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第39話 さっぱりおろしステーキ
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『陽だまり亭』の貸し切りディナー。
今夜のお客様は、たった一人と一匹。私の最愛の婚約者、ジークフリート様だ。
私が食材庫から取り出したのは、この日のために熟成させておいた『キングバイソンのサーロイン』。
きめ細やかなサシが入ったその肉は、室温に戻すと脂が溶け出し、艶やかに輝いている。
「今日は、お肉の旨味をダイレクトに味わいつつ、疲れをスッキリ洗い流せるような味付けにしますね」
私は厚切りの肉に強めに塩コショウを振った。
フライパンに牛脂とスライスしたニンニクを入れ、弱火でじっくりと香りを移す。ニンニクがキツネ色になったら取り出し、煙が出る寸前まで温度を上げる。
いざ、投入。
――ジュワアアアアァァッ!!
激しい音と共に、肉の焼ける芳醇な香りが爆発する。
表面をカリッと焼き固め、旨味の肉汁を内部に閉じ込める。裏返してサッと焼き、あとは保温が利く布に包んで余熱で火を通す。
この「休ませる」時間が肉を柔らかくする魔法だ。
その間にソース作り。
すりおろした大量の『大根に似た根菜』。
そこへ、醤油、みりん、酒、そして柑橘の果汁を合わせる。フライパンに残った肉汁と合わせ、ひと煮立ちさせれば、酸味の効いた特製ソースの完成だ。
「お待たせいたしました。『勝利のおろしステーキ』です」
私は食べやすくカットしたステーキを皿に盛り付けた。
断面は魅惑のローズピンク。
その上に雪山のように大根おろしを高く盛り、カリカリのガーリックチップと刻んだ香草を散らす。
最後に熱々のソースを回しかける。
ジュウウッ……!
醤油と柑橘の焦げる香りが鼻腔をくすぐる。
「……ほう。肉の上に雪が積もっているな」
「『おろし』と言って、野菜をすりおろしたものです。脂っこいお肉も、これでさっぱり食べられるんですよ」
ジーク様はナイフはいらないとばかりに、箸で肉をひと切れ摘み上げた。
たっぷりの大根おろしを絡めて、口へと運ぶ。
パクッ。
「…………ッ」
ジーク様が目を閉じた。
噛み締めた瞬間、あふれ出す濃厚な肉汁。口の中が脂の甘みで満たされそうになるが、即座に大根おろしの瑞々しさと柑橘醤油の酸味がそれを中和する。
「……すごいな」
彼が感嘆の息を漏らす。
「肉は口の中で溶けるほど柔らかく濃厚だ。だが、この白い雪と酸っぱいソースが、脂を瞬時に洗い流していく。……くどさが全くない」
白米の上に肉をワンバウンドさせ、一緒にかき込む。
肉、米、肉、米。
箸が止まらない無限ループだ。
「戦いの後の体には、重すぎる料理はきつい。だが、これならいくらでも入る。……まさに、私が求めていた『癒やし』の味だ」
ジーク様は夢中で食べ進め、あっという間に完食した。
足元ではルルも、自分用のステーキ皿をピカピカに舐め上げている。
「ふぅ……生き返った」
「よかったです。これからは、毎日でも作れますよ?」
私が何気なく言うと、ジーク様の手が止まった。
彼はグラスを置き、真剣な眼差しで私を見た。
「……毎日、か」
「はい。嫌ですか?」
「いや。……それが、私の望む未来そのものだ」
彼はグラスを掲げた。
「レティシア。……私を選んでくれて、ありがとう。君の作る料理と、君の笑顔がある毎日が、私にとっての『至高のフルコース』だ」
「ジーク様……」
私もグラスを手に取った。
カチン、と澄んだ音が店内に響く。
「乾杯。……私たちの、美味しい未来に」
窓の外には満天の星空が広がっていた。
苦しいこともあったけれど、全部、この温かい食卓にたどり着くためのスパイスだったのかもしれない。
そう思えるほど今夜のステーキは格別の味がした。
平和な日常が戻ってきた。……けれど、結婚となれば、やらなければならないことが山積みだ。
今夜のお客様は、たった一人と一匹。私の最愛の婚約者、ジークフリート様だ。
私が食材庫から取り出したのは、この日のために熟成させておいた『キングバイソンのサーロイン』。
きめ細やかなサシが入ったその肉は、室温に戻すと脂が溶け出し、艶やかに輝いている。
「今日は、お肉の旨味をダイレクトに味わいつつ、疲れをスッキリ洗い流せるような味付けにしますね」
私は厚切りの肉に強めに塩コショウを振った。
フライパンに牛脂とスライスしたニンニクを入れ、弱火でじっくりと香りを移す。ニンニクがキツネ色になったら取り出し、煙が出る寸前まで温度を上げる。
いざ、投入。
――ジュワアアアアァァッ!!
激しい音と共に、肉の焼ける芳醇な香りが爆発する。
表面をカリッと焼き固め、旨味の肉汁を内部に閉じ込める。裏返してサッと焼き、あとは保温が利く布に包んで余熱で火を通す。
この「休ませる」時間が肉を柔らかくする魔法だ。
その間にソース作り。
すりおろした大量の『大根に似た根菜』。
そこへ、醤油、みりん、酒、そして柑橘の果汁を合わせる。フライパンに残った肉汁と合わせ、ひと煮立ちさせれば、酸味の効いた特製ソースの完成だ。
「お待たせいたしました。『勝利のおろしステーキ』です」
私は食べやすくカットしたステーキを皿に盛り付けた。
断面は魅惑のローズピンク。
その上に雪山のように大根おろしを高く盛り、カリカリのガーリックチップと刻んだ香草を散らす。
最後に熱々のソースを回しかける。
ジュウウッ……!
醤油と柑橘の焦げる香りが鼻腔をくすぐる。
「……ほう。肉の上に雪が積もっているな」
「『おろし』と言って、野菜をすりおろしたものです。脂っこいお肉も、これでさっぱり食べられるんですよ」
ジーク様はナイフはいらないとばかりに、箸で肉をひと切れ摘み上げた。
たっぷりの大根おろしを絡めて、口へと運ぶ。
パクッ。
「…………ッ」
ジーク様が目を閉じた。
噛み締めた瞬間、あふれ出す濃厚な肉汁。口の中が脂の甘みで満たされそうになるが、即座に大根おろしの瑞々しさと柑橘醤油の酸味がそれを中和する。
「……すごいな」
彼が感嘆の息を漏らす。
「肉は口の中で溶けるほど柔らかく濃厚だ。だが、この白い雪と酸っぱいソースが、脂を瞬時に洗い流していく。……くどさが全くない」
白米の上に肉をワンバウンドさせ、一緒にかき込む。
肉、米、肉、米。
箸が止まらない無限ループだ。
「戦いの後の体には、重すぎる料理はきつい。だが、これならいくらでも入る。……まさに、私が求めていた『癒やし』の味だ」
ジーク様は夢中で食べ進め、あっという間に完食した。
足元ではルルも、自分用のステーキ皿をピカピカに舐め上げている。
「ふぅ……生き返った」
「よかったです。これからは、毎日でも作れますよ?」
私が何気なく言うと、ジーク様の手が止まった。
彼はグラスを置き、真剣な眼差しで私を見た。
「……毎日、か」
「はい。嫌ですか?」
「いや。……それが、私の望む未来そのものだ」
彼はグラスを掲げた。
「レティシア。……私を選んでくれて、ありがとう。君の作る料理と、君の笑顔がある毎日が、私にとっての『至高のフルコース』だ」
「ジーク様……」
私もグラスを手に取った。
カチン、と澄んだ音が店内に響く。
「乾杯。……私たちの、美味しい未来に」
窓の外には満天の星空が広がっていた。
苦しいこともあったけれど、全部、この温かい食卓にたどり着くためのスパイスだったのかもしれない。
そう思えるほど今夜のステーキは格別の味がした。
平和な日常が戻ってきた。……けれど、結婚となれば、やらなければならないことが山積みだ。
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