お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと

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​第33話 幽霊塔の正体

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​『王宮お掃除特殊部隊』による大厨房の完全浄化は、瞬く間に王宮中の噂となった。
 私と部隊の評判はうなぎのぼりで、行く先々で使用人たちから尊敬の眼差しを向けられるようになった。

​ そして、私たちが次なるターゲットとして選んだのは、王宮の誰もが寄り付かない場所――『幽霊塔』の異名を持つ、北塔だった。

​「隊長!本当に行くんですか!?あそこは、夜な夜なすすり泣く女の霊が…!」
「大丈夫ですわ!」

 ​怖がる隊員たちを、私は力強く励ました。

​「幽霊の正体とは、すなわち、長年蓄積された埃とカビ、そして換気不足による空気の淀みです!科学的にアプローチすれば、何も怖いものなどありません!」

 ​私のあまりにも断定的な物言いに、隊員たちは半信半疑ながらも、ついてきてくれることになった。

 ​その夜。私が北塔の攻略プランを練っていると、カイ様が私の部屋を訪れた。

​「アリシア。最近、少し根を詰めすぎではないか?」
「カイ様!ご心配には及びませんわ。明日の作戦は完璧です!」
「……そうか」

 ​カイ様は、何か言いたげに黙り込んだ後、少し拗ねたような声で言った。

​「君は、私の婚約者だということを忘れるな。……他の者たちと、あまり親しくしすぎるのは感心しない」

 ​やきもち…なのだろうか?いえ、違うわ!

​(これは、隊長としての自覚を促す、カイ様流の激励!部下と馴れ合うな、リーダーとして毅然とあれ、という、愛の鞭に違いないわ!)

​「はい、カイ様!肝に銘じます!わたくし、隊長として、部下たちを厳しく、そして的確に指導してまいります!」
「…………そうじゃないんだがな」

 ​私の完璧な理解力に、カイ様は深いため息をついていた。


 ​翌日、私たちお掃除部隊は、ついに北塔へと足を踏み入れた。中は、カビと埃の匂いが充満し、床は軋み、壁には蜘蛛の巣がアートのように張り巡らされている。不気味な雰囲気は満点だ。

​「ひぃっ!今の音は!?」
「落ち着いてください!今の音は、湿気で膨張した木材が、乾燥によって収縮する際に発する、いわゆる『家鳴り』という現象ですわ!」

 ​私は冷静に解説しながら、隊員たちに的確な指示を飛ばしていく。換気、除湿、カビ取り、そして掃き掃除。私の「浄化」の力も相まって、淀みきっていた塔の空気は、みるみるうちに清浄なものへと変わっていった。
 ​すすり泣く女の声の正体は、窓枠の隙間から吹き込む風の音だった。白い影の正体は、破れたカーテンが揺れているだけ。幽霊の謎は、全てが汚れと老朽化に起因するものだったのだ。

 ​塔の内部がすっかり綺麗になった頃、私たちは最上階の部屋で、分厚い埃をかぶった一枚の大きな肖像画を発見した。

​「仕上げと参りましょう!」

 ​私が、その肖像画の汚れを丁寧に拭い去っていく。すると、埃のベールの下から現れたのは、誰も見たことのない、優しい微笑みを浮かべた美しい女性の姿だった。

​「この方は…?」

 ​セーラさんが息をのむ。絵の隅には、こう記されていた。『初代王妃アリア』と。
 歴史書によれば、初代王妃は大変な綺麗好きで「国の乱れは心の乱れ、心の乱れは部屋の乱れから」という家訓を残したとされている。しかし、その肖像画は、いつしか忘れ去られていたのだ。
​その清らかで、凛とした佇まい。そして、何より も、彼女が手にしているもの。それは、美しい装飾が施された、一本の羽根ハタキだった。

​「…………師匠……!」

 ​私は、肖像画の前にへなへなと崩れ落ち、感涙にむせんでいた。

​「わたくしの……わたくしのお掃除の師匠が、こんな所におられましたとは……!」

 ​こうして北塔の幽霊騒ぎは完全解決し、私は、この国で最も偉大な「お掃除の先達」と、時を超えた出会いを果たしたのだった。
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