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第0話 世界
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プロローグ:世界
最初に降ったのは雪じゃない。灰だ。
冷たさのない粉が肺をざらつかせ、その日から北は白地図になった。
夜の地面に灯が並び、「ここから先は渡さない。帰る人はこの白帯内を通る」と刻まれた。
灰のあとに現れたのは、名のない『群れ』だった。皮膚は緑灰で金属を噛み、関節を腐らせる。
あとからグラッグスやキーテラと呼ばれるようになり、その名が増えるたびに街はひとつずつ消えていった。
人はまず、運ぶための機械を集めた。壊れた橋を渡し、瓦礫をどかすため。
作業重機に装甲と脚と火薬を盛り、RFになった。最初の任務は戦いではなく、白帯を延ばし、避難民たちの『壁』になることだった。
いまでは“重機”の名残を削ぎ落とし、火薬と演算を積んだ人型巨大兵器になっている。
白帯は、灰の上を走る光の道だ。地下の導光ラインさえ生きていれば、今も点滅を続ける。
導光を“焼き起こす”ラインガードがいるかぎり、その道は消えない。
前へ出る者は壁になり、盾が折れても白帯だけは切らない。
負け続けた世界で、それだけがまだ「帰り道」と呼べるものだった。
だが、灰の世界には、その白を奪い、壊す側もいた。
プロローグ:灰
砂煙と火薬のにおいの中で、味方の声がひとつ消える。
薬で目の焦点を失った戦友が、笑いながら空に銃口を向け、そのまま引き金を絞った。
乾いた銃声が岩壁に弾かれ、砂丘には空薬莢だけが散った。
アキヒトがいた《ヘルマーチ》の部隊では、無線の向こうの呼びかけは、いつも途中で途切れる。呼び返しても、返事はない。
次は自分かもしれない――そう思いながらも、アキヒトは照準から目を離さなかった。
名前がひとつ消えるたびに、引き金を引く手から迷いだけが削られていく。
ただ壊し、奪う事だけが任務だった頃だ。
最初に降ったのは雪じゃない。灰だ。
冷たさのない粉が肺をざらつかせ、その日から北は白地図になった。
夜の地面に灯が並び、「ここから先は渡さない。帰る人はこの白帯内を通る」と刻まれた。
灰のあとに現れたのは、名のない『群れ』だった。皮膚は緑灰で金属を噛み、関節を腐らせる。
あとからグラッグスやキーテラと呼ばれるようになり、その名が増えるたびに街はひとつずつ消えていった。
人はまず、運ぶための機械を集めた。壊れた橋を渡し、瓦礫をどかすため。
作業重機に装甲と脚と火薬を盛り、RFになった。最初の任務は戦いではなく、白帯を延ばし、避難民たちの『壁』になることだった。
いまでは“重機”の名残を削ぎ落とし、火薬と演算を積んだ人型巨大兵器になっている。
白帯は、灰の上を走る光の道だ。地下の導光ラインさえ生きていれば、今も点滅を続ける。
導光を“焼き起こす”ラインガードがいるかぎり、その道は消えない。
前へ出る者は壁になり、盾が折れても白帯だけは切らない。
負け続けた世界で、それだけがまだ「帰り道」と呼べるものだった。
だが、灰の世界には、その白を奪い、壊す側もいた。
プロローグ:灰
砂煙と火薬のにおいの中で、味方の声がひとつ消える。
薬で目の焦点を失った戦友が、笑いながら空に銃口を向け、そのまま引き金を絞った。
乾いた銃声が岩壁に弾かれ、砂丘には空薬莢だけが散った。
アキヒトがいた《ヘルマーチ》の部隊では、無線の向こうの呼びかけは、いつも途中で途切れる。呼び返しても、返事はない。
次は自分かもしれない――そう思いながらも、アキヒトは照準から目を離さなかった。
名前がひとつ消えるたびに、引き金を引く手から迷いだけが削られていく。
ただ壊し、奪う事だけが任務だった頃だ。
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