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第28話 収穫祭の賑わい
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辺境の町ノルドが一年で最も熱く燃え上がる季節がやってきた。――収穫祭だ。
厳しい冬が来る前に大地の恵みに感謝し、飲めや歌えやの大騒ぎをする三日間。
町の大通りには色とりどりの旗がはためき、朝から香ばしい屋台の匂いが漂っている。
「すごい活気……! 王都のお祭りにも負けてないわね」
私は開店前の『陽だまり亭』の窓から、その様子を眺めていた。本来なら、かき入れ時として店を開けるべきなのだろうけれど……。
「……おい、レティシア」
背後からかけられた声に振り向くと、そこには普段の軍服姿ではなく、ラフな私服姿のジークフリート様が立っていた。
黒のロングコートに、白いシャツ。首元には少し緩めたスカーフ。前髪を少し下ろしているせいか、いつもの「氷の騎士」という近寄りがたい雰囲気が薄れ、どこかの国の王子様のような色気が漂っている。
(うっ……か、かっこいい……)
私は思わずドキリとして布巾を持つ手に力が入った。
「ど、どうしたんですか、その格好」
「今日は非番だ。……それより、言ったはずだぞ。今日のランチ営業は休めと」
「ええ、でも……せっかくのお祭りですし、何か売らないともったいない気がして」
貧乏性が抜けない私が言うと、ジーク様は呆れたようにため息をついた。
「働きすぎだ。たまには客として祭りを楽しんだらどうだ。……それに」
「それに?」
「……私が一人で回るのは退屈だからな。案内役として付き合え」
彼は視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに言った。
これは、つまり……デートのお誘い?
『ワンッ!』
足元でルルが尻尾をブンブン振っている。
ジーク様は屈み込むと、ルルに魔導具でできたリードを付けた。
「安心しろ、この毛玉も連れて行く。……さあ、行くぞ」
「あ、はい! すぐに着替えます!」
私は慌ててエプロンを外し、お出かけ用のワンピースに着替えた。鏡の前で髪を整えながら、なんだか頬が熱いのに気づく。
◇
外に出ると、人混みは予想以上だった。
リュートや太鼓の音が響き、行き交う人々は皆、笑顔で頬を赤らめている。
「うわぁ、すごい人……!」
私が雑踏に押されそうになった瞬間、グイッ、と腰を引き寄せられた。
「離れるな。迷子になられては探すのが面倒だ」
ジーク様の太い腕が、私の腰をしっかりとホールドしている。
人混みから守るように、彼は私を歩道側へ誘導し、常に半歩前を歩いて人波を切り裂いていく。
その背中、なんと頼もしいことか。
「あ、見て! 閣下だ!」
「隣にいるのは『陽だまり亭』のレティシア様じゃないか?」
「へぇ~、やっぱりお二人はそういう……ヒューヒュー!」
町の人々が私たちを見て、ニヤニヤと冷やかしの声を上げてくる。
私は顔から火が出そうだったけれど、ジーク様は涼しい顔で堂々としている。
「気にすることはない。……ほら、あそこの屋台、お前が好きそうなものを売っているぞ」
彼が指差したのは、串焼きの屋台だった。
ジューッという音と共にスパイスの効いた肉の香りが漂ってくる。
「『オーク串』か! 一本買ってみましょう!」
私たちは屋台巡りを始めた。
ジーク様が財布係となり、私はその横で「あーん」と串焼きを頬張る。
ルルにも味付けなしの肉を分けてあげる。
「ん~! 美味しい! 外で食べるご飯って、どうしてこんなに美味しいんでしょう!」
「……そうだな。お前が美味そうに食うから、余計にそう感じるのかもしれん」
ジーク様は手についたソースを拭ってくれながら優しく目を細めた。その眼差しが甘すぎて、私は食べたお肉の味を忘れそうになった。
王都にいた頃、お祭りの日は「はしたないから外出禁止」と屋敷に閉じ込められていた。
こんなふうに誰かと笑いながら屋台を回るなんて、夢のまた夢だったのだ。
(楽しい……本当に、楽しい)
私はジーク様の袖をキュッと掴んだ。
「ジーク様、連れ出してくれてありがとうございます」
「……礼を言うのはこっちだ。灰色だった世界が、今日はやけに騒がしくて……鮮やかだ」
二人の距離が縮まる。
しかし、そんなロマンチックな雰囲気を「最強のB級グルメ」の香りが引き裂いた。
――ジュウウウウウッ!!
「……む? なんだこの焦げたソースの強烈な匂いは」
ジーク様が鼻をひくつかせた。
私もその匂いに反応する。
これは……まさか、私の大好物のアレ!?
厳しい冬が来る前に大地の恵みに感謝し、飲めや歌えやの大騒ぎをする三日間。
町の大通りには色とりどりの旗がはためき、朝から香ばしい屋台の匂いが漂っている。
「すごい活気……! 王都のお祭りにも負けてないわね」
私は開店前の『陽だまり亭』の窓から、その様子を眺めていた。本来なら、かき入れ時として店を開けるべきなのだろうけれど……。
「……おい、レティシア」
背後からかけられた声に振り向くと、そこには普段の軍服姿ではなく、ラフな私服姿のジークフリート様が立っていた。
黒のロングコートに、白いシャツ。首元には少し緩めたスカーフ。前髪を少し下ろしているせいか、いつもの「氷の騎士」という近寄りがたい雰囲気が薄れ、どこかの国の王子様のような色気が漂っている。
(うっ……か、かっこいい……)
私は思わずドキリとして布巾を持つ手に力が入った。
「ど、どうしたんですか、その格好」
「今日は非番だ。……それより、言ったはずだぞ。今日のランチ営業は休めと」
「ええ、でも……せっかくのお祭りですし、何か売らないともったいない気がして」
貧乏性が抜けない私が言うと、ジーク様は呆れたようにため息をついた。
「働きすぎだ。たまには客として祭りを楽しんだらどうだ。……それに」
「それに?」
「……私が一人で回るのは退屈だからな。案内役として付き合え」
彼は視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに言った。
これは、つまり……デートのお誘い?
『ワンッ!』
足元でルルが尻尾をブンブン振っている。
ジーク様は屈み込むと、ルルに魔導具でできたリードを付けた。
「安心しろ、この毛玉も連れて行く。……さあ、行くぞ」
「あ、はい! すぐに着替えます!」
私は慌ててエプロンを外し、お出かけ用のワンピースに着替えた。鏡の前で髪を整えながら、なんだか頬が熱いのに気づく。
◇
外に出ると、人混みは予想以上だった。
リュートや太鼓の音が響き、行き交う人々は皆、笑顔で頬を赤らめている。
「うわぁ、すごい人……!」
私が雑踏に押されそうになった瞬間、グイッ、と腰を引き寄せられた。
「離れるな。迷子になられては探すのが面倒だ」
ジーク様の太い腕が、私の腰をしっかりとホールドしている。
人混みから守るように、彼は私を歩道側へ誘導し、常に半歩前を歩いて人波を切り裂いていく。
その背中、なんと頼もしいことか。
「あ、見て! 閣下だ!」
「隣にいるのは『陽だまり亭』のレティシア様じゃないか?」
「へぇ~、やっぱりお二人はそういう……ヒューヒュー!」
町の人々が私たちを見て、ニヤニヤと冷やかしの声を上げてくる。
私は顔から火が出そうだったけれど、ジーク様は涼しい顔で堂々としている。
「気にすることはない。……ほら、あそこの屋台、お前が好きそうなものを売っているぞ」
彼が指差したのは、串焼きの屋台だった。
ジューッという音と共にスパイスの効いた肉の香りが漂ってくる。
「『オーク串』か! 一本買ってみましょう!」
私たちは屋台巡りを始めた。
ジーク様が財布係となり、私はその横で「あーん」と串焼きを頬張る。
ルルにも味付けなしの肉を分けてあげる。
「ん~! 美味しい! 外で食べるご飯って、どうしてこんなに美味しいんでしょう!」
「……そうだな。お前が美味そうに食うから、余計にそう感じるのかもしれん」
ジーク様は手についたソースを拭ってくれながら優しく目を細めた。その眼差しが甘すぎて、私は食べたお肉の味を忘れそうになった。
王都にいた頃、お祭りの日は「はしたないから外出禁止」と屋敷に閉じ込められていた。
こんなふうに誰かと笑いながら屋台を回るなんて、夢のまた夢だったのだ。
(楽しい……本当に、楽しい)
私はジーク様の袖をキュッと掴んだ。
「ジーク様、連れ出してくれてありがとうございます」
「……礼を言うのはこっちだ。灰色だった世界が、今日はやけに騒がしくて……鮮やかだ」
二人の距離が縮まる。
しかし、そんなロマンチックな雰囲気を「最強のB級グルメ」の香りが引き裂いた。
――ジュウウウウウッ!!
「……む? なんだこの焦げたソースの強烈な匂いは」
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