偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

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第36話 王都、震撼す

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 あれから一ヶ月。

 ノースガルドの港は、信じられないほどの活気を取り戻していた。

 かつてはヘドロと魔物の巣窟だった湾はエメラルドブルーに輝き、修復された波止場には、あの『黒髑髏海賊団』改め『ヴィンターヴァルト公認輸送船団』の旗が誇らしげにはためいている。

​ 彼らはまさに「海のプロ」だった。
 私の【生活魔法】で浄化・修復された船は、王都の海軍の追跡すら振り切り、あっという間に南の大陸との交易路を確立してしまった。


​ そして今日。
 海賊船団が南の大陸との初の交易を終え、港に帰ってきたのだ。

​「姐御! ただいま戻ったぜ!」

​ 波止場に飛び降りてきた船長のドレイクは、私を見るなり熊のように屈強な体で駆け寄ってきた。
 その顔は興奮で真っ赤だ。

​「ど、どうでしたか? 売れました?」

​ 私が恐る恐る尋ねると、ドレイクはニカッと笑い背後の船を指差した。

​「売れたどころじゃねえ! 『爆売れ』だ!」

​ 船員たちが次々と運び出してくるのは、ズシリと重い麻袋の山。
 中身はすべて南の大陸の金貨や宝石だ。

​「南の貴族どもが、あの『魔獣缶詰』を見て目を剥きやがった! 『こんな美味いものは王都の宮殿でも食ったことがない』ってよ! 持っていった分、全部売り切れたぜ!」

​ ドレイクは麻袋の一つを逆さにし、金貨の雨をジャラジャラと降らせてみせた。
 王都に頼らず、北の国は自力で莫大な外貨を獲得したのだ。

​「す、すごい……」

​「これだけじゃねえ!」

​ ドレイクが合図すると、船員たちが今度は慎重に木箱を運んできた。

​「姐御の好みがわからなかったから、とりあえず『美味そうなもん』を全部買ってきたぜ!」

​ 蓋が開けられると、私の目が輝いた。

​「こ、これは……! 南国産の完熟トマト! オリーブオイル! それに、こんなに立派な香辛料まで!」

​「食料を止められて困ってるってんなら、こっちから『高級食材』を輸入してやればいいんだろ?」

​ ドレイクは得意げに笑った。

​「ドレイク船長……! 天才ですか!」

​「へへん。姐御のメシのためなら、竜の巣からでも奪ってきてやるよ」

​ 私とドレイクがハイタッチを交わしていると、様子を見に来ていたクラウス様が静かながらも興奮した声で私に告げた。

​「……やったな、エリーナ。 王都の兵糧攻めは、これで完全に破綻した」

​「はい! 反撃開始ですね!」


​ ***


​ 一方、その頃の王都。

 国王の執務室では、アレクセイの失態を庇った宰相が北からの降伏の知らせを今か今かと待っていた。

​「ふん。そろそろヴィンターヴァルド辺境伯から『食料を恵んでくれ』と泣きついてくる頃だろう」

​「それが……妙なのです」

​「なんだ?」

​「北からの物資の流入は完全に止まっております。ですが、北の民が飢えているという報告が一切……。それどころか王都の貴族たちの間で南の大陸から輸入されたという『謎の高級缶詰』が大流行しておりまして……」

​「……は?」

​「南の大陸の商人たちが、こぞって『北の缶詰』なるものを買い漁っている、と。そのせいで、王都が南から仕入れるはずだった香辛料や果物の価格が高騰しております……!」

​「馬鹿な! 北がなぜ南と取引できる! 海はどうした、海は!」

​ 王都の為政者たちが知らないうちに北の国は彼らの手を離れ、独自の経済圏を確立し始めていた。彼らの「制裁」は、逆に自らの首を絞めるブーメランとなっていたのである。
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