23 / 63
第2章 たかがお使い、されどお使い。街の噂の中心にいるらしい
第22話 妖精たちの水遊び
しおりを挟む
きらめきの洞窟。
その奥にある聖なる泉は、まるで宝石箱をひっくり返したかのように光で満ち溢れていた。
そして、その光の中で無数の小さな妖精――ピクシーたちが、きゃっきゃうふふと、実に楽しそうに水浴びをしている。水をかけ合ったり、水面に浮かぶ水晶の欠片をサーフボードのように乗りこなしたり。完全に自分たちのプライベートビーチと化していた。
「……な、なんだい、あいつら……」
目の前の幻想的な光景に、フィオナさんは呆気にとられていた。無理もない。ピクシーは極度に清浄な魔力を持つ場所にしか現れない、非常に希少な精霊だ。
普通は、一生に一度、見られるかどうかというレベルの存在である。
「こんにちはー。ちょっと、そこのお水をいただきたいんですけどー」
私ができるだけ優しく声をかけると、ピクシーたちは、一斉にこちらを向いた。
そして、にたぁ、と笑う。
それは純粋無垢な笑顔というよりは、タチの悪いいたずらっ子の笑みだった。
次の瞬間、ピクシーたちは両手で水をすくうと一斉にこちらに向かって放ってきた。
バシャバシャバシャッ!
無数の小さな水弾が、まるで弾丸のように飛んでくる。
「うわっ! 冷たっ!」
フィオナさんは慌てて腕で顔を庇う。
一方、私は飛んでくる水弾を、ひらりひらりと最小限の動きで全て避けていた。私の『自動汚れ防止機能付きワンピース』は、濡れることすら許さないのだ。
「……あらあら。どうやら交渉の余地はなさそうね」
ピクシーたちは、攻撃が当たらない私を見て、さらに面白がっている。今度は、もっと大きな水しぶきを上げ始めた。
「くっそー、あのチビ共! 人を馬鹿にしやがって!」
フィオナさんは腰の剣に手をかけた。
「おい、リリ! あいつら、どうにかできないのかい!? あんたの魔法で、ちょいっと……」
「ダメです。ピクシーは、とっても繊細な生き物なんです。下手に魔法で刺激したら、ショックで消えちゃうかもしれません」
「じゃあ、どうするんだよ! このままじゃ、水が汲めないじゃないか!」
フィオナさんが、じりじりと苛立ちを募らせる。
私は、ふむ、と少しだけ考え込んだ。
繊細で、魔法に弱い。
でも、遊び好きで、いたずら好き。
そして、物理的な衝撃には意外と強い。
「……分かりました。ちょっと、私に任せてください」
私は手に持っていた籐の籠を、そっと地面に置いた。そして腰に手を当てると、すぅ、と大きく息を吸い込む。
「……フィオナさん、少しだけ耳を塞いでいてください」
「へ? なんで……」
フィオナさんが怪訝な顔をする。
私は彼女の返事を待たずに、泉に向かって、お腹の底から声を出した。
「こらーーーーーーーーっ!! いい加減にしなさいっ!!!」
私の声は、ただの声ではなかった。
長年の薪割りで鍛え上げられた腹筋と、神級レベルの身体強化スキルによって増幅された、超音波兵器にも等しい『物理的な声』だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
声の衝撃波が洞窟全体を揺るがした。
壁の水晶はビリビリと震え、天井からは、キラキラとした光の粉が舞い落ちる。
泉の水面は、まるで嵐が来たかのように荒れ狂い、小さな津波となってピクシーたちに襲いかかった。
「「「「「きゃああああああああああ!?」」」」」
ピクシーたちは、一斉に悲鳴を上げ、木の葉のように泉から吹き飛ばされた。
何匹かは、くるくると目を回しながら、洞窟の壁に激突している。
「…………」
衝撃が収まった後。
洞窟には、気絶してぷかぷかと水面に浮かぶピクシーたちと、何が起こったのか分からずに、腰を抜かしてへたり込んでいるフィオナさんだけが残されていた。
「……ふぅ。これで、静かになりましたね」
私は何事もなかったかのように水筒を手に 取ると、静かになった泉の水を、ゆっくりと汲み始めた。
「……おい……」
背後からフィオナさんの震える声が聞こえてくる。
「……あんた、さっき……『魔法で刺激したら、ショックで消えちゃう』って……」
「ええ、言いましたよ」
「じゃあ、今の、声は……なんなんだよ……」
「声ですけど?」
私が、きょとんとして答えると、フィオナさんは天を仰いで深いため息をついた。
「……もう……突っ込むのも、疲れた……」
彼女は何かを諦めたように、ふらふらと立ち上がる。
「……で、次は、どこに行くんだっけ……?」
「次は、『微睡みゴーレム』の所ですよ。ここから歩いて5分くらいの岩場にいます」
私がにっこりと微笑むと、フィオナさんは遠い目をして呟いた。
「……もう、何が来ても、驚かないぞ……」
しかし、この時の彼女はまだ知らない。
次の目的地で待ち受けているのが、ただの『岩』ではなく、『寝起きの悪い、山のような大きさのゴーレム』だということを。
そして、そのゴーレムを起こすための私の方法が、さらに物理的で常識外れなものだということを。
私たちの安眠ハーブティーを巡る冒険は、まだ始まったばかりだった。
その奥にある聖なる泉は、まるで宝石箱をひっくり返したかのように光で満ち溢れていた。
そして、その光の中で無数の小さな妖精――ピクシーたちが、きゃっきゃうふふと、実に楽しそうに水浴びをしている。水をかけ合ったり、水面に浮かぶ水晶の欠片をサーフボードのように乗りこなしたり。完全に自分たちのプライベートビーチと化していた。
「……な、なんだい、あいつら……」
目の前の幻想的な光景に、フィオナさんは呆気にとられていた。無理もない。ピクシーは極度に清浄な魔力を持つ場所にしか現れない、非常に希少な精霊だ。
普通は、一生に一度、見られるかどうかというレベルの存在である。
「こんにちはー。ちょっと、そこのお水をいただきたいんですけどー」
私ができるだけ優しく声をかけると、ピクシーたちは、一斉にこちらを向いた。
そして、にたぁ、と笑う。
それは純粋無垢な笑顔というよりは、タチの悪いいたずらっ子の笑みだった。
次の瞬間、ピクシーたちは両手で水をすくうと一斉にこちらに向かって放ってきた。
バシャバシャバシャッ!
無数の小さな水弾が、まるで弾丸のように飛んでくる。
「うわっ! 冷たっ!」
フィオナさんは慌てて腕で顔を庇う。
一方、私は飛んでくる水弾を、ひらりひらりと最小限の動きで全て避けていた。私の『自動汚れ防止機能付きワンピース』は、濡れることすら許さないのだ。
「……あらあら。どうやら交渉の余地はなさそうね」
ピクシーたちは、攻撃が当たらない私を見て、さらに面白がっている。今度は、もっと大きな水しぶきを上げ始めた。
「くっそー、あのチビ共! 人を馬鹿にしやがって!」
フィオナさんは腰の剣に手をかけた。
「おい、リリ! あいつら、どうにかできないのかい!? あんたの魔法で、ちょいっと……」
「ダメです。ピクシーは、とっても繊細な生き物なんです。下手に魔法で刺激したら、ショックで消えちゃうかもしれません」
「じゃあ、どうするんだよ! このままじゃ、水が汲めないじゃないか!」
フィオナさんが、じりじりと苛立ちを募らせる。
私は、ふむ、と少しだけ考え込んだ。
繊細で、魔法に弱い。
でも、遊び好きで、いたずら好き。
そして、物理的な衝撃には意外と強い。
「……分かりました。ちょっと、私に任せてください」
私は手に持っていた籐の籠を、そっと地面に置いた。そして腰に手を当てると、すぅ、と大きく息を吸い込む。
「……フィオナさん、少しだけ耳を塞いでいてください」
「へ? なんで……」
フィオナさんが怪訝な顔をする。
私は彼女の返事を待たずに、泉に向かって、お腹の底から声を出した。
「こらーーーーーーーーっ!! いい加減にしなさいっ!!!」
私の声は、ただの声ではなかった。
長年の薪割りで鍛え上げられた腹筋と、神級レベルの身体強化スキルによって増幅された、超音波兵器にも等しい『物理的な声』だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
声の衝撃波が洞窟全体を揺るがした。
壁の水晶はビリビリと震え、天井からは、キラキラとした光の粉が舞い落ちる。
泉の水面は、まるで嵐が来たかのように荒れ狂い、小さな津波となってピクシーたちに襲いかかった。
「「「「「きゃああああああああああ!?」」」」」
ピクシーたちは、一斉に悲鳴を上げ、木の葉のように泉から吹き飛ばされた。
何匹かは、くるくると目を回しながら、洞窟の壁に激突している。
「…………」
衝撃が収まった後。
洞窟には、気絶してぷかぷかと水面に浮かぶピクシーたちと、何が起こったのか分からずに、腰を抜かしてへたり込んでいるフィオナさんだけが残されていた。
「……ふぅ。これで、静かになりましたね」
私は何事もなかったかのように水筒を手に 取ると、静かになった泉の水を、ゆっくりと汲み始めた。
「……おい……」
背後からフィオナさんの震える声が聞こえてくる。
「……あんた、さっき……『魔法で刺激したら、ショックで消えちゃう』って……」
「ええ、言いましたよ」
「じゃあ、今の、声は……なんなんだよ……」
「声ですけど?」
私が、きょとんとして答えると、フィオナさんは天を仰いで深いため息をついた。
「……もう……突っ込むのも、疲れた……」
彼女は何かを諦めたように、ふらふらと立ち上がる。
「……で、次は、どこに行くんだっけ……?」
「次は、『微睡みゴーレム』の所ですよ。ここから歩いて5分くらいの岩場にいます」
私がにっこりと微笑むと、フィオナさんは遠い目をして呟いた。
「……もう、何が来ても、驚かないぞ……」
しかし、この時の彼女はまだ知らない。
次の目的地で待ち受けているのが、ただの『岩』ではなく、『寝起きの悪い、山のような大きさのゴーレム』だということを。
そして、そのゴーレムを起こすための私の方法が、さらに物理的で常識外れなものだということを。
私たちの安眠ハーブティーを巡る冒険は、まだ始まったばかりだった。
568
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、俺は必死についていった。
だけど、自分には何もできないと思っていた。
それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。
だけどある日、彼らは言った。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
そう思っていた。そのはずだった。
――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
「最強を目指すべくして生まれた存在」
「君と一緒に行かせてくれ。」
「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」
穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい――
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる