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第六十六話 探索チーム

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 翌朝、俺はギルドに顔を出した。八鐘までにはまだ余裕がある。

「晴成君、ラフィアちゃん、おはよう。ねぇ、聞いて! ギルマスが、晴成はまだ来んのか~ って、さっきからウロウロしていてもう面倒くさいの!」

 ミーナが物真似をしながら愚痴を吐く。あはは、と乾いた笑いが漏れる俺。自分で仕方ない、と納得させる。

「おはようございます、晴成様、ラフィアお嬢様」

 ミーナの声に釣られてシンシアが顔を出す。二人して彼女たちに挨拶を返し、俺はギルマスのもとに、ラフィアは少し彼女たちの相手をしている。因みにルナはお留守番。エリーの手助けをしつつユーリ達の相手をしている。
 慣れたもので、何度となく足を運んだギルマスの執務室へと、一人足を進める。

「ギルマス、入るよ」

 ノックをして一言声をかける。ギルマスの返事を待って中に入ると見覚えのある人物が二人、ギルマスと話し込んでいた。

「あれ、何か打ち合わせ中? 後にしようか?」

「おう、ようやく来たか。待ってたぞ晴成。こっちはダンジョン調査隊を既に待機させているからいつでも行けるぞ!」

 余程待ちかねたのか、ギルマスが席を立って駆け寄ってくる。

「アントン殿、話を進める前に我らの紹介をしてもらえると有り難いのだが」

 咳払いを一つして、老年に差し掛かった大柄の騎士が一言、苦言を呈する。ギルマスは自分の逸った行動に居心地の悪さを感じつつ、騎士に頭を下げた。

「えっと、こちらは侯爵家より派遣されたグラル殿。先日の侯爵との会見の折、脇に控えて居られた方だ。もう一人は顔見知りだろう、バーズ殿だ」

「先日ぶりですな、晴成殿。侯爵様より、此度の件、改めて礼を言う、とのご伝言を預かってまいった。確と伝え申したぞ。また今回、侯爵家からの調査隊の責任者でもある。お手柔らかに頼む」

「よ、晴成君。今回は俺も同行するのでよろしく頼む」

 グラルとバーズが対照的に自己紹介をする。
 槍のダーナでは無く、剣のグラルが調査チームとして派遣されたことを見ると、槍は不向きと見たかな。
 しかし、半日足らずで部隊を編成して、ギルマスに話を通し終わっているようで、侯爵の本気度を窺い知るな。

「改めて、雨宮晴成だ。調査隊にはダンジョンに潜るための力量、ドロップ品の価値など、様々な情報をあげて欲しいので細かい意見も漏らさずに挙げてもらえると助かる」
 ギルマスが驚いた顔でこちらを見ているのだが、何に驚いているのだろうか……
 お互いの紹介を終えたところで、調査隊が待機している建物裏へと移動した。

◇◆◇◆


「なぁ、晴成君、新人でも行ける西の森までの道を確保したと聞いたのだが、魔物でも間引いたのか?」
 先頭を歩く俺たちにバーズが聞いてくる。

「ん~ 少し違うなぁ。道を整備したんだよ」

 はぁ? という顔をするバーズ。
 現在、俺たちは列をなして西門に向かっている最中だ。先頭に俺とラフィア。そして話しかけてきたバーズとその後ろにギルマスがいる。そこから、バーズのPT、冒険者PT・A、Bと続き、領軍で最後尾はグラルである。
 因みに、グラルが最後尾なのは規律重視の為だ。引率者が俺という子供のため、規律よく行軍するために、後ろから監督してもらっている。

「まぁ、見れば分かるよ。それよりも、ギルマスが直接出向いて大丈夫なのか?」

「あぁ、色々と有るが、此処が妥協点だ、と皆に言い含めた」

 何でも、俺の事を知っている冒険者は少なからず居るのだが、やはりそこは冒険者と言うべきか、“あんな子供が”とか、“こんな奴に劣るわけが無い”など、自尊心というか、対抗心みたいなのが強い様で、ある種ストッパー役を買って出た様だ。

「んで、本音を言うと?」

「息抜きを兼ねてる。書類仕事は苦手なんだよ!」

 吐き捨てるようにぶっちゃけるギルマス。
 まぁ、分からなくもない。冒険者ってどちらかというと現場作業員だ。細かい計算や大局の予測を必要とする“監督業”はまた別のスキルが必要だと思っている。

「今回の調査PTもベテランと新人の混成だから、不測の事態に備えて指揮系統がある程度明確にした方が良いという、理由もある」

「なるほど。確かに余程大きなPTというか、クランでもない限り、まず有り得ない編成の仕方だな。そういえば、グラル殿が指揮するチームもベテラン、新人の混成だしな」

 ギルマスの言葉に、バーズがフムフム、と得心する。尚、バーズは自分たちのPTで、今回は俺と好意的な関係を考慮しての派遣なのだそうな。
 と、まぁ、早朝からまたぞろと隊列組んで西門に向かっているわけなのだが、正直、そんなことはどうでもいい!
 何故か⁈
 それは、あの西門にはあの“ヤンキー門兵”がいると予測されるからだ!
 ラフィアは門が近づくにつれて薄ら笑いを浮かべ、アルルは、まだかな、まだかな♪~ って、陽気に歌ってるし、俺は胃に穴が開きそうだよ。

◇◆◇◆


「西門に着いちゃったよ……」

 どうやってヤンキー兵士とのエンカウントを回避しようかと考えあぐねていたのだが、遂に門に辿り着いてしまった。

「任務、お疲れ様です。お話は伺っております。どうぞお通り下さい」

 陰鬱な気持ちを吹き飛ばす威勢の良い声が響く。
 誰だ、と声の方に振り向く。が、見知らぬ若い兵士だった。
 あれ? ここって、他にも兵士がいたんだ?

「あぁ~ 晴成君が会っただろう兵士の一人は査問会にかけられているのだが、もう一人は目下捜索中でな……」

 首を傾げているとバーズが眉根をひそめて言いづらそうに説明してくる。

「……情けない話なんだが、主犯と思しき兵士はいまだ逃走中なんだわ」

「ってことは、あのヤンキー兵士が持っているだろう封書が回収できてないってこと?」

「……残念ながらな」

「それって、不味くないか? と言うか、バーズはこっちの探索に来てて大丈夫なのか?」

「そこは領兵が捜索しているから大丈夫だ。侯爵様たちに寧ろこっちの方が重要だ、と言われて派遣されたからな」

 そうか、と答えて話を切った。
 あまり時間がかかるようならこちらも捜索に手を貸すべきかな?
 ……⁉
 突然、寒気がしたので周囲を確認するとラフィアが冷たく微笑んでいた。

《これはお仕置きだよねぇ~》

 ……アルルまで。何をやらかす気ですか?

「おぉーい、晴成、お嬢ちゃん、確認が取れたから行くぞぉ」

 俺が冷や汗をかいていると、ギルマスから声がかかる。どうやら手続きをしていてくれたみたいだ。
 領兵達に敬礼される中を通り、外へと向かう。新兵は勿論、冒険者たちも普段されない行為に戸惑いながら先に進む。中には余りにも委縮しすぎて先に進まないために、先輩冒険者に首根っこを掴まれて引き摺られていく新人もいた。
 俺たちも一応ながらも礼をして外へと出る。外は俺たちが西の森から来た時と違い、大きな道が出来ていた。

「何をどうやったら、こんな立派な道が整備できるんだ?」

 バーズが目を点にして呟いた。
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