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2章 ポラリス
鳥に願いを
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もうすぐ、6月が来ようとしている。憂鬱な月。
ずっと、秋が続けばいいのにと思う。食べ物も美味しいし、過ごしやすい気候だ。何より紅葉が好きだ。枯れてしまう前に、燃えるような赤を見せつけて、散っていくのだから。
「梅雨、猛暑。秋まで道のりが長いわね」
かき上げた前髪が、さらりとサイドから戻ってくる。
窓側のディスプレイには、例の「恋を運ぶ鳥」が外を眺めている。ぷっくり太って、淡い色合いが可愛らしい。
ポロロン、ポロロン。
「いらっしゃいませ」
入ってきた人物をみて、私は優しく微笑む。あの女子校生だった。彼女は私を見つけると、真っ直ぐにレジカウンターに近づいてくる。
「入荷していますよ」
私は窓側のディスプレイを指差す。振り返って、彼女は鳥の置物を確認する。
「ちょっとした違いですけれど、表情が1羽1羽少し違うので、もしお時間あればゆっくりご覧になってください」
そう言って、まだ陳列されていない、箱に入っている鳥たちも彼女に見せる。
「えー、どうしよう」
彼女は嬉しい悲鳴をあげた。その時初めて、彼女の年相応な反応を見た気がした。少し唇をとんがらせて、真剣に悩むその横顔は、鳥の置物と似ていて微笑ましい。
「決めた。この子と、この子にする」
右手と左手に1羽ずつのせ、彼女は満足そうに笑う。2羽買うのかと、少し驚かされると同時に、こちらが勝手に1羽だろうと決めつけていたことに、反省する。
「こっちの子は、プレゼント用でお願いします」
差し出された方を大切にお預かりし、包装に取りかかった。包装している間も、彼女は鳥が包まれていくのをじっと見守っている。その表情が、やはり曇っているように感じた。
「お友達の分ですか?」
「えっ?」
話しかけると、彼女は驚いて目を見開いた。そして、はにかんだような困った笑顔を見せた。
「友達……なのかな」
私は、手を止める。
「好きな人に、あげるんです」
そう言って、彼女は前髪を撫でつけた。
「私の好きな人には、好きな女の子がいて……。学校も違うし、予備校でしか、その人に会えないから。なんとか話がしたくて。話を続けたくて。恋愛の相談なんかに、のってる」
私を見上げて彼女は、えへへっと小さく笑った。
「不細工な顔の子を選んでやろうって思ったけど、みんな可愛いんだもん。ちょっとズルい」
まゆ毛が八の字に下がる。それでも、鳥を見つめる視線は、愛しいものを見つめる瞳だった。
外から入る、5月の終わりの日差しが、光と影になって店内をちらちらと輝かせていた。
「ありがとうございました」
女子校生は、ポラリスの紙袋をぶら下げて店を出た。制服のスカートが、ひらりと扉の向こうに吸いこまれていくのを、私は黙って見送った。
残された鳥の頭を、1羽ずつ指の腹で撫でてやる。
好きな人と好き同士になる。
たったそれだけのことが、難しくて、占いやおまじないに頼ってしまう。相手の表情に一喜一憂して、連絡が来ないかと、携帯電話を握りしめる。
「そんな日が……私にもあった、かな」
制服の女子校生に、かつての自分を重ね合わせてみる。大人になった今では、些細なことだったと思う。けれども、あの時はそれが、世界の全てだった。
「いい恋を、運んであげてね」
ぷりっとふくれた鳥たちに頼んでみる。今日は暖かい日だ。
雨は、降りそうにない。
ずっと、秋が続けばいいのにと思う。食べ物も美味しいし、過ごしやすい気候だ。何より紅葉が好きだ。枯れてしまう前に、燃えるような赤を見せつけて、散っていくのだから。
「梅雨、猛暑。秋まで道のりが長いわね」
かき上げた前髪が、さらりとサイドから戻ってくる。
窓側のディスプレイには、例の「恋を運ぶ鳥」が外を眺めている。ぷっくり太って、淡い色合いが可愛らしい。
ポロロン、ポロロン。
「いらっしゃいませ」
入ってきた人物をみて、私は優しく微笑む。あの女子校生だった。彼女は私を見つけると、真っ直ぐにレジカウンターに近づいてくる。
「入荷していますよ」
私は窓側のディスプレイを指差す。振り返って、彼女は鳥の置物を確認する。
「ちょっとした違いですけれど、表情が1羽1羽少し違うので、もしお時間あればゆっくりご覧になってください」
そう言って、まだ陳列されていない、箱に入っている鳥たちも彼女に見せる。
「えー、どうしよう」
彼女は嬉しい悲鳴をあげた。その時初めて、彼女の年相応な反応を見た気がした。少し唇をとんがらせて、真剣に悩むその横顔は、鳥の置物と似ていて微笑ましい。
「決めた。この子と、この子にする」
右手と左手に1羽ずつのせ、彼女は満足そうに笑う。2羽買うのかと、少し驚かされると同時に、こちらが勝手に1羽だろうと決めつけていたことに、反省する。
「こっちの子は、プレゼント用でお願いします」
差し出された方を大切にお預かりし、包装に取りかかった。包装している間も、彼女は鳥が包まれていくのをじっと見守っている。その表情が、やはり曇っているように感じた。
「お友達の分ですか?」
「えっ?」
話しかけると、彼女は驚いて目を見開いた。そして、はにかんだような困った笑顔を見せた。
「友達……なのかな」
私は、手を止める。
「好きな人に、あげるんです」
そう言って、彼女は前髪を撫でつけた。
「私の好きな人には、好きな女の子がいて……。学校も違うし、予備校でしか、その人に会えないから。なんとか話がしたくて。話を続けたくて。恋愛の相談なんかに、のってる」
私を見上げて彼女は、えへへっと小さく笑った。
「不細工な顔の子を選んでやろうって思ったけど、みんな可愛いんだもん。ちょっとズルい」
まゆ毛が八の字に下がる。それでも、鳥を見つめる視線は、愛しいものを見つめる瞳だった。
外から入る、5月の終わりの日差しが、光と影になって店内をちらちらと輝かせていた。
「ありがとうございました」
女子校生は、ポラリスの紙袋をぶら下げて店を出た。制服のスカートが、ひらりと扉の向こうに吸いこまれていくのを、私は黙って見送った。
残された鳥の頭を、1羽ずつ指の腹で撫でてやる。
好きな人と好き同士になる。
たったそれだけのことが、難しくて、占いやおまじないに頼ってしまう。相手の表情に一喜一憂して、連絡が来ないかと、携帯電話を握りしめる。
「そんな日が……私にもあった、かな」
制服の女子校生に、かつての自分を重ね合わせてみる。大人になった今では、些細なことだったと思う。けれども、あの時はそれが、世界の全てだった。
「いい恋を、運んであげてね」
ぷりっとふくれた鳥たちに頼んでみる。今日は暖かい日だ。
雨は、降りそうにない。
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