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第四十五話 情報を擦り合わせましょう3

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 セバンの案内で、奥の一室に通される。

「誰です、ノックもせずにこの部屋に入るのは」

 少し語気を強めた女性の声が通る。

「申し訳ありません、奥様。内密になさる方が都合が宜しいかと思いまして」

 セバンは恭しく頭を下げ、全員が室内に入ったところで続けた。

「奥様、ウルド様の治療薬をお持ちいたしました。生成なさったのは晴成様で御座います」

「セバン、ウルドが治るのですか?」

「奥様、お静かに。外に聞こえては幾分不味くあります」

 思わず声をあげたユーリに彼は落ちつく様に促す。

「こんにちは、ユーリさん。薬持ってきたよ」

 俺の軽い口調に、ユーリは言葉にならない様子だった。

「大丈夫。ラフィアのお墨付きだからね、ウルド君も治るよ」

 俺は念のためアルルに鑑定させていたが、やはり“魔力欠損症”だった。
 鑑定で病名が分かるって便利だよね。地球でも出来たら誤診が無くなるのに……
 俺は先ほどできた上級ポーションをユーリに渡すと、彼女は涙を流してお礼を言った。

「ありがとう、晴成君。これでウルドもまた元気になるのね……」

 感極まっている彼女を急かして、ウルドに上級ポーションを飲ませる。すると次第に、呼吸が荒かった彼が健やかな寝息をたてはじめる。念のため鑑定したが、ステータス異常は見られなかった。

「これでもう大丈夫だね。それとあの子に此れ飲ませておいて」

「これは?」

 ウルドの様子を見て安堵したのか、ユーリは先ほどまでの焦心した様子が嘘の様だった。

「これは“増魔剤”。再発防止のためのお薬だよ。こっちは錠剤だから、起きてから飲ませてあげて」

「分かったわ。ありがとう、晴成君」

 彼女は優しく微笑んだ。

「なぁ、坊ちゃんも落ち着いたことだし、晴成君、少し聞いていいか?」

 今まで黙っていたバーズが口を開いた。俺は、何を、と返答する。

「大したことでは無いんだが、いつ、この町に来たのだろうか、と思ってな。いや、貴族街のところに来るまで君が来たことを知らなかったから、どうやって町に入ったのか、とかいろいろ疑問が湧いてな……」

 バーズは頭を掻きながら、申し訳なさそうに聞いてくる。

「えっと、三日前? かな。一応、門番には連絡をお願いしたのだけど、聞いてない?」

「それは本当ですか、晴成様」

 セバンが驚きの声をあげる。周りを見渡すと、バーズもユーリも初耳だ、という様子だった。

「あれ、やっぱり? 西の門から銀貨五枚を払って入門したときに、移動するから伝言をお願い、と頼んだのだけど……」

「晴成様、“やっぱり”とは? それに、“銀貨五枚を支払った”のですか?」

 俺の言葉に訝しんだセバンが詳細を求めた。俺は今までのいきさつを話すと、彼は何故か当惑した様子だった。
 セバンがここまで眉を曇らせているのを見ると、かなり不安になるのだが……

「晴成様、まず、未成年の入門時は無料です。税を払うのは大人のみです。そして、子供大人関わらず、水晶チェックが有ります」

 はい? 無料なの? それに水晶チェック、やっぱり有るんだ……

「次に、申し訳ありませんが伝達は届いておりません。そして、あの封書は侯爵家家人と同等の命令権を有します」
 最後のは不味くね? あれから三日たってる……

「すみません。それほどの物を渡してしまったとは……」

 頭を下げて謝る。失敗した時の不安感が俺の心を占めた。

「良いのよ、晴成君。詳しいことを説明しなかった私たちに責任が有ります。それよりもセバン、早急にその兵士の行方を探しなさい。バーズ、あなたもです。宜しいですね」

 ユーリは俺を咎めなかった。優しい声で俺を気遣ってくれた。そして問題に対して迅速に対策を打つ。流石、上に立つものだ、と感心させられた。

「さて、俺はご領主様に挨拶に行きますか」

 俺の言葉にラフィアを除くみんなが固まる。

「なぁ、晴成君、まずは奥様にとりなしてもらった方が良いんじゃないか?」

「そうね。あの人意固地だから、直接顔を合わせたら必ず諍いになるわ。ウルドが目覚めたら一緒に行きましょう」

 バーズの言葉にユーリが乗る。しかし、俺は首を横に振った。

「すでに大規模捜索がなされている以上、これ以上無用な時間を過ごすのは得策ではない。陽動で兵が手薄になっている今がむしろチャンスだと思う」

「大規模捜索……ですって?」

 既に俺の捜索がなされていることは知っている筈のユーリだが、捜索規模は関知してないようだった。彼女は険しい顔つきでセバンを見る。

「捜索規模は私兵50人に加え、中隊が三隊動いてますので、およそ350人かと」

 日本でも一日動員数が300を超えるのはかなり大がかりだ。此の領都の人口、兵数は知らないが、日本との人口比で言えば大捜索もいい所だろう。

「大規模どころでは無いじゃない。捜索でその規模なら総動員もいい所でしょう。誰も反対はしなかったの?」

「それが、ウルド様暗殺未遂を捨て置いては侯爵家の面目が立たず、と大隊長たちも敢為に捕縛すると意気込んでおります」

 流石のセバンも、素知らぬ顔で報告は出来なかったようで、バツが悪そうである。

「呆れた。あれほど考え直してくださるように、と申したのに、どうしてこうも聞く耳を持たないのかしら」

「奥様、その事なんだが、彼が“ワイバーンを倒した”ってことがここまでの規模になったんじゃねえかと思うんだが……」

 バーズが弱弱しく口を挟む。なるほど、とは思うがいつまでも経緯を確認していても埒があかない。ユーリさんには申し訳ないが、ここは強行させてもらおう。

「ユーリさん、聞いた限りでは直接会わないと話が進まないようなので、失礼します。時間も惜しいので」

 領主を叩きのめした方が手っ取り早い。それにいつ、エリーたちに害が及ぶか分からない。ので、俺は話を打ち切って部屋を出ることにした。

「待ちなさい。晴成君はあの人の場所、分からないでしょ? 私が案内するわ。それとセバン、メイドの誰かをここに寄こして、ウルドが目が覚めたら私のところに来るように申し付けてくれる?」

「分かりました奥様。先ほどの件と合わせて直ぐに手配いたします」

 彼は恭しく頭を下げ、退出する。バーズも、俺もついでに、と言わんばかりに退出した。

「さぁ、行きましょう、晴成君。息子の恩人にあらぬ疑いをかけては、それこそ侯爵家の沽券にかかわります」

 俺たちは彼女の後について部屋を後にする。


◇◆◇◆

 この屋敷の大きさ、舐めてた。歩いてみると、想像以上に大きく、一人で歩くには間違いなく迷う。ユーリさんに案内されなければ変なところで時間ロスを食う所だった。
 それに、屋敷内には兵がいない。領主の部屋には護衛も兼ねているのだろうが、まさか既に屋敷内に侵入しているとは思っていないのか、だれにも遭遇していないのだ。

「誰にも遭遇しないとは、ご都合過ぎないか」

「私の【幸運】が働いているのかしらね」

 俺の独り言に、ユーリが反応する。そういうものか、とは思うが、都合がいいのでそういう事にしておこう。

「主人は多分ここよ」

 ユーリはそう言って、勢いよく扉を開けた。

「あなた、お話が有ります」

 明らかに怒気が含まれた言葉だった。
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