圧高過ぎなんじゃない?」

「な、バカな!」

 常人であれば確実に気を失う電圧であったにも関わらずピンピンしているメアリーベルの姿を見てベルトは驚愕する。

「どうして平気なんだ? それ以前に貴様は睡眠剤も飲んでいるハズ、なのに、」

「答える必要はないわ、そろそろこの手も放してもらうわよ」

 人型兵器の指をグググッと無理矢理動かし、隙間を作って脱出しようとするメアリーベルに対してベルトは慌てて指示を出す。

「いかん! 停めろ! 最悪女の方は殺しても構わん! なんとしても逃がすな!」

 指示を受けて人型兵器はもう片方の手で二人を抑え込もうとするが、メアリーベルは間一髪その前にルークを抱えて脱出した。

「追うんだ! なんとしても捕えろ!」

 都市のビル群を縫うようにメアリーベルは飛行し、人型兵器もそれに追従して二人を捕えようとする。

「転移するヒマもないわね」

 転移の座標指定に約1分程の時間を要するメアリーベルはなんとか転移しようと隙を伺っていたが、なかなかどうしてリプタリアの人型兵器は優秀で1分隠れられる場所を探すのも一苦労だ。

 ――触れてる間は一緒に転移しちゃうからあれに捕まるのはNGだし、かといって飛びながら座標指定するとずれたりする事もあるからヘタすると石の中に居る状態に、あーもう、めんどくさいなぁ!

 メアリーベルはビル群の間を飛びながらなんとか転移して逃げるまで間身を隠す手段を考えていたが、突然視界に新たな人型兵器が現われ、思考を中断させられた。

「ちっ、新手か」

「逃げられんぞ! 周囲は上空も含めて全て封鎖している。大人しく投降しろ」

「お断りよ!」

 複数の人型兵器に追い回され、メアリーベルは徐々に高度を下げながら、街の中を高速で移動する。だが、それでも人型兵器を振り切る事は出来ず、次第に距離を詰められていく。
  
「くそ、しつこい!」

「……課長……、」

「ルーク!?」

「逃げるなら、……です、あとは、頼みます……」

 いよいよもって逃げ場がなくなってきたメアリーベルはそろそろ戦闘も視野に入れようかと考えていると、抱えていたルークがわずかに意識を取り戻し、一言だけ助言をしてまた眠りに落ちた。

「ありがと、ルーク」

 一瞬だけでも無理をして自分を助ける為に頑張ったルークに感謝の言葉を送ったメアリーベルは彼の助言に従って行動を開始した。

 人型兵器のパイロット達は航空機やそれに相当する技術を一切身に着けていない様子のまま都市の中を戦闘機並みの速度で飛行するメアリーベルに対してたちの悪い冗談か昔聞いたおとぎ話の悪魔かなにかなのでは思えるような言い知れない怖さを感じていた。

「目標1、飛行速度低下。燃料切れか?」

「ドール2、油断するな。警戒しつつ距離を詰める」

「こちらドール3、確保と同時に目標1と目標2を引き離し、目標2を回収する」

「了解、ドール4ドール3は目標2を、目標1はドール2とドール1こちらで回収する」

 パイロット達が一気に捕まえようと算段を付けていると、突然メアリーベルは進路を変更し、真下に向かって急降下した。

「な、また街中を逃げる気か!?」

「無駄なあがきを、4機の複合センサーの目から逃れられると思ってるのか?」

「ドール1、自分が抑えます」

「待てドール2!」

 隊長の制止を振り切ってメアリーベルの後を追ったドール2だったが、突然、地面が爆発して瓦礫や土煙を巻き起こし、視界からメアリーベル達の姿は見えなくなってしまった。

「な、爆発物まで所持していたのか?」

「奴らどこに行った!」

「センサーに反応確認できず、ダメです。逃げられました」

「くそ!」

 数時間後、爆発が収まり現場検証を行うと、そこには破損した下水道が露出しており、二人はそこから逃走した物と考え、警察は下水道の出口を数十キロにわたって封鎖し捜索したが、数日たっても発見には至らず、そしてベルト補佐官もその結果は分かり切っていたと言うような顔で報告書を受け取った。

 ――相手は空間転移が出来るのだぞ、下水道への逃走を許した時点でどこかに転移して逃げたに決まっている。だが、分かったこともある。前回の執務室からの逃走も今回のカフェからの逃走も捜査して分かったおおむねの転移距離は6000m、つまり6000mの範囲には自由に移動が出来るという事だ。しかし、人型兵器に捕まっている間は転移しなかった。おそらく触れている物質は一緒に移動してしまうのではないか? 加えて、飛行中に転移しなかったのも飛行と併用は出来ないか、もしくは何か別の理由で転移できない理由があると見た。なら次はもっと逃げられないように包囲網を厳重にすれば良い。下水道への対策も考えよう。

 ベルト補佐官は次こそ二人を確実に捕まえるために報告書を読みながら新たな捕獲計画を練り始めたのだった。

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「君の部下はずいぶんと派手に動いているみたいだな」

「は、申し訳ありません。出来るだけ穏便に済ませるようにと念押ししたのですが」

「言い訳はいい、とにかく君には例の計画をスケジュール通り進めてもらわなければ困るんだよ」

「は、そちらの方は滞りなく」

「この計画には私を含め多くの出資者が参加している。失敗した時にはどうなるか分かっているのだろうね?」

「はい、出資者の皆様のご期待に応えるべく、現在実用段階にするための最終調整を行っている所です」

「……しかし、なんだ、その、大丈夫なのだろうね?」

「ご安心を、実け…、いえは問題なく成功しました。皆様がお望みの物を手に入れる日もそう遠くありません」

「そうか、ではコロニーシップ計画とともにこちらの計画もよろしく頼むぞドルーク長官」

「は、了解いたしましたゼルベルヤ大統領」

 盗聴防止の秘密回線による通話が終了すると、ドルークは二つの計画を完遂するべく動き始めた。

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