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49.時を紡いで
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夜が明けた。崩壊を目前に迎えた朝がやってきたのだ。既に一刻の猶予もないその朝の目覚めを、フーアは随分と落ち着いた気分で迎える事ができた。それが幸か不幸かは、彼自身にも解らない。
「少し下がってろ、アズル。」
「……あぁ。」
アルファ神殿の扉は、固く閉ざされている。そこは、資格無き者の立ち入りを拒む神殿なのだ。何故ならば、アルファ神殿は始まりの神殿であり、そこにはこの世界『オリジン』の神、万物の創造神・オリジンが、世界を生き長らえさせる為に永き眠りについているからである。
扉の取っ手に当たる部分に、フーアは両手を重ねる。淡い光がフーアの全身を包み始める。時空すら操る勇者が、その全身全霊を込めて魔法を紡ぐ。この、時間軸殻すら外れた神殿の扉を、世界を救う為に開けなければならないのだから。
ふと、フーアの脳裏に様々な情景が浮かんで消えた。それは幼い頃から今までの記憶だ。走馬燈のようだなと思いながら、それがあながち外れではない事を、この聡明な勇者は知ってしまっていた。或いは、それこそが彼が孤独に生きねばならなかった、最大の理由であるのかもしれない。
「開かれよ、時空すら越えた始まりの扉よ。我が名はフーア。世界救済を願うモノ。故に、扉は開かれねばならない!」
それは傲慢と紙一重の言葉に聞こえた。だがしかし、まるで彼を待っていたかのように、扉がゆっくりと開く。人智を越えた神殿の造形美が、二人の視界に晒された。どんな文明を持ってしても造り上げる事など不可能な、完全さを持って存在する、それこそがアルファ神殿であった。
ゆっくりと、フーアは歩き始める。神殿の中央に、祭壇がある。その祭壇を取り囲むように、小さな6つの台座が存在している。そこに力のカケラを置くのだと、2人は悟る。
1つ1つ、フーアは力のカケラを台座に置いていく。それぞれの台座にはどの属性かを示すようにそれぞれの色で文様が刻まれ、その中央のくぼみは力のカケラを置くに相応しい大きさをしていた。フーアが宝玉を置く度に、神殿内で暴走していた魔力が、一定の力を保って流れ始める。安定し始めているのだと、アズルは気付いた。
6つ全ての宝玉を置いたその瞬間、神殿内に光が満ちた。眩いばかりの光は、視界を灼くには十分だ。思わず目を掌で庇う二人の姿は、奇妙な程酷似していた。だがしかし、彼等がその事に気付く事はないだろう。
「アズル、手を出せ。」
「あ、あぁ……。」
フーアに言われた通り、アズルは掌を差し出す。その掌の上に、フーアは自らの掌を重ねた。そして、小さな何かを落とす。驚いて顔を上げた邪神に向けて、勇者は微笑んだ。アズルの掌の上に残されたのは、彼とフーアの魔力を繋ぐ媒体である指輪だった。
「フーア……?」
「これで、終わりだ。俺がお前を束縛する理由もなくなる。だから、砕け。それでお前は自由になれる。」
「…………。」
願っていた自由だった。待ち望んでいた解放だった。だが、今この場でそれを砕いていいものかと、邪神は悩んでいた。彼自身にもその理由は解らなかった。だが、砕いてはいけないのではないかと、不思議な程に迷いが芽生えて消えてくれないのだ。
けれど、フーアの強い視線に促されてしまう。逆らえない何かを感じて、アズルは掌に軽く力を込めた。これまで彼等二人の魔力を繋いでいた媒体が、あっけない程簡単に砕かれる。軽い音を一つ、残して。
——……悪いな。
「……フーア?」
アズルの意識に触れたのは、フーアの感情だった。思念とでも言うべき何かが、触れて、そして離れていった。その瞬間アズルは、犯してはならない間違いをした気がした。何がどうという事はない。ただ、はにかんだように笑うフーアを見た瞬間、彼はそう思ったのだ。
アズルの視界で、フーアが祭壇へと足をかけた。瞬間、6つの台座から光が線のように伸び、祭壇を中央に抱く見事な六芒星を描き出した。その光の中央に、フーアが立っている。眩いばかりの光の魔力で構成された、それは檻にも等しい結界術だった。
「フーア、お前、何を……ッ!」
「今まで付き合わせて悪かったな。これで、終わりだ。」
穏やかに笑うその顔は、全てを受け入れた者の、苦難の運命を平然と受け入れる、殉教者のそれだった…………。
「少し下がってろ、アズル。」
「……あぁ。」
アルファ神殿の扉は、固く閉ざされている。そこは、資格無き者の立ち入りを拒む神殿なのだ。何故ならば、アルファ神殿は始まりの神殿であり、そこにはこの世界『オリジン』の神、万物の創造神・オリジンが、世界を生き長らえさせる為に永き眠りについているからである。
扉の取っ手に当たる部分に、フーアは両手を重ねる。淡い光がフーアの全身を包み始める。時空すら操る勇者が、その全身全霊を込めて魔法を紡ぐ。この、時間軸殻すら外れた神殿の扉を、世界を救う為に開けなければならないのだから。
ふと、フーアの脳裏に様々な情景が浮かんで消えた。それは幼い頃から今までの記憶だ。走馬燈のようだなと思いながら、それがあながち外れではない事を、この聡明な勇者は知ってしまっていた。或いは、それこそが彼が孤独に生きねばならなかった、最大の理由であるのかもしれない。
「開かれよ、時空すら越えた始まりの扉よ。我が名はフーア。世界救済を願うモノ。故に、扉は開かれねばならない!」
それは傲慢と紙一重の言葉に聞こえた。だがしかし、まるで彼を待っていたかのように、扉がゆっくりと開く。人智を越えた神殿の造形美が、二人の視界に晒された。どんな文明を持ってしても造り上げる事など不可能な、完全さを持って存在する、それこそがアルファ神殿であった。
ゆっくりと、フーアは歩き始める。神殿の中央に、祭壇がある。その祭壇を取り囲むように、小さな6つの台座が存在している。そこに力のカケラを置くのだと、2人は悟る。
1つ1つ、フーアは力のカケラを台座に置いていく。それぞれの台座にはどの属性かを示すようにそれぞれの色で文様が刻まれ、その中央のくぼみは力のカケラを置くに相応しい大きさをしていた。フーアが宝玉を置く度に、神殿内で暴走していた魔力が、一定の力を保って流れ始める。安定し始めているのだと、アズルは気付いた。
6つ全ての宝玉を置いたその瞬間、神殿内に光が満ちた。眩いばかりの光は、視界を灼くには十分だ。思わず目を掌で庇う二人の姿は、奇妙な程酷似していた。だがしかし、彼等がその事に気付く事はないだろう。
「アズル、手を出せ。」
「あ、あぁ……。」
フーアに言われた通り、アズルは掌を差し出す。その掌の上に、フーアは自らの掌を重ねた。そして、小さな何かを落とす。驚いて顔を上げた邪神に向けて、勇者は微笑んだ。アズルの掌の上に残されたのは、彼とフーアの魔力を繋ぐ媒体である指輪だった。
「フーア……?」
「これで、終わりだ。俺がお前を束縛する理由もなくなる。だから、砕け。それでお前は自由になれる。」
「…………。」
願っていた自由だった。待ち望んでいた解放だった。だが、今この場でそれを砕いていいものかと、邪神は悩んでいた。彼自身にもその理由は解らなかった。だが、砕いてはいけないのではないかと、不思議な程に迷いが芽生えて消えてくれないのだ。
けれど、フーアの強い視線に促されてしまう。逆らえない何かを感じて、アズルは掌に軽く力を込めた。これまで彼等二人の魔力を繋いでいた媒体が、あっけない程簡単に砕かれる。軽い音を一つ、残して。
——……悪いな。
「……フーア?」
アズルの意識に触れたのは、フーアの感情だった。思念とでも言うべき何かが、触れて、そして離れていった。その瞬間アズルは、犯してはならない間違いをした気がした。何がどうという事はない。ただ、はにかんだように笑うフーアを見た瞬間、彼はそう思ったのだ。
アズルの視界で、フーアが祭壇へと足をかけた。瞬間、6つの台座から光が線のように伸び、祭壇を中央に抱く見事な六芒星を描き出した。その光の中央に、フーアが立っている。眩いばかりの光の魔力で構成された、それは檻にも等しい結界術だった。
「フーア、お前、何を……ッ!」
「今まで付き合わせて悪かったな。これで、終わりだ。」
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