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39話 初めての対話
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監察官クレマンが怒りと屈辱に顔を歪めて去っていった後、大講堂は、いつもの喧騒を取り戻し始めた。
査問会という重苦しい儀式は終わり、生徒たちは劇的な結末に興奮冷めやらぬ様子で口々に感想を語り合っている。
俺たちの周りには、クラスメイトたちが集まり、口々に俺たちを称賛してくれた。
「やったな、アラン!」
「お前たち最高にクールだったぜ!」
俺たちは、その輪の中で、ようやく安堵の息をついた。四人で、顔を見合わせる。
そこには共に大きな壁を乗り越えた者だけが分かち合える、強い、強い絆があった。
だが、俺たちの視線は自然とホールの一点へと注がれていた。ただ一人、ぽつんと証人席に取り残された小さな人影。
リリシア様だ。
友人たちは、俺の気持ちを察してくれたのだろう。ジュリアス様が静かに頷き、エマさんとソフィア様が俺の背中を、ぽん、と優しく押してくれた。
「「「行ってこい(きなさい)(くださいませ)」」」
三人の声が綺麗に重なった。
俺は仲間たちに感謝し、一人彼女の元へと歩き出した。一歩、また一歩と近づくにつれて、俺の心臓は奇妙なほど静かになっていく。
もう恐怖も、反発もない。
俺は彼女の目の前で足を止めた。
彼女は、まだ俯いたままだ。
「……大丈夫ですか、リリシア様」
俺が静かに声をかけると、彼女の肩が、びくりと震えた。ゆっくりと彼女が顔を上げる。
その涙で濡れた翠色の瞳は、ただ俺を映していた。
「……どうして」
か細い囁くような声だった。
「どうして私を助けたのですか。私は、あなたに、あんなに酷いことをしたのに。あなたを、私の都合のいい人形にしようと、していたのに」
彼女の、初めての懺悔の言葉。
俺は静かに首を横に振った。
「あんたを一人にしておけなかった。……ただ、それだけです」
俺の不器用な答え。
だが、今の俺の偽らざる本心だった。
「正直、めちゃくちゃ迷惑でした。怖かったし、腹も立った。でも」
俺は言葉を続ける。
「でも、あんたが、ただ、誰かを傷つけたいだけの悪い人間じゃないってことも、今は分かります」
俺は、一歩、彼女に近づいた。
「日誌を読みました。エルム村で何があったのか……。あなたの、その苦しみも知りました。でも、まだ、分からないことがあるんです。あんたが、そこまでして守りたかったもの。そして、救えなかった、たった一人の『誰か』って、一体……」
その言葉にリリシア様の瞳が再び苦痛に揺らぐ。彼女は、ふるふると、か細く首を横に振った。
「……今は、まだ……話せません。ごめんなさい……」
初めて聞いた彼女からの謝罪の言葉。
その言葉に、俺はもう十分だと思った。
「分かりました。あんたが話したくなるまで待ちます」
俺は、そう言うと彼女の前に、そっと手を差し出した。
夜会の夜とは違う。
対等なパートナーとして、ではなく。ただ、傷ついた一人の女の子を導くように。
「帰りましょう、リリシア様。俺たちの教室へ」
リリシア様は、俺の、その差し出された手を長い間、ただ見つめていた。
やがて彼女は、おそるおそる、その冷たく震える指先を俺の手に重ねた。
俺はその手を優しく握りしめる。
そして、彼女をゆっくりと立ち上がらせた。
大講堂には、もうほとんど人影はなかった。
俺たちは、二人手を取り合って静かに場所を後にする。古い関係は、終わりを告げたのだ。
査問会という重苦しい儀式は終わり、生徒たちは劇的な結末に興奮冷めやらぬ様子で口々に感想を語り合っている。
俺たちの周りには、クラスメイトたちが集まり、口々に俺たちを称賛してくれた。
「やったな、アラン!」
「お前たち最高にクールだったぜ!」
俺たちは、その輪の中で、ようやく安堵の息をついた。四人で、顔を見合わせる。
そこには共に大きな壁を乗り越えた者だけが分かち合える、強い、強い絆があった。
だが、俺たちの視線は自然とホールの一点へと注がれていた。ただ一人、ぽつんと証人席に取り残された小さな人影。
リリシア様だ。
友人たちは、俺の気持ちを察してくれたのだろう。ジュリアス様が静かに頷き、エマさんとソフィア様が俺の背中を、ぽん、と優しく押してくれた。
「「「行ってこい(きなさい)(くださいませ)」」」
三人の声が綺麗に重なった。
俺は仲間たちに感謝し、一人彼女の元へと歩き出した。一歩、また一歩と近づくにつれて、俺の心臓は奇妙なほど静かになっていく。
もう恐怖も、反発もない。
俺は彼女の目の前で足を止めた。
彼女は、まだ俯いたままだ。
「……大丈夫ですか、リリシア様」
俺が静かに声をかけると、彼女の肩が、びくりと震えた。ゆっくりと彼女が顔を上げる。
その涙で濡れた翠色の瞳は、ただ俺を映していた。
「……どうして」
か細い囁くような声だった。
「どうして私を助けたのですか。私は、あなたに、あんなに酷いことをしたのに。あなたを、私の都合のいい人形にしようと、していたのに」
彼女の、初めての懺悔の言葉。
俺は静かに首を横に振った。
「あんたを一人にしておけなかった。……ただ、それだけです」
俺の不器用な答え。
だが、今の俺の偽らざる本心だった。
「正直、めちゃくちゃ迷惑でした。怖かったし、腹も立った。でも」
俺は言葉を続ける。
「でも、あんたが、ただ、誰かを傷つけたいだけの悪い人間じゃないってことも、今は分かります」
俺は、一歩、彼女に近づいた。
「日誌を読みました。エルム村で何があったのか……。あなたの、その苦しみも知りました。でも、まだ、分からないことがあるんです。あんたが、そこまでして守りたかったもの。そして、救えなかった、たった一人の『誰か』って、一体……」
その言葉にリリシア様の瞳が再び苦痛に揺らぐ。彼女は、ふるふると、か細く首を横に振った。
「……今は、まだ……話せません。ごめんなさい……」
初めて聞いた彼女からの謝罪の言葉。
その言葉に、俺はもう十分だと思った。
「分かりました。あんたが話したくなるまで待ちます」
俺は、そう言うと彼女の前に、そっと手を差し出した。
夜会の夜とは違う。
対等なパートナーとして、ではなく。ただ、傷ついた一人の女の子を導くように。
「帰りましょう、リリシア様。俺たちの教室へ」
リリシア様は、俺の、その差し出された手を長い間、ただ見つめていた。
やがて彼女は、おそるおそる、その冷たく震える指先を俺の手に重ねた。
俺はその手を優しく握りしめる。
そして、彼女をゆっくりと立ち上がらせた。
大講堂には、もうほとんど人影はなかった。
俺たちは、二人手を取り合って静かに場所を後にする。古い関係は、終わりを告げたのだ。
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