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第14話 もふもふの攻防戦
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『陽だまり亭』のある辺境の地ノルドにも、本格的な秋が訪れていた。
朝晩の冷え込みが厳しくなり、窓の外を吹き抜ける風がヒュルルと高い音を立てる。
「そろそろ、ストーブの薪を準備しないといけないわね」
私は店内の暖炉に火を入れながら呟いた。
パチパチと薪が爆ぜる音が静かな店内に心地よく響く。
ランチタイムを過ぎた午後の一時。
いつものカウンター席には、もはや風景の一部と化したジークフリート様が座っている。
手にはマグカップ。中身はホットコーヒーだ。
彼は最近、仕事の合間の休憩にここを訪れるのが日課になっていた。
「……おい」
ジーク様が低い声を出す。
その視線の先には、暖炉の前で丸くなっている白い毛玉――ルルがいる。
『…………』
ルルは薄目を開けて、ジーク様をじっと見つめ返している。なんだか、二人の間に火花が散っているような気がする。
「あの、ジーク様? ルルと睨めっこですか?」
「……いや。こいつ、私が座ると必ず足を踏んでくる気がするのだが」
「あら、気のせいでは? ルルはジーク様のことが大好きなんですよ」
私はクスクスと笑いながらフォローを入れる。
実は私も気づいている。ルルは、ジーク様が私と親しげに話していると、さりげなく、時には大胆に間に割って入ってくるのだ。
ペットとしてのプライドなのか、飼い主を取られたくない独占欲なのか。
「……ふん。愛玩犬にしては生意気な目つきだ」
ジーク様は文句を言いながらも、その手はソーサーに置かれたクッキーへと伸びている。
そして無造作にそれを放り投げた。
パクッ!
ルルが見事なジャンピングキャッチを決める。
「ほう。反射神経だけはいいな」
ジーク様の口元がわずかに緩んだ。
彼はそっと手を伸ばし、ルルの頭を撫でようとする。
ルルは一瞬、不機嫌な顔をしたが直前に貰ったクッキーの恩義があるのか、しぶしぶ頭を下げて受け入れた。
ワシャワシャ、ワシャワシャ。
武骨な騎士の手が白い毛並みに埋もれていく。
極上の手触りなのだろう。ジーク様の表情から、険しさが完全に抜け落ちている。
「……柔らかいな」
「でしょう? 冬毛に生え変わって、ますますモフモフなんですよ」
「……悪くない」
彼はコーヒーを啜りながら、膝に顎を乗せてきたルルの背中を撫で続けた。
外では冷たい風が吹いているけれど、暖炉の火とコーヒーの香り、そして一人と一匹の穏やかな時間。ここが魔物の脅威に晒される辺境だということを忘れてしまいそうだ。
(平和だなぁ……)
私は洗い物をしながら、その光景を目に焼き付けた。氷のように冷たかった騎士様が、こんなに穏やかな顔をするようになるなんて。
――ヒュオオオオ……。
窓枠がガタガタと揺れた。
外の風が一段と強くなっている。
「今年の冬は、寒くなりそうだな」
ジーク様が窓の外を見やり、ポツリと言った。
「北の山脈から冷気が降りてきている。……レティシア、風邪など引くなよ」
「はい、ジーク様も。……そうだ」
私はふと、いいことを思いついた。
こんな寒い日には、体の中から温まる、とろりとした白いスープが恋しくなる。
牛乳も野菜もたっぷりある。
「明日は、とびきり温まるメニューをご用意しますね」
「ほう? それは楽しみだ」
ジーク様が期待を込めた眼差しを向けてくる。
心も体もポカポカにする、冬の定番料理。
明日の主役はあれで決まりだ。
朝晩の冷え込みが厳しくなり、窓の外を吹き抜ける風がヒュルルと高い音を立てる。
「そろそろ、ストーブの薪を準備しないといけないわね」
私は店内の暖炉に火を入れながら呟いた。
パチパチと薪が爆ぜる音が静かな店内に心地よく響く。
ランチタイムを過ぎた午後の一時。
いつものカウンター席には、もはや風景の一部と化したジークフリート様が座っている。
手にはマグカップ。中身はホットコーヒーだ。
彼は最近、仕事の合間の休憩にここを訪れるのが日課になっていた。
「……おい」
ジーク様が低い声を出す。
その視線の先には、暖炉の前で丸くなっている白い毛玉――ルルがいる。
『…………』
ルルは薄目を開けて、ジーク様をじっと見つめ返している。なんだか、二人の間に火花が散っているような気がする。
「あの、ジーク様? ルルと睨めっこですか?」
「……いや。こいつ、私が座ると必ず足を踏んでくる気がするのだが」
「あら、気のせいでは? ルルはジーク様のことが大好きなんですよ」
私はクスクスと笑いながらフォローを入れる。
実は私も気づいている。ルルは、ジーク様が私と親しげに話していると、さりげなく、時には大胆に間に割って入ってくるのだ。
ペットとしてのプライドなのか、飼い主を取られたくない独占欲なのか。
「……ふん。愛玩犬にしては生意気な目つきだ」
ジーク様は文句を言いながらも、その手はソーサーに置かれたクッキーへと伸びている。
そして無造作にそれを放り投げた。
パクッ!
ルルが見事なジャンピングキャッチを決める。
「ほう。反射神経だけはいいな」
ジーク様の口元がわずかに緩んだ。
彼はそっと手を伸ばし、ルルの頭を撫でようとする。
ルルは一瞬、不機嫌な顔をしたが直前に貰ったクッキーの恩義があるのか、しぶしぶ頭を下げて受け入れた。
ワシャワシャ、ワシャワシャ。
武骨な騎士の手が白い毛並みに埋もれていく。
極上の手触りなのだろう。ジーク様の表情から、険しさが完全に抜け落ちている。
「……柔らかいな」
「でしょう? 冬毛に生え変わって、ますますモフモフなんですよ」
「……悪くない」
彼はコーヒーを啜りながら、膝に顎を乗せてきたルルの背中を撫で続けた。
外では冷たい風が吹いているけれど、暖炉の火とコーヒーの香り、そして一人と一匹の穏やかな時間。ここが魔物の脅威に晒される辺境だということを忘れてしまいそうだ。
(平和だなぁ……)
私は洗い物をしながら、その光景を目に焼き付けた。氷のように冷たかった騎士様が、こんなに穏やかな顔をするようになるなんて。
――ヒュオオオオ……。
窓枠がガタガタと揺れた。
外の風が一段と強くなっている。
「今年の冬は、寒くなりそうだな」
ジーク様が窓の外を見やり、ポツリと言った。
「北の山脈から冷気が降りてきている。……レティシア、風邪など引くなよ」
「はい、ジーク様も。……そうだ」
私はふと、いいことを思いついた。
こんな寒い日には、体の中から温まる、とろりとした白いスープが恋しくなる。
牛乳も野菜もたっぷりある。
「明日は、とびきり温まるメニューをご用意しますね」
「ほう? それは楽しみだ」
ジーク様が期待を込めた眼差しを向けてくる。
心も体もポカポカにする、冬の定番料理。
明日の主役はあれで決まりだ。
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