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第4話 魔公爵様、初めての「おかわり」
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「……では、毒味といこうか」
ジルベール公爵は、我が物顔で厨房の椅子に腰を下ろした。その態度は王者のように尊大だが、視線は皿の上のハンバーグに釘付けだ。
喉がゴクリと鳴ったのを、私は聞き逃さなかった。
(素直に『腹が減ったから食わせろ』って言えばいいのに)
私は心の中でツッコミを入れつつ、ナイフとフォークを渡した。
「どうぞ。この辺りで獲れたオーク肉を使った『ハンバーグ』という料理です」
「オーク肉だと?」
公爵の眉がピクリと動く。
「あれは貧民が仕方なく食べる、靴底のように硬い肉だぞ。それをミンチにして焼き固めるとは……余計に硬くなるだけではないのか?」
ごもっともな意見だ。
この世界の料理法では、ミンチ=つなぎを使わない=パサパサの肉団子が常識だからだ。
「ふふ。まあ、騙されたと思って食べてみてください」
公爵は疑わしげな目を向けつつ、ゆっくりとナイフを入れた。
その瞬間、彼の目がカッと見開かれた。
スッ……。
力を入れる必要すらなかった。
ナイフの重みだけで肉の塊が吸い込まれるように切れたのだ。断面からは、せきを切ったように透明な脂とスープが溢れ出し、皿の上を海にしていく。
「な……?」
公爵は呆然と呟き、震える手で肉片を口へと運んだ。
アムッ。
咀嚼した瞬間。
「――――ッ!!」
ガタンッ!と公爵が椅子を揺らした。
鋭かったアイスブルーの瞳が信じられないものを見るように揺らいでいる。
(よし、勝った)
私は勝利を確信した。
口の中でホロホロと崩れる肉の繊維。あめ色玉ねぎの甘みとオーク肉特有の濃厚な脂の旨味。
そこに『悪魔の実』の酸味が効いたソースが絡み合い、脂っこさを中和しながら次の一口を誘う。
そして何より、パン粉と卵が生み出す「ふわっふわ」の食感。この世界の人間が未だかつて体験したことのない食感の革命だ。
「……なんだ、これは」
公爵がうわ言のように呟いた。
「噛む必要がない……舌の上で溶けたぞ……? これが、あの忌々しいオーク肉だというのか……?」
「はい。下処理さえ間違えなければ、オーク肉は牛肉よりも味が濃くて美味しいんですよ」
「馬鹿な。私の知っている肉料理と違う。これは……魔法か?」
そこからの公爵は早かった。
もはや「毒味」という建前など消し飛んだらしい。
パクッ、モグモグ。
優雅なテーブルマナーは完璧なのに、そのスピードは野生動物並みだ。眉間のシワは完全に消え失せ、頬が幸せそうに緩んでいる。
さっきまでの「氷の魔公爵」の威圧感はどこへやら。今の彼は、ただの「お腹を空かせた大きなワンコ」にしか見えなかった。
カチャ。
あっという間に皿の上は空っぽになった。
ソースの一滴すら残っていない。パンで拭って綺麗に食べてくれたらしい。
「……ふぅ」
公爵が満足げに吐息を漏らす。
その顔は、どこか憑き物が落ちたように穏やかだった。美しい顔立ちが際立ち、不覚にも少しドキッとしてしまう。
「お粗末さまでした。お口に合いましたか?」
私が尋ねると、公爵はハッと我に返ったように表情を引き締めた。
そして咳払いを一つ。
「……悪くない。毒は入っていないようだし、栄養価としては合格点だ」
素直じゃないな、この人。
まあいい。完食してくれただけで料理人としては本望だ。
「それは良かったです。では、夜も遅いですし、お引き取りを……」
「待て」
帰ろうとした私の腕を公爵がガシッと掴んだ。
その力は強く、そして真剣そのものだった。
「……?」
「まだ、材料はあるのだろう?」
彼は空になった皿と、私の顔を交互に見つめ真顔で言った。
「おかわりだ。……あと三枚焼いてくれ」
「三枚!?」
「金なら払う。王宮の料理長以上の給金を出そう。だから……」
公爵の瞳が妖しく光った。
それは獲物を狙う捕食者の目――ではなく完全に「餌をねだる犬」の目だった。
「今すぐ焼け。これは公爵命令だ」
(……あ、この人チョロい)
私は内心でガッツポーズをした。
どうやら私は、この恐ろしい魔公爵様の胃袋という急所を初日にして完全に握ってしまったようだ。
「かしこまりました、閣下」
私はニッコリと笑い、再びフライパンに火を入れた。こうして私の辺境スローライフは、とんでもない大食らいの餌付け係として幕を開けたのだった。
ジルベール公爵は、我が物顔で厨房の椅子に腰を下ろした。その態度は王者のように尊大だが、視線は皿の上のハンバーグに釘付けだ。
喉がゴクリと鳴ったのを、私は聞き逃さなかった。
(素直に『腹が減ったから食わせろ』って言えばいいのに)
私は心の中でツッコミを入れつつ、ナイフとフォークを渡した。
「どうぞ。この辺りで獲れたオーク肉を使った『ハンバーグ』という料理です」
「オーク肉だと?」
公爵の眉がピクリと動く。
「あれは貧民が仕方なく食べる、靴底のように硬い肉だぞ。それをミンチにして焼き固めるとは……余計に硬くなるだけではないのか?」
ごもっともな意見だ。
この世界の料理法では、ミンチ=つなぎを使わない=パサパサの肉団子が常識だからだ。
「ふふ。まあ、騙されたと思って食べてみてください」
公爵は疑わしげな目を向けつつ、ゆっくりとナイフを入れた。
その瞬間、彼の目がカッと見開かれた。
スッ……。
力を入れる必要すらなかった。
ナイフの重みだけで肉の塊が吸い込まれるように切れたのだ。断面からは、せきを切ったように透明な脂とスープが溢れ出し、皿の上を海にしていく。
「な……?」
公爵は呆然と呟き、震える手で肉片を口へと運んだ。
アムッ。
咀嚼した瞬間。
「――――ッ!!」
ガタンッ!と公爵が椅子を揺らした。
鋭かったアイスブルーの瞳が信じられないものを見るように揺らいでいる。
(よし、勝った)
私は勝利を確信した。
口の中でホロホロと崩れる肉の繊維。あめ色玉ねぎの甘みとオーク肉特有の濃厚な脂の旨味。
そこに『悪魔の実』の酸味が効いたソースが絡み合い、脂っこさを中和しながら次の一口を誘う。
そして何より、パン粉と卵が生み出す「ふわっふわ」の食感。この世界の人間が未だかつて体験したことのない食感の革命だ。
「……なんだ、これは」
公爵がうわ言のように呟いた。
「噛む必要がない……舌の上で溶けたぞ……? これが、あの忌々しいオーク肉だというのか……?」
「はい。下処理さえ間違えなければ、オーク肉は牛肉よりも味が濃くて美味しいんですよ」
「馬鹿な。私の知っている肉料理と違う。これは……魔法か?」
そこからの公爵は早かった。
もはや「毒味」という建前など消し飛んだらしい。
パクッ、モグモグ。
優雅なテーブルマナーは完璧なのに、そのスピードは野生動物並みだ。眉間のシワは完全に消え失せ、頬が幸せそうに緩んでいる。
さっきまでの「氷の魔公爵」の威圧感はどこへやら。今の彼は、ただの「お腹を空かせた大きなワンコ」にしか見えなかった。
カチャ。
あっという間に皿の上は空っぽになった。
ソースの一滴すら残っていない。パンで拭って綺麗に食べてくれたらしい。
「……ふぅ」
公爵が満足げに吐息を漏らす。
その顔は、どこか憑き物が落ちたように穏やかだった。美しい顔立ちが際立ち、不覚にも少しドキッとしてしまう。
「お粗末さまでした。お口に合いましたか?」
私が尋ねると、公爵はハッと我に返ったように表情を引き締めた。
そして咳払いを一つ。
「……悪くない。毒は入っていないようだし、栄養価としては合格点だ」
素直じゃないな、この人。
まあいい。完食してくれただけで料理人としては本望だ。
「それは良かったです。では、夜も遅いですし、お引き取りを……」
「待て」
帰ろうとした私の腕を公爵がガシッと掴んだ。
その力は強く、そして真剣そのものだった。
「……?」
「まだ、材料はあるのだろう?」
彼は空になった皿と、私の顔を交互に見つめ真顔で言った。
「おかわりだ。……あと三枚焼いてくれ」
「三枚!?」
「金なら払う。王宮の料理長以上の給金を出そう。だから……」
公爵の瞳が妖しく光った。
それは獲物を狙う捕食者の目――ではなく完全に「餌をねだる犬」の目だった。
「今すぐ焼け。これは公爵命令だ」
(……あ、この人チョロい)
私は内心でガッツポーズをした。
どうやら私は、この恐ろしい魔公爵様の胃袋という急所を初日にして完全に握ってしまったようだ。
「かしこまりました、閣下」
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