偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

文字の大きさ
34 / 45

第34話 波止場の修理

しおりを挟む
​「さて、と……。大物は片付きましたけど、これじゃ船を呼べませんね」

​ 私は気絶して浮いている巨大クラーケンとエメラルドブルーに輝く海を見渡した。海は綺麗になった。だが、肝心の港がボロボロだ。
 波止場は崩れ、倉庫は半壊。これでは荷物の積み下ろしができない。

​「セバスチャン、修復にはどれくらいかかる?」

​ クラウス様が眉間にシワを寄せる。

​「……最短でも石工を動員して半年はかかりましょう。冬が来る前には終わりませんな」

​「半年……。そんなに待てません!」

​ 私は二人の前に進み出た。

​「こういうのは、土木工事じゃありません。『お片付け』の延長です!」

​「え?」 

​ 私は瓦礫の山に向かって両手をかざした。

「【一括修復オール・リペア】!」

​ガガガガガッ!

 海に沈んだ瓦礫がひとりでに浮き上がり、パズルのピースのように元の位置へとはまっていく。
 崩れた倉庫の壁が組み上がり、割れた窓ガラスが再生し、傾いていたクレーンが真っ直ぐに立ち上がる。

​「なっ……!?」

「波止場が……直っていくぞ……!」

​ 騎士たちが呆然とする中、ほんの数分で港は三十年前の活気ある姿を取り戻していた。

​「ふぅ、スッキリしました。これでいつ商船が来ても大丈夫ですね!」

​「……エリーナ。お前はもう、何でもありだな」

​ クラウス様が呆れたように笑った、その時だった。

​「閣下! 沖合に船影! ……三隻! 旗は……『黒髑髏くろどくろ』! 海賊です!」

​ 見張りの騎士が絶叫した。
 見ると、水平線の向こうから、黒い帆を掲げた三隻の大型帆船がこちらに向かってきていた。
 おそらく、先ほどの浄化魔法の巨大な光を見て異変を察知してやってきたのだろう。

​「チッ、嗅ぎつけやがったか!」

​ クラウス様が舌打ちし、騎士たちが臨戦態勢に入る。

​「エリーナは下がっていろ! 奴らは海のゴロツキだ。交渉の余地はない!」

​「待ってください、クラウス様!」

​ 私は戦おうとする彼の手を掴んだ。

​「交渉の余地がないなら、作ればいいんです!」

​「何を……!?」

​「彼ら海賊ですよね? 海の男たちですよね? きっと船の上でロクなご飯、食べてませんよ!」

​ 私は名案が浮かんだとばかりに指を立てた。

​「ガストンさん! 騎士の皆さん! あのイカ、急いで解体してください! 私、最高の『まかない』を作ります!」

​「は、はぁ!?」

​ 戸惑うガストンたちをよそに、私は修復したばかりの波止場に、臨時の厨房を設置した。

 生活魔法で魔道コンロを設置し、巨大な鉄板を出す。
 ガストンたちが引き揚げたばかりのクラーケンの足を手早くぶつ切りにしていく。

​「鉄板に火! ニンニクとバターを!」

​ジュワワワワワワッッッ!!!

​ 熱した鉄板にバターが溶け、刻んだニンニクの香りが爆発する。そこへ、ぶつ切りのイカを豪快に投入! 仕上げに醤油を回しかけた。

​「【香り増幅アロマ・ブースト】!!」

​ 私が魔法をかけると、暴力的なまでの「イカとニンニクバター醤油の香り」が海風に乗って沖合の海賊船へと拡散していった。

​ ***

​ 一方、海賊船『ブラック・スカル号』。

 船長の隻眼の男が望遠鏡を覗いていた。

​「……船長。あの呪われた港、光ってやがったし、なんか波止場が綺麗になってませんかね?」

​「ああ? 気のせいだろ。それより、あの騎士団が何を企んでやがるか……」

​ その時、ふわりと風向きが変わった。
 海賊たちの鼻腔を未知の香りがくすぐった。

​「……ひっく」

​ 船長が鼻を鳴らす。

​「……なんだ、この匂いは」

​ それは、彼らがここ数年嗅いだことのない極上の「メシ」の匂いだった。

​「……お、おい、船長。港の方から、すげぇ美味そうな匂いが……」

​「馬鹿野郎! あれは北の騎士団の罠だ! 幻術だ!」

​ そう怒鳴りながらも船長の喉がゴクリと鳴る。

​「……だが、もし」

「これが本物だとしたら……」

​「……全船、停船! ……様子を見る」

​ 海賊たちは、武器を構えるのも忘れ、ただひたすら陸から漂ってくる「飯テロ」の香りに腹を鳴らしながら立ち尽くすのだった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音
恋愛
ここはステイプルドン王国。 エッジ男爵家は領民に寄り添う堅実で温かな一族であり、家族仲も良好でした。長女ジャネットは、貴族学園を優秀な成績で卒業し、妹や弟の面倒も見る、評判のよい令嬢です。 一方、アンドレアス・キーリー公爵は、深紅の髪と瞳を持つ美貌の騎士団長。 火属性の魔法を自在に操り、かつて四万の敵をひとりで蹴散らした伝説の英雄です。 しかし、女性に心を閉ざしており、一度は結婚したものの離婚した過去を持ちます。 そんな彼が、翌年に控える隣国マルケイヒー帝国の皇帝夫妻の公式訪問に備え、「形式だけでいいから再婚せよ」と王に命じられました。 選ばれたのは、令嬢ジャネット。ジャネットは初夜に冷たい言葉を突きつけられます。 「君を妻として愛するつもりはない」 「跡継ぎなら、すでにいる。……だから子供も必要ない」 これは、そんなお飾りの妻として迎えられたジャネットが、前妻の子を真心から愛し、公爵とも次第に心を通わせていく、波乱と愛の物語です。 前妻による陰湿な嫌がらせ、職人養成学校の設立、魔導圧縮バッグの開発など、ジャネットの有能さが光る場面も見どころ。 さらに、伝説の子竜の登場や、聖女を利用した愚王の陰謀など、ファンタジー要素も盛りだくさん。前向きな有能令嬢の恋の物語です。最後には心あたたまるハッピーエンドが待っています。 ※こちらの作品は、カクヨム・小説家になろうでは「青空一夏」名義で投稿しております。 アルファポリスでは作風を分けるため、別アカウントを使用しています。 本作は「ほのぼの中心+きつすぎないざまぁ」で構成されています。 スカッとする場面だけでなく、読み終わったあとに幸福感が残る物語です。 ちょっぴり痛快、でも優しい読後感を大切にしています。 ※カクヨム恋愛ランキング11位(6/24時点) 全54話、完結保証つき。 毎日4話更新:朝7:00/昼12:00/夕17:00/夜20:00→3回更新に変えました。 どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...