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氷樹の森の大賢者
10.刻印魔術講座~初級~
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夕餉を終えたあとゼフィアに頼んでユナさんの家まで案内してもらう。
彼も同じくユナさんに用事があったらしいのだが、ついでということに快諾はしてもらえず、むしろできれば日を変えてくれないかなぁと露骨に言われる始末だった。
私何かしたかな?
ユナさんの家、村はずれの2階建ての家は独特な形状をしていた。
屋根が階段と花壇でできているのだ。
その周囲にも家庭菜園よろしく大量の草花が植えられている。
ハーブ臭のするものから何から一通り、私が見たところでは朱霊草ほのかに白霊草も育っている。
もしかしたら中にはもっとレアなものも育っているのかもしれない。
なんとなく予想はしていたのだが、村医者みたいな位置にいる人なのだろう。
となると他の草花も薬になるものなのかな。
ドアを叩けば中から返事が帰ってきた。
それを聞いてゼフィアが中に入っていくので私もついて中に入る。
部屋の奥、暖炉の前の揺り椅子に腰掛けて本を片手にユナさんはくつろいでいた。
「来たようだね。毎日頑張るじゃないかゼフィア、とはいえそろそろ成長を見せて欲しいところだがねぇ」
「……おう」
「柄にもなく緊張しちまってまぁ、借りてきた猫みたいになってんじゃないよ。今日はリーシアの嬢ちゃんもいるんだ、ちょっと戻って復習からはじめようじゃないか。さて嬢ちゃん、刻印魔術についてはどの程度知ってるかね?」
「ノフィカが使っているのを見たぐらいで何も……」
私の知る術体系──と言って良いのかわからないけれど──とは異なっているということぐらいだろうか。
そちらについて今私が説明できることは何もない。
「そうかい、それじゃあ基礎的なところから話そうかね。まず、刻印魔術っていうのは魂、あるいは生物の根源的なマナに結びついた魔術だと言われてる。そのため使うにはまず刻印を施す必要がある」
「刺青みたいなものですか?」
「たとえとしては適切かもしれんが、肉体的なものじゃない。魂に直接刻印を施すんだ、このため人が使える刻印の数には制限がある、魂の許容量とでも言えばいいかね。素質があるもので八つかそこら、歴史上の記録で見るなら十二が最大かね、並の人なら四つぐらい、素養がなければ一つか二つが良いところで、それ以上の刻印を施すことはできない」
ファンタジーによくある、幾つもの属性を同時に扱えないとかその辺の制約に近い感じだろうか。
しかし魂に刻印とか不思議な技術だねぇ。
私の場合たぶんそこ免除されてそうだけど。
【刻印開放】により全使用制限が解除されています。
という文言がステータスにあったしね。
「刻印にも種類があって、それによって使える術が変わってくる。ここの制限は未だに詳しくわかっていないんだけどね。私が学んでいた頃の記憶でいうなら、基礎四刻印と上位四刻印、それに変幻十六刻印で二十四種の刻印があったはずだ。増えてなければだけどね」
「結構多いんですね?」
「多いとも言えるし少ないとも言える。そして刻印は前提条件に過ぎない、刻印魔術を使うにはそれとは別の知識と技術がいる、こんなふうにね」
そう言ってユナさんが手を上げると空中に光の粒子が集まりだす。
ノフィカが刻印魔術を使った時と同じように、それは印を刻み始める。
極簡単な図形を描いた粒子はすぐに消えてそこに光の玉が浮かぶ。
「基礎的な刻印魔術の一つさ。刻印魔術を使うためには宙に印を刻めなければならない、もちろん刻印がどのような意味を持ち、どんな効果を産むのかもある程度理解していないと満足に扱えないだろうね」
うーん、面白そうだけどどうやれば良いのかさっぱりだ。
なんとなく見よう見まねでやってみるけどもやはり再現できない。
「さてゼフィア、刻印魔術の級はいくつで、それぞれの区分けは答えられるかい?」
「うえ!? 抜き打ちかよ……」
「アホ、この程度テストとも呼べない代物さね」
いきなり話を振られたゼフィアが狼狽しているのだが、なんというかできの悪い生徒とそれをかわいがっている教師みたいな感じ。
「えっと確か6つで……初級、中級、上級、最上級と……」
答えながら言葉につまるゼフィアを見てユナさんは小さく苦笑する。
この反応も予想通りだったんだろうね。
「ま、そこまで覚えとけば問題はない。その上は極級と禁呪級だ、厳密にはその上もあるんだが今となっちゃお伽話にしか出てこない代物だから置いておこう。級の区分けは刻印を描き続けられる時間と、その出力強度にある。強い術を使おうとすると刻印のほうが持たなくなっちまうことがあるからだ」
「なるほど……」
「理解るかい?」
「……なんとなく、うまい言葉で説明はできませんが、藁と薪みたいなものでしょうか?」
私の、たぶん適切とは言えない例えにユナさんは少しだけ目を細めたあと、その意図をなんとなく受け取ったのか頷いてみせる。
「なるほど、ゼフィアよりはよほど覚えがよさそうだね、安心したよ。ゼフィアみたいな覚えの悪い教え子なんざ二人もほしくないからねぇ」
「ひどい言われようだ……」
自覚はあるようだがなんとなく落ち込んだ感じのゼフィアがぼやくが、ユナさんは気にした様子もなく話を進める。
「本当はもっと細かく話すこともあるんだが、お前さん達が必要なのは実用性だろうからそろそろ魔術の練習に入ろうか」
ということでざっくりとした説明だけを受けてゼフィアと一緒に実技となった。
「……意外と難しい」
「隣で簡単にそこまで進んで難しいとか言われると泣きそうになるんだが」
光の帯を生み出すところまではできたのだが……印を刻むことができずに四苦八苦しているのをゼフィアがジト目で見てくる。
ちなみに彼はまだ光が帯にならない、粒子の段階で霧散してしまうようだ。
例えるならゼフィアは鉛筆の持ち方がわからない感じ、私は利き腕じゃない方で字を書こうとしている感じだろうか。
綺麗に描こうとして手が震えている感じといったほうが近いかもしれない、加減が危ういんだよね。
私がこの世界の文字とか見慣れてないからなのかもしれないけどもどかしいなぁこれ……。
「覚えが良いかと思ったら変なところで不器用さね……ゼフィアはもうちょっと集中力を鍛えな、剣を握ってる時の集中力はどこへ行ってるんだい」
いるよねー、運動系にはやたら能力を発揮するのに座って勉強させると注意力散漫な子って。
本人の意志力の問題なんだろうけどさ。
……ん?
「ねえ、ゼフィア。剣を握った状態で術を使おうとしたことってある?」
「無いけど……術だけで使おうとしてもダメなのに気を散らしたらまずくないか?」
「ものは試してちょっとこれ持って剣先に意識集中する感じでやってごらんよ」
そう言って練習用の木製短剣を渡してみる。
ユナさんはその手があったか、という様子で顛末を見届けるつもりのようで何も言わない。
ゼフィアは意識が剣に偏ってる感じがするから案外これでうまくいくんじゃなかろうか。
訝しげながらも木製短剣を構え意識を集中するゼフィアだったが、程なくして剣先に光の帯が生まれ、それを動かしても霧散することなく軌跡を描けることが判明したのだった。
確認してみるとゼフィアのステータスに【刻印魔術(初級):抜剣中限定】と追加されている。
抜剣中限定って……この子は。
「おおおお、使えてる、使えてる!」
「魔術師が補助具として指輪や杖を使うことはあるが、ここまでうまく行くとはねぇ……あー、ゼフィア、盛り上がってるところ悪いが補助具なしでも使えるように練習だけはしとくんだよ?」
ユナさんの言ったことが聞こえているのか怪しいゼフィアだった。
それはともかくとして、私も何かしらちゃんと使えるようにする手段を考えないといけないねぇ。
「はあ、聞こえてないねこれは……嬢ちゃん、もうしわけないが今日の所はここでお開きでかまわないかい? あたしゃこれからこの馬鹿をちょっと落ち着かせにゃならん」
「……大変ですね」
「ノフィカのことがあるからよほどなんだろうさ、さっさとくっついてくれりゃ私としても一安心なんだがねぇ」
こっちでも公認なんだね。
ユナさんに挨拶して、はしゃぎ回るゼフィアを見送りながら帰路につくことにした。
クロウが口を開いたのはその頃だ。
『お嬢様ならあのような魔術を学ばなくとも十分な強さを備えていると思うのですが』
そうか、まだ私の置かれてる状況を詳しく話していなかった、クロウは私がゲーム時代の魔法全般と上位の剣術スキルが扱えなくなっていることを知らないのだ。
話したらそれはそれで一悶着ありそうだな。
(この世界の魔術は生活に直結してるものが多いみたいだから、学ぶ価値はあると思ってるわよ。他に理由もあるしね)
『お嬢様に理由があるのであればとやかくは申しませんが……ふむ、たしかに生活に直結した術というは見たことがありませんね。思えば私たちは戦闘にばかり力を使っていた気がします』
ゲームがそういう世界観だったんだから仕方ないね。
魔法や魔術といったものがその世界に直結して有益な技術であれば、もっと人の生活に根ざしていて当たり前なのだろうけど。
(とりあえず戻ったらいろいろ聞きたいこともあるし、話しておきたいこともあるし、時間を取りましょう。小屋に皆を出せるかっていうと難しそうだけど……)
永祈とか16人パーティ全員が搭乗できる大型移動用騎乗獣だったから、まず間違いなく小屋に入らないだろうし。
森の中で出したとしても村の見張り台から見つかってしまえば大騒ぎになることは間違いない。
そう考えると永祈を呼び出してあげられる時というのがなかなか無いかもしれないな。
『話すだけでしたら待機状態で召喚なされてはいかがです?』
(待機状態……そんなのあったっけ?)
『憑依の一つ手前の状態です、そういえば使われたことは無かったですね』
たぶん今の世界だからできることなんだろう、手段があるというのに越したことはない。
小屋に戻ったら早速ためしてみることにしようと考えつつ暗がりの中を歩くのだが、その時耳に残る草をかき分ける音がした。
音の方を見てみるが明かりはない。
この時間に村の人が明かりもなしにうろつくとは思えない、わざわざ明かりを消して隠れる必要など尚更無いだろう。
となれば音の出処は村人ではない。
(……何かいる?)
『そのようです、この匂いは亜人種ですな』
……ちょっとまて、お前その状態で匂いわかるのか?
わ、私臭わないよね?
『斥候かなにかでしょう、そこまで明確な悪意は感じませんが捨て置くのも好ましくないかと』
(試してみるか……)
『刻印魔術ですか?』
(うん、少し上に向けて【風】を使うぐらいなら失敗したり過剰威力でも被害はないでしょう)
インベントリから風羽という、名前の通り風の属性を持つ短剣を取り出す。
ゲーム時代に風系魔法を使うときに消費MPを軽減する効果を持っていたこれならば、補助具としての機能を果たすだろうと言う理由だ。
ゼフィアがただの木剣であそこまで上手く術を使えたのなら、ゲーム時代の補助具は相当な補正をかけてくれるだろうと当て込んでのことである。
風羽を構え、剣先に意識を集中する。
魔剣の賢者の矜持ゆえか、剣を構えていると不思議と集中力が増す気がする。
私もゼフィアと同じかもしれんね。
刻む印は最も簡単なもの、風を起こす程度のことしかできない代物だが、それをある程度収束するイメージで思い描く。
生まれた光の帯が軌跡を描きその力を発揮するまで、ほんの数秒。
次の瞬間生まれたのは、風なんて表現が生ぬるい暴風だった。
ある程度草原の上を突風を吹かせて脅かしてやろう、ぐらいだったというのに、生まれた暴風は草をなぎ倒し、一部の草を地面ごと引きちぎり傷跡を生み出していく。
表面をえぐるという表現が近いだろうか。
──きゃいいいぃぃん……ん……
なんていう遠ざかっていく小型犬の鳴き声が聞こえ、そのあとあたりが静まり返る。
これはやってしまったかもしれん。
『さすがお嬢様』
なんてクロウの言葉を聞き流し、村の人が聞きつけてやってくる前に私はそそくさと小屋めがけて逃げ出すことにした。
「あー……大事にならなくてよかった。さて、それじゃ皆呼び出してみて話をしようか」
小屋のサイズも考えて御鏡から試してみたが、皆クロウと同じように憑依状態のような形で呼び出すことができた。
これで話ができると思ったのだがそううまくいく話でもなかったらしい。
『ちょっとクロウ、あたしを差し置いて姉様の側にべったりとかふざけんじゃないわよ!』
『落ち着かぬか御鏡、姫にも考えがあってのことであろう』
『それはわかってるけどむーかーつーくー!』
『ピュールルルルルル』
『永祈おちつけ、嬉しいのはわかるがはしゃぐな』
皆こんなにキャラ濃かったけかなぁ。
カーバンクルの御鏡に、グリフォンのエリアル、そしてジズの永祈。
フェンリルのクロウと合わせて私の持つ契約獣が一堂に会している
そして御鏡が思いの外うるさいタイプだ、イメージと違うなぁ……なんかかってに、もっとツンとしたタイプだとおもってたんだけど。
永祈はしゃべれないみたいだ、ゲーム時代とそのへんは同じなのかもしれない。
『ともあれ、また皆が揃いましたな。それでお嬢様、話と言うのは?』
「話すと長いんだけどもねぇ」
そう言って私は今のところわかっていることについて話を始めるのだった。
彼も同じくユナさんに用事があったらしいのだが、ついでということに快諾はしてもらえず、むしろできれば日を変えてくれないかなぁと露骨に言われる始末だった。
私何かしたかな?
ユナさんの家、村はずれの2階建ての家は独特な形状をしていた。
屋根が階段と花壇でできているのだ。
その周囲にも家庭菜園よろしく大量の草花が植えられている。
ハーブ臭のするものから何から一通り、私が見たところでは朱霊草ほのかに白霊草も育っている。
もしかしたら中にはもっとレアなものも育っているのかもしれない。
なんとなく予想はしていたのだが、村医者みたいな位置にいる人なのだろう。
となると他の草花も薬になるものなのかな。
ドアを叩けば中から返事が帰ってきた。
それを聞いてゼフィアが中に入っていくので私もついて中に入る。
部屋の奥、暖炉の前の揺り椅子に腰掛けて本を片手にユナさんはくつろいでいた。
「来たようだね。毎日頑張るじゃないかゼフィア、とはいえそろそろ成長を見せて欲しいところだがねぇ」
「……おう」
「柄にもなく緊張しちまってまぁ、借りてきた猫みたいになってんじゃないよ。今日はリーシアの嬢ちゃんもいるんだ、ちょっと戻って復習からはじめようじゃないか。さて嬢ちゃん、刻印魔術についてはどの程度知ってるかね?」
「ノフィカが使っているのを見たぐらいで何も……」
私の知る術体系──と言って良いのかわからないけれど──とは異なっているということぐらいだろうか。
そちらについて今私が説明できることは何もない。
「そうかい、それじゃあ基礎的なところから話そうかね。まず、刻印魔術っていうのは魂、あるいは生物の根源的なマナに結びついた魔術だと言われてる。そのため使うにはまず刻印を施す必要がある」
「刺青みたいなものですか?」
「たとえとしては適切かもしれんが、肉体的なものじゃない。魂に直接刻印を施すんだ、このため人が使える刻印の数には制限がある、魂の許容量とでも言えばいいかね。素質があるもので八つかそこら、歴史上の記録で見るなら十二が最大かね、並の人なら四つぐらい、素養がなければ一つか二つが良いところで、それ以上の刻印を施すことはできない」
ファンタジーによくある、幾つもの属性を同時に扱えないとかその辺の制約に近い感じだろうか。
しかし魂に刻印とか不思議な技術だねぇ。
私の場合たぶんそこ免除されてそうだけど。
【刻印開放】により全使用制限が解除されています。
という文言がステータスにあったしね。
「刻印にも種類があって、それによって使える術が変わってくる。ここの制限は未だに詳しくわかっていないんだけどね。私が学んでいた頃の記憶でいうなら、基礎四刻印と上位四刻印、それに変幻十六刻印で二十四種の刻印があったはずだ。増えてなければだけどね」
「結構多いんですね?」
「多いとも言えるし少ないとも言える。そして刻印は前提条件に過ぎない、刻印魔術を使うにはそれとは別の知識と技術がいる、こんなふうにね」
そう言ってユナさんが手を上げると空中に光の粒子が集まりだす。
ノフィカが刻印魔術を使った時と同じように、それは印を刻み始める。
極簡単な図形を描いた粒子はすぐに消えてそこに光の玉が浮かぶ。
「基礎的な刻印魔術の一つさ。刻印魔術を使うためには宙に印を刻めなければならない、もちろん刻印がどのような意味を持ち、どんな効果を産むのかもある程度理解していないと満足に扱えないだろうね」
うーん、面白そうだけどどうやれば良いのかさっぱりだ。
なんとなく見よう見まねでやってみるけどもやはり再現できない。
「さてゼフィア、刻印魔術の級はいくつで、それぞれの区分けは答えられるかい?」
「うえ!? 抜き打ちかよ……」
「アホ、この程度テストとも呼べない代物さね」
いきなり話を振られたゼフィアが狼狽しているのだが、なんというかできの悪い生徒とそれをかわいがっている教師みたいな感じ。
「えっと確か6つで……初級、中級、上級、最上級と……」
答えながら言葉につまるゼフィアを見てユナさんは小さく苦笑する。
この反応も予想通りだったんだろうね。
「ま、そこまで覚えとけば問題はない。その上は極級と禁呪級だ、厳密にはその上もあるんだが今となっちゃお伽話にしか出てこない代物だから置いておこう。級の区分けは刻印を描き続けられる時間と、その出力強度にある。強い術を使おうとすると刻印のほうが持たなくなっちまうことがあるからだ」
「なるほど……」
「理解るかい?」
「……なんとなく、うまい言葉で説明はできませんが、藁と薪みたいなものでしょうか?」
私の、たぶん適切とは言えない例えにユナさんは少しだけ目を細めたあと、その意図をなんとなく受け取ったのか頷いてみせる。
「なるほど、ゼフィアよりはよほど覚えがよさそうだね、安心したよ。ゼフィアみたいな覚えの悪い教え子なんざ二人もほしくないからねぇ」
「ひどい言われようだ……」
自覚はあるようだがなんとなく落ち込んだ感じのゼフィアがぼやくが、ユナさんは気にした様子もなく話を進める。
「本当はもっと細かく話すこともあるんだが、お前さん達が必要なのは実用性だろうからそろそろ魔術の練習に入ろうか」
ということでざっくりとした説明だけを受けてゼフィアと一緒に実技となった。
「……意外と難しい」
「隣で簡単にそこまで進んで難しいとか言われると泣きそうになるんだが」
光の帯を生み出すところまではできたのだが……印を刻むことができずに四苦八苦しているのをゼフィアがジト目で見てくる。
ちなみに彼はまだ光が帯にならない、粒子の段階で霧散してしまうようだ。
例えるならゼフィアは鉛筆の持ち方がわからない感じ、私は利き腕じゃない方で字を書こうとしている感じだろうか。
綺麗に描こうとして手が震えている感じといったほうが近いかもしれない、加減が危ういんだよね。
私がこの世界の文字とか見慣れてないからなのかもしれないけどもどかしいなぁこれ……。
「覚えが良いかと思ったら変なところで不器用さね……ゼフィアはもうちょっと集中力を鍛えな、剣を握ってる時の集中力はどこへ行ってるんだい」
いるよねー、運動系にはやたら能力を発揮するのに座って勉強させると注意力散漫な子って。
本人の意志力の問題なんだろうけどさ。
……ん?
「ねえ、ゼフィア。剣を握った状態で術を使おうとしたことってある?」
「無いけど……術だけで使おうとしてもダメなのに気を散らしたらまずくないか?」
「ものは試してちょっとこれ持って剣先に意識集中する感じでやってごらんよ」
そう言って練習用の木製短剣を渡してみる。
ユナさんはその手があったか、という様子で顛末を見届けるつもりのようで何も言わない。
ゼフィアは意識が剣に偏ってる感じがするから案外これでうまくいくんじゃなかろうか。
訝しげながらも木製短剣を構え意識を集中するゼフィアだったが、程なくして剣先に光の帯が生まれ、それを動かしても霧散することなく軌跡を描けることが判明したのだった。
確認してみるとゼフィアのステータスに【刻印魔術(初級):抜剣中限定】と追加されている。
抜剣中限定って……この子は。
「おおおお、使えてる、使えてる!」
「魔術師が補助具として指輪や杖を使うことはあるが、ここまでうまく行くとはねぇ……あー、ゼフィア、盛り上がってるところ悪いが補助具なしでも使えるように練習だけはしとくんだよ?」
ユナさんの言ったことが聞こえているのか怪しいゼフィアだった。
それはともかくとして、私も何かしらちゃんと使えるようにする手段を考えないといけないねぇ。
「はあ、聞こえてないねこれは……嬢ちゃん、もうしわけないが今日の所はここでお開きでかまわないかい? あたしゃこれからこの馬鹿をちょっと落ち着かせにゃならん」
「……大変ですね」
「ノフィカのことがあるからよほどなんだろうさ、さっさとくっついてくれりゃ私としても一安心なんだがねぇ」
こっちでも公認なんだね。
ユナさんに挨拶して、はしゃぎ回るゼフィアを見送りながら帰路につくことにした。
クロウが口を開いたのはその頃だ。
『お嬢様ならあのような魔術を学ばなくとも十分な強さを備えていると思うのですが』
そうか、まだ私の置かれてる状況を詳しく話していなかった、クロウは私がゲーム時代の魔法全般と上位の剣術スキルが扱えなくなっていることを知らないのだ。
話したらそれはそれで一悶着ありそうだな。
(この世界の魔術は生活に直結してるものが多いみたいだから、学ぶ価値はあると思ってるわよ。他に理由もあるしね)
『お嬢様に理由があるのであればとやかくは申しませんが……ふむ、たしかに生活に直結した術というは見たことがありませんね。思えば私たちは戦闘にばかり力を使っていた気がします』
ゲームがそういう世界観だったんだから仕方ないね。
魔法や魔術といったものがその世界に直結して有益な技術であれば、もっと人の生活に根ざしていて当たり前なのだろうけど。
(とりあえず戻ったらいろいろ聞きたいこともあるし、話しておきたいこともあるし、時間を取りましょう。小屋に皆を出せるかっていうと難しそうだけど……)
永祈とか16人パーティ全員が搭乗できる大型移動用騎乗獣だったから、まず間違いなく小屋に入らないだろうし。
森の中で出したとしても村の見張り台から見つかってしまえば大騒ぎになることは間違いない。
そう考えると永祈を呼び出してあげられる時というのがなかなか無いかもしれないな。
『話すだけでしたら待機状態で召喚なされてはいかがです?』
(待機状態……そんなのあったっけ?)
『憑依の一つ手前の状態です、そういえば使われたことは無かったですね』
たぶん今の世界だからできることなんだろう、手段があるというのに越したことはない。
小屋に戻ったら早速ためしてみることにしようと考えつつ暗がりの中を歩くのだが、その時耳に残る草をかき分ける音がした。
音の方を見てみるが明かりはない。
この時間に村の人が明かりもなしにうろつくとは思えない、わざわざ明かりを消して隠れる必要など尚更無いだろう。
となれば音の出処は村人ではない。
(……何かいる?)
『そのようです、この匂いは亜人種ですな』
……ちょっとまて、お前その状態で匂いわかるのか?
わ、私臭わないよね?
『斥候かなにかでしょう、そこまで明確な悪意は感じませんが捨て置くのも好ましくないかと』
(試してみるか……)
『刻印魔術ですか?』
(うん、少し上に向けて【風】を使うぐらいなら失敗したり過剰威力でも被害はないでしょう)
インベントリから風羽という、名前の通り風の属性を持つ短剣を取り出す。
ゲーム時代に風系魔法を使うときに消費MPを軽減する効果を持っていたこれならば、補助具としての機能を果たすだろうと言う理由だ。
ゼフィアがただの木剣であそこまで上手く術を使えたのなら、ゲーム時代の補助具は相当な補正をかけてくれるだろうと当て込んでのことである。
風羽を構え、剣先に意識を集中する。
魔剣の賢者の矜持ゆえか、剣を構えていると不思議と集中力が増す気がする。
私もゼフィアと同じかもしれんね。
刻む印は最も簡単なもの、風を起こす程度のことしかできない代物だが、それをある程度収束するイメージで思い描く。
生まれた光の帯が軌跡を描きその力を発揮するまで、ほんの数秒。
次の瞬間生まれたのは、風なんて表現が生ぬるい暴風だった。
ある程度草原の上を突風を吹かせて脅かしてやろう、ぐらいだったというのに、生まれた暴風は草をなぎ倒し、一部の草を地面ごと引きちぎり傷跡を生み出していく。
表面をえぐるという表現が近いだろうか。
──きゃいいいぃぃん……ん……
なんていう遠ざかっていく小型犬の鳴き声が聞こえ、そのあとあたりが静まり返る。
これはやってしまったかもしれん。
『さすがお嬢様』
なんてクロウの言葉を聞き流し、村の人が聞きつけてやってくる前に私はそそくさと小屋めがけて逃げ出すことにした。
「あー……大事にならなくてよかった。さて、それじゃ皆呼び出してみて話をしようか」
小屋のサイズも考えて御鏡から試してみたが、皆クロウと同じように憑依状態のような形で呼び出すことができた。
これで話ができると思ったのだがそううまくいく話でもなかったらしい。
『ちょっとクロウ、あたしを差し置いて姉様の側にべったりとかふざけんじゃないわよ!』
『落ち着かぬか御鏡、姫にも考えがあってのことであろう』
『それはわかってるけどむーかーつーくー!』
『ピュールルルルルル』
『永祈おちつけ、嬉しいのはわかるがはしゃぐな』
皆こんなにキャラ濃かったけかなぁ。
カーバンクルの御鏡に、グリフォンのエリアル、そしてジズの永祈。
フェンリルのクロウと合わせて私の持つ契約獣が一堂に会している
そして御鏡が思いの外うるさいタイプだ、イメージと違うなぁ……なんかかってに、もっとツンとしたタイプだとおもってたんだけど。
永祈はしゃべれないみたいだ、ゲーム時代とそのへんは同じなのかもしれない。
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その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
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