偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

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第​27話 王都からの兵糧攻め

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 呪いの浄化から数日後。
 ヴィンターヴァルト城の朝食風景は、劇的な変化を遂げていた。

​「……美味い。このパンの焼き加減、卵の半熟具合、すべてが完璧だ」

​ 朝日が差し込むダイニングで、クラウス様がトーストを齧りながら蕩けるような笑顔を浮かべている。

 かつては「砂の味」に顔をしかめていたのが嘘のようだ。今では、私が監修した朝食を、それはもう美味しそうに平らげている。

​「旦那様が、あんなに幸せそうに……ううっ」

​ 壁際に控える執事のセバスチャンやメイドたちは、その光景を見るたびにハンカチで目頭を押さえている。
 もはや城の名物光景だ。

​「エリーナ。今日の昼はどうする? 店に出るのか?」

​ クラウス様がコーヒーを飲みながら聞いてきた。

​「はい。騎士団の皆さんも待ってますし、新メニューの『味噌カツ丼』を出そうかと」

​「味噌カツ……! ぐぬぬ、執務など放り出して店に行きたい」

​ 彼は本気で悔しそうだ。
 呪いが解けてからというもの、彼の「食への執着」と「私への独占欲」は留まるところを知らない。
 最強の騎士団長が、ただの食いしん坊の甘えん坊になりつつある。可愛いからいいけど。

​ そんな穏やかで平和な朝――だったはずが。

​バタンッ!!

​ 扉が勢いよく開き、騎士の一人が駆け込んできた。顔色が悪い。

​「か、閣下! 緊急事態です!」

​「……騒々しいぞ。今はエリーナとの至福の朝食タイムだ」

​ クラウス様が不機嫌そうに眉を寄せるが騎士の報告は衝撃的なものだった。

​「王都からの定期便が……輸送馬車が、すべて止められました!」

​「何だと?」

​ クラウス様の目が一瞬で「氷の騎士」のそれに戻る。

​「どういうことだ。説明しろ」

​「はっ! 王都の関所にて、北への物資輸送が全面的に禁止されたとのことです。理由は『王太子殿下を不当に拘束した反逆罪への制裁』だと……!」

​ガシャン。

 クラウス様がコーヒーカップをソーサーに置く音が冷たく響いた。
​ 北の辺境ノースガルドは、魔物素材や鉱石は豊富だが、寒冷地ゆえに穀物や野菜の自給率が低い。食料の多くを王都を含む南の地域からの輸入に頼っているのだ。
 それを止めるということは――つまり「兵糧攻め」だ。

​「……腐っても親か。馬鹿息子がしでかした不始末を棚に上げ、領民を餓えさせることで私を屈服させようとはな」

​ クラウス様の周囲の空気が凍りつき、テーブルの上の花瓶がピキピキと音を立ててヒビ割れる。

 激怒している。

 領民を守る彼にとって、これは許しがたい暴挙だ。

​「備蓄はあるが、冬を越すには心許ない。……エリーナ、すまない。店の営業どころではなくなるかもしれない」

​ 彼は苦渋の表情で私を見た。
 食材がなければ、料理屋は成り立たない。街の人々もパニックになるだろう。
​ ――普通なら、ここで絶望するところだ。

​ でも。

​「……ふふっ」

​ 私は思わず笑い声を漏らしてしまった。

​「エ、エリーナ?」

​「ごめんなさい。だって、王都の人たち、何もわかってないんですもの」

​ 私は席を立ち、クラウス様の肩に手を置いた。

​「兵糧攻め? 食料がないなら飢えて死ね? ……上等じゃないですか」

​ 私の目には、怒りではなく闘志の炎が宿っていた。食の恨みは恐ろしい。
 美味しいご飯を邪魔する奴は、誰であろうと許さない。

​「クラウス様、安心してください。輸入が止まるなら、作ればいいんです」

​「作る? だが、ここは北国だぞ? 小麦も野菜も育たない」

​「普通の農業なら、ね。……でも私には【生活魔法】があります。温室栽培だろうが、品種改良だろうが、なんだってやってみせますよ!」

​ 私はニヤリと不敵に笑った。

​「王都を見返してやりましょう。北には北の、最高に美味しい食材があるってことを!」
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