クレオパトラの椅子

みゆきじゅん

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 僕はそして高層ビルを出る。ちょっと強い風が吹いていた。肌身に染みる。
「これから僕は女として生きていけるんだ」
僕はビルから一歩。出た時にそう思う。トコトコ″と歩き、渋谷駅に向かった。

「あれ、なんか建物とか人とかみんな大きく感じるぞ、あ、そうか僕が由香里さんの身長になったからか」
僕はキョロキョロ見方が変わった街を観察していた。懐かしいような不思議な感じだった。

方向音痴の僕は、受付でもらった由香里さんの情報ファイルを見ながら迷いに迷ってやっと由香里さんの住むマンションにやって来た。帰ってきたと言った方が正しいかもしれないが。この姿で自分の住まいに帰るわけにも行かずここに来た。僕は304 里中と表札が書かれた部屋の黒いドアの前で必死にリュックを漁って鍵を探す。リュックの中はなんか仕分されておらず中央の大きなポケットにまとまって物が入っている感じだ。
「これは手鏡か、これはリップか、これはクシか、これはコットンか、この小さな紙袋は何かな、あとで開けてみよう、思ったより女性ぼい小物入ってんな、まあ、性同一性障害でも体は女だった訳だし、最低限の女性の身だしなみを整える物や女性としての生活用品は必要だったんだと思う由香里さんも、あれ、そうか今度は僕が女性の小物や生活用品必要じゃんか」
僕も女になってたことをふと思い出す。
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