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氷樹の森の大賢者
2.エウリュアレの朝
しおりを挟むどう反応したらいいかわからず固まったままの私の様子を伺うように、青髪の少女はそっと顔を上げてこちらへと視線を向ける。
その様子はまるで叱られるのではないかと思ったのに予想した反応がこず、恐る恐る様子を伺う子供のようだった。
私にとっては怒る理由もなく、むしろ混乱している状態なのでそんな反応をされても困るしどうすればいいのかと思案するしかない。
私からの反応が一向に無いことを気にしてか、とうとう少女が口を開いた。
「あ、あの……水姫様?」
「えっと、なに? ていうか、水姫って私のこと?」
「は、はい。えっと……あの、お怒りだったり……?」
少なくとも私が怒る要素は一切ない。
しいて言うなら水姫様、と呼ばれたことが気にかかるぐらいか。
姫ねぇ……女になったと思ったら姫か、控えめに言っても柄じゃないしおもいっきりチキン肌になりそうなので勘弁願いたいな。
「いやいや、怒るような亊無かったでしょう?」
軽い感じで否定してあげると少女は少しだけ「え、なんか軽い」みたいな感じでこっちを見たあとにとりあえず安心することを優先したようだった。
彼女は一呼吸いれて心を落ち着けてから再度口を開く。
「改めましてご挨拶を。エウリュアレ村の巫女を務めております、ノフィカ・フローライトと申します」
「う、うん……」
やばい、名乗るべきなんだろうけどなんて?
流石に元の世界の名前は使うとたぶん浮くよね。
この世界の常識とか何にもないからな……とりあえず最初のキャラ名で名乗っておくか。
「えっと、私はリーシアよ」
「リーシア様ですか。ええと、お目覚めになったばかりでまだ状況がつかめていないかもしれませんが、村長にお会いいただいてもよろしいでしょうか?」
「村長に……」
会っても会わなくても面倒事に一直線な気がするけど 、この場合会って情報を少しでも手に入れるほうが得策かな。
さっき村って言ってたことを考えるとここを離れるとしばらく人里はないことになる。
何よりこの世界の知識や常識が何もない状態では好意的にしてくれている人たちのほうが多分マシだろう。
「色々と説明をしてもらえる、と思っていいのかしら?」
「はい、村長は恐らくそのつもりだと思います。以前から目が覚めたら連れてくるようにと言っておられましたから」
「分かったわ、それじゃあノフィカさん、案内してもらえるかしら」
「あ、あの、呼び捨てで結構です。畏れ多いです」
「えー、じゃあ私のことも呼び捨てでいいよ」
「勘弁してください!?」
畏れ多いって、いったい私どんな扱いになってるんだろうね。
というか、誰もいないはずの神殿から出てきたって反応じゃなかったのが気になるなぁ。
これもおいおいわかるのかね。
こうしてノフィカの案内で私は神殿を後にした。
神殿……そう、私が居た場所はエウリュアレ神殿と村の人に呼ばれている場所だったらしい。
ノフィカ曰くのエウリュアレ神殿を出ると、そこはなんとものどかな風景が広がっていた。
見渡す限りの緑色、今まで見たどんな空よりも青い空。
そんな中にぽつりぽつりと民家が建っている。
一番最初に目についたのは木材で組まれた高さ十メートルほどの見張り台、上には誰かがいるようで人影が見える。
警戒しているのだろう向いている方向へと目をやるとなだらかな下り坂が海まで続いていた。
どうやら海岸沿いの丘の上に作られた村らしい、そして海側を警戒しているということは海沿いになんらかの脅威が存在するということなのだろう。
家の数は見渡した限り四~五十といったところだろうか、見た感じの印象でしか数えていないから多少見積もりは多めかもしれない。
遠くには森を切り開いて作られたと思われる畑とその中を流れてゆく水量の豊富な川。
緩やかな流れなのに随分と綺麗な川だ、畑の方もよく育っているのか綺麗な黄金色を湛えており収穫の時期を近く控えているだろうことが見て取れる。
「随分とのどかというか、平和な感じねぇ……川も随分と綺麗だわ」
「この村は水神でもあるエウリュアレ様の祝福を受けていますから、水に関してはとても豊かですね。川魚も豊富ですので、よろしければ後ほどご馳走させていただきます」
「う、うん」
あれ、気のせいかな? 平和云々についてはさらっとスルーされた気がするぞ?
しかしエウリュアレか……大樹世界で序盤の頃に供物を備えろってクエストがあったなぁ。
さすがに同一の神とまでは思わないけど、大樹世界のキャラで今ここに私がいることを考えると何かしらの関連性はあるのかもしれない。
供物は任意の動物一体とその年の収穫祭で一番収穫量が多かった作物、ランダムテーブルで決定されていたっけ、懐かしいなぁ。
豊穣神としての性格は同じなのだろうか。
ノフィカに案内されるままに村の道をあるいていると時折村人とすれ違う、最初はノフィカに挨拶し、そして視線が私に移ってそれがすれ違った後も少し続く。
そこまで大きくない村だからよそ者が珍しいのだろう、あまりジロジロ見られるわけではないのだが少し居心地が悪い。
そうして歩いていると幾つか気がつくこともできてくる。
その一つがどこの家にも立て掛けられている木製のかなり堅牢な作りの柵。
その場に設置されているわけではなく動かせるようになっているようだが、それにしても数人がかりだろう。
家の数分あることを考えると有事の際に集めて籠城するためのバリケードにでもするのだろうか。
だとすると確かに平和とかスルーされるかもしれない。
まぁ、私が関わることはない話かもしれないが。
……ないといいなぁ。
そして気になることはもう一つあった。
神殿と村の家屋で建築様式、あるいは建築技術というべきだろうか、それが同じものとはおもえないのだ。
別に家屋がしょぼいというわけではなく、神殿の作りが異常という方がいいだろうか。
これはもう、介入されてるんだろうね。
「ねぇノフィカさん、あの神殿はあなたたちが作ったの?」
「ふぇっ……いえ、十年前に突然現れたと聞いています」
「……は?」
この世界の神殿って突然現れるものなのかー、ってんなわきゃねぇだろぅ?
「まだエウリュアレ村が開拓初期だった頃に光の柱が降り注いできまして、その光がおさまった時には神殿が現れていたそうです、まさしく神の御技だと大騒ぎになったとか……王都ウィルヘルムからもその光は見えましたから、よく覚えています」
マジ話なのか……。
ド派手なことするんだね、この世界の神様って。
まぁそれぐらいするなら信仰もたっぷりありそうだね。
「そのあと王都の調査隊がやってきて神殿の調査に入ったところ、水姫様が眠りについておられたということです。私が巫女としてお世話をするようになったのは七年ほど前になりますから、当時のことを詳しく聞きたいのであれば村長に尋ねてください」
「……ちょっとまって? それってもしかして、私はずっとあの神殿で寝ていたってこと?」
神殿で目覚めた時の私の格好も見られてた!?
やばい、もしそうだとしたらすごく恥ずかしいぞ。
「はい、少なくとも私がお勤めを始めてから今日まではずっとそうでしたが」
見られていましたか……うん、忘れよう。
それはさておき、気になることがどんどんと増えてゆく。
どうしたものかねえ。
「リーシア様、何か聞きたいことがあれば遠慮なくお尋ねください。私が答えられることは多くないかもしれませんが」
「あ、ああ、うん。ありがとう」
そう答えながらも、迂闊なことを聞くと変に思われそうで気にして聞けないっていうか。
そんなことを考えながら歩いているとまた一人村人とすれ違う。
先ほどの村人もそうだったけれど、私に視線を向けつつすれ違っていく。
その村人の腰に長剣が下げられているのに気づき、私はそちらに視線を奪われる。
少なくとも剣を使う人がいるということか。
いや、私も下げてるんだけどさ。
「何かしら気になるものでもありましたか?」
「ああ、剣だなーって?」
「リーシア様も下げてるじゃないですか。珍しいものでもないと思いますが……?」
そうか、珍しくはないのか。
私にとっては刀とか意外じゃ初めて見るんだけどね。
魔法があるのかとか聞いてみたいけど当たり前にあったら不審がられそうだしなぁ……。
彼女の中で私がどういう位置づけなのか漠然としすぎててどうしたものか。
そうか、それを聞けばいいのか。
「そういえばさっきあなた私を水姫って呼んだけど、それってどういう 意味なのかしら?」
彼女たちが勝手に呼んでいる呼称だとするのなら、これは聞いても不審がられないはずだ。
「あ、えっと……私たちは十年前から水神エウリュアレ様を信仰していますが、その神殿と一緒に現れたリーシア様をエウリュアレ様の使いと認識しております。エウリュアレ様は水と豊作を司る神様なので、その神の使いを指して水姫と呼称するんです。お名前もわかりませんでしたから……」
なるほど、名前がわからないから想定する性質から仮称していたというわけか。
そういえばステータスにも神性ってスキルがあったなぁ。
私の現状が少なくとも神様の手が入っていることはもう確定ですねー、ハハッ。
せめてお決まりの転生前の説明ぐらいつけてから送って欲しかったなー。
一抹の不安を残しつつ足は進み続け、村長の家と思わしき村にある家屋の中で一つ立派な建物が近づいてくるのだった。
建物自体はそれなりに大きく立派な作りではあるのだが、基本的にここに来るまでに見た家屋と大きな違いはない。
村長の宅と言う割には質素な感じだ。
玄関周りの花壇に植えられている花もいくらか摘み取られた跡があり、摘み取り方が枯葉を除いて手入れしたものではなく、ハーブのような独特の匂いが漂ってくるところから実用的なものなのかもしれない。
家の前には井戸があり、その周辺に椅子代わりに使われているのだろう半分に切った丸太と、ステージに良さそうな切り株。
見たところ村の集会場のように使われているのだろうが、今は誰もいない。
周りをもの珍しそうに見回す私をよそにノフィカは村長宅の扉を開いて家の中に呼びかけていた。
すこしして現れたのは、生え際がだいぶ後退した六十ぐらいの男性だった。
他の村人に比べると着ているものはやや上等で、なるほど言われてみれば村長のとか、それなりの立場にいるような雰囲気を持っている。
「おや、ノフィカではないか。どうしたね、昼食にはまだ早い時分だがなにかあったか?」
「村長、リーシア様……水姫様がお目覚めになりましたのでご案内してきました」
そう言ってノフィカが視線を私の方に向け、つられて村長と目が合った。
村長が息を呑み、表情を驚きのものへと変える。
それが少しして落ち着くと彼は私の前に近づいてきてそのまま跪いた。
「十年前と変わらぬお顔、変わらずお美しくございます。お待ちしておりました水姫様、いやリーシア様とお呼びするべきでしょうか。どうぞ、狭い家ですがおあがりください」
内心、もうそのイベントはいいよという気分でいっぱいだった。
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