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17と付き人メイトークと
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◇ヤナギ[改めまして先日は鶴姫がご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません]
◆ドール[いえ、ご心配はよく分かりますし、ジェルマは気にしていませんから。ハギコさんからも十分謝っていただきました。もう結構です。]
◇ヤナギ[かたじけないことです。今日彼女は鶴姫の捜査協力に随従しておりまして]
◆ドール[残留思念知は現場でこそ活きるでしょうね。]
◇ヤナギ[そうなのです。鶴姫は数時間しか読めないからと自分の能力を弱いと言いますが現代の捜査ならよほどでない限り3時間前までのことが一瞬で分かるというのは極めて有用です。万能と言って差し支えありません。超能力の強弱など特性を分類するためまた脅威を可視化するための非超者による第三者的評価なのですから本来我々が気にするようなものではありません]
◆ドール[ええ。分かりますよ。]
メイトのログイン通知が入り、すぐに書きこまれる。
◇ショー[すんません。遅れました]
◆ドール[ショーさん、お待ちしていました。全員揃いましたので、早速ですが始めてもよろしいですか?]
◇ショー[お願いします]
◆ドール[それでは、ハネさん。ご説明いただけますね。]
僕は[はい]と入力するしかない。文面では感情表現が伝わらないことを若干恨みながら。
◇ハネ[あの日、僕が直接確認したのはそこまでです]
青丹さんの誘拐事件について、共有が許された情報を書き連ねるのは簡単だった。血のことは言わない。倉庫を調べているうちに疲労で倒れたことにした。
入力中は誰も何も口を挟まなかった。それもそうだろう。兎月柳さんは鹿猪家に情報を持ち帰るために参加している。鐘さんからは、僕が無茶をしたに違いないから怒りに来た、と事前に個人的に連絡が来た。ドールボットさんは今回の主催だ。何も言われないときが一番恐い。
◇ハネ[次に目が覚めたのは1日以上後でした。ですので事件のその後を確認したのはだいぶ後になります]
◇ショー[須図の話は聞いてたけど、容疑者ってレベルじゃなくて直接見てたのか……]
◇ハネ[見ていません。声と他の特徴だけです]
◇ショー[どっちでもいい]
鐘さんの手心がない。
……須図さんは、主犯ではないだろう。共犯……爆弾を投げた人のように、協力して使い捨てられた実行犯の可能性が高いと蜂庫さんから聞いた。
◇ヤナギ[須図晴男の指名手配は知っていましたが、もう一人については話も出ませんでした。確認が必要ですね]
◇ドール[超能力者でしょうか?]
◇ショー[可能性はあるんじゃ? それと、調合した香水なんかをつける呪術とか部族なら鳴さんの知識で分かるかもしれないすよ]
◇ハネ[記憶から香りを再現してみます。調香するので少し時間をいただきますが]
書きこみがピタリと止まった。何だろう。
[それと、もう一つお伝えしていないことが]……
文字を打っている最中に非通知の電話が掛かってきた。スマホを手に取る。着信と全く同時にショートメッセージが送られてきている。
『テレパス使用の許可を。ドールボットには秘密で話があります。ジェルマ』
……付き人にも秘密で話をしたい。そう、書かれている。
電話に出る。
電話口からは何も聞こえてこない。僕も何も言わないまま待つ。
〈"そう、それです。そうして欲しかったのです"〉
昔は表舞台に出る超能力者もいたからか、創作における表現はかなり正確なものが多い。よく表現される陳腐なほどの表現の通り、脳内に直接声が響く。英語。独特の訛りがある。
〈"念のため名乗りを? 確かに。我はジェルマ、アナタはシゼイハネ。今皆に伝えようとしたことはまだ黙っておくべきです。証明になりますか?"〉
ありがとうございます、と念じる。どこまで深い思考が読み取れるのかは知らない。
丹生子さんの読心と同じように、ジェルマさんのテレパスは、電話で話す相手にも使える超能力だ。通信と呼ばれるものでも通用しないものもあり、仕組みははっきりしない。超能力の作用をはっきりと定義するのは不可能だ。
〈"さて、本題。アナタはニューコから聞きましたね。OK。具体的にはジョゼファス・ラッキーのことです"〉
……チャット上では、事件の状況について細かい質問が三人から投げかけられていた。兎月さんからは襲撃の状況について、鐘さんからは襲撃者の特徴について、ドールボットさんからは青丹さんについて。回答を打ちこみながらジェルマさんと対話を続ける。
◇ハネ[地点はすでにご存知かと思いますが、ビルの裏口から飛び出してきて襲撃を受けました。通り過ぎたときはドアが閉まっているように見えたのですが、ドアを開ける音はほとんど聞こえなかったので緩衝材などを噛ませてドアの開閉音が少なくなるように仕掛けられていたのだと思います。須図さんは後から出てきました]
〈"我はアナタの真意を確認し、アナタに情報を与えたいのです。今のアナタではアオニとニューコを守るのに手札が足りないでしょう"〉
◇ハネ[襲撃者はおそらく長髪です。襲撃当時、結んでいませんでした。確信は無いのですが素足だった可能性があります。現場と僕の頭髪は鑑識さんが丁寧に調べたそうなので何か遺留品が見つかるかもしれません。そして言葉に強い特徴がありました。声はわずかしか聞かなかったので、他の特徴で絞れるなら絞ってからの方が良いかと。あまり覚えていなくてすみません]
〈"ラッキーが超能力者の力で非超者を支配する計画を進めていたことは聞きましたね? その計画にはアナタの国の新興宗教団体と国際的な企業が絡んでいました"〉
◇ハネ[青丹さんには変わりありません。大きな怪我なども幸いありませんでしたし、倉庫に幽閉されるまでも丁重な扱いを受けていたようです。今後僕が邪魔をしないよう、話し合いはしているのですが、まだ対応策がまとまっていません。皆さんにもご迷惑がかかることですので、改めてご連絡します]
〈"一部の幹部が勝手に彼に傾倒し、組織を私欲で動かしていたというのが事実のようです。宗教団体はアナタ方もマーク済の、アドベント犯がたびたび使用している施設に関する元団体です。……アナタ、入力が早いですね"〉
チャット欄はまた少し沈黙する。
〈"企業の方は今も健在です。関与者を内々に退職させていましたが、社内に未だ崇拝者がいる可能性は否定できません"〉
◇ヤナギ[わざとですか?]
◇ハネ[何についてでしょうか]
◇ショー[兎月さん。その言い方伝わらないっす]
◇ヤナギ[失礼しました。表現を変えます]
〈……"アナタと話すと楽ですね。ニューコと話しているみたい。そう、我が話したいのは犯人の所属や名前の話ではありません。アナタは真面目にプロファイリングをする気がありますか? なければ話はここで終わりですが"〉
◇ヤナギ[紙背さんは、須図がアドベント犯に協力した経緯に心当たりがありますか? この聞き方なら伝わるでしょう]
……どういう意味だろう?
◇ハネ[分かりません。知れるものなら知りたいです]
〈……"よろしい。ラッキーは思いこみが激しくプライドも高い気取り屋でした。しかし正直、大層な計画を立てるような男だとは思いませんでした。しばしば衝動的で、深く考えずに動いて問題を起こす印象が強かったからです。人格は否定していませんよ。飛行の能力者は足が軽いので行動が単純になりやすいのです。我もですが"〉
チャットは僕の入力から、また、ぴたりと止まってしまった。
〈"我やニューコのような心を読む能力者が、彼の計画になかなか気づくことができなかったのは、彼が目の前のことばかり考える思考タイプだったからです。ニューコとデートしている間など、あの男、楽しいことしか考えていませんでしたよ"〉
ジェルマさんの声は滔々と頭に響く。こんな調子でドールボットさんは超能力ラジオを聞かされているんだろうか。
〈"ふふ。アナタ、聞いても気にしないのですね。そう。あの男の思想が残した負の遺産と対決するには、理屈に合わない行動を受け入れる必要があるでしょう。アナタも苦手? では得意なのはニューコだけ。迷ったらニューコの意見を聞き出せるかどうかに注力すべきでしょう"〉
丹生子さんの思考はたぶん、かなりロジック寄りだ。そのロジックを組むピースになるのが人の思考だから、感覚的に思えるだけで。
〈"はい? 我の話はそれだけかと? ええ。ニューコがアナタに正確に彼の特徴を伝えられるとは限りません。我からの視点を伝えておくべきと判断しました。アオニは言わないでしょう"〉
兎月さんが入力を始めた。ずいぶん時間がかかっている。
〈"ドールボットは色々と考えすぎる性格です。アナタにラッキーの情報を与えることは良しとしないでしょう。我から聞いたというのは秘密ですよ"〉
入力中の表示が消える。迷っている風だ。
◇ヤナギ[この後電話で私から話しても?]
◇ショー[それなら俺が話します]
◇ドール[今でも構いませんが]
〈"理由はそれだけです。深読みなさらないように。ところでそちら、困っているのでは?"〉
◇ハネ[すみません。話しにくいことでしたら後で伺います]
◇ヤナギ[いえ、やはり私が]
〈"ふふ。そろそろこちらの話は終わりにしましょう。アナタがニューコと我の話を聞いて考えたことは正解です。黙っていたのは賢明ですね。おそらくアナタが襲われた理由の一つでもあるでしょう"〉
電話が切れる。
◇ヤナギ[紙背さん。アドベントとの関係までは分かりませんが須図が貴方を襲うに至った理由は嫉妬です]
◇ハネ[嫉妬?]
◇ヤナギ[貴方は青丹さんの付き人として初めて成功したと言っていい。前任者の記録があった程度でできることではありません。自分には全く素質が無かったと言われたようなものです。まして貴方だ]
◇ハネ[意味が分かりません]
◇ヤナギ[私には分かります。長年付き人を務める私などでも修めきれず外注に頼っている多くの専門業務を貴方は資格を取り独力でこなしている。ほぼ全て危機に陥り必要に迫られて得たものです。大火事の家屋内で救助を行ったこともあるとか。その結果貴方はスキルと経験という常人では望んでも得られないものを手に入れる。なかなか波乱の経歴を大怪我もせず後遺症も大きなトラウマもなく無事に過ごすことができてしまっている。今回は危険にも遭いましたがほぼ何も失っていない。貴方はたまたま幸運だっただけだと言うでしょう。それはつまり、これまでの人生がずっと恵まれていて不公平で、狡い存在だということです]
◇ヤナギ[私の意見ではありませんよ。ただの卑劣な犯罪者の自分勝手な意見の代弁です]
……心理的にはかなり長いやり取りを終えて、通信を切る。通知がポップアップした。
~~~~~
《今回仲良くなったメイト》
今回のホスト: ドール(ドールボット)
仲良しのメイト:
・ショー(メイショードー)
仲良くなったメイト:
・ヤナギ(トゲツヤナギ)
《交流を重ねてもっと仲良くなりましょう!》
[カテゴリ:付き人] より
今回未参加のおすすめメイト:
・ハギコ(マツシロハギコ)
《メイト関係が解消されました:再申請はこちら◆》
[カテゴリ:安全装置] より
連絡のないメイト:
・ハレオ(スズハレオ)
~~~~~
通知を消す。
「……」
後ろから青丹さんに捕まえられた。
何も言われない。ジェルマさんと電話のテレパスで何を話したのか気になっているだろうに、何も聞かずにいてくれた。
__________
Next 11/26 15:00
◆ドール[いえ、ご心配はよく分かりますし、ジェルマは気にしていませんから。ハギコさんからも十分謝っていただきました。もう結構です。]
◇ヤナギ[かたじけないことです。今日彼女は鶴姫の捜査協力に随従しておりまして]
◆ドール[残留思念知は現場でこそ活きるでしょうね。]
◇ヤナギ[そうなのです。鶴姫は数時間しか読めないからと自分の能力を弱いと言いますが現代の捜査ならよほどでない限り3時間前までのことが一瞬で分かるというのは極めて有用です。万能と言って差し支えありません。超能力の強弱など特性を分類するためまた脅威を可視化するための非超者による第三者的評価なのですから本来我々が気にするようなものではありません]
◆ドール[ええ。分かりますよ。]
メイトのログイン通知が入り、すぐに書きこまれる。
◇ショー[すんません。遅れました]
◆ドール[ショーさん、お待ちしていました。全員揃いましたので、早速ですが始めてもよろしいですか?]
◇ショー[お願いします]
◆ドール[それでは、ハネさん。ご説明いただけますね。]
僕は[はい]と入力するしかない。文面では感情表現が伝わらないことを若干恨みながら。
◇ハネ[あの日、僕が直接確認したのはそこまでです]
青丹さんの誘拐事件について、共有が許された情報を書き連ねるのは簡単だった。血のことは言わない。倉庫を調べているうちに疲労で倒れたことにした。
入力中は誰も何も口を挟まなかった。それもそうだろう。兎月柳さんは鹿猪家に情報を持ち帰るために参加している。鐘さんからは、僕が無茶をしたに違いないから怒りに来た、と事前に個人的に連絡が来た。ドールボットさんは今回の主催だ。何も言われないときが一番恐い。
◇ハネ[次に目が覚めたのは1日以上後でした。ですので事件のその後を確認したのはだいぶ後になります]
◇ショー[須図の話は聞いてたけど、容疑者ってレベルじゃなくて直接見てたのか……]
◇ハネ[見ていません。声と他の特徴だけです]
◇ショー[どっちでもいい]
鐘さんの手心がない。
……須図さんは、主犯ではないだろう。共犯……爆弾を投げた人のように、協力して使い捨てられた実行犯の可能性が高いと蜂庫さんから聞いた。
◇ヤナギ[須図晴男の指名手配は知っていましたが、もう一人については話も出ませんでした。確認が必要ですね]
◇ドール[超能力者でしょうか?]
◇ショー[可能性はあるんじゃ? それと、調合した香水なんかをつける呪術とか部族なら鳴さんの知識で分かるかもしれないすよ]
◇ハネ[記憶から香りを再現してみます。調香するので少し時間をいただきますが]
書きこみがピタリと止まった。何だろう。
[それと、もう一つお伝えしていないことが]……
文字を打っている最中に非通知の電話が掛かってきた。スマホを手に取る。着信と全く同時にショートメッセージが送られてきている。
『テレパス使用の許可を。ドールボットには秘密で話があります。ジェルマ』
……付き人にも秘密で話をしたい。そう、書かれている。
電話に出る。
電話口からは何も聞こえてこない。僕も何も言わないまま待つ。
〈"そう、それです。そうして欲しかったのです"〉
昔は表舞台に出る超能力者もいたからか、創作における表現はかなり正確なものが多い。よく表現される陳腐なほどの表現の通り、脳内に直接声が響く。英語。独特の訛りがある。
〈"念のため名乗りを? 確かに。我はジェルマ、アナタはシゼイハネ。今皆に伝えようとしたことはまだ黙っておくべきです。証明になりますか?"〉
ありがとうございます、と念じる。どこまで深い思考が読み取れるのかは知らない。
丹生子さんの読心と同じように、ジェルマさんのテレパスは、電話で話す相手にも使える超能力だ。通信と呼ばれるものでも通用しないものもあり、仕組みははっきりしない。超能力の作用をはっきりと定義するのは不可能だ。
〈"さて、本題。アナタはニューコから聞きましたね。OK。具体的にはジョゼファス・ラッキーのことです"〉
……チャット上では、事件の状況について細かい質問が三人から投げかけられていた。兎月さんからは襲撃の状況について、鐘さんからは襲撃者の特徴について、ドールボットさんからは青丹さんについて。回答を打ちこみながらジェルマさんと対話を続ける。
◇ハネ[地点はすでにご存知かと思いますが、ビルの裏口から飛び出してきて襲撃を受けました。通り過ぎたときはドアが閉まっているように見えたのですが、ドアを開ける音はほとんど聞こえなかったので緩衝材などを噛ませてドアの開閉音が少なくなるように仕掛けられていたのだと思います。須図さんは後から出てきました]
〈"我はアナタの真意を確認し、アナタに情報を与えたいのです。今のアナタではアオニとニューコを守るのに手札が足りないでしょう"〉
◇ハネ[襲撃者はおそらく長髪です。襲撃当時、結んでいませんでした。確信は無いのですが素足だった可能性があります。現場と僕の頭髪は鑑識さんが丁寧に調べたそうなので何か遺留品が見つかるかもしれません。そして言葉に強い特徴がありました。声はわずかしか聞かなかったので、他の特徴で絞れるなら絞ってからの方が良いかと。あまり覚えていなくてすみません]
〈"ラッキーが超能力者の力で非超者を支配する計画を進めていたことは聞きましたね? その計画にはアナタの国の新興宗教団体と国際的な企業が絡んでいました"〉
◇ハネ[青丹さんには変わりありません。大きな怪我なども幸いありませんでしたし、倉庫に幽閉されるまでも丁重な扱いを受けていたようです。今後僕が邪魔をしないよう、話し合いはしているのですが、まだ対応策がまとまっていません。皆さんにもご迷惑がかかることですので、改めてご連絡します]
〈"一部の幹部が勝手に彼に傾倒し、組織を私欲で動かしていたというのが事実のようです。宗教団体はアナタ方もマーク済の、アドベント犯がたびたび使用している施設に関する元団体です。……アナタ、入力が早いですね"〉
チャット欄はまた少し沈黙する。
〈"企業の方は今も健在です。関与者を内々に退職させていましたが、社内に未だ崇拝者がいる可能性は否定できません"〉
◇ヤナギ[わざとですか?]
◇ハネ[何についてでしょうか]
◇ショー[兎月さん。その言い方伝わらないっす]
◇ヤナギ[失礼しました。表現を変えます]
〈……"アナタと話すと楽ですね。ニューコと話しているみたい。そう、我が話したいのは犯人の所属や名前の話ではありません。アナタは真面目にプロファイリングをする気がありますか? なければ話はここで終わりですが"〉
◇ヤナギ[紙背さんは、須図がアドベント犯に協力した経緯に心当たりがありますか? この聞き方なら伝わるでしょう]
……どういう意味だろう?
◇ハネ[分かりません。知れるものなら知りたいです]
〈……"よろしい。ラッキーは思いこみが激しくプライドも高い気取り屋でした。しかし正直、大層な計画を立てるような男だとは思いませんでした。しばしば衝動的で、深く考えずに動いて問題を起こす印象が強かったからです。人格は否定していませんよ。飛行の能力者は足が軽いので行動が単純になりやすいのです。我もですが"〉
チャットは僕の入力から、また、ぴたりと止まってしまった。
〈"我やニューコのような心を読む能力者が、彼の計画になかなか気づくことができなかったのは、彼が目の前のことばかり考える思考タイプだったからです。ニューコとデートしている間など、あの男、楽しいことしか考えていませんでしたよ"〉
ジェルマさんの声は滔々と頭に響く。こんな調子でドールボットさんは超能力ラジオを聞かされているんだろうか。
〈"ふふ。アナタ、聞いても気にしないのですね。そう。あの男の思想が残した負の遺産と対決するには、理屈に合わない行動を受け入れる必要があるでしょう。アナタも苦手? では得意なのはニューコだけ。迷ったらニューコの意見を聞き出せるかどうかに注力すべきでしょう"〉
丹生子さんの思考はたぶん、かなりロジック寄りだ。そのロジックを組むピースになるのが人の思考だから、感覚的に思えるだけで。
〈"はい? 我の話はそれだけかと? ええ。ニューコがアナタに正確に彼の特徴を伝えられるとは限りません。我からの視点を伝えておくべきと判断しました。アオニは言わないでしょう"〉
兎月さんが入力を始めた。ずいぶん時間がかかっている。
〈"ドールボットは色々と考えすぎる性格です。アナタにラッキーの情報を与えることは良しとしないでしょう。我から聞いたというのは秘密ですよ"〉
入力中の表示が消える。迷っている風だ。
◇ヤナギ[この後電話で私から話しても?]
◇ショー[それなら俺が話します]
◇ドール[今でも構いませんが]
〈"理由はそれだけです。深読みなさらないように。ところでそちら、困っているのでは?"〉
◇ハネ[すみません。話しにくいことでしたら後で伺います]
◇ヤナギ[いえ、やはり私が]
〈"ふふ。そろそろこちらの話は終わりにしましょう。アナタがニューコと我の話を聞いて考えたことは正解です。黙っていたのは賢明ですね。おそらくアナタが襲われた理由の一つでもあるでしょう"〉
電話が切れる。
◇ヤナギ[紙背さん。アドベントとの関係までは分かりませんが須図が貴方を襲うに至った理由は嫉妬です]
◇ハネ[嫉妬?]
◇ヤナギ[貴方は青丹さんの付き人として初めて成功したと言っていい。前任者の記録があった程度でできることではありません。自分には全く素質が無かったと言われたようなものです。まして貴方だ]
◇ハネ[意味が分かりません]
◇ヤナギ[私には分かります。長年付き人を務める私などでも修めきれず外注に頼っている多くの専門業務を貴方は資格を取り独力でこなしている。ほぼ全て危機に陥り必要に迫られて得たものです。大火事の家屋内で救助を行ったこともあるとか。その結果貴方はスキルと経験という常人では望んでも得られないものを手に入れる。なかなか波乱の経歴を大怪我もせず後遺症も大きなトラウマもなく無事に過ごすことができてしまっている。今回は危険にも遭いましたがほぼ何も失っていない。貴方はたまたま幸運だっただけだと言うでしょう。それはつまり、これまでの人生がずっと恵まれていて不公平で、狡い存在だということです]
◇ヤナギ[私の意見ではありませんよ。ただの卑劣な犯罪者の自分勝手な意見の代弁です]
……心理的にはかなり長いやり取りを終えて、通信を切る。通知がポップアップした。
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《今回仲良くなったメイト》
今回のホスト: ドール(ドールボット)
仲良しのメイト:
・ショー(メイショードー)
仲良くなったメイト:
・ヤナギ(トゲツヤナギ)
《交流を重ねてもっと仲良くなりましょう!》
[カテゴリ:付き人] より
今回未参加のおすすめメイト:
・ハギコ(マツシロハギコ)
《メイト関係が解消されました:再申請はこちら◆》
[カテゴリ:安全装置] より
連絡のないメイト:
・ハレオ(スズハレオ)
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後ろから青丹さんに捕まえられた。
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