恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

文字の大きさ
17 / 35

ボクは明日なにができるのか

しおりを挟む
「うぅ~、恥ずかしかった……」

「そんなんで、凪くんの前にその服着ていけるの?」

 カナメのいうファッションショー──まあ、ただボクが試着するだけの話なのだけど、着慣れない服でコーディネイトされたものを着て、人に見せるというのは、ボクの羞恥心が耐えられたのが奇跡と言っていいと思う。

 正直、この相手が充や凪くんだったらボクは死んでいた自信があるよ!

「着替えるたびにカナメが変なこと言うから、余計恥ずかしくなったんじゃないか! 静かに見てくれるだけで……それはそれで恥ずかしい」

「でしょ? エリーは可愛いんだからさ、もっと自分に自信もったら? こんな可愛いボクを見られるんだから、感謝してほしいね! くらいのつもりでいいんだって」

 だれだい、その自信家な娘は。そもそも、ボクは自分の容姿がどうかなんて考えたことないんだよ。
 どれほど美人でも嫌いな人は嫌いだし、どれほど醜くても好きな人は好きなんだ。
 ……なんでボクは、服装のことでここまで悩んでいるんだろう。

「今エリーが何考えてるか分かるから、このカナメ先生が答えてあげよう」

「本当にテレパシーつかえるんじゃないかい、君は?」

「ふふふ、それはどうかな? 『ボクは見た目をそんなに気にしないのに、なんでこんなに服装を気にしてるんだろう?』。そんなこと考えてるでしょ」

 大体当たってる……カナメは本当に何者なんだい?

「それは簡単なことだね。エリーは今、見た目がどうこうとか、考えていない! 凪くんにどう思われるか──ひいては、凪くんのことしか考えていない! 違う?」

 ああそうか。ボクは凪くんに喜んでもらいたくて、服を選んでいるんだ。自分が周りにどう思われるかとかどうでもいいけど、それで凪くんが喜んでくれるなら頑張れる。そう言うことなんだね?

「あたってるでしょ? あたしたち女ってのは、恋しちゃうとその相手に染まっちゃう。考え方も、物のセンスも、行動さえも、ね」

 カナメは小さく微笑むと、ボクの目の前までその綺麗な顔を近づけてきた。

「こんなに顔を真っ赤にしているエリーが、その実一人の男の子のことしか考えてないとか、親友のあたしですら嫉妬しちゃうんだから。凪くんは本当に幸せ者だね」

「ぼ、ボクに思われたところで、彼が幸せになんて……」

「ま、それは本人にでも聞いてよね。……さ、女の子が一番力入れるのはこの先でしょ? 次いこ、次」

 女の子が一番力を入れるもの? 服装を選んで、次に選ぶもの……。

「ああ、アクセサリー!」

「そ。ファッションで一番自分を出せるのは小物だからね。頑張らなきゃ!」

 そうか、服装に大きく左右されない分、自分の個性や好みを出しやすいんだね。
 そう考えると、むしろアクセサリー考えるのが怖いんだけど……。

「ま、男なんてそういうの全然見てないから、気にしすぎても仕方ないけどね!」

「えぇ……それ、アクセサリー頑張って考える必要あるのかい?」

 「さぁてね?」とうそぶく彼女の表情からは、真意が掴めない……カナメが言うんだから、必要なことなんだろう。真剣に考えよう。

   ※   ※   ※

 流石に、服からアクセサリーまでを見て周っていると、時間が経つのは早いみたいだ。
 窓からさす日差しは大分赤みを帯び始めて、モール内の人混みも落ち着いてきたように感じる。

「文句言ってた割に、すごい真剣に考えてたね、エリー」

「別に文句なんかないさ。カナメの言うことが間違っているとは思わない。凪くんのためなら、妥協なんて許されないからね」

 彼に喜んでもらうためなら、なんだってやるさ。……まあ、普通に選んでるのも楽しかったから、全然苦にはならなかったんだけど。

「夏も近づいてきてるとはいえ、夜はまだ肌寒いから、上着は絶対忘れちゃだめ。──まあ、敢えて忘れてって、彼に上着を借りるのもありだけど?」

「な、凪くんの上着……」

 そんなもの着せられてしまったら、ボクの頭はパンクしてしまいそうだよ。でもちょっといいなそれ……てダメだよ、そんなの!

「それじゃ、凪くんが寒くなっちゃうじゃないか! ちゃんと忘れないようにするよ」

「優しいなぁ、エリーは。ま、それならそこは気をつけてもらうとして……後は髪型だね」

 髪型か。ボクは基本的に髪を結うのは下手なんだよなぁ。このポニーテールにしたって、お母さんに結ってもらってる訳だし。

「今のエリーも可愛いんだけど、綺麗な髪だから自然なままなのも一つの手か。んー、でも遊園地デートで長い髪そのままってのも、ちょっと動きづらいよねぇ」

「そうだね。今日は室内ばかりだったからさほど気にならなかったけど、外を歩くとなれば汗もかくかもしれないし……これじゃダメなのかい?」

 ボクは、割とこの髪型は嫌いじゃない。
 若干、頭の後ろに重さは感じるけれど、髪は肌に触れないし、鏡でみてみると動物の尻尾がついてるみたいで、なんか可愛いんだ。

「別に悪くないし、エリーらしさもあっていいと思う。けど、やっぱりもう少しおしゃれで行きたいよね」

「うーん……凪くんが喜んでくれるならやりたい」

「エリーってさ、自分で髪結ったりできるの?」

 カナメの質問に、思わず全力で首を振ってしまった。だって、髪を結うなんてできっこないから。ボクにはとっても難しいんだよ、あれ。

「だよねぇ。エリーのお母さんならいっか。似たような髪型で、ちょっとだけおしゃれしちゃおうか。また後でかすみさんに連絡しておくから、明日の朝やってもらいな」

「うん? 分かった」

 霞さんというのは、ボクのお母さんの名前だ。友達のように接しているせいか、互いに名前で呼び合っている。
 歳が離れていても関係なく、そう接することができるのも、カナメの凄いところだよね。

「後は──料理はできたっけ?」

「一応、お母さんから教えてもらったりはしてるよ。そんなに上手くは無いけど、下手ではないつもり?」

「おっけ。じゃあ、凪くんの胃袋はゲットできるね!」

 胃袋を……? それってまさか

「お弁当作るってこと?」

「そう! あの遊園地小さいからレストランとかも少ないし、家族連れとかは割とピクニック気分で食べてる人もいるしね」

「いやいや! ボクの料理なんかじゃ、可哀想だよ。お店と比べたら美味しくもないし、お母さんの料理ならともかく、ボクの料理じゃ彼に失礼じゃないかな?」

 凪くんがボクの料理を食べるなんて、想像したら……ちょっと嬉しいけど、でも美味しくもないお弁当なんて嫌だもんね。

「味なんて最低限できてれば十分。エリーの丹精こもった料理なら、彼も喜んでくれるって。自信持ちな!」

「そ、そんなものなのかい? むむむ……」

 本当に喜んでくれるだろうか。
 凪くんが、ボクの作った料理を食べて、笑ってくれて──ちょ、ちょっと身体が熱くなってきちゃうじゃないか!

「明日の作戦も決まったところで、暗くなる前に帰りますかぁ」

 モールを出ると、空は暗くなりつつあり、街灯も明るくなっていた。もう、そんな時間なんだね。

「うん。今日はありがとう、カナメ。明日はなんとか頑張ってみるよ」

「ま、変に意識しなければ多分大丈夫でしょ。……男は皆ケダモノ、体だけは簡単に許さないようにしなよ」

 ケダモノって、体だけはって、それはつまりえ──

「ば、バカを言わないでくれ! そういうのは、その……ボクだって考えているけれど、まだ早いというか……。凪くんはそんな子じゃないよ!」

 カナメの悪戯めいた笑顔は、更にボクの羞恥心をくすぐってくれる。
 
 もぅよしておくれよ、カナメ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

歩く15億の花嫁~契約婚約から始まるオフィス・シンデレラ~

YOR
恋愛
恋愛経験ゼロの女性×三人の男たち。じっくりと心の変化を描く、じれキュン・スローストーリー。 亡き祖父の遺言により、巨大財閥の氷の御曹司・神谷瑛斗の「担保」として婚約させられた水野奈月。 自分を守るために突きつけたのは、前代未聞のルールだった。「18時以降は、赤の他人です」 「氷」の独占欲:冷酷な次期当主、神谷瑛斗。 「太陽」の甘い罠:謎めいた従兄弟、黒瀬蓮。 「温もり」の執着:庶民の幼馴染、健太。 「影」の策略:瑛斗を狂信的に愛する、佐伯涼子。 四人の想いと財閥の闇が渦巻く、予測不能な権力争い。 恋を知らない不器用な女性が、最後に選ぶ「本当の愛」とは――。 ※完全にフィクションです。登場企業とは一切関係ありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

処理中です...