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第15話 具沢山のクラムチャウダー
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翌朝。
布団から出るのが億劫になるほどの冷気が部屋に満ちていた。窓ガラスには氷の結晶が張り付き、外は一面の霜で真っ白だ。
「さむッ……! これは本格的に冬の足音が聞こえるわね」
私はブルリと震えながら厚手のショールを羽織って厨房へと急いだ。
こんな日は誰だって温かいものが恋しくなる。
予定通り、今日のランチは『あれ』に決まりだ。
まずは下準備。
厚切りにしたベーコンを鍋で炒める。脂が溶け出し、食欲をそそる燻製の香りが立つ。
そこへサイコロ状にカットした人参、玉ねぎ、じゃがいもを投入。野菜の甘みを引き出すように弱火でじっくりと炒めていく。
「ここがポイントよ」
野菜が透き通ってきたら、バターと小麦粉を加えて粉っぽさがなくなるまで炒める。
そこへ少しずつ牛乳を注ぎ入れるのだ。
ダマにならないよう、木べらで丁寧に優しく混ぜ合わせる。とろり、とスープが白く色づき、濃度がついてくる。
最後に主役の投入だ。
昨日市場で仕入れた、殻付きの『北海アサリ』。ぷっくりと身が太った新鮮な貝を惜しげもなく鍋へ放り込む。
コトコト、コトコト。
貝の口が開き、濃厚な魚介の旨味が白いスープに溶け出していく。仕上げに黒胡椒をパラリと振りかけ、パセリを散らせば――。
「完成! 『特製・具沢山のクラムチャウダー』よ!」
鍋からは、ミルキーで芳醇な湯気がもくもくと立ち上っている。
味見を一口。
……んんっ! 濃厚! 貝の旨味と野菜の甘み、牛乳のコクが三位一体となって、冷えた体に染み渡る。
◇
開店時間になると、寒さに肩をすくめたお客さんたちが次々と飛び込んできた。
「うぅ……寒い寒い。指先がかじかんで動かねぇや」
一番乗りでやってきたのは、常連の新人冒険者、アンナちゃんだった。いつもは元気な彼女だが、今日は鼻先が赤く、少し鼻水をすすっている。どうやら風邪のひき始めらしい。
「いらっしゃい、アンナちゃん。今日はとびきり温まるものがあるわよ」
「あ、温かいもの……おねがい、します……」
彼女は震えながら席についた。
私はくり抜いた丸いパンを器代わりにして、そこに熱々のクラムチャウダーを並々と注いだ。
「お待たせ! パンを崩しながら食べてね」
ドン、と置かれた湯気の立つボウル。
アンナちゃんは、かじかんだ手でスプーンを握り、ふーふーと息を吹きかけてから、スープを口に運んだ。
ズズッ……。
「……はぁぁ」
一口飲んだ瞬間、彼女の口から真っ白な吐息と共に幸せな溜息が漏れた。
「お、おいしい……! とろとろで、すごく濃厚……」
彼女の目が潤む。
熱いスープが喉を通り、胃袋に落ちると、そこからまるで暖炉のような熱源が生まれたかのように、ポカポカとした温もりが全身へ広がっていく。
「じゃがいもがホクホクだし、貝を噛むとジュワッてスープが出てくるの。……なんだか、お母さんに毛布で包まれてるみたい」
アンナちゃんは夢中でスプーンを動かした。
スープが染み込んで柔らかくなったパンの器をちぎり、最後の一滴まで綺麗に平らげる頃には、彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「ふぅ……! すっごく元気が出ました! 鼻づまりも治っちゃったかも!」
「それはよかったわ。風邪は引き始めが肝心だからね」
彼女の顔色は、入店時とは見違えるほど血色が良くなっている。
私の「美味しくなあれ」の効果もバッチリ効いたようだ。
その後もクラムチャウダーは飛ぶように売れた。
「生き返る~!」
「体がポカポカして、コートがいらないくらいだ!」
店内は笑顔と熱気に包まれた。
そんな賑わいの中、いつもの席でジーク様も静かにスープを啜っていた。
「……悪くない。貴様の料理は、冬の寒さすら調味料に変えるようだな」
そう呟く彼の表情もまたスープの温かさで柔らかく解けていたのだった。
布団から出るのが億劫になるほどの冷気が部屋に満ちていた。窓ガラスには氷の結晶が張り付き、外は一面の霜で真っ白だ。
「さむッ……! これは本格的に冬の足音が聞こえるわね」
私はブルリと震えながら厚手のショールを羽織って厨房へと急いだ。
こんな日は誰だって温かいものが恋しくなる。
予定通り、今日のランチは『あれ』に決まりだ。
まずは下準備。
厚切りにしたベーコンを鍋で炒める。脂が溶け出し、食欲をそそる燻製の香りが立つ。
そこへサイコロ状にカットした人参、玉ねぎ、じゃがいもを投入。野菜の甘みを引き出すように弱火でじっくりと炒めていく。
「ここがポイントよ」
野菜が透き通ってきたら、バターと小麦粉を加えて粉っぽさがなくなるまで炒める。
そこへ少しずつ牛乳を注ぎ入れるのだ。
ダマにならないよう、木べらで丁寧に優しく混ぜ合わせる。とろり、とスープが白く色づき、濃度がついてくる。
最後に主役の投入だ。
昨日市場で仕入れた、殻付きの『北海アサリ』。ぷっくりと身が太った新鮮な貝を惜しげもなく鍋へ放り込む。
コトコト、コトコト。
貝の口が開き、濃厚な魚介の旨味が白いスープに溶け出していく。仕上げに黒胡椒をパラリと振りかけ、パセリを散らせば――。
「完成! 『特製・具沢山のクラムチャウダー』よ!」
鍋からは、ミルキーで芳醇な湯気がもくもくと立ち上っている。
味見を一口。
……んんっ! 濃厚! 貝の旨味と野菜の甘み、牛乳のコクが三位一体となって、冷えた体に染み渡る。
◇
開店時間になると、寒さに肩をすくめたお客さんたちが次々と飛び込んできた。
「うぅ……寒い寒い。指先がかじかんで動かねぇや」
一番乗りでやってきたのは、常連の新人冒険者、アンナちゃんだった。いつもは元気な彼女だが、今日は鼻先が赤く、少し鼻水をすすっている。どうやら風邪のひき始めらしい。
「いらっしゃい、アンナちゃん。今日はとびきり温まるものがあるわよ」
「あ、温かいもの……おねがい、します……」
彼女は震えながら席についた。
私はくり抜いた丸いパンを器代わりにして、そこに熱々のクラムチャウダーを並々と注いだ。
「お待たせ! パンを崩しながら食べてね」
ドン、と置かれた湯気の立つボウル。
アンナちゃんは、かじかんだ手でスプーンを握り、ふーふーと息を吹きかけてから、スープを口に運んだ。
ズズッ……。
「……はぁぁ」
一口飲んだ瞬間、彼女の口から真っ白な吐息と共に幸せな溜息が漏れた。
「お、おいしい……! とろとろで、すごく濃厚……」
彼女の目が潤む。
熱いスープが喉を通り、胃袋に落ちると、そこからまるで暖炉のような熱源が生まれたかのように、ポカポカとした温もりが全身へ広がっていく。
「じゃがいもがホクホクだし、貝を噛むとジュワッてスープが出てくるの。……なんだか、お母さんに毛布で包まれてるみたい」
アンナちゃんは夢中でスプーンを動かした。
スープが染み込んで柔らかくなったパンの器をちぎり、最後の一滴まで綺麗に平らげる頃には、彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「ふぅ……! すっごく元気が出ました! 鼻づまりも治っちゃったかも!」
「それはよかったわ。風邪は引き始めが肝心だからね」
彼女の顔色は、入店時とは見違えるほど血色が良くなっている。
私の「美味しくなあれ」の効果もバッチリ効いたようだ。
その後もクラムチャウダーは飛ぶように売れた。
「生き返る~!」
「体がポカポカして、コートがいらないくらいだ!」
店内は笑顔と熱気に包まれた。
そんな賑わいの中、いつもの席でジーク様も静かにスープを啜っていた。
「……悪くない。貴様の料理は、冬の寒さすら調味料に変えるようだな」
そう呟く彼の表情もまたスープの温かさで柔らかく解けていたのだった。
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