ハナサクカフェ

あまくに みか

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青木華の場合

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 「勝手なことして、ごめんなさい。あなたの、旦那様からよ」
 手紙を受け取って、封を開くと、中には写真と小さなメモが入っている。
 「咲翔…」
 涙が溢れた。あたたかい涙が、いっぱい。
 写真の中の咲翔は、大きくなっている。男の子らしい顔つきだ。笑った顔は、ハナに似ているような気がする。手に持っている画用紙には、水色と緑色のクレヨンでくちゃくちゃっと何かを描いている。
 水色と緑色、まだ好きなんだ。ハナは懐かしく思った。
 写真と一緒に同封されていたメモには、
 
 『お母さんの絵、だそうです。真彦』

 と書かれていた。
 写真を握りしめたまま、声をあげて泣いた。


 「お節介ババアと思ってもらって、構わないわ。ハナさんの話を初めて聞いた時から、どうにかしてあげたいと、探偵を雇ったの。それで、旦那様に会いに行ったわ。ハナさんが、どう思っていたのか、今は何をしているのか…」
 櫻子さんは手を床について、頭を下げた。
 「勝手な事をして、申し訳ありませんでした。許してちょうだい」
 「やめて下さい…。櫻子さんには、感謝しかありません」
 ハナの居場所を作ってくれた。仕事を与えてくれた。そして、もう一度、咲翔に会えるチャンスをくれた。
 「ありがとうございます」
 写真を胸に抱き、ハナは深く頭を下げた。



 日曜日。ハナサクカフェは定休日だったが、ドアの看板には「貸切り」と書かれていた。
 ドアを閉める前に、ハナは、かなえさんに手を振った。「がんばって」と小声で言って、ドアを静かに閉めた。
 かなえさんの旦那さんは、朝一番に慌てた様子で、ハナサクカフェにやってきた。のり子さんに小言を言われ、大きい体が縮こまっていた。
 今、二人はカウンター席に座って、お茶を飲んでいる。かなえさんは、笑顔だった。話し合いという雰囲気より、デートしているような後ろ姿だった。
 よかった、あの二人はもうきっと、大丈夫。


 ハナは電車に乗った。
 真彦さんは、実家にいなかった。一駅先の街に住んでいるそうだ。
 車窓から見える街が、やさしく流れていく。夏と秋の間。少し、爽やかになってきた空気が、心地よかった。
 駅に着く前に、スマホを取り出して、もう一度住所を確認する。朝、届いた真彦さんからのメールには、咲翔の写真と「お母さん、待ってます」の言葉があった。

 電車のドアが開いて、ハナは大きく一歩を踏み出した。
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