みかんに殺された獣

あめ

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7.

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涙がでてしまって止まらない。僕の中の少ない水分がなくなっていきます。
あー僕は自分で自分の命を縮めてしまった……
でも、狼くんに迷惑をかけていたなら、もういっそ早く死んだ方がいいよね……

「わるい。嫌だよな、実は知られていたなんて。配慮が足りなかった」
「…ふぇ?」

狼くんは泣いている僕を見てオロオロとし、なにか勘違いをしたのか謝ってきました。
僕はなんの事だか分かりません。
そんな僕をおいてけぼりにし、狼くんは続けます。

「俺も伝えたいことがある。
俺も長くない。もうすぐ空腹で死ぬ。餓死するんだ。この森には食べ物が何も無いからな。

……最近動かないのは、もちろんそばに居たいってのは本心だが、体が辛くて動けなかったんだ。お前に知られて心配させるのも嫌だったが、何より俺が、俺自身が、お前に弱い部分を見せるのがなんとなく許せなかった。お前にはまだ難しいかもしれないが、プライドの話だ」
「……」

狼くんも死ぬんですか?……空腹で?……最近動かないのはしんどいから?……

僕は頭が真っ白になりました。
狼くんが死ぬ。それも僕を食べなかったから。

そうです、狼くんは初め僕を食べようとしていました。あれはお腹がすいていたからだったんですね。
でも、『食べ物はほかにもある』って言ってました。
あれは僕を安心させるための嘘。
僕が死ぬのを知りながら黙っていたのは、僕に同情したからじゃなくて狼くんも死ぬから。一緒にいたいと望んでくれていたから。
僕は、狼くんが死ぬという事にショックを受けましたが、少し嬉しいです。
僕のことを“大切に思ってくれている”という事実が嬉しいです。

「狼くんも、死ぬの?」
「あぁ、死ぬな。
どうせならお前と一緒に死にたい。
お前を1人で旅立たせるなんてしたくないし、なにより俺がお前の死んだあと1人で死ぬのを待つだけなんて嫌だ。
もちろんその逆も嫌だ。」
「一緒に……狼くんは僕を食べてくれますか………?」

僕は“一緒に死にたい”と言ってくれたのが嬉しくて、とんでもないことを言ってしまいました。
慌てて否定します。

「あ、ご、ごめんなさい。なんでもない。
僕みたいに腐ったみかんなんて食べたくないよね……お腹を壊してもっと苦しくなるかもしれないし、もしかしたら苦しむだけで一緒に死ねないかもしれない。
気にしないで!ごめんなさい。」
「………いいのか?俺はお前が嫌じゃなかったらお前を食べて死にたい。
お前の命を縮めるのは嫌だから、お前や俺が死ぬ直前だ。
そうしたら、一緒に旅立てる。きっと…」
「……食べてくれるの?それに最後の時まで一緒にいてくれるの?」

否定したのに、狼くんは食べてくれると言ってくれました。
それに一緒にいてくれるって。
一緒に旅立ちたいって。
とっても嬉しいです。

「あぁ、お前がいいなら。」
「お願いします。」
「まだだぞ。まだまだずっと一緒にいるぞ」

焦ったように、ずっと一緒にいたいと願ってくれているように、そう言ってくれました。
僕はもう幸せでいっぱいです。いつ死んでもいいです。
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