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第34話 聖獣降臨
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フレデリック殿下の手にある赤黒い魔道具――『強制転移のスクロール』が禍々しい光を放ち始めた。
「さあ来い、レティシア! 王城の地下で死ぬまで私のためにパンを焼くんだ!」
殿下がスクロールを私に向けた瞬間、空間が歪み、見えない鎖のような重圧が私を襲った。
体が動かない。指一本動かせない。
「貴様ッ……!」
ジークフリート様が剣に手をかけるが、発動してしまった転移魔法は、物理攻撃では止められない。
視界が赤く染まっていく。
ああ、私の自由な日々が。
みんなの笑顔が見られる『陽だまり亭』が、遠ざかっていく――。
絶望しかけた、その時だった。
『――調子に乗るなよ、下等生物どもが』
頭蓋骨を直接震わせるような、重厚で威厳のある声が響いた。
次の瞬間。
私の足元から白い閃光が爆発した。
カッッッ!!
目が眩むほどの神々しい光。
その中心にいたのは、愛犬のルル――ではない。
光が収束すると、そこには天井に届きそうなほど巨大な、白銀の狼が鎮座していた。
全身の毛並みはプラチナのように輝き、その周りには青白い火の粉のような魔力が舞っている。
そして、その瞳は鮮血のような赤色。
見下ろされるだけで魂が凍りつくような絶対強者の眼差しだ。
「な、なんだこの化け物は……!?」
「ひぃぃぃッ!!」
殿下とミナ様が悲鳴を上げ尻餅をついた。
転移スクロールの光など、この狼の放つ圧倒的な魔力の前では、蝋燭の火のように頼りなくかき消されてしまった。
『化け物? 失敬な。我は誇り高きフェンリル。……この店の用心棒だ』
巨大な狼――ルルが牙を剥き出しにして唸った。
その口から漏れる吐息すら、濃密な魔力の塊だ。
「フェ、フェンリルだと!? 伝説の、国をも滅ぼす最高位の聖獣が、なぜこんな場所に!」
「嘘よ! 聖獣は清らかな聖女の前にしか現れないはずでしょ!? なんであの女の前に!」
パニックに陥る二人に、ルルは冷ややかな視線を向けた。
『清らか? 笑わせるな。我が求めているのは、そんな曖昧なものではない』
ルルは私の方を振り返り、その巨大な鼻先を私の頬に擦り寄せた。ザリ、とした舌の感触。大きさは違うけれど、これは間違いなく、あの甘えん坊のルルだ。
『レティシアの料理には「愛」と「魂」が込められている。……さっきのショートケーキも絶品だった。あの至福の供給源を奪おうとする者は、たとえ王族だろうと神だろうと、我が牙の錆にしてくれる』
ルルが前足をダンッ!と踏み鳴らす。
それだけで店が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。
「ひっ、あ、あわわ……!」
殿下の股間あたりが、じわりと濡れていくのが見えた。
恐怖のあまり、失禁してしまったようだ。
ミナ様は白目を剥いて、泡を吹いて気絶している。
「……やはり、そうか」
この状況で一人だけ冷静な人物がいた。
ジークフリート様だ。彼は腕を組み、「やれやれ」といった様子でルルを見上げている。
「ただの雑種にしては魔力量がおかしいとは思っていたが……まさか、伝説の厄災級クラスを餌付けしていたとはな」
「え、ええと……ジーク様、ご存知だったんですか?」
「確信はなかった。だが、お前の料理なら聖獣くらい手懐けても不思議ではない」
彼はフッと笑い剣の柄から手を離した。
「おい、フェンリル。……その愚か者たちの処分は、どうするつもりだ?」
『食う価値もない。不味そうだ』
ルルは吐き捨てるように言った。
『だが、泣かせた罪は重い。……二度とこの地に足を踏み入れられないよう、恐怖を刻み込んでやろうか』
ルルが大きく口を開け、喉の奥で魔力を収束させ始めた。そのエネルギー量は、王城一つを消し飛ばせるほどだ。
「ま、待ってルル! お店が壊れちゃう!」
私が叫んで抱きつくと、ルルは「おっと」という顔をして口を閉じた。
その隙にジーク様が殿下の首根っこを掴み上げた。
「……命拾いしたな、殿下」
ジーク様の声は聖獣よりも冷たかった。
「感謝しろ。レティシアの慈悲と、この店の床を汚したくないという私の配慮にな。……さあ、その汚物を連れて、今すぐ消えろ」
ジーク様は殿下と気絶したミナ様をまるでゴミ袋のように店の外へと放り投げた。
「ひぃぃぃ! お、覚えてろぉぉぉ!」
捨て台詞すら震えていた。
二人は転がるように馬車へ乗り込み、逃げ去っていった。二度と戻ってくることはないだろう。聖獣と辺境伯、二つの最強戦力に睨まれたのだから。
嵐が去り、静寂が戻った店内。
ルルはポンッという音と共に、いつもの可愛い子犬サイズに戻り、私の足元で尻尾を振った。
……うん。
とりあえず、あとで最高級のお肉を焼いてあげよう。
「さあ来い、レティシア! 王城の地下で死ぬまで私のためにパンを焼くんだ!」
殿下がスクロールを私に向けた瞬間、空間が歪み、見えない鎖のような重圧が私を襲った。
体が動かない。指一本動かせない。
「貴様ッ……!」
ジークフリート様が剣に手をかけるが、発動してしまった転移魔法は、物理攻撃では止められない。
視界が赤く染まっていく。
ああ、私の自由な日々が。
みんなの笑顔が見られる『陽だまり亭』が、遠ざかっていく――。
絶望しかけた、その時だった。
『――調子に乗るなよ、下等生物どもが』
頭蓋骨を直接震わせるような、重厚で威厳のある声が響いた。
次の瞬間。
私の足元から白い閃光が爆発した。
カッッッ!!
目が眩むほどの神々しい光。
その中心にいたのは、愛犬のルル――ではない。
光が収束すると、そこには天井に届きそうなほど巨大な、白銀の狼が鎮座していた。
全身の毛並みはプラチナのように輝き、その周りには青白い火の粉のような魔力が舞っている。
そして、その瞳は鮮血のような赤色。
見下ろされるだけで魂が凍りつくような絶対強者の眼差しだ。
「な、なんだこの化け物は……!?」
「ひぃぃぃッ!!」
殿下とミナ様が悲鳴を上げ尻餅をついた。
転移スクロールの光など、この狼の放つ圧倒的な魔力の前では、蝋燭の火のように頼りなくかき消されてしまった。
『化け物? 失敬な。我は誇り高きフェンリル。……この店の用心棒だ』
巨大な狼――ルルが牙を剥き出しにして唸った。
その口から漏れる吐息すら、濃密な魔力の塊だ。
「フェ、フェンリルだと!? 伝説の、国をも滅ぼす最高位の聖獣が、なぜこんな場所に!」
「嘘よ! 聖獣は清らかな聖女の前にしか現れないはずでしょ!? なんであの女の前に!」
パニックに陥る二人に、ルルは冷ややかな視線を向けた。
『清らか? 笑わせるな。我が求めているのは、そんな曖昧なものではない』
ルルは私の方を振り返り、その巨大な鼻先を私の頬に擦り寄せた。ザリ、とした舌の感触。大きさは違うけれど、これは間違いなく、あの甘えん坊のルルだ。
『レティシアの料理には「愛」と「魂」が込められている。……さっきのショートケーキも絶品だった。あの至福の供給源を奪おうとする者は、たとえ王族だろうと神だろうと、我が牙の錆にしてくれる』
ルルが前足をダンッ!と踏み鳴らす。
それだけで店が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。
「ひっ、あ、あわわ……!」
殿下の股間あたりが、じわりと濡れていくのが見えた。
恐怖のあまり、失禁してしまったようだ。
ミナ様は白目を剥いて、泡を吹いて気絶している。
「……やはり、そうか」
この状況で一人だけ冷静な人物がいた。
ジークフリート様だ。彼は腕を組み、「やれやれ」といった様子でルルを見上げている。
「ただの雑種にしては魔力量がおかしいとは思っていたが……まさか、伝説の厄災級クラスを餌付けしていたとはな」
「え、ええと……ジーク様、ご存知だったんですか?」
「確信はなかった。だが、お前の料理なら聖獣くらい手懐けても不思議ではない」
彼はフッと笑い剣の柄から手を離した。
「おい、フェンリル。……その愚か者たちの処分は、どうするつもりだ?」
『食う価値もない。不味そうだ』
ルルは吐き捨てるように言った。
『だが、泣かせた罪は重い。……二度とこの地に足を踏み入れられないよう、恐怖を刻み込んでやろうか』
ルルが大きく口を開け、喉の奥で魔力を収束させ始めた。そのエネルギー量は、王城一つを消し飛ばせるほどだ。
「ま、待ってルル! お店が壊れちゃう!」
私が叫んで抱きつくと、ルルは「おっと」という顔をして口を閉じた。
その隙にジーク様が殿下の首根っこを掴み上げた。
「……命拾いしたな、殿下」
ジーク様の声は聖獣よりも冷たかった。
「感謝しろ。レティシアの慈悲と、この店の床を汚したくないという私の配慮にな。……さあ、その汚物を連れて、今すぐ消えろ」
ジーク様は殿下と気絶したミナ様をまるでゴミ袋のように店の外へと放り投げた。
「ひぃぃぃ! お、覚えてろぉぉぉ!」
捨て台詞すら震えていた。
二人は転がるように馬車へ乗り込み、逃げ去っていった。二度と戻ってくることはないだろう。聖獣と辺境伯、二つの最強戦力に睨まれたのだから。
嵐が去り、静寂が戻った店内。
ルルはポンッという音と共に、いつもの可愛い子犬サイズに戻り、私の足元で尻尾を振った。
……うん。
とりあえず、あとで最高級のお肉を焼いてあげよう。
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