44 / 44
第44話 笑顔弾けるグルメ・ウェディング
しおりを挟む
結婚式当日の朝。
ノルドの空は、私たちの門出を祝福するかのように、雲ひとつない『サムシング・ブルー』に染まっていた。
控室の鏡の前。
私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。
絹のように滑らかな生地に、町のお婆ちゃんたちが編んでくれた繊細なレースが重ねられている。派手な宝石はあえてつけず、髪には庭で摘んだ白い小花と、ジーク様から贈られた『氷竜の涙』のピアスだけ。
「……準備はいいか、レティシア」
ノックと共に扉が開き、ジークフリート様が入ってきた。彼はいつもの黒い軍服ではなく、純白の礼服を纏っていた。銀髪が陽光を反射して輝き、まるで物語の中から抜け出してきた王子様のようだ。
「ジーク様……。はい、準備万端です」
彼が私を見た瞬間、そのアイスブルーの瞳が優しく揺れた。
「……世界で一番美しい花嫁だ」
「ふふ、世界で一番格好いい花婿さんにお似合いになれるかしら?」
彼が差し出した腕に、私はそっと手を添えた。
その腕の逞しさと温もりが緊張を解いてくれる。
「行こう。みんなが待っている」
◇
会場となった屋敷の広大な庭園には、信じられないほどの数の人々が集まっていた。着飾った貴族たち、正装した騎士団、少し緊張した面持ちの商工会の人々、そして一番良い席には孤児院の子供たち。
身分の垣根を取り払った、ごちゃ混ぜのゲストたちだ。
私たちが姿を現すと、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「おめでとうー!!」
「レティシア様、綺麗だぞー!」
「閣下、幸せ者ー!」
フラワーシャワーの花びらが舞う中、私たちは祭壇へと進む。
神官様の前で、私たちは向き合った。
「健やかなる時も、病める時も……」
誓いの言葉。
ジーク様は私の目を見つめ、台本にはない言葉を付け加えた。
「……そして、空腹なる時も、満腹なる時も。私は生涯、彼女の作る料理を愛し、その笑顔を守り抜くことを誓います」
会場からドッと笑いが起き、そして温かい拍手が包み込んだ。
私も涙をこらえて笑顔で答える。
「私も、貴方がお爺ちゃんになっても、毎日美味しいお味噌汁を作ることを誓います」
誓いのキス。
鐘の音がカランカランと鳴り響き、ルルが『ウォォォォン!』と空に向かって雄叫びを上げた。
そして――。
「さあ皆さん! 堅苦しい式はここまでです!」
私がブーケを高々と掲げて叫んだ。
「これより、『陽だまり亭』特製・大祝賀ビュッフェを始めます! 食べて、飲んで、今日は無礼講で楽しんでください!」
その合図と共に庭園の至る所から香ばしい匂いが立ち上った。
屋台のように並んだ料理ブース。
ジュージューと音を立てて焼かれるステーキ、山盛りのフライドポテト、チーズが伸びるピザ、色とりどりのピンチョス。
「うおぉぉ! 肉だ!」
「こっちにはパスタがあるぞ!」
「あら、このキッシュ美味しいわ! 奥様、レシピを教えて!」
貴族も平民も関係なく、皿を持って料理に群がる。
普段は澄ましている貴族の奥様が、大きな唐揚げを頬張って「まあ、ジューシー!」と目を輝かせ、その横で冒険者が「だろう? ここの唐揚げは世界一なんだ」と得意げに語っている。
美味しい料理が、見えない壁を溶かしていく。
そこにあるのは、「美味しいね」と笑い合う幸せな空間だけ。
「……レティシア、見たか」
メインテーブルでジーク様がグラス片手に庭園を見渡していた。
「これが、お前が作った景色だ。……私の領地が、こんなに笑顔で溢れる日が来るとはな」
「私たち二人で作った景色ですよ、ジーク様」
私は彼とグラスを合わせた。
「でも、まだ終わりじゃありませんよ? 皆さんのお腹が少し落ち着いた頃が、本番です」
「ああ……例の『アレ』だな」
私たちはニヤリと顔を見合わせた。
そう、結婚式といえば、これがないと始まらない。
そして私の料理人人生の集大成とも言える、超巨大な甘いサプライズ。
「そろそろ、運び込みましょうか!」
私が合図を送ると、キッチンの扉が大きく開かれた。
そこから現れたのは、ゲスト全員が息を飲むような、とてつもない代物だった。
ノルドの空は、私たちの門出を祝福するかのように、雲ひとつない『サムシング・ブルー』に染まっていた。
控室の鏡の前。
私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。
絹のように滑らかな生地に、町のお婆ちゃんたちが編んでくれた繊細なレースが重ねられている。派手な宝石はあえてつけず、髪には庭で摘んだ白い小花と、ジーク様から贈られた『氷竜の涙』のピアスだけ。
「……準備はいいか、レティシア」
ノックと共に扉が開き、ジークフリート様が入ってきた。彼はいつもの黒い軍服ではなく、純白の礼服を纏っていた。銀髪が陽光を反射して輝き、まるで物語の中から抜け出してきた王子様のようだ。
「ジーク様……。はい、準備万端です」
彼が私を見た瞬間、そのアイスブルーの瞳が優しく揺れた。
「……世界で一番美しい花嫁だ」
「ふふ、世界で一番格好いい花婿さんにお似合いになれるかしら?」
彼が差し出した腕に、私はそっと手を添えた。
その腕の逞しさと温もりが緊張を解いてくれる。
「行こう。みんなが待っている」
◇
会場となった屋敷の広大な庭園には、信じられないほどの数の人々が集まっていた。着飾った貴族たち、正装した騎士団、少し緊張した面持ちの商工会の人々、そして一番良い席には孤児院の子供たち。
身分の垣根を取り払った、ごちゃ混ぜのゲストたちだ。
私たちが姿を現すと、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「おめでとうー!!」
「レティシア様、綺麗だぞー!」
「閣下、幸せ者ー!」
フラワーシャワーの花びらが舞う中、私たちは祭壇へと進む。
神官様の前で、私たちは向き合った。
「健やかなる時も、病める時も……」
誓いの言葉。
ジーク様は私の目を見つめ、台本にはない言葉を付け加えた。
「……そして、空腹なる時も、満腹なる時も。私は生涯、彼女の作る料理を愛し、その笑顔を守り抜くことを誓います」
会場からドッと笑いが起き、そして温かい拍手が包み込んだ。
私も涙をこらえて笑顔で答える。
「私も、貴方がお爺ちゃんになっても、毎日美味しいお味噌汁を作ることを誓います」
誓いのキス。
鐘の音がカランカランと鳴り響き、ルルが『ウォォォォン!』と空に向かって雄叫びを上げた。
そして――。
「さあ皆さん! 堅苦しい式はここまでです!」
私がブーケを高々と掲げて叫んだ。
「これより、『陽だまり亭』特製・大祝賀ビュッフェを始めます! 食べて、飲んで、今日は無礼講で楽しんでください!」
その合図と共に庭園の至る所から香ばしい匂いが立ち上った。
屋台のように並んだ料理ブース。
ジュージューと音を立てて焼かれるステーキ、山盛りのフライドポテト、チーズが伸びるピザ、色とりどりのピンチョス。
「うおぉぉ! 肉だ!」
「こっちにはパスタがあるぞ!」
「あら、このキッシュ美味しいわ! 奥様、レシピを教えて!」
貴族も平民も関係なく、皿を持って料理に群がる。
普段は澄ましている貴族の奥様が、大きな唐揚げを頬張って「まあ、ジューシー!」と目を輝かせ、その横で冒険者が「だろう? ここの唐揚げは世界一なんだ」と得意げに語っている。
美味しい料理が、見えない壁を溶かしていく。
そこにあるのは、「美味しいね」と笑い合う幸せな空間だけ。
「……レティシア、見たか」
メインテーブルでジーク様がグラス片手に庭園を見渡していた。
「これが、お前が作った景色だ。……私の領地が、こんなに笑顔で溢れる日が来るとはな」
「私たち二人で作った景色ですよ、ジーク様」
私は彼とグラスを合わせた。
「でも、まだ終わりじゃありませんよ? 皆さんのお腹が少し落ち着いた頃が、本番です」
「ああ……例の『アレ』だな」
私たちはニヤリと顔を見合わせた。
そう、結婚式といえば、これがないと始まらない。
そして私の料理人人生の集大成とも言える、超巨大な甘いサプライズ。
「そろそろ、運び込みましょうか!」
私が合図を送ると、キッチンの扉が大きく開かれた。
そこから現れたのは、ゲスト全員が息を飲むような、とてつもない代物だった。
64
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
「地味で可愛げがない」と婚約破棄された精霊使い、氷の公爵家に拾われる。~今さら戻れと言われても、最強の旦那様が許しません~
eringi
恋愛
伯爵令嬢アリアは、あらゆる精霊の声を聞き、力を借りることができる稀代の「精霊使い」。
しかしその能力は目に見えないため、実家の家族からは「虚言癖のある地味な娘」と蔑まれてきた。
ある日、アリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡される。
「君のような可愛げのない女は願い下げだ。僕は君の妹、ミラの真実の愛に生きる!」
妹のミラは、アリアの成果を横取りし、王子に取り入っていたのだ。
濡れ衣を着せられ、着の身着のままで家を追い出されたアリア。
途方に暮れる彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と恐れられる辺境伯、ヴァルド・フォン・アイスバーグだった。
「……探していた。私の屋敷に来てくれないか」
冷酷だと思われていた公爵様ですが、実は精霊が大好きな、不器用で超・過保護な旦那様で!?
公爵領でアリアが精霊たちと楽しくスローライフを送る一方、アリアを追い出した実家と国は、精霊の加護を失い、とんでもない事態に陥っていく。
「今さら戻ってきてほしい? お断りです。私はここで幸せになりますので」
これは、虐げられてきた令嬢が最強の公爵様に溺愛され、幸せを掴み取るまでの物語。
「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜
赤紫
恋愛
私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。
絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。
そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。
今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる
はなまる
恋愛
らすじ
フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。
このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。
フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。
そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。
だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。
その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。
追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。
そんな力を持って辺境に‥
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。
まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。
無能な私を捨ててください!と婚約破棄を迫ったら溺愛?
萩月
恋愛
公爵令嬢のルルナには悩みがあった。それは、魔力至上主義のこの国で、成人を過ぎても一切の魔力が開花していない「無能令嬢」であること。
完璧超人の第一王子・アリスティアの婚約者として相応しくないと絶望した彼女は、彼を汚点から守るため、ある決意をする。
「そうだ、最低最悪の悪役令嬢になって、彼に愛想を尽かされて婚約破棄されよう!」
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
婚約破棄された伯爵令嬢は隣国の将軍に求婚され、前世の記憶を取り戻す
nacat
恋愛
婚約者である王太子に身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄された伯爵令嬢エリシア。
廷臣たちの嘲笑の中、隣国の若き将軍ライナルトが現れ、「ならば、俺が君を妻にしよう」と求婚する。
彼はただの救い手ではなかった。エリシアの“前世の記憶”と深く結びついた存在だったのだ——。
かつてすべてを失った令嬢が、今世では誰より強く、愛され、そしてざまぁを下す。
溺愛と逆転の物語、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一気に読みました。
可愛いし、ほっこりするお話だと思います。これからも楽しみにしています😊
本当にありがとうございます!
これからも心温まる作品をたくさん書きます。
応援してくださると、嬉しいです!