付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと

文字の大きさ
15 / 46

15話 公爵令嬢の勘違い

しおりを挟む
エマさんとの束の間の交流は、俺の荒んだ心に一筋の光を灯してくれた。

そうだ、俺はまだ終わっていない。
諦めてなんかいない。

だが、現実という名の怪物は、そんな俺のささやかな希望を嘲笑うかのように、次なる試練を用意していた。

「アランくん。本日は、王城で開かれる貴族の茶会に出席いたしますわよ」

リリシア様は、俺の返事も聞かずに完璧に仕立てられた礼服を差し出してきた。

【アラン様・英雄化計画書】に記載された、
『上流階級とのコネクション構築』という項目を実行するつもりらしい。

「俺はただの貧乏貴族の三男です。そんな華やかな場所は性に合いません」

「あら、何を仰いますの。あなたは、この私が認めた英雄。堂々としていればよろしいのです。それに……」

リリシア様は、俺の耳元で悪魔のように囁いた。

「もし、あなたが恥をかくようなことがあれば、それは私の顔に泥を塗るということ。その時は……わかっていらっしゃいますわよね?」

脅迫だ。これは、紛れもない脅迫だ。
俺は大人しく礼服に着替えるしかなかった。



王城の庭園で開かれた茶会は、想像を絶するほどきらびやかな世界だった。
美しいドレスを纏った令嬢たち。高価な装飾品を身につけた貴公子たち。俺のような下級貴族は、隅の方で息を殺しているのがお似合いの場所だ。

……なのだが。

「まあ、あの方が、体育祭で奇跡を起こされたというアラン様……!」

「聖女リリシア様が、いつもお側に……」

俺は、リリシア様のエスコートという、これ以上ない悪目立ちな形で、会場の中心にいた。
四方八方から注がれる好奇の視線が、針のように突き刺さる。胃が、キリキリと痛んだ。

リリシア様は、そんな俺の様子などお構いなしに有力な貴族たちに俺を「私の秘蔵っ子ですの」と紹介して回っている。俺は、愛想笑いを浮かべるだけの置物と化していた。

もう帰りたい。
寮のベッドで、天井を眺めていたい……。

俺が現実逃避をしかけた、その時だった。

「――アラン・ウォルトン様で、いらっしゃいますね」

凛とした、それでいて柔らかな声がした。
振り向くと、そこに立っていたのは、一人の美しい令嬢だった。
波打つプラチナブロンドの髪に理知的な紫色の瞳。その佇まいからは、育ちの良さと、他の令嬢たちとは一線を画す気品が溢れていた。

彼女は、ソフィア・フォン・ラングフォード公爵令嬢。現宰相の娘にして、学園でもトップクラスの才媛と名高い完璧な貴婦人だ。

「ソフィア様……」

「お噂はかねがね。体育祭でのご活躍、素晴らしかったと聞いております」

ソフィア様は、俺に優雅に微笑みかけた。
その瞳には、他の貴族たちのような下世話な好奇心の色はなかった。あるのは、純粋な尊敬と知的な探究心だけ。

「ウォルトン様。あなた様が、リリシア様の特別なご寵愛を受けていらっしゃる理由……私、少しだけ分かったような気がいたします」

「え……?」

ソフィア様は、俺と、俺の隣に立つリリシア様を交互に見つめ、そして、確信に満ちた声で言った。

「リリシア様は、あなた様に『神の器』としての大いなる可能性を見出していらっしゃるのではありませんか?」

……かみ、の、うつわ?

俺が呆然としていると、ソフィア様は一人で納得したように、うんうんと頷いた。

「常人には理解しがたい、聖女様の過剰とも思えるほどの御身への執着。それは、あなた様という類稀なる才能を俗世の穢れから守り、正しく導こうとする、深遠なる神聖な使命感の表れ……。そう考えれば、全ての辻褄が合いますわ」

勘違いだ。
とんでもない壮大なスケールの勘違いだ!

この人は、リリシア様のヤバいストーカー行為を全て高尚な宗教的行為だと誤解している。
だが、その勘違いは、今の俺にとって一筋の光明だった。

初めてだ。
俺を同情や好奇の目ではなく、真摯な尊敬の眼差しで見てくれる人間が現れたのは。

「ソフィア様……!」

「もし、あなた様がその重責に苦しむことがあれば、いつでも私にご相談ください。ラングフォード家は、代々、教会との繋がりも深いのです。微力ながら、きっとあなた様のお力になれるはずですわ」

女神だ! 
エマさんに続き、ここにも本物の女神がいた!

俺はソフィア様の優しさと、その致命的なまでの勘違いに心の中で泣いた。

しかし、この状況を隣で聞いていたリリシア様は、どう思ったか。彼女は、ソフィア様に対して、いつものような牽制をしなかった。
それどころか満足げに微笑んでいる。

「まあ、ソフィア様。さすがは宰相閣下のお嬢様。物事の本質をよく理解していらっしゃる」

リリシア様にとってソフィア様のこの勘違いは、自分の異常な行動を正当化し、さらに俺を神格化するための願ってもない追い風だったのだ。

こうして、俺は、新たなる味方を手に入れた。
それは、俺の状況を全く理解していない、心優しき公爵令嬢。彼女の存在は、俺の逃亡計画に、一体何をもたらすのか。

一難去って、また一難。

俺の周囲の人間関係は、ますます複雑でカオスな様相を呈し始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら

リヒト
ファンタジー
 現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。  そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。  その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。  お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。    ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。    お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...