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【IF】覇王と参謀の、(面倒くさい)お風呂のお話。
しおりを挟む面倒くさい外野を黙らせるためにアーダルベルトと偽装結婚したワタシの日常は、皇妃様なんていうご大層な名称をいただいた割には特に何も変わらなかった。公式の行事とかには強制参加が増えたけれど、別にそこで何かをするわけでもない。おめかしして大人しく覇王様の隣に立ってれば良いだけの、簡単なお仕事です。
そういう意味では、ワタシは大変優遇されている。面倒くさいお仕事を軒並み遠ざけてくれる相棒には、感謝しかない。……まぁ、奴曰く、「そもそもお前にそういうことが出来るとは思っていない」という、大変ありがたい認識でありますが。
えぇ、解っておりますとも。ワタシにそんなことが出来るわけねぇよ。難しいこと解らんし。それでも、面と向かって阿呆の子扱いされると、流石にちょっとイラッとしますぜ、相棒。文句言ったら罰当たりそうなので言わないけど。
で、そんなワタシですが、たった一つだけ、どうにも納得出来ない面倒くさい状況が、あります。どんだけ文句言っても改善してもらえないのですけど。地味に苦痛すぎてやべぇ。その状況とは何ぞやって?それはね……。
お風呂に入るときに、めっちゃ世話焼かれることですよ!
お前何言ってるんだって?
ワタシもそう思うけど、でもね、本当にね、苦痛なんです。苦行なんですよ!侍女や女官の皆さんに、頭のてっぺんからつま先まで、丁寧に丁寧に洗われて、身体拭くのも服を着るのも、彼女達の手を借りないといけない状況って、何よ!?ワタシ、庶民育ちなんで!お風呂は一人でのんびり入りたいし、自分のペースでごろごろしたいし、身体も髪も自分で拭くし、服だって自分で着れます!
それが皇族付きの侍女や女官の仕事ですとか言われても、ワタシはもう、飽きた!物凄く飽きた!お風呂でリフレッシュが出来ないとか、何その苦行!広いお風呂で、良い湯加減でも、常に誰かが側にいて甲斐甲斐しく世話を焼かれてたら、気を抜くとか無理だよ!百歩譲ってユリアーネちゃんだけとかなら、気心知れてるから楽ちんだったのに!側付きとはいえ、下っ端の侍女であるユリアーネちゃんだけじゃアウトとか、何その謎なルール!納得いかない!
納得いかなかったので、必殺技を使うことにした。自爆覚悟の必殺技だったけど、幸か不幸か良い感じに成功したので、今、ワタシはこうして、のんびりゆったりとお風呂を楽しんでいる。
「……俺を巻き添えにしてな」
「そこは諦めて欲しい。三日に一度ぐらいはのんびりお風呂に入りたいの!これでも頑張って我慢した方だと思う!」
「威張るな」
「慣れてるアンタと違って、こちとら庶民育ちなんですー」
文句を口にしても許されると思うのですが。お風呂は息抜きしたいんです。ワタシ悪くないもん。
なお、何で覇王様を巻き添えにしているのかと言えば、必殺技「夫婦水入らずでイチャイチャお風呂タイムしたいんで邪魔するな」を使ったからです。まぁ、仕事大好きなアーダルベルトは、一人で風呂だと烏の行水レベルらしいので、ワタシと一緒に入る方が確実にゆっくりするだろうという風にも受け取られた。よって、二人ぼっちのお風呂タイムである。
あぁ、極楽極楽。泳げそうなぐらいに広い湯船を思う存分堪能できるのは素晴らしい。洗い場も無駄に広いしな。外の景色は見えないけれど、天窓から明かりが入ってくるので、夕方とかだと夕陽が差し込んで綺麗なんだよねー。まぁ、今日は遅い時間なので、お星様とお月様しか見えないけど。
大浴場と呼んでも相応しいだろう浴槽に、ワタシとアーダルベルトの二人しか入っていないのとか、勿体ないにもほどがある。そもそも、皇族専用のお風呂で豪華なのは納得するけど、基本的に一人(+何人かのお世話係)で入る筈のお風呂で、泳げるくらい湯船が広い理由がわからない。今楽しいから良いけど。
「ヲイ、ミュー」
「何ー?」
「幼子でもないのに、風呂で泳ぐな」
「泳いでないよ。ぷかぷかしてるだけだよ」
「遊ぶな」
「えー」
呆れたような覇王様の発言に、面倒くさいなーと思いながら返事をする。別にクロールとかバタ足とかしてるわけじゃないもん。ぷかぷかぱちゃぱちゃ遊んでるだけだもん。別に良いじゃんかー。頭も身体も綺麗に洗ったんだし、ちょっとぐらい遊んだって。
というか、三日ぶりの自由なお風呂なんだから、堪能させて欲しい。解るか?何をするにもお付きがべったりの状態でお風呂入っても、ワタシは何もリラックス出来てないんだぞ?ユリアーネちゃんだけなら平気でも、他の侍女さん達を相手にリラックス出来るわけがないだろう?
だって彼女達、脳内お花畑ですからね!
いやもう、本当に苦痛だから。苦悩だから。しんどいにもほどがあるから。しんどすぎて、お風呂ですっきりした筈なのに、自室に引き上げてからぐったりしちゃうぐらいだから。
「……何の話だ?」
「脳内お花畑のお姉さん達に、お風呂でアレコレ言われるのしんどいって話だよ」
「アレコレ?」
「……へい、覇王様。我々一応、仮にも夫婦という関係なんですよね」
「あぁ」
「で、風呂ってのは基本的に、寝る前に、閨に戻る前に行うことなんすよね」
「……あぁ」
話の流れが読めてきたのか、アーダルベルトの返事が面倒そうなものになった。そう、そうなんだよ、覇王様!ワタシのお風呂タイムが癒やしじゃなくなってる理由、そこにもあるんだよ!こんちくしょう!泣くぞ!
「……これでもかとワタシを磨き上げようとする皆さんが、どんな話題を口にするのか、知りたいか?」
「……面倒だからいらん」
「それを連日聞かされてるワタシを思えば、三日に一度一緒にお風呂入るのぐらい諦めて欲しい」
「解った。悪かった。拗ねるな」
「拗ねてないやい。疲れてるだけだい」
いや、本当にな。拗ねてるとか怒ってるとかじゃなくて、純粋に疲れてるんだわ。マジであの人達の脳内お花畑具合、全然変わってないんだもん。そりゃ、ワタシとアーダルベルトは夫婦になりましたよ?でもコレ、偽装結婚だしな。彼女達の期待してるようなイチャイチャは、存在しないんですけど!
まぁ、それを大声で言うことは出来ないのですが。何とか乗り切った初夜がありますので、余計なことを言って不信感を抱かれるのはいかんでしょう。口は災いの元。その辺は黙っていた方が良いだろうことは、ワタシにも解ってる。
「……あー、ミュー。それに関係してだが、一つ残念な知らせがある」
「はい……?何?また面倒な何かがあるの?」
「面倒と言うか、……言い訳に使ってる割に、イチャイチャしてる痕跡がない、と」
「うぐぅ……!」
ごふっ、と思わず呻いた。吐血しそうなレベルでダメージ食らった気がする。
いや、うん。確かに言い訳に使ったけど。通常モードでじゃれあってるのじゃ、ダメなんですかね?これも一応、イチャイチャしてるに入りません?ねぇ、ダメなの?
「……痕の一つもない、と」
「もうやだ!皆さん変なこと気にしすぎだと思うの!」
「変なことというか、まぁ、周囲には一応死活問題だろう」
「……」
「……世継ぎ的な意味で」
「…………早く側室さん探してね」
「……おう」
遠い目をして呟いたワタシに、アーダルベルトも遠い目をして呟いた。流石に、新婚早々側室を据えるのは許されないだろうから、今は水面下で動いてるだけですけど。ただ、なかなか良い候補者が見つからないらしい。ちっ。
ワタシとしては、アーダルベルトが心底愛せるお嫁さんを見つけて欲しいと思ってるんだけどなー。アーダルベルトが仕事一筋で滅私奉公でも許してくれるような、心の広いお嫁さんがいれば良いと思うのだけれど、なかなか条件に合致する人がいないのである。困ったものだ。
ぱちゃぱちゃとお湯をかき分けてアーダルベルトの隣に戻ってきたワタシを、高い位置から赤い瞳が見下ろしている。体格の良い覇王様なので、浴室に入っていても上半身の大半はお湯の外だ。ワタシはだいぶ浸かっちゃうんだけどなー。相変わらず大きいねぇ、アンタ。
水を弾いている胸筋とか腕の筋肉とかが、見事である。仕事が仕事なので身体を動かすことは旅に出ていた頃より減っているとは言っていたけれど、持って生まれた資質のせいかばっちり見事な筋肉美だ。時々息抜きに訓練してるのは知ってるけど、ここまでしっかり筋肉付いてると感動ものだよなー。
ぺたぺたと大きな胸板を触っていたら、呆れたようなため息が降ってきた。
そして。
「はぇ?」
「丁度良いから、適当に触るぞ」
「へ……?」
ひょいと抱えられて、長座位で湯船に浸かっていたアーダルベルトの太ももの上に下ろされた。向かい合う形で足の上に座らされて、意味不明なことを言われてきょとんとするしかない。
そんな風に動きが止まってる間に、それは来た。
「ひにゃ!?」
「変な声を出すな」
「ひっ、って、ちょっ!何してんの、お前……!」
「言っただろう?適当に触る、と」
「いやだから……!」
べろんと首を舐められて、変な声が出た。ヲイコラぁあああ!お前いきなり何してくれてんじゃ!暴れて逃げようとしたのに、がっしり背中に回された腕に捕まっていて、動けない。
かぷかぷと首から肩、鎖骨にかけての皮膚を甘噛みされたり吸われたりして、何が起きてるのか意味が解らずに混乱した。いや、お前本当にどうしたの?!何考えてんの?!
「今後もゆっくり風呂に入りたいなら、少しぐらい大人しくしてろ」
「いや、だから……!」
「多少痕跡を残しておかないと、怪しまれて終わるぞ」
「うぐ……!」
そっちか!そういう意味での対策かい!だからって、いきなりすぎるんだよ、お前ぇえええ!っていうか、こういうことする必要あるの?ねぇ、別にイチャイチャしてるフリだけすれば良いんじゃないの?
視線で問い掛けたら、面倒そうに半目を伏せたアーダルベルトがそこにいた。……え?何ですか、その反応?何がそんなに面倒そうなの、お前?面倒って言ったら、今のこの状況の方が面倒じゃないですか?
……あ。何か理解できたかも。こいつ絶対、対策がどうのとか考えてない。それ、ついでだ。あくまでついでだろう、この野郎!
「アディ!アンタ、ワタシをからかってストレス発散するつもりだろ!?」
「ちっ」
「ちっ、じゃねぇわ!ワタシはお前の玩具じゃないの!必要以上に遊ぶなぁああ」
予想的中だったらしい。あっちもあっちで色々あったのか、多分ストレスたまってたんだろう。んでもって、丁度良いからと言い訳をセットにしつつ、ワタシをからかって遊ぶつもりなのだ。ヒドいな!
じたばた暴れるワタシを無視するように、アーダルベルトの顔が動く。鎖骨からまた肩に戻って、腕をなぞって舌が降りていく。だから、ワタシは、玩具じゃ、ないと……!
「ひゃう!」
突然胸を揉まれて、変な声が出た。お前本当、いい加減にしろよおおお!溜まってんだったら、綺麗なお姉ちゃん呼べば良いだろう!お貴族様御用達の、綺麗で教養もばっちりな高級娼婦のお姉さんとかいるじゃんかぁああああ!
ばしばし背中を叩きながら小声で(一応人払いはしてあるとはいえ、外に聞こえたら色々アレな内容だってことぐらいは解ってるので)訴えたワタシに、アーダルベルトはやっとこっちを見た。表情をすっかり消したワイルドイケメン様がこっちを見ている。……え。何その顔、怖い。
「今の俺に、それが許されると思うのか」
「……え?」
「というか、宰相と女官長が目を光らせてるこの状況で、呼べると思うのか」
「……え?アディ、もしもーし?何?何か面倒なことになってん、の……?」
地を這うような声で言われて、目が点になった。待って?ワタシその辺の事情は一切知らないのですけど、お前に何が起こってますの、悪友よ?宰相と女官長って、ユリウスさんとツェツィーリアさんが、どうしたって?
「お前、あいつらが外堀を全部埋めたのを覚えてないのか」
「……あ」
「外堀から埋めて既成事実を作る作戦は続行中だぞ」
「ナニソレ皆さんヒドい!」
あまりの仕打ちに思わず叫んでしまった。でもワタシ悪くないと思います!
そもそも、偽装結婚だったワタシと覇王様がもだもだの末に初夜を実行しなければならなかったのは、エーレンフリートを除く味方だと思っていた面々の裏切りのせいだった。お二人なら良き夫婦になれると思います、みたいなの勘弁して欲しい。
確かに我々は仲良しであるが、そこに男女のアレコレは一切ないので!確かに初夜は何とかなったけど、その後別にそういうことないし、したいとも思わないし!
なのに、未だに外堀埋めて既成事実作らせようとしてるとか、鬼ですか?無茶ぶり反対!
「ついでに言えば、……寝室はお前と一緒だろう」
「あー、はい」
「基本的に常に俺の周りには人が居る」
「皇帝陛下ですからね」
「……察せ」
「……えーっと、あの、ごめん」
唸るような声に、思わず謝罪がこぼれた。うん、そうだな。いくら滅私奉公体現してて、特に女性相手にどうのこうのがないとか、発情期だろうが通常運転と言われていても、成人男性だもんな!まだまだ現役バリバリ世代の男性に、性欲が存在しないと思っちゃダメだよね!気付かなくて悪かった!
つまり、状況から察するに、今までなら一人の時間が持てていた寝室でさえもワタシがいるので、色々溜まっている、ということか?別に女を抱きたいと思ってるタイプじゃないとしても、出さないのは身体に悪いんだっけ?男の生態よく解らないんだけど。その辺、女子と違うもんな、男子。
「……えーっと、じゃあ、ワタシ先に出ようか?」
最大限の気遣いを発揮してみたのだけれど、何故か返答はなかった。なくて、そして。
「んんーっ!」
がぷっと噛みつくようにキスされた。……っ、こんの阿呆ぉおおおお!不意打ちすんなぁああああ!
じゅるじゅると口の中を吸われて、肉厚の舌に舌を絡め取られて、引っぺがそうと鬣やら髪やらを引っぱっても無駄だった。というか、口の中ぐちゃぐちゃにされて、力が抜ける。鼻から、甘えるみたいな息が出るのが止められない。
「ぷはっ……」
やっとのことで解放されて、必死に酸素を取り込む。お前、何がしたいの?別にワタシ相手に欲情するわけじゃないだろ?手近にいるからって、ひどくない?
「……溜まると血迷うんだなと自分でも思ってる」
「血迷うなよ!」
「あと」
「……あ?」
「普段とのギャップで、お前のそういう顔は、割とクる」
「…………――ッ!」
いつもの自信満々な顔じゃなくて、どこか困ったような顔で、眉を下げて笑いながら告げられた言葉に、ぶわっと顔が赤面した。こ、ここここ、この、イケメンとイケボの無駄遣いぃいいいい!禁止!禁止ぃいい!
あわあわしてるワタシの頭を抱え込んで、アーダルベルトはつむじにキスをしてくる。いや、お前今、確実に色々血迷ってるだろ!目を覚ませ、相棒!絶対頭沸いてるから!
「一応正気だ」
「さっき血迷ってるって言ったじゃんか!」
「言っておくが、溜まってる状態で一応性別女を前にして平然としてられるほど枯れてない」
「言い方!一応とか言うな!」
「女性を主張するには、ここがちと寂しいからなぁ……」
「殺すぞこんにゃろう!」
もにゅもにゅとヒトの胸を揉みながら言う台詞じゃねぇええええ!確かに、確かにワタシのお胸さんはささやかではあるが!ちゃんと胸あるもん!ブラジャーいらずの洗濯板とかじゃないもん!
そりゃ、覇王様の大きな掌には物足りないかも知れないが!だからって、一応とか言うな!ワタシちゃんと女子!
「揉んだら育つと言うが、どう思う?」
「知るかボケぇええええ!」
「まぁ、その辺は今後検討するか」
「せんでいい!お前本当に、疲れとストレスと性欲溜まってんので頭沸いてんだろ、バカぁあああ!」
好き放題なことを言う覇王様の頭をぽかぽか殴るが、案の定非力なワタシではダメージなどないらしい。ちょっとでも同情したワタシがバカだった!こいつ本当にどうしようもない!ワタシの前限定でマジでダメダメ過ぎるだろ!
逃げたいのに逃げられなくて、好き放題に胸揉まれてる状況に、割と真剣にやばいと思ってる。何がどうやばいのかと言えば……。
「ひんっ……!ぁ、や……ッ、舐めん、なぁ……!」
耳を舐められて、声が裏返る。うぐぐぐ、こいつ的確にヒトの弱点ついて来やがる。マジで勘弁しろよ、泣くぞ。まさか耳が性感帯だとは思ってなかったので、未だにそこの感覚には慣れないのだ。勘弁しろし。
というか。
「お前、ワタシ触って、楽しい……?」
「ん?」
「いや、溜まってるなら、触って出せば良いんじゃね?と思ったんだけど」
「…………お前も大概身も蓋もないと思うんだが」
「ワタシに情緒期待しないで」
真顔で問い掛けたら、真顔で返された。いやだって、そうだろ?別にワタシを触る必要性ないと思うんだけど。溜まってんなら出せば良いだけでは?違うの?
自分で言うのもなんだけど、ワタシ別に、女らしい体型ではないし、癒やしを与えてくれるタイプでもないので。包容力のある女性とかだったら、抱き締められて気持ちよいとかあるかもしれんけど。どう考えてもワタシのタイプじゃないっすよね?
じーっと見上げたら、盛大なため息が降ってきた。お前、ワタシ相手にため息標準装備になってない?しまいにゃ怒るぞ?
「流石に、何も無い状態では無理だ」
「あー、つまりおかずを提供しろと?」
「だからお前は、身も蓋もないと」
「期待しないで。……むー」
疲れたようなアーダルベルト。わちゃわちゃで誤魔化そうとしてたみたいだけど、だいぶ色々ため込んでる感じはする。疲れとかストレスとか色々あるのかな。ワタシには解らないことがいっぱいあるだろうし。
まぁ、ワタシの前で、そういう弱いところが出せるようになってるのは進歩だけど。無自覚に自分の中に全部ため込んでくタイプだからなー。並より肉体も精神も強靱に出来てるから、誰も気付いてやらないんだもん。相変わらず無理ばっかりしてんなあ、こいつ。
「んじゃ、何して欲しい?」
「……ミュー?」
「お疲れの相棒を労るぐらいはするけど?」
「……お前、やっぱり阿呆だろ」
「うるせぇよ」
ぽすぽすと頭を撫でながら伝えてやったら、何故か返ってきたのは呆れ顔でした。解せぬ。ワタシ、良いことしようと思っただけなのに。
「俺が言うのもなんだが、お前は俺に甘すぎると思うぞ」
「安心しろ。アンタもワタシに甘いから、おあいこだ」
「……もう少し怒っても良いと思うが」
「何を?」
「……お前の了承を取らずに触れたことを」
ぼそりと呟かれた言葉に、瞬きを繰り返した。あぁ、そっか。確かにそれは褒められたことじゃないな。ワタシもじたばた暴れたし。よく考えなくてもセクハラですよね。うん。
んー、でもなぁ。理由知っちゃうと、そこまで怒れないんだよなぁ。こっちも無自覚に行動しまくってたんだなって思ったし。
それに。
「まぁ、アンタ相手だと今更だなって思うわけで」
「お前のその俺関係だけどこかぶっ飛んでる価値観は早急にどうにかするべきだと思うぞ」
「だからお前が言うなと言うに」
「……お前は俺相手にだけ、色々と許しすぎだ。馬鹿者」
「バカと言うな」
一応自覚あるけど、面と向かって言われると腹が立ちますぜ、覇王様。だって仕方ないじゃん。ワタシのせいで面倒くさい状況がさらに面倒になってるの知っちゃってるし。……ワタシがいなかったら、お嫁さん候補探すのももうちょい楽だったろうし、高級娼婦のお姉ちゃん呼ぶことだって出来ただろうし。
あと、多分だけど、抱き枕状態で一緒にぐーすか寝てるのも影響してんじゃないかなって思うし。いや、抱き枕にしてくるのは向こうなんだけど。夜中に目が覚めたら、ほぼ連日覇王様の腕の中なんだもんよ。ワタシは安眠枕かいと思うぐらいに。
「……なら、触ってくれ」
「ん、りょーかい」
言われるままに、ちょっとだけ兆し始めてるアーダルベルトのソレに手を伸ばす。わー、でっかい。何度見ても思うけど、よくコレが入ったな、ワタシの身体。種族の体格差考えても、物理的に不可能を可能にした感じがすっごい。
片手じゃ上手に支えられないので、両手で挟むようにして触る。ぶっちゃけ、どうやれば良いのか全然解らないので、適当に上下に挟んだ掌を動かしつつ、時々先端とか根元とかに力を入れるようにしてみる。すまんな、こういう経験がないもので。
「……ん」
「こんな感じで良い?」
「……あぁ」
問い掛けたら、若干掠れた声が答えてきた。答えるまでに間があったのは、多少なりとも感じてくれてるからだろうか。まぁ、じわじわ固くなってきてるし、血管がすっごくどくどくいってるから、多分、大丈夫なんだろう。男はわかりやすくて良いな。一目瞭然だし。
その間も、まるで人形でも愛でるみたいに頭を撫でられたり、胸を揉まれたり、耳を食まれたりするので、時々変な声が出るのは勘弁して欲しいと思う。っていうか、ワタシ触って何が楽しいのか解らないんだけど。おかずになってんのか……?
「……安心しろ。割とキてる」
「……悪趣味」
「失礼な奴だな」
「いやだって、ワタシ相手に欲情するとか、どう考えても悪食でしかな……っふぁ!」
「悪態よりは、そういう声を聞かせろ」
「……っ!」
だぁああああ!こんの、イケボがぁああああ!掠れた低音ボイスのイケボとか、耳に直接注ぎ込んでくんなぁあああ!耳が孕むわ、ボケ!お前はどこぞのBL業界の攻め様かぁあああ!
心の中で必死に罵倒してるけど、実際口から出るのは変な声ばかりなのが悲しい。悔しいからぎゅっと唇を噛んで声をこらえることにした。何かこう、負けたような気がするから。
早急に、ちゃんとしたお嫁さんを探してあげよう。ワタシ相手に反応してるとか、どう考えても悪食だ。世も末だ。可哀想になってきた。普通に美人でスタイルの良いお嫁さんにいやして貰った方が良いと思う。
とはいえ、本人の自己申告通り、一応ちゃんと感じてはくれてるらしい。手の中のソレがめっちゃ固くなってきてる。コレ、このまま触ってるので大丈夫なんかな?
「……ミュー」
「……ん、何?」
「足を貸せ」
「へ?」
ぽかんとしている間に、足を抱えられて体勢を変えられた。両脚を揃えた状態でアーダルベルトの足の上。意味が解らずに固まっている間に、揃えた足、太ももの間にぐっと熱いものが押しつけれた。
……って、足を貸せってそういう意味かい!お前どこで素股なんて知識手に入れてんの!皇族のくせに!!!
「あ?痛覚麻痺ローションも無いのに入るわけ無いだろ」
「そういう話をしてるわけじゃなくて!」
「お前は大人しく足に力を入れてれば良いだけだろ」
「そういう問題でもなくて!」
色々ツッコミが追いつかない覇王様の頭をぽかぽか殴った。いや、確かにそうなんだけどね?ここで最後までヤるとか言われたら、激痛で泣きわめくから断固拒否するけど!何で手じゃダメなのさ!何で足貸さないとダメなんだよ!
そんなこと考えてる間にも、にゅるりと足の間にソレが入ってくる。さっきまでワタシの手の中にあったモノ。ガチガチに勃起して、凶悪としか言えない臨戦態勢に入っているソレが、太ももの内側の柔らかい皮膚を擦りながら上下する。
「ひっ……」
「ほら、ちゃんと力を入れて、締め付けてろ」
「……っん!」
左手でワタシの両脚をまとめて抱え込みながら軽く揺さぶりつつ、右手で首の後からワタシの顎を掴んで自分の方に向かせ、キスをしてくる。……っ、正直、そういうのはいらない、んだけど。なんかこう、こういうことしながらキスは、あんまり、いらないと、言うか。
……ぶっちゃけ、気恥ずかしいので勘弁して欲しい。しかも、こういうときに限って、触れるだけのキスを何度も繰り返すとか、そういうのなので。いっそ、口の中めちゃくちゃにされるようなキスだと、何も考えないですむから気楽なんだけどなぁ……。
とりあえず、仕方ないので、言われるままに足に力を入れてみる。太ももに力を入れたり、抜いたり、適当に。揃えた足は離さないように気を付けてるけど、でも、時々動いちゃう。それを咎めるようにぎゅっとアーダルベルトの左手で抱え込まれる。
いやだって、何かこう、これはこれで色々アレなんだよ!察してよ!太ももの内側って皮膚が薄いじゃないですか!その薄い皮膚に、ガチガチに勃起した性器が触れまくるのって、違和感が凄いからね!お湯の中なので浮力で身体が浮いてるのがマシなのかどうなのかすら、解らないから!
「……ふっ」
「……アディ……?」
「ん、そのまま、もう少し、付き合え」
「……ん」
感じているのだと解る声が聞こえて、アーダルベルトを見上げる。目尻を快楽に染めて、少し困った風に笑って、アーダルベルトはワタシの額にキスをする。……こいつ、こういうときの無自覚なこの行動、改めさせた方が良いのではないだろうか?どう考えても天然タラシなんですけど。誰にも相談できないのが辛いジレンマ。
どく、どく、と太もも越しに感じる鼓動に、ぞわぞわする。いや、ちょっと待って?太ももの内側って、まさか性感帯なの?確かに皮膚が薄くて刺激がダイレクトに伝わる場所ではあるけど。
そんなことを考えてた瞬間、それは、きた。
「やっ……!」
「……ミュー?」
「ひっ、まっ、まっ、て……っ!動かな……!」
端的に言えば、位置がズレた。それだけのこと。でも、ズレた方向が悪かった。足先に向かってズレてくれれば良かったのに、逆に付け根の方に向かってズレたのだ。その結果どうなったのかと言えば、アーダルベルトのソレで、勢いよく股間を刺激された。
さっきからちょこちょこ妙な気分になりつつあった身体に、不意打ちの強烈な刺激はワタシの処理能力を超えている。ずりずりと弱い場所を擦られて、平然としていられるほど慣れてない。熱くて固いソレに押しつぶすみたいにクリトリスや濡れ始めてた入り口をずりゅっと擦られて、びくびくと身体が震えて、変に硬直してしまう。
「……ミュー、お前」
「そこ、で……っ、動く、なぁ……!」
「断る」
「……っ、アディ!」
「悪いが、そんな声を聞かされて止めてやれるほど、余裕は無い」
「……――っ!」
必死に訴えたのに、現実は無情だった。てめぇええええ!後で覚えてろよ!顔面パンチしてやるからなぁああああ!
腹の奥でめっちゃ怒ってても、実際には顔にも声にも出ない。というか、多分そっちに回すリソースがない。何故か知らないけどスイッチが入った覇王様に、それまでより勢いよく抜き差しされて、悲鳴じみた声ばっかりこぼれ落ちる。
逃げようにも身体に力が入らないし、ぞわぞわ走る快感に頭が真っ白になっていく。その上、噛みつくみたいにキスされて、口の中までぐちゃぐちゃにされる。舌の付け根をぐりぐりされて、身体が自分のじゃないみたいにびくびく震えてるのが解った。
……おかしい。ワタシは、こいつの熱を発散させるのに付き合ってるだけだった筈なのに。多少のお触りでおかず提供は承諾したけど、こういうのは想定してなかったんだけど。っていうか、素股で、こんな風に、イかされるとか、思って、なかった、のに……っ。
「……イイか?」
「ひぅ……!ぁ、あ……!」
「答えろ、ミュー」
かぷ、と耳を甘噛みしながら問い掛けられる。明らかに感じてると解る、低音イケボに抗えるほど、強靱な精神はしていない。しかも、それを耳に直接吹きかけるみたいに言われたら、どうしろと。勝てる奴がいるなら尊敬する。ワタシは無理だ。
流石に顔を見るのは色々と恥ずかしいので、逞しい胸板にべったり張り付く。はふはふと変な感じになってる呼吸を必死に整えながら、何とか言葉を吐き出した。
「……も、イキ、そ……っ」
「そうか……」
「……ぁ、あ……!」
ワタシの返事に、満足したみたいに呟いた後に、アーダルベルトはワタシの身体を抱えなおした。ぐり、と熱いそれが当たる。足を引っぱられて体勢を整えられて、さっきまでよりずっと強く押し当てられる。ずりずりと擦られて、目の奥に星が散った。
いや、比喩じゃ無くて。何かこう、火花みたいな何かが、視界を埋めた。真っ白になっていく頭と、昂ぶってくる身体のアンバランスさに、翻弄される。慣れない感覚に怖くてぎゅっとしがみついたら、なだめるみたいに背を撫でられた。優しい、大きな掌で。
でも、今のワタシにはその優しい刺激すら、結構きつかった。背骨を大きな掌でなぞられて、それだけで悲鳴がこぼれる。ぶっちゃけ、全身どこもかしこも敏感になってる自覚はある。身体に力が入らないのに、ぎゅっと爪先だけは強く握ってしまう。
あぁ、ダメだ。頭が真っ白になって、何も解らなくなって、壊れそうになる。一人で、自分でしてるのとは全然違う、誰かに与えられる快楽は、不慣れなワタシの身体には強烈で。
「ひっ、ぁ、……ァア!」
自分でもどうにも出来ないぐらいに身体が震えて、アーダルベルトに抱き締められた状態で、イってしまった。余韻で小さく震えていると頭上で低いうめき声みたいなのが聞こえた。ついで、足の間でアーダルベルトのソレが大きく震えて、爆発した。
ぽす、と頭にアーダルベルトの顔だか顎だかが載せられてるのが解る。解るけど、正直文句言う気力も無い。ぐったりしてるのが自分でも解る。……と、いうか。
「……あでぃ」
「ん……?」
「……ごめん、多分、逆上せ、た……」
「は?」
それまでの雰囲気ぶち壊しにしたのは理解してるけど、マジでそれなので、素直に伝えた。お風呂のお湯、そんなにぬるめじゃなかったしな……。アーダルベルトの足の上に乗ってたとはいえ、ワタシの方が浸かってる面積が多いわけで……。
頭がぼんやりしてきたというか、くらくらしてきたので、自己申告だけはしておいた。悪い。多分この後意識飛ぶんで、後始末とか周りへの説明とか、よろしく頼む。……この状況に持ち込んだのお前だから、それぐらいしてくれるよな?
「……解った。とりあえず、外に出るぞ」
「……ん」
ひょいと抱き上げられたままで、湯船から連れ出される。目を開けてるのも億劫なので、瞼を閉じた。だらんと力の入らない身体は、そのままアーダルベルトに運ばれて脱衣所へ。タオルで身体を拭かれているところまでは意識があったけど、そこでぷつっと意識が切れた。
意識が切れる寸前に聞こえた「助かった」という一言には、聞こえなかったフリをしてやった方が良いのかどうか解らなくて、あえて何も言わないことにしたワタシだった。だって、どうすりゃ良いのか解らなかったんだもん。
なお、「仲がよろしいのは構いませんが、体調にはお気をつけください」という小言をユリウスさんとツェツィーリアさんから貰うハメになった我々でした。……うぐぐ。誰のせいだよ、こんちくしょう。
FIN
33
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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