クレオパトラの椅子

みゆきじゅん

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僕はあのコ1-1

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 僕は渋谷のハチ公像前で待ち合わせの約束をしている。僕は予定よりも随分とはやく来てしまった。それなので待っている間に自己紹介しとく、僕は牧村 新一(まきむら しんいち)35歳、未だフリーターだ。正社員で就職はしたかったが全て不採用になってしまった、どうしてだ、僕にも原因がわからない、いい大学も卒業してるし、自分でいうのもなんだが人付き合いも上手い方だと思う、ただ運がなかったのか、今となってはわからない。しかし、僕は重大な心の病を抱えていた、就職出来ないのはそれが原因かもしれないが、性同一性障害という、心と体の性が不一致で原因で起こるものになっている。体は男だが心は女である。そう思っている。心が女なのだからいつか体も女に変わると信じていたが、その憧れや夢は男という現実という事実に打ち消されていた。
「お待たせしました、牧村新一さんですか」
短パンに黒いパーカーを着た男のコぽい女性が僕に声をかけてきた。パーカーのキャップを深く被っている。
「あ、はい、新一です」
僕が答えた。
「良かった、間違えたらどうしようかと、紫色のシャツが目印と言ってたのでとりあえずわかりました、ぼくは里中 由香里(さとなか ゆかり)といいます、よろしくお願いします」
由香里がホッとした様子で言う。しかし、由香里と言う名前が嫌そうな仕草を見せていた。
「僕の方も目印は黒いパーカーと聞かされていたのでわかりましたよ」
僕も言う。
「立ち話もなんですから、とりあえずあそこのファーストフード喫茶にいきませんか」
由香里が言った。
「は、はい」
僕はなんてキビキビとした人だと思った。ファーストフードに入店すると共に由香里は。
「コーヒーでいいですか、あ、ぼくが会計してきます、そこのテーブルに座っててください」
由香里は進んでレジに向かって行った。僕はなんて決断力があって男ぽい人だと思った。
由香里がコーヒーを2つ持って僕の座るテーブルに戻ってきた。
「あ、コーヒーのお金払います」
僕が言う。
「いいですよ、ぼくのおごりです」
由香里が言う。なんて紳士的なんだと僕は思ってしました。コーヒーをひとくち飲んだ瞬間。
「で、どうですか、ぼくじゃ駄目ですか」
いきなり由香里さんが直球を投げてきた。まわりの人が聞いたら絶対に勘違いされそうなことを堂々と言う。
「え、え、え」
戸惑う僕。
「そうですよね、こんなぼくじゃ駄目ですよね」
由香里はちょっとガッカリした表情を見せた。
「そ、そんなことは」
僕が言う。
「こんなぼくでもいいんですか」
由香里が僕の顔を一直線で見て言った。由香里さんも自分の見た目に苦労して来たんだなと思った、こんなに見た目は女性らしく可愛いらしいのに心は男だから黒いパーカーなんか着て少しでも男ぽく演じるしかない苦しさを感じた。僕も以前は女装とか隠れてしていたが、あまりにも身体と衣装のギャップが大き過ぎて女装は断念した記憶がある。
「じゃあ、早速行こう」
由香里は僕の手を思い切り引っ張ってファーストフード店の外に連れ出し、ある高層ビルへと向かう。
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