21 / 24
青木華の場合
5
しおりを挟む
「勝手なことして、ごめんなさい。あなたの、旦那様からよ」
手紙を受け取って、封を開くと、中には写真と小さなメモが入っている。
「咲翔…」
涙が溢れた。あたたかい涙が、いっぱい。
写真の中の咲翔は、大きくなっている。男の子らしい顔つきだ。笑った顔は、ハナに似ているような気がする。手に持っている画用紙には、水色と緑色のクレヨンでくちゃくちゃっと何かを描いている。
水色と緑色、まだ好きなんだ。ハナは懐かしく思った。
写真と一緒に同封されていたメモには、
『お母さんの絵、だそうです。真彦』
と書かれていた。
写真を握りしめたまま、声をあげて泣いた。
「お節介ババアと思ってもらって、構わないわ。ハナさんの話を初めて聞いた時から、どうにかしてあげたいと、探偵を雇ったの。それで、旦那様に会いに行ったわ。ハナさんが、どう思っていたのか、今は何をしているのか…」
櫻子さんは手を床について、頭を下げた。
「勝手な事をして、申し訳ありませんでした。許してちょうだい」
「やめて下さい…。櫻子さんには、感謝しかありません」
ハナの居場所を作ってくれた。仕事を与えてくれた。そして、もう一度、咲翔に会えるチャンスをくれた。
「ありがとうございます」
写真を胸に抱き、ハナは深く頭を下げた。
日曜日。ハナサクカフェは定休日だったが、ドアの看板には「貸切り」と書かれていた。
ドアを閉める前に、ハナは、かなえさんに手を振った。「がんばって」と小声で言って、ドアを静かに閉めた。
かなえさんの旦那さんは、朝一番に慌てた様子で、ハナサクカフェにやってきた。のり子さんに小言を言われ、大きい体が縮こまっていた。
今、二人はカウンター席に座って、お茶を飲んでいる。かなえさんは、笑顔だった。話し合いという雰囲気より、デートしているような後ろ姿だった。
よかった、あの二人はもうきっと、大丈夫。
ハナは電車に乗った。
真彦さんは、実家にいなかった。一駅先の街に住んでいるそうだ。
車窓から見える街が、やさしく流れていく。夏と秋の間。少し、爽やかになってきた空気が、心地よかった。
駅に着く前に、スマホを取り出して、もう一度住所を確認する。朝、届いた真彦さんからのメールには、咲翔の写真と「お母さん、待ってます」の言葉があった。
電車のドアが開いて、ハナは大きく一歩を踏み出した。
手紙を受け取って、封を開くと、中には写真と小さなメモが入っている。
「咲翔…」
涙が溢れた。あたたかい涙が、いっぱい。
写真の中の咲翔は、大きくなっている。男の子らしい顔つきだ。笑った顔は、ハナに似ているような気がする。手に持っている画用紙には、水色と緑色のクレヨンでくちゃくちゃっと何かを描いている。
水色と緑色、まだ好きなんだ。ハナは懐かしく思った。
写真と一緒に同封されていたメモには、
『お母さんの絵、だそうです。真彦』
と書かれていた。
写真を握りしめたまま、声をあげて泣いた。
「お節介ババアと思ってもらって、構わないわ。ハナさんの話を初めて聞いた時から、どうにかしてあげたいと、探偵を雇ったの。それで、旦那様に会いに行ったわ。ハナさんが、どう思っていたのか、今は何をしているのか…」
櫻子さんは手を床について、頭を下げた。
「勝手な事をして、申し訳ありませんでした。許してちょうだい」
「やめて下さい…。櫻子さんには、感謝しかありません」
ハナの居場所を作ってくれた。仕事を与えてくれた。そして、もう一度、咲翔に会えるチャンスをくれた。
「ありがとうございます」
写真を胸に抱き、ハナは深く頭を下げた。
日曜日。ハナサクカフェは定休日だったが、ドアの看板には「貸切り」と書かれていた。
ドアを閉める前に、ハナは、かなえさんに手を振った。「がんばって」と小声で言って、ドアを静かに閉めた。
かなえさんの旦那さんは、朝一番に慌てた様子で、ハナサクカフェにやってきた。のり子さんに小言を言われ、大きい体が縮こまっていた。
今、二人はカウンター席に座って、お茶を飲んでいる。かなえさんは、笑顔だった。話し合いという雰囲気より、デートしているような後ろ姿だった。
よかった、あの二人はもうきっと、大丈夫。
ハナは電車に乗った。
真彦さんは、実家にいなかった。一駅先の街に住んでいるそうだ。
車窓から見える街が、やさしく流れていく。夏と秋の間。少し、爽やかになってきた空気が、心地よかった。
駅に着く前に、スマホを取り出して、もう一度住所を確認する。朝、届いた真彦さんからのメールには、咲翔の写真と「お母さん、待ってます」の言葉があった。
電車のドアが開いて、ハナは大きく一歩を踏み出した。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる