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第五十三話 俺の特技? とギルマスの特技?
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部屋を移動する際に、俺はラフィア達と別れた。
「ミーナ、今のうちに納品の処理をしておいて欲しい。ラフィアはルナと一緒に居てくれる? 遅くなるかもだから先に帰っても良いよ」
ミーナは元気良く返事を返して通常業務に戻った。シンシアは少し不満そうだ。ラフィアの手伝いが出来ないせいだろう。
「シンシア、そちらも大事なのでしっかり頼みますね」
「はい、お任せください」
花咲く彼女にラフィアの人を気遣う優しさを垣間見た。
◇◆◇◆
「さて、ことを進める前に一つ確認。ギルマスは俺が殺気を飛ばした理由が分かる?」
石造りの薄暗い部屋に場所を移すと、盗賊団二人と対峙するように立つ俺たち四人。俺は男たちを睨みつけたままギルマスに問いかけた。
「凡そな。ギルドはギルド員の為に有るのであって、ギルドの為にギルド員がいるわけでは無い。だから、被害に遭ったギルド員の弱みに付け込むようにして貸しを作ろうとしたこの馬鹿が許せなかったのだろう?」
溜め息交じりに話すギルマス。あいつはへの字口をして、視線を逸らしていた。
よく分かってるじゃないか。
「しっかり教育しときなよ、次は無いからね。もし直らなかったら、ドラゴンの餌にするからね」
「ミゲル、これに懲りたらもうするなよ」
「他人事みたいに言っているけど、その時はギルマスもご一緒だよ? さっき言ったでしょ、“部下の責任は上司の責任”だって」
少し癇に障ったので軽く脅すことにしておいた。
「おい、ミゲル、本当にしっかり直せよ。俺はまだ死にたくないぞ!」
ミゲルは悔しそうに、はい、と小さく呟いた。口を尖らせる優男にギルマスは頼むぞ、と念を押す。
「まぁ、それでだ。こいつらのステータスを確認したら如何わしいものが確認出来た」
俺は先ほどアルルと確認したスキルと称号を話した。
「オイオイ、マジか……“ヤーレス盗賊団”の名前は聞いたことが無いが、こいつらが盗賊団ならかなり問題だぞ」
「ギルマス、彼が嘘をついている可能性は?」
頭を抱えるギルマスにミゲルが疑問を呈する。一方の証言だけを鵜呑みにしてはいけないので彼の進言は正当な行為と言える。が、印象が悪いのでイラっとする。
「おそらくそれは無い。それにこいつらは依頼も大して受けて無いのに金回りが良いという噂も耳にしている」
ほー、そういう所は耳聡いんだな。だったら、内偵くらいしときなよ、まったく……
「ステータスが確認出来れば楽なんだが、門番の水晶を潜り抜けるくらいだ、何か良い手はある?」
「何とかなるだろ。それよりも、久々の拷も……尋問だ、加減を間違えないようにしないとな」
ニタリ、と笑うギルマス。確かにここ拷問部屋だよね。本人も拷問と言いかけたし……
「好きなだけ叫んでいいぞ、外には聞こえないからな。だが、俺も優しいから、言いたいことが有ったら聞いてやるが?」
そう言って、ギルマスは盗賊たちにガンつけると、彼主導の尋問が始まった。
◇◆◇◆
尋問はスピード決着をみた。あいつらは顔を青くして数々の悪事ペラペラと喋ったのだ。冒険者兼盗賊の二人は余程ギルマスを恐れていたのだろう。
当然その間、魔道具は発動しており、随時真偽を確認する三人。俺もアルルと検証しながらあいつらの話を聞いていた。
ただ、余りにも何でも喋るから、ギルマスはつまらん、と嘆息を漏らしていた。
「しかし参った。これはうちのギルドだけでは問題解決が出来んな。領主の協力を仰がんと駄目か……」
そう、あいつらの証言の中に“商人ギルド”が出てきたのだ。商人ギルドの中に盗賊団の一味がおり、その情報をもとに襲撃をしていたことを暴露したのだ。
ラフィア達が襲撃されたのと関連有るだろうか、と頭を悩ませつつ、こいつらの処遇の推移を見守る。
「しかしギルマス、【詐術】というスキルは厄介ですね。此のスキルが有っては水晶の意味が無いようですし……」
シンシアが苦虫を潰す。こいつらを鑑定した時に予想したとおり、水晶による検問を【詐術】で切り抜けていたのだ。
冒険者ギルドに限ったことでは無いが、こうなると誰が善人で誰が悪人かという判断が魔道具では難しい、ということになる。
「これは町の治安そのものに関わってくる。面倒ではあるが俺が直接領主に話した方が早いか」
ギルマスはやれやれだ、という顔をしていた。
「ミゲル、お前は領主側にこの盗賊共の引き渡しと、急ぎ俺が領主に面会したい旨を書いて、早馬で届けておいてくれ。それと、シンシアは晴成たちに盗賊捕縛と情報提供の特別報酬を出してやってくれ」
ミゲルは嫌そうな顔をして、シンシアは嬉しそうな顔をして、はい、と答えて行動に移す。
「あ~、晴成、お前さんは出来れば俺と領主に会ってくれ。お前さんなら妙案が有るかもしれんからな」
「タイミングが有ったらいいぞ。治安の問題は他人事では無いからな」
ボリボリ、と頭を掻くギルマスにそう答えると、彼は助かる、と一言漏らした。
しかし、思ったよりも大ごとになったな……
《マスター、この程度が見抜けないなんて魔道具の精度が悪いのかな》
(わからん。しかし、他人のステータスが見れないのは普段は良いが、こういう時に困るか……なかなか上手くいかないな)
◇◆◇◆
俺はギルマスと別れ、受付に向かった。
「晴成さん、そちらは終わりました?」
「一応ね。厄介ごとも増えたけど……」
ラフィアの呼び掛けに溜め息が漏れる。
「晴成君て何か解決するついでに何か付いてくるよね。呼び込む性質でもあるの? お昼に戻って来た時もおまけが有るって言ってたし、今回はルナちゃんを口説いてきたし、ひょっとして特技?」
あ~、当たらずとも遠からず、と言った所か。ザーナから“受動的マッチポンプ”だよ、と言われたし……
思い当たる節のある俺は遠い目をしていた。
「ダーリン、大丈夫? ごめんね、私の事で色々迷惑かけちゃって……」
ルナが申し訳なさそうに小さくなる。俺は慌ててフォローをした。
「大丈夫、大丈夫。ルナが悪いわけじゃないんだから」
「そうそう、ルナちゃんが悪いわけじゃないよ。オマケが付いてくるのは晴成君の特技なんだから」
おい、と突っ込みたいところだが、ルナを慰めているのでスルー。今回は見逃してあげよう。
「あ、それはそうと晴成君、先ほどチーフが来て盗賊の捕縛に関する特別報酬を渡すから待ってて欲しいって」
「ん、わかった」
上手いこと話題をすり替えるミーナ。なかなかやるじゃないか……
暫くするとシンシアが受付に顔を出した。
「お待たせいたしました。盗賊の二名捕縛が大銀貨四枚、情報提供が銀貨五枚となります。お受け取り下さい」
俺はありがとう、と一言言って受け取った。
「ところで、ミーナとシンシアは何鐘まで仕事時間?」
「五つ鐘ですので、もう少しで終わりですね」
時計を見て時間を確認するシンシア。ネジ巻きなのか、魔道具なのかは知らないが、調整が甘い時計らしい。
「二人ともその時間に帰れるのなら、みんなで帰らない?」
俺の提案に二人から快い返事をもらったのでみんなで帰ることにした。
「ルナも色々心配だから今日はうちに泊まってくれると助かるけど、大丈夫?」
「……ダーリン良いの?」
俺は、ああ、と答えると、彼女は、分かった、と返事をした。
◇◆◇◆
家につくとルナはあんぐりとした顔で固まっていた。俺はそんな彼女の腕を引っ張り、家の中に通した。
「そこで履物脱いでね。ラフィア、ルナのお風呂をお願い。俺はエリーに説明してくるよ」
「分かりました。今日は色々ありましたから、長湯させてもらいますね」
俺が分かった、というとミーナが元気良く割り込んできた。
「私もルナちゃんと一緒に入るよ。ルナちゃんを綺麗にしてあげるね」
「私もご一緒していいでしょうか……」
シンシアが申し訳なさそうに希望を口にする。
「はいはい、ケンカしないように入ってね」
女の子のテンションに少しついていけなかった俺は少し呆れながら、風呂へと向かう彼女たちを見送った。
「ミーナ、今のうちに納品の処理をしておいて欲しい。ラフィアはルナと一緒に居てくれる? 遅くなるかもだから先に帰っても良いよ」
ミーナは元気良く返事を返して通常業務に戻った。シンシアは少し不満そうだ。ラフィアの手伝いが出来ないせいだろう。
「シンシア、そちらも大事なのでしっかり頼みますね」
「はい、お任せください」
花咲く彼女にラフィアの人を気遣う優しさを垣間見た。
◇◆◇◆
「さて、ことを進める前に一つ確認。ギルマスは俺が殺気を飛ばした理由が分かる?」
石造りの薄暗い部屋に場所を移すと、盗賊団二人と対峙するように立つ俺たち四人。俺は男たちを睨みつけたままギルマスに問いかけた。
「凡そな。ギルドはギルド員の為に有るのであって、ギルドの為にギルド員がいるわけでは無い。だから、被害に遭ったギルド員の弱みに付け込むようにして貸しを作ろうとしたこの馬鹿が許せなかったのだろう?」
溜め息交じりに話すギルマス。あいつはへの字口をして、視線を逸らしていた。
よく分かってるじゃないか。
「しっかり教育しときなよ、次は無いからね。もし直らなかったら、ドラゴンの餌にするからね」
「ミゲル、これに懲りたらもうするなよ」
「他人事みたいに言っているけど、その時はギルマスもご一緒だよ? さっき言ったでしょ、“部下の責任は上司の責任”だって」
少し癇に障ったので軽く脅すことにしておいた。
「おい、ミゲル、本当にしっかり直せよ。俺はまだ死にたくないぞ!」
ミゲルは悔しそうに、はい、と小さく呟いた。口を尖らせる優男にギルマスは頼むぞ、と念を押す。
「まぁ、それでだ。こいつらのステータスを確認したら如何わしいものが確認出来た」
俺は先ほどアルルと確認したスキルと称号を話した。
「オイオイ、マジか……“ヤーレス盗賊団”の名前は聞いたことが無いが、こいつらが盗賊団ならかなり問題だぞ」
「ギルマス、彼が嘘をついている可能性は?」
頭を抱えるギルマスにミゲルが疑問を呈する。一方の証言だけを鵜呑みにしてはいけないので彼の進言は正当な行為と言える。が、印象が悪いのでイラっとする。
「おそらくそれは無い。それにこいつらは依頼も大して受けて無いのに金回りが良いという噂も耳にしている」
ほー、そういう所は耳聡いんだな。だったら、内偵くらいしときなよ、まったく……
「ステータスが確認出来れば楽なんだが、門番の水晶を潜り抜けるくらいだ、何か良い手はある?」
「何とかなるだろ。それよりも、久々の拷も……尋問だ、加減を間違えないようにしないとな」
ニタリ、と笑うギルマス。確かにここ拷問部屋だよね。本人も拷問と言いかけたし……
「好きなだけ叫んでいいぞ、外には聞こえないからな。だが、俺も優しいから、言いたいことが有ったら聞いてやるが?」
そう言って、ギルマスは盗賊たちにガンつけると、彼主導の尋問が始まった。
◇◆◇◆
尋問はスピード決着をみた。あいつらは顔を青くして数々の悪事ペラペラと喋ったのだ。冒険者兼盗賊の二人は余程ギルマスを恐れていたのだろう。
当然その間、魔道具は発動しており、随時真偽を確認する三人。俺もアルルと検証しながらあいつらの話を聞いていた。
ただ、余りにも何でも喋るから、ギルマスはつまらん、と嘆息を漏らしていた。
「しかし参った。これはうちのギルドだけでは問題解決が出来んな。領主の協力を仰がんと駄目か……」
そう、あいつらの証言の中に“商人ギルド”が出てきたのだ。商人ギルドの中に盗賊団の一味がおり、その情報をもとに襲撃をしていたことを暴露したのだ。
ラフィア達が襲撃されたのと関連有るだろうか、と頭を悩ませつつ、こいつらの処遇の推移を見守る。
「しかしギルマス、【詐術】というスキルは厄介ですね。此のスキルが有っては水晶の意味が無いようですし……」
シンシアが苦虫を潰す。こいつらを鑑定した時に予想したとおり、水晶による検問を【詐術】で切り抜けていたのだ。
冒険者ギルドに限ったことでは無いが、こうなると誰が善人で誰が悪人かという判断が魔道具では難しい、ということになる。
「これは町の治安そのものに関わってくる。面倒ではあるが俺が直接領主に話した方が早いか」
ギルマスはやれやれだ、という顔をしていた。
「ミゲル、お前は領主側にこの盗賊共の引き渡しと、急ぎ俺が領主に面会したい旨を書いて、早馬で届けておいてくれ。それと、シンシアは晴成たちに盗賊捕縛と情報提供の特別報酬を出してやってくれ」
ミゲルは嫌そうな顔をして、シンシアは嬉しそうな顔をして、はい、と答えて行動に移す。
「あ~、晴成、お前さんは出来れば俺と領主に会ってくれ。お前さんなら妙案が有るかもしれんからな」
「タイミングが有ったらいいぞ。治安の問題は他人事では無いからな」
ボリボリ、と頭を掻くギルマスにそう答えると、彼は助かる、と一言漏らした。
しかし、思ったよりも大ごとになったな……
《マスター、この程度が見抜けないなんて魔道具の精度が悪いのかな》
(わからん。しかし、他人のステータスが見れないのは普段は良いが、こういう時に困るか……なかなか上手くいかないな)
◇◆◇◆
俺はギルマスと別れ、受付に向かった。
「晴成さん、そちらは終わりました?」
「一応ね。厄介ごとも増えたけど……」
ラフィアの呼び掛けに溜め息が漏れる。
「晴成君て何か解決するついでに何か付いてくるよね。呼び込む性質でもあるの? お昼に戻って来た時もおまけが有るって言ってたし、今回はルナちゃんを口説いてきたし、ひょっとして特技?」
あ~、当たらずとも遠からず、と言った所か。ザーナから“受動的マッチポンプ”だよ、と言われたし……
思い当たる節のある俺は遠い目をしていた。
「ダーリン、大丈夫? ごめんね、私の事で色々迷惑かけちゃって……」
ルナが申し訳なさそうに小さくなる。俺は慌ててフォローをした。
「大丈夫、大丈夫。ルナが悪いわけじゃないんだから」
「そうそう、ルナちゃんが悪いわけじゃないよ。オマケが付いてくるのは晴成君の特技なんだから」
おい、と突っ込みたいところだが、ルナを慰めているのでスルー。今回は見逃してあげよう。
「あ、それはそうと晴成君、先ほどチーフが来て盗賊の捕縛に関する特別報酬を渡すから待ってて欲しいって」
「ん、わかった」
上手いこと話題をすり替えるミーナ。なかなかやるじゃないか……
暫くするとシンシアが受付に顔を出した。
「お待たせいたしました。盗賊の二名捕縛が大銀貨四枚、情報提供が銀貨五枚となります。お受け取り下さい」
俺はありがとう、と一言言って受け取った。
「ところで、ミーナとシンシアは何鐘まで仕事時間?」
「五つ鐘ですので、もう少しで終わりですね」
時計を見て時間を確認するシンシア。ネジ巻きなのか、魔道具なのかは知らないが、調整が甘い時計らしい。
「二人ともその時間に帰れるのなら、みんなで帰らない?」
俺の提案に二人から快い返事をもらったのでみんなで帰ることにした。
「ルナも色々心配だから今日はうちに泊まってくれると助かるけど、大丈夫?」
「……ダーリン良いの?」
俺は、ああ、と答えると、彼女は、分かった、と返事をした。
◇◆◇◆
家につくとルナはあんぐりとした顔で固まっていた。俺はそんな彼女の腕を引っ張り、家の中に通した。
「そこで履物脱いでね。ラフィア、ルナのお風呂をお願い。俺はエリーに説明してくるよ」
「分かりました。今日は色々ありましたから、長湯させてもらいますね」
俺が分かった、というとミーナが元気良く割り込んできた。
「私もルナちゃんと一緒に入るよ。ルナちゃんを綺麗にしてあげるね」
「私もご一緒していいでしょうか……」
シンシアが申し訳なさそうに希望を口にする。
「はいはい、ケンカしないように入ってね」
女の子のテンションに少しついていけなかった俺は少し呆れながら、風呂へと向かう彼女たちを見送った。
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