本物のチート能力を手に入れたけど、使い方が分からないのだが

夜兎

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ゲームをやってたらゲームの中に──て、どんなテンプレだよ

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 ゲームは、俺の人生においてかなりの時間を費やした趣味だ。もはや、俺の人生そのものと言ってもいいかもしれない。
 そんなゲームの中でも、特に好きなのはロールプレイングゲーム──RPGだ。主人公になりきり、物語を進行していくゲーム。ファンタジーな世界観なものがほとんどだ。

 まあ、なにが言いたいかというとだな──

「よくある異世界転生、あるいは召喚ってやつなんだろうな」

 夜遅くまでゲームをしていて、寝落ちて翌日目を覚ませば、そこには広大な草原が広がってました──なんの冗談だ?
 まだ夢の中なのかもしれないが、覚醒してから早一時間は経過している。
 ずっと歩き続けて、疲労感も覚え、裸足で歩いてるせいか足の裏も痛くなってきた。

 誰に会うでもなく、何に遭遇するでもなく、目的もなく延々と広大な草原を歩き続けることが、どれほど苦痛かなんて分かるまい? まじで挫折するかと思った。

 さて、冒頭の話に戻るが、異世界転生の話から、なんでゲームの話になったのか、だが──

「スライム、だよな?」

 俺の目の前にいるモンスターのせいだ。
 青い流線形ボディにぷるんぷるんと震える体が特徴的なその姿。RPGではお馴染みのモンスターと言えるだろう。
 いや、これだけならゲームの話なんてしないさ。問題なのは、こいつが俺と遭遇してから全然動かないことだ。
 もちろん、俺も動いてない。だって怖いじゃん。スライムとは言え、俺生身だし。

 そう、動かないんだ。急に俺の目の前に現れたんだから、それまでは動いてたんだろう。けど、今は動かない。
 もう睨めっこを始めてから十分は経過してるだろう。こんなこと、普通あり得ないよな?
 なにより決定的なのが、俺の視界に映っているHUDとも思える文字である。
 HPやらMPやら、見慣れたフォントの文字が、視界の端々に見えるのだ。

 だから、『ターン制のRPG』を思い出したんだよ。
 今のこの状況はすでに戦闘が始まっていて、多分素早さで勝ってるのか、俺が行動を取るまでこのスライムは動かないんじゃなかろうか、と。

「ちょっと殴ってみるか?」

 本当にターン制だと言うなら、一発殴れば、あいつも動くだろう。だが、逆に言えば何もしなければ何もしてこない可能性が高いんじゃないか? このまま放置して離れると言うのも……。
 だが、もしそれで『逃げる』コマンドになるのだとしたら、逃げれた場合いいが、そうじゃない場合は無駄にダメージを受けることになるかもしれない。
 
「まあ、スライムの攻撃だ。一発くらい受けても痛くないだろ」

 楽観的かもしれないが、仮にこれが本当にゲームの中の話だと言うなら、初期にでてくるスライムなんてのは雑魚中の雑魚だ。通常攻撃数回で死ぬし、あっちからの攻撃は十発くらいは耐えられるだろう。
 
 ちなみに、見えてる俺のHPは25。スライムのHPは???。
 解析かなにかしないと分からないタイプか。

「……取り合えず殴ろう、うん」

 コマンドとかは流石に見えないから、普通に殴ればいいのか? 『戦う』コマンドでもあれば分かりやすいんだがな……。
 そう思いつつも、殴るために足を踏み出したのだが──

「お──おっ?」

 俺の意思に関係なく体が動き出したのだ。なんだこれは。
 そのままスライムに吸い寄せられるように軽やかに足は運ばれ、俺の拳がスライムを殴り飛ばしていた。
 少し弾かれたスライムは元の位置に戻り、体を震わせている。

「HPはゲージもなくそのまま、か。今は役にたたないな、これ」
 
 どうやったら分かるようになるんだよ。
 悠長に構える俺だが、お構いなくスライムが突撃してくる。ああ、やっぱターン制なんだな。

 どうも体は動かないらしく、ただただその攻撃を待つしかないようだ。ちょっと怖いが、意外と心には余裕がある。だってそりゃ、最弱スライムの攻撃なんて──

「ぐぅっ⁉︎」

 重い……⁉︎
 スライムの体当たりにより、俺の体はかなり吹き飛ばされた。
 衝撃はものすごく、骨でも折れてるんじゃないかという痛み……なにより視界が真っ暗なんだよ。今どうなってる?

 真っ暗なこの視界の中でも、HPとかは見えるらしい。視界の端に映る俺のHPは……0?
 嘘だろ? 最初に出会うスライムがそんな強いわけないじゃないか。ふざけてるのか?

 ……というか、HPが0になるとどうなるんだ。死ぬと思っていたが、考えることはできる。視界は真っ暗だけど。
 死ぬのとは違いそうだな。これが本当にゲームの中だって言うなら、最後のセーブ地点から再開──

「まさに、だな」

 気がつけば暗闇ではなく、明るくだだっ広い草原の中で佇んでいる。
 スライムすら認識できないが、おそらく戻されたんだろう。最初目覚めた所か、あるいはスライムと出会う直前か?
 
「他の可能性を段々と潰していってくれるな。本当にここはゲームの中なのか?」

 痛みや疲れはあるのだから、夢の中とは考えづらい。……しかしまいったな。
 ここがゲームの中だとして、さっきのスライムはランダムエンカウントなのか、強制エンカウントなのか?
 強制エンカウントとかだとしたら、あんなのどうやって倒せばいい?
 そもそも、なんでスライムがあんなに強いんだよ……。

「せめてステータスとか見れないのか──って、まじか」

 口にしてみるとあら不思議、視界一杯にステータス画面らしい文字が浮かび上がっているじゃないか。
 HP、MPに続いて、力や腕力、脚力や器用さやら……細かいな。びっしりとステータスが並べられている。
 ……比べる対象がないせいで、自分がどのくらいの能力かは分からんが、なんだか弱そうなステータスである。ほとんど一桁台じゃないか。
 唯一、二桁ある素早さと知力でさえ、12と15。いや、この世界じゃこれが普通なのかもしれないな。

「スキルとかはないのか──ん?」

 画面の右端、見慣れない文字が書かれているな。

「チートコード記入欄……?」

 名前のまま受け取るなら、チートを使うための欄なのだろうが……ゲームだと考えたら、難易度がおかしいとは思っていたが、チート利用前提のバランスなのか? それは、どんなクソゲーなんだよ……。

「しかし、記入欄はいいが、肝心のコードが分からん。なんて書けばいいんだ……?」

 そう口にすると、次はウィンドウのようなものが開かれた。

『ヘルプ参照。チートコード:0101-0300を提示します』

 0多いな──じゃなくて、なんだよヘルプって⁉︎
 よく分からんが、これを入力すればいいのか? というか、どうやって入力するんだ?

「あ、結構簡単そう」

 イメージするだけでできるらしいな。入力のことを考えてみたら、画面がさらに変わって入力画面になった。
 頭の中で、さっきのコードをイメージして──確定、と。

『チートコード確認。全解析フルアナライズを設定しました』
「全解析……?」

 語呂から何となくは分かるが……説明はなしか。
 まあ多分、そういうこと……だよな?

 それから色々と試してみたが、それ以上のことはできなかった。
 悩んでても仕方ないのでその場を動いてみたのだが……

「どうやら、スライムは強制イベントらしいな」

 もう一度、先程のスライムが現れたのである。
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