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第28話 改心した侍女
「…なぜ、あなた様のようなお方が、ご自身で掃除などをなさるのですか?」
呆然と立ち尽くしていた侍女のセーラさんが、絞り出すように尋ねた。その瞳からは、私を侮る色は消え、純粋な好奇心と、少しの畏怖が浮かんでいる。
「なぜって……それはもちろん、お掃除が好きだからですわ!汚れた場所が自分の手でピカピカに輝きを取り戻す瞬間が、たまらなく愛おしいのです!」
私が胸を張って答えると、セーラさんは何かを堪えるように、ぎゅっと唇を結んだ。
「……わたくしは、イザベラ公爵夫人の命令で、あなた様の粗探しをするために遣わされました。でも、もうできません。あなた様は、わたくしが今まで見てきた、どの貴婦人とも違う……。太陽のように、清らかなお方だ」
彼女はそう告白すると、私に深く頭を下げた。そして、声を潜めて、衝撃的な情報を教えてくれた。
「アリシア様、どうかお気をつけください。イザベラ様は、数日後の祝賀会で、あなた様に恥をかかせようと企んでおられます。特に、王妃様主催の『聖女の御力拝見の儀』は、危険な罠ですわ」
その不穏な響きの儀式の名前を、私はカイ様に報告した。
カイ様は、その名を聞いただけで、全てを察したようだった。
「…なるほどな。呪われた品でも持ち出して浄化できなければ『偽の聖女』、できてもその力を王家の管理下に置こうという魂胆か。汚い手を使いおって」
氷のように冷たい声で呟くカイ様。その表情は、私の身を案じ、そして敵への怒りで厳しくこわばっている。私は、そんなカイ様の心を少しでも軽くしてさしあげたくて、精一杯、明るい声を出した。
「まぁ!『聖女の御力拝見の儀』ですって!?なんて、なんて素晴らしいネーミングセンスでしょう!」
「……は?」
私の弾んだ声に、カイ様の思考がフリーズしたのが分かった。
(聖女の…御力を…拝見する儀…ですって?)
私の頭の中では、その言葉が極めてポジティブな意味へと変換されていた。
(聖女、すなわち『お掃除の達人』の、御力、すなわち『秘伝のお掃除テクニック』を、皆様に拝見していただく儀!つまり、王侯貴族の皆様の前で、わたくしの華麗なお掃除術を披露する、公開デモンストレーションの機会をくださるということですわね!?)
「呪われた品、というのも、きっと長年放置されてきた、由緒正しい汚れが付着した骨董品に違いありませんわ!ああ、なんてこと!腕が鳴ります!武者震いがしますわ!」
私が目をキラキラさせながら拳を握りしめると、カイ様は、先程までの厳しい表情が嘘のように、額に手を当てて、がっくりと肩を落とした。
そして、長い、長い沈黙の後、ついに諦めたように顔を上げた。
その口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。
「……そうか。君にとっては、ただのデモンストレーションか」
カイ様は、私のこの常識外れの思考回路こそが、どんな罠をも打ち破る最強の武器だと悟ってくれたらしい。
「ああ、そうだな。君の最高の『技』を王都のハイエナどもに、とくと見せつけてやれ」
カイ様はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
こうして私たちの向かうべき道は定まった。
私は自室で、来るべき公開お掃除に備え、最強の磨き粉と、最新鋭のお掃除道具の準備に余念が なかった。
悪意に満ちた罠と善意(100%)のお掃除魂。
二つのベクトルは、奇しくも、一つの呪われたティアラに向かって、真っ直ぐに進み始めていた。
呆然と立ち尽くしていた侍女のセーラさんが、絞り出すように尋ねた。その瞳からは、私を侮る色は消え、純粋な好奇心と、少しの畏怖が浮かんでいる。
「なぜって……それはもちろん、お掃除が好きだからですわ!汚れた場所が自分の手でピカピカに輝きを取り戻す瞬間が、たまらなく愛おしいのです!」
私が胸を張って答えると、セーラさんは何かを堪えるように、ぎゅっと唇を結んだ。
「……わたくしは、イザベラ公爵夫人の命令で、あなた様の粗探しをするために遣わされました。でも、もうできません。あなた様は、わたくしが今まで見てきた、どの貴婦人とも違う……。太陽のように、清らかなお方だ」
彼女はそう告白すると、私に深く頭を下げた。そして、声を潜めて、衝撃的な情報を教えてくれた。
「アリシア様、どうかお気をつけください。イザベラ様は、数日後の祝賀会で、あなた様に恥をかかせようと企んでおられます。特に、王妃様主催の『聖女の御力拝見の儀』は、危険な罠ですわ」
その不穏な響きの儀式の名前を、私はカイ様に報告した。
カイ様は、その名を聞いただけで、全てを察したようだった。
「…なるほどな。呪われた品でも持ち出して浄化できなければ『偽の聖女』、できてもその力を王家の管理下に置こうという魂胆か。汚い手を使いおって」
氷のように冷たい声で呟くカイ様。その表情は、私の身を案じ、そして敵への怒りで厳しくこわばっている。私は、そんなカイ様の心を少しでも軽くしてさしあげたくて、精一杯、明るい声を出した。
「まぁ!『聖女の御力拝見の儀』ですって!?なんて、なんて素晴らしいネーミングセンスでしょう!」
「……は?」
私の弾んだ声に、カイ様の思考がフリーズしたのが分かった。
(聖女の…御力を…拝見する儀…ですって?)
私の頭の中では、その言葉が極めてポジティブな意味へと変換されていた。
(聖女、すなわち『お掃除の達人』の、御力、すなわち『秘伝のお掃除テクニック』を、皆様に拝見していただく儀!つまり、王侯貴族の皆様の前で、わたくしの華麗なお掃除術を披露する、公開デモンストレーションの機会をくださるということですわね!?)
「呪われた品、というのも、きっと長年放置されてきた、由緒正しい汚れが付着した骨董品に違いありませんわ!ああ、なんてこと!腕が鳴ります!武者震いがしますわ!」
私が目をキラキラさせながら拳を握りしめると、カイ様は、先程までの厳しい表情が嘘のように、額に手を当てて、がっくりと肩を落とした。
そして、長い、長い沈黙の後、ついに諦めたように顔を上げた。
その口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。
「……そうか。君にとっては、ただのデモンストレーションか」
カイ様は、私のこの常識外れの思考回路こそが、どんな罠をも打ち破る最強の武器だと悟ってくれたらしい。
「ああ、そうだな。君の最高の『技』を王都のハイエナどもに、とくと見せつけてやれ」
カイ様はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
こうして私たちの向かうべき道は定まった。
私は自室で、来るべき公開お掃除に備え、最強の磨き粉と、最新鋭のお掃除道具の準備に余念が なかった。
悪意に満ちた罠と善意(100%)のお掃除魂。
二つのベクトルは、奇しくも、一つの呪われたティアラに向かって、真っ直ぐに進み始めていた。
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