江戸夢草紙 〜仇討ちから始まる町人革命〜

鈴武謙

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江戸商人連合、町をひとつに

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――惣一郎は、芝を出た。

火傷の町、襲撃の夜を越えてなお、白鷺屋の影は深く広がっていた。
浅草では老舗の油問屋が白鷺屋に吸収され、
両国では町役人が金で抱き込まれ、白鷺屋主催の“特別利子付き貸付制度”が始まっていた。

「……まるで毒の蜜だ」

播磨屋兵吉が吐き捨てたように言った。

「甘くて誰もが手を伸ばすが、飲めば飲むほど、奴らの支配から逃げられなくなる」



惣一郎は決断する。

「江戸の町々をひとつに束ねる。
“町ごとの商人”ではなく、“江戸の商人”として戦う――江戸商人連合を立ち上げます」



まず向かったのは浅草・茶問屋組合。

老舗の茶問屋「山城屋」の主・仁左衛門は、かつて父・修斎の支持者だった。

「お前が修斎殿の倅か……あの男のような堅物にならねぇよう、気をつけな」

「俺は“真っ直ぐ”は貫きますが、“頑固”にはなりません。
ただ、今だけは、江戸を守るために意地を張らせてください」

仁左衛門はふっと笑った。

「おもしれぇ……茶の売り方より、啖呵がうまいな。いいだろう、浅草は協力する」



続いて訪れたのは日本橋の魚問屋連。
相手は強敵、関東魚問屋頭・酒井屋太兵衛。

「若造が、江戸中をまとめるだと?
この地で1日で百両稼いだら手伝ってやろう!」

その場で言い放たれた無理難題に、惣一郎は真っ直ぐ答える。

「では三日後、日本橋の広場で芝銀会の“縁日即売”を行います。
集まった金が百両に満たなければ、この話、そこで終わりで構いません」



そして三日後――

芝の名物、唐辛子団子、冷やし飴、木工細工のくじ引き、芝居舞台までを
そのまま日本橋に持ち込み、商いと“娯楽”を融合させた芝銀会の即売会が開かれた。

老舗の町人たちが最初は白眼視していたが、
子どもたちがはしゃぎ、大人たちが財布の紐を緩める光景に、雰囲気が一変する。

結果――初日で百三十二両の売上。

酒井屋太兵衛は黙って小判袋を叩きつけた。

「……惣一郎。てめぇはバカだ。だが、江戸に必要なバカだ。
この魚問屋、日本橋組は、お前の連合に乗る」



その夜、芝銀会本部には、
日本橋、浅草、両国、小石川、四谷……江戸十町の有力商人の名前が並ぶ目録が置かれていた。

江戸商人連合(仮称)結成、目前。

だがその頃、京――白鷺屋本家の座敷にて。

「……江戸商人連合。なめた真似を……」

桐生屋長兵衛が静かに杯を置き、
背後の片倉万之丞に低く命じる。

「ならば、次は“金ではなく命”をもって抑え込め。
“惣一郎を排除”しろ。今度こそ、後戻りは要らん」
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