冷徹公爵様は、捨てられた私が『治癒』するまで離してくれません

咲月ねむと

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​第4話 おはよう、私の安眠枕

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​(……ふわふわだ)

 ​目が覚めると、私は天国にいた。
 背中には高級羽毛布団の感触。全身を包み込むような温かさと、ほのかな柑橘系の香り。
 実家の屋根裏部屋の、あの煎餅布団とは大違いだ。あまりの心地よさに、私は二度寝を決め込もうと身じろぎした。

​「……起きたか」

 ​耳元で甘く低い声がした。

 え、男の人?
 驚いて目を開けると、鼻先が触れそうな距離に男の人の顔があった。その瞳がじっと私を見つめている。

​「ひゃああっ!?」

 ​悲鳴を上げて飛び退こうとしたが動けない。
 私の体は鋼のような逞しい腕によってガッチリとホールドされ、彼の胸板に縫い付けられていたのだ。まるで、大事な抱き枕のように。

​「ジ、ジークハルト様!?  なぜここに!?」

「なぜも何も、ここは私の寝室だ」

 ​彼は平然と答えた。
 記憶が蘇る。昨晩、広間で倒れ込んだ彼を介抱しているうちに、私も意識を失ってしまったのだ。どうやらその後、彼が私をここまで運んでくれたらしい。

​「も、申し訳ありません!  不敬にも旦那様のベッドで寝てしまうなんて……今すぐ出て行きます!」

「ならん」

 ​私が抜け出そうとすると腕の力が強まった。
 彼は私の頭を自身の胸に押し付け、深く息を吸い込む。

​「動くな。……まだ、離したくない」

 ​その声には、昨晩のような殺気も苦悶の響きもない。恐る恐る顔を上げると、私は息を呑んだ。

​(きれい……)

 ​昨日の死人のような顔色が嘘のようだ。
 目の下の隈は消え、肌には健康的な血色が戻っている。充血が引いた瞳はサファイアよりも澄み切っていて、吸い込まれそうなほど美しい。

「氷の彫像」が命を宿し、絶世の美男子に生まれ変わっていた。

​「……よく、眠れた」

 ​彼は噛み締めるように言った。

​「こんなに深く眠ったのは、数年ぶりだ。魔力の暴走も、あの焼けるような頭痛も、君が触れている間は嘘のように静まっている」

「それは……よかったです。お役に立てて」

「ああ。君は素晴らしい」

 ​彼は私の髪を一房すくい取り、愛おしげに唇を寄せた。

​「君は、私が探し求めていた『特効薬』だ。……もう二度と、手放すつもりはない」

 ​その熱っぽい視線に心臓が跳ねる。
 これは「魔力抑制剤」として見られているだけだと分かっていても、あんな美貌で至近距離から見つめられたら、免疫のない元社畜の心臓は保たない。

​「あ、あの、旦那様。そうは言っても、使用人が主人と同じベッドにいるのは問題が……」

 ​コンコンと控えめなノック音がして扉が開いた。

​「旦那様、朝のお支度のお時間ですが……」

 ​入ってきたのは、昨日の執事ハンスさんだ。
 彼はベッドの中で抱き合っている私たちを見て、一瞬ポカンと口を開けた。

 次の瞬間、その目から滝のような涙を流し始めた。

​「おお……おおお……っ!!」

「ハ、ハンスさん!?」

「旦那様が……旦那様が、穏やかなお顔で目覚められた……!  しかも、女性をベッドに入れるなんて……!  長かった、本当に長かった……!!」

 ​ハンスさんはハンカチで顔を覆い、男泣きしている。

 廊下からは、

「えっ、旦那様が?」

「嘘でしょう、あの不眠症が治ったの!?」

「奇跡だ!」

 というメイドたちのざわめきが聞こえてくる。

 ​ジークハルト様は騒ぐ使用人たちを見ることなく、私に向かって宣言した。

​「ハンス、直ちに契約書を作り直せ」

「へ?」

「こいつは使用人ではない。私の健康管理を担う、専属のパートナーだ。衣食住のすべてにおいて最高級の待遇を用意しろ」

 ​彼は私の腰に回した腕をさらに強く引き寄せた。

​「エルナ。君の仕事はただ一つ。私の側から片時も離れないことだ」
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