丹生子さんと25の開かれてない謎

山の端さっど

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18とサイレンス

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 ピースをめる。電子チップが台座のパネルと反応して光る。おそらく、完成時に全てのピースが正しく配置されていればロックが解除される。ミルクパズルは慣れると難しくないし、扱いが雑だったせいで傷跡パズルにもなっている。それから……。

「安全装置」
「……」
「……はね
「……」
「あとどのくらいで終わる?」
「20分です」
「もう少し急げるか?」
「分かりました。15分で終わらせます」
「返事できるじゃないか」

 今のは返事しなくてもいい呼びかけだ。ピースを嵌める。

 丹生子にゅうこさんは10メートルほど離れて設置されたもう一つのパズルの方へ戻っていった。遊んでいるつもりもないし、たぶん「アドベント」に遊ばれているのでもない。それにしては仕掛けがきちんとしすぎている。
 手のかかる造りというだけではない。仕掛けごとロックを壊して爆弾ごと水中に沈めるよりも、犯人の思惑通りにパズルを完成させて解除する方が楽に済むように作られている。パズル自体は単純でもレベルデザインは秀逸だ。最初からほぼずっと、そう作られている。仕掛けのある倉庫内にいるのは僕らと、朱裁すだちさんだけだ。あまり危険のない現場だけど周囲を頻繁に警戒している。僕が誘拐なんてされたせいだ。

「ちなみにわたしはジグソーパズルがそんなに得意じゃなくてね。柄があっても難しい」
「……」
「だからお前にそっち早く終わらせて手伝ってほしいわけだ」

 構わない。

「まあ、お前も蜂庫はちこほどは速くないか。あいつ異常な練度だよ」

 知っている。

「……このピース、そちらのものと混ざってしまっていませんか」
「その程度の意地悪はありえるな。でも見て分かるか?」
「……」
「ああ、『置いた時に鳴る音が微妙に違う』のか。見せてみな」

 丹生子さんはこちらに来て、会いているスペースにピースを置いたり外したりする。

「とりあえず借りる」
「どうぞ」

 しばらく静かになった。
 ジグソーパズルはどんな形でもある程度カットのズレが生じる。何千というピースを全て綺麗にカットするのは不可能だし、整った形にしてしまうとピース同士を交換して置けるようになり、パズルが成り立たない。このズレ方を見るのは好きだ。普段急いでいるときには絵柄だけを見て合わせるけど、真っ白のミルクパズルだとこれも手がかりにした方が早い。それから、ヤスリのかけ忘れ部分。丁寧なのに少しだけ粗がある。ニスのかけられた予告状、仕掛けが多い時限爆弾、ピアノの鍵盤一つ一つに連動する装置、ヒント不足な謎解きツアー、「イライラ棒」、結婚式場、運要素の多い変則マインスイーパ。数日前の、木の葉に紛れた小型爆弾を探したときも感じた。アドベントの「職人」の手癖だ。確実に担当がいる。芸術家という気質ではないと思う。難易度調整はその人の担当だろうか? それとも、別のブレインがいるだろうか。計画の全体を調整するような。
 ……僕には関係のないことだけど。

「なあ安全装置。思うんだが」
「……」
音叉おんさがお前にビビって話しかけてこない現状はアドベント的にあまり良くないと思う」

 音叉……朱裁さん?
 ちょうど朱裁さんがこちらを見ている気配がしたので目を上げてみる。目が合って、明らかにらされた。

「……僕は避けられているんですか?」
「理由はさまざまだが、色んな奴から。ビビってるのは朱裁くらいだけど」
「なぜ……」
「青丹も最近静かだろ」

 青丹さんは元から物静かだ。

「わたし以外が手をこまねいてる理由を教えてやろうか。お前がなぜそこまで傷ついてるか分からないからだよ」

 手を止める。止めてはいけない。時間制限がある。また動かす。

「意味不明です」
「そうだろそうだろ。丹生子さんにしか見透せない謎だ」

 丹生子さんの見透す力エスパー読心なら何でもはっきり分かるだろう。そしてどうせまた、聞きたくない話をされる。

「つまり、須図すずのことは、お前にとって聞きたくない話だったわけだ。わたしが噂で聞いたり青丹から見たお前は、引き継ぎ中ずっと須図から暴言と皮肉と恨み言を言われていた。信頼関係なんて何も構築できてなさそうなものだが、お前にとってはそうじゃなかった」
「違います」

 須図さんは本気の悪口を僕に言ったことはないと思う。感情的になってつい口から出てしまう言葉なんて誰にでもある。僕にも。

「でも悪口じゃなくても暴言は暴言だ。悪趣味。だろ? そこは受け止められないか?」

 ……どれだけ悪く考えることも言うことも、理屈の上ではできる。

「お前の理屈や生き方を変えたいんじゃないよ。お前が困ってるから手伝ってやろうとしてるだけだ。これを機にもっと自己開示しろとか、今までの理不尽とケンカしてこいとか、お前が立ち直るきっかけをくれる人を増やせとは言わない」
「そこまで言いますか」
「言うさ。お前が今のままで悪いとは思わない。わたしは全部分かってやれるから何も困らないね。はははは」

 ……これは、良くない気がする。

「いいじゃないか。一時的な付き合いならまだしも、わたしは、お前が青丹の付き人やってる限りずっと人生につきまとってくる存在だ。頼ればいい」
「そういう、ことでは」
「じゃ言い換えよう。わたしがお前につきまとってどんどんお前のことを言語化してやる。そしてお前が知るのを諦めてることをどんどん教えてやろう。モノリスに怒られない程度に」
「何を教えるつもりですか……」

 こんな言葉で僕が元気にならないと知っていて丹生子さんは言う。このやり方は知っている。後からふっと思い出すことを目的にした言葉。

「……血もそういう意図で言いましたか」
「いや、あれは言葉の綾」

 僕は目を閉じて息を止めた。深く吐き出す。

「朱裁さんと相談してきます」
「行ってきな」
「丹生子さんはそちらを進めておいてください」
「まあ、頑張るは頑張る」



 気づいてみれば確かに、朱裁さんは話しづらそうにしていた。

「何かありましたか?」
「……俺は丹生子のパズルの近くに立っていたが、そちらからずっとピースを置くたびに妙な音がしている」
「妙な音?」
「毎度音が違うような……気がしただけかもしれない。俺は翰君ほどは聞こえないから」
「確認します。ありがとうございます」
「それから」
「はい」
「一人で現場に乗りこみたくなったとき、少しでもためらう気持ちがあったら俺に何かよこしてくれ。蜂庫より俺に。ワン切りでも、メールで一言でもいい」
「? はい、覚えておきます」
「うん……」



 音のことを丹生子さんにも話して、丹生子さん側の台座にピースをいろいろと置いてみる。

「わたしにはそこまではっきり違いが聞こえないんだが」
「僕にもそこまでおかしな音は……あ」
「何だ」
「間違ったところにピースを置くと、特定の『ハズレ音』ではなく何種類かの音になっています」

 それも、曲になりそうな。端から順番に置いてみる。

「あっ」
「なんだ、何に気づいた」
「この曲、まだ著作権フリーではないです」

 この用途で許諾を取れるわけがないので、間違いなく勝手に使っている。

「これ間違えると権利的にマズイか?」
「順番に置かなければ、いえ、たまたま鳴ってしまうのは侵害にはならないと思います」
「……謎解きに係わってると思うか?」
「いえ、今のところ順番に横に置いていくと曲が流れるだけなので役立つかは……」

 明らかに曲と違う音が混ざった。

「……訂正します。この音、二つのパズルの混ざったピースを仕分けるのに使えます」

 僕が作業していた台座で試してみる。……間違ったピースを置くと確かに曲が流れる。別の曲だ。こちらは著作権の切れたクラシック。先ほど異音がすると思って丹生子さんに渡したピースは、間違った場所に置かれたから鳴っていたらしい。正確にはどちらのピースなのかは、置いてみるしかない。

「これで作業が楽になります。正誤判定もできます」
「わたしにも一つ分かったことがあるよ。お前、さっき間違えるまでずっと台座の正しい位置にだけピース置いてたから音が変わるのに全く気づいてなかったんだな……それでこの完成度? 怖……」

 その評価には納得がいかない。

「ちなみにこの曲、どちらも片想いをテーマにした曲です。ピースの数でうまく表現できそうな中では有名なものかと」
「あ、そう。ふーん」
「他にご感想は」
「ない!」

 丹生子さんらしい。自分の口数が多くなってきていることに内心驚きながら、僕は作業を進めた。

「ところで今なぜ丹生子さんの手は止まっているんでしょうか」
「休憩だよ。ミルクパズルなんてそうそう解くもんじゃない」
「耳を台座に近づければ音の違いは聞き取れると思いますが」
「その姿勢絶対疲れるじゃないか」

 僕がもし丹生子さんに恋したとして、ラブソングを耳を寄せて聴いてほしいと思うだろうか? ありえない。思ったことは何でも、淡いうちから筒抜けになるのに。こんな遠回しなことをするのは、丹生子さんの読心の範囲内に入らないことを確信している人だけだ。

「つまりこれは、ただの趣味で『職人』が入れた遊び心だと思います。明らかなヒントにするには音が小さすぎますし」
「そっちの方が思考が理解できる?」
「はい」
「ありえるな。秘めた恋のおまじない的なやつかもしれないが」

 それは遊び心と同義だ。たぶん。

「あるいは、お前の耳なら気づくと思って仕掛けたか」

 僕は思わず丹生子さんの顔を見た。
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