婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜

咲月ねむと

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第43話 挙式準備はてんてこ舞い! 前代未聞の「グルメ・ウェディング」計画

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 ジークフリート様との「味噌汁プロポーズ」から数日。 

 私たちの結婚式の日取りが正式に決定し、発表された。
 その瞬間、ノルドの町は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

「聞いたか! 来月、閣下とレティシアちゃんの結婚式だぞ!」

「こりゃあ、町を挙げてのお祭りだ!」

「祝いだ! 樽酒を全部開けろ!」

 気が早すぎる町の人々が、まだ式も始まっていないのに乾杯を始めている。
 私は辺境伯邸の一室で、積み上げられた書類の山と格闘していた。

「……招待客リストだけで三百人!? しかも、これは貴族関係だけ?」

 私は頭を抱えた。
 通常、辺境伯クラスの結婚式となれば、国中の貴族や王族の代理人が集まる一大行事だ。格式高い式典、厳格なマナー、そしてコース料理。

 でも……。

「……私のやりたい結婚式は、これじゃないわ」

 私はペンを置き、向かいの席で同じく書類仕事をしていたジーク様に声をかけた。

「ジーク様。相談があるのですが」

「なんだ? 予算なら心配するな。私の私財を全額つぎ込んでもいい」

「いえ、お金じゃなくて……形式のことです」

 私は真っ直ぐに彼を見た。

「堅苦しい披露宴も大切ですが、私は……『陽だまり亭』に来てくれた常連さんや、冒険者さん、孤児院の子供たち……みんなにお腹いっぱい食べてもらえるような式にしたいんです」

 貴族だけの閉じたパーティーではなく、町のみんなと祝う開放的なパーティー。
 それは貴族の常識からは外れているかもしれない。
 けれど、ジーク様は書類から顔を上げ、ニヤリと笑った。

「……言うと思った」

「え?」

「お前が、お高く止まった貴族たちにお辞儀をするだけの式で満足するはずがないからな。……いいだろう」

 彼はペンを回しながら、楽しそうに続けた。

「屋敷の庭園をすべて開放しよう。貴族エリアと一般エリアの仕切りも最低限にして、誰でも参加できる『立食ビュッフェ形式』にするというのはどうだ?」

「ビュッフェ! それです!」

 それなら堅苦しいマナーもいらないし、好きなものを好きなだけ食べてもらえる。まさに私の理想だ。

「ただし、条件がある」

 ジーク様が指を一本立てた。

「料理の総指揮は、お前が執れ。……私の屋敷のシェフたちも、『奥様の指揮下で働きたい』とウズウズしているらしいからな」

「ふふ、望むところです! 史上最高の『グルメ・ウェディング』にしてみせます!」

 ◇

 そこからの毎日は、文字通り「てんてこ舞い」だった。

 まずはメニューの考案。
 辺境の特産品をふんだんに使いつつ、老若男女が楽しめるラインナップ。
 前菜のピンチョス、新鮮な魚介のカルパッチョ、豪快な肉の丸焼き、そして色とりどりのデザート。

 私は屋敷のメインキッチンに立ち、数十人の料理人たちに指示を飛ばした。

「そこのソース、もう少し煮詰めて! 酸味が足りないわ!」

「はい、奥様!」

「お肉のマリネ時間はあと三十分追加! 最高の柔らかさにするのよ!」

「イエス、シェフ!」

 最初は「元公爵令嬢」という肩書きに遠慮していたシェフたちも、私の迷いない指示と、魔法のような味付けを見て、今ではすっかり「師匠」を見る目になっていた。

 一方、町の方でも準備が進んでいた。

 冒険者ギルドは「祝いの肉を狩ってくる!」と総出で狩りに出かけ、商人たちは「祝いの酒だ!」と最高級のワインやエールを運び込み、お婆ちゃんたちは「花嫁衣装のレースを編んであげる」と張り切っている。
 みんなが自分のことのように喜んで動いてくれている。

 その光景を見るたびに、胸が熱くなった。

「……愛されているな、レティシア」

 夕暮れ時。庭園で会場の設営を見ていたジーク様が、隣に並んで呟いた。

「私が領主として何年もかけて築けなかった『民との絆』を、お前はたった数ヶ月で結んでしまった」

「それは違いますよ、ジーク様」

 私は彼の腕にそっと手を添えた。

「ジーク様がずっとこの地を命がけで守ってきたから、みんな安心して暮らせていたんです。その土台があったから、私は料理を作れたんですよ」

「……そうか」

 彼は少し照れくさそうに鼻をかいた。

「……式まであと三日だ。体調は大丈夫か?」

「バッチリです! ……ただ、一つだけ心配なことが」

「なんだ?」

「ウェディングケーキです。普通のサイズじゃ、この人数分は賄えません」

 数百人、いや、町の人を含めれば千人規模になるかもしれないゲスト全員に行き渡るケーキ。
 そんなもの、前代未聞だ。

「ふむ。……なら、規格外のケーキを作るしかないな」

「規格外?」

「ああ。我々二人らしい、度肝を抜くようなやつをな」

 ジーク様と顔を見合わせ、私たちは同時に悪戯っぽく笑った。
 
 そうだ。普通の結婚式じゃないんだもの。
 最後もド派手に、甘く、幸せな「大仕事」で締めくくらなくちゃ。

 ――そして迎える結婚式当日。
 空は突き抜けるような青空。
 最高のハッピーエンドへカウントダウンが始まった。
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